奔走戦闘編 16
十二月第二週の月曜日、遂に期末テスト期間が始まる。日程は水曜日までの三日間、最終日は一教科のみで帰ってくるという事だ。幸いこの三日間には雨の予報はないのでしっかり集中出来るだろう。
最後の追い込みという事で朝食は私が作る。大分足の調子が戻ってきており、無理に体重をかけなければそれほど痛みもない。テスト期間終了とともに私も動けるようになると思われる。
「今日は国語と社会。明日は英語と理科。最後に数学。ふっふっふっ、私の本気見せてあげるんだから」
「戦闘でも本気見せてくれよ」
「あら、いつも本気よ? でないと危ないじゃないの」
いや確かにそうなんだがな……。
「それから木曜日に三者面談があるから覚悟しておいてね」
「おいおいそれを早く言えよ。ナオはともかく後の二人はそれぞれ不安だなあ……」
しかし二教科だけで帰ってくるというのは実に早いもので、送り出したと思ったらもう帰ってきている。早速三人とも明日の英語と理科の勉強に精を出す。
十二時前にふらっと青柳がやってきた。昼飯狙いかな。
「すみませんが部屋で」
お? 何だろう。三人も勘繰っている。この大事な時期に良からぬ話でも飛び出すんじゃないだろうな。
「例の、過去の三人の件ですが、交渉へと向かう時には私と警察医が同行します。やはり最大限に可能性を探るならば血液サンプルの採取が一番だと思いますので。そこでいつ頃動けるのか確認しておこうと思いまして」
「ああなるほどな。足の状態は大分良くなっているから……木曜日は三者面談だから金曜日だな。それと驚けよ。サイキの血縁者だがな、あいつの友達が該当者だったぞ」
「本当ですか? またとんでもない所にいましたね。こんなにも世間……世界が狭く感じるとは」
「全くだな。リタの血縁者は長月荘の住人だろうし、後はナオの血縁者と何かしら繋がりがあったならば、もう奇跡を疑う余地を無くしちまうな」
しかし今の所その見込みはない。ナオだけ仲間はずれは可哀想ではあるが、普通それが当たり前なのだから仕方あるまい。
「それで、この時間に来たっていう事は、そういう事だろ?」
「はい、ごちそうさまです」
という事で青柳を入れた四人で昼食を取る。サイキはまたも手伝うと言ってきたが、勉強を優先させた。食事を用意する十数分でそうそう結果が変わるとは思わないが、一点でも多く取ってほしいものだ。
「それで、密談の内容は? 私達に聞かれたらまずい事でもあるのかしら?」
ナオはやはり突っ掛かってきたな。最近はすっかり知将の風格にやられていたからな。ここは一つ、ピンク色の煙に巻いてやろう。
「ああそうだよ。年頃の女の子には到底聞かせられない話だよ。ナオはそういう話にも興味あるのか。そうかーおしゃまさんだなー」
「え、あ、い、いや。そういうのならば遠慮します。あはは」
ナオはそっち方面には弱いようだな。ウブなオナゴよのお。
そうこうしている内に月曜日、火曜日、水曜日と過ぎて行く。
水曜日のテスト終了後の学園に視点を変える。
各々にテストの感想を言い合う生徒達。そんな中相良がサイキに声をかけた。
「サイキさ、この後暇でしょ。あたしと剣道で勝負しなさい!」
「え!? 勝負?」
「テストじゃ勝てなくても剣道ならば勝てるって所見せてやるのよ! 放課後になったら体育館行くよー!」
「ど、どうしよう? ナオ、リタ、どうしよう?」
この想定外の事態に教室中が盛り上がる。それはすぐさま近隣のクラスへと伝達されていき、ものの数分で学園全体を巻き込む大騒動へと発展。
「おい赤い子と剣道の有段者が勝負するんだってよ!」「まじかよすげー見てえ!」
「体育館でやるって! 見に行こうよ!」「絶対に見逃せないね!」
方々から期待の声が上がっている。
「もう逃げられないみたいね。覚悟を決めなさい」「応援するです」
「ええー……うーん」
当人はあまり乗り気ではない様子。
体育館では既に大勢の生徒が集結しており、中には教師もいる。
「何で先生までいるのよ。仕事しなさいよ仕事!」
ここぞとばかりに教師を煽るナオ。
「お前達を見守るのも仕事だぞー」
「ものは言い様じゃない。学園長に怒られても知らないわよ!」
「残念ながら私もいますよ」
まさかの学園長まで見に来ていた。更には剣道部の顧問が試合を進行するという、完全に学園公認の試合となってしまっていた。
「まずいなあ、負けられないけどやり過ぎるのも……」
困惑しきりのサイキ。圧倒的に勝ち過ぎて怪我をさせないか、という事を想定して心配している。
「一応ルールね。サイキの戦闘機能は全部禁止だよ。勝負は三本先取。剣道のルールは分かる?」
「えーっと、分からない」
簡単なレクチャーを受け、胴着を装着し、いざ試合開始。
「一本目、始め!」
「な……なん……」
膝を突き頭を垂れるサイキ。相良にあっさりと三連敗のストレート負けを喫したのだ。茫然自失、自信喪失。
「相手が強過ぎたのか?」「剣道と実戦じゃ違うんじゃね?」「結構あっさりだったね」「色んな意味でびっくり」
ざわざわとした感想が聞こえる。そのどれもが意外だったという意味の内容だ。
「サイキねー、あんた読み易いんだよね。剣道って読み合いだからね。それに大振りで隙が多い。あたしじゃなくても、それこそうちの剣道場に来てる小学生でも勝てるよ」
「うぐぐ……悔しい……こんなに悔しいの初めて……かも……」
強く唇を噛むサイキ。サイキの強さは追加されている装備の分も含めてなので、テクニックという点では及ばないという事だ。
「もう一回! もう一回お願いっ!!」
そのままの体勢で頭を下げ、再戦を要求。
「今のままじゃ何度やっても同じだよ? っていうか、あんたにはあの装備使ってても勝てるかも。あははははー!」
高笑いしてみせる相良。
「そこまで言うのであればいいでしょう。今回の一戦に限り、サイキさんの装備機能の使用を許可します」
「え、学園長マジ?」
「マジです」
「……本気出します」
物凄く燃えているサイキ。胴着を文字通り脱ぎ捨て、戦闘用のプロテクトスーツに変更。武器は竹刀だが完全に本気の戦闘モードである。
「絶対に人や物を壊さないようにして下さいね! 相手を怪我させるような力を出すのも駄目ですよ!」
校長の警告が耳に入っているのか疑わしいほどに集中しているサイキ。
「ありゃー目がマジだ。これは私も本気じゃないと怪我するわ……」
相良も気合を入れ直し、注目の一戦の開始である。
「始め!」
号令がかかると同時に一気に飛び込むサイキ。しかし読まれていた、相良は一歩下がりそれを払い除け、自らも一撃を食らわさんとする。間一髪でかわし距離を取るサイキ。
「ああ今のを防がれたらサイキの勝ち目は薄いわね」
冷静に戦況を分析するナオ。
次に、今までは防戦に徹していた相良が動く。サイキとの距離を詰め攻撃を開始。素早い刀捌きで攻め立て、今度はサイキが防戦一方となる。
「……っ!」
弾き飛ばされでもしたかのような動きで、一気に相良との距離を取るサイキ。アンカーにブースターまで使い出した。
「あいつ、本当に本気出してるのね。相良さん怪我させなきゃいいんだけど」
相良も一旦下がり、開始位置に戻る。
間髪入れずにサイキがまた突っ込んでくる。迎撃する相良。ブースター付きの高速の一撃を受け止めると、再度自ら攻撃態勢へと入り、素早くサイキの面を狙う。
しかしサイキは次の装備に手を出した。
「あれはずるい! 翼まで出すなんて」
飛行装置を使い、遂に三次元機動へと移行する。そこまでしないと勝ち目の見えない戦いという事なのだが、周囲からはさすがに卑怯だという声が上がる。しかし当のサイキはお構いなし。
飛行装置、アンカー、ブースターまでもを使った大人気ない本気仕様のサイキが相良に襲い掛かる。トリッキーな動きに対応するのがせいぜいという相良は徐々に押されていく。前後左右に上からの攻撃も加わっているのだから当然だ。
「相良さん! 頑張って!」
ナオが遂に相良を応援し始める。すると周囲も相良を応援するようになる。
「ちょ、わたし悪者みたいになってる!」
思わず上空で手を止めるサイキ。その間に相良は息を整え、そしてサイキを煽る。
「サイキ! あたしもう見えてるから、あんたはあたしには勝てないよ!」
その煽りにまんまと引っかかり、相良へと飛んでいくサイキ。
「わたしのほうが強いもん!」
しかし大きく振りかぶり隙の出来たその瞬間、相良が一気に距離を詰めた。
「あ……ダメだあ」
攻撃も防御も間に合わない事を悟り、青くなるサイキ。
「胴っ!」
サイキの胴に相良の一撃が決まった。相良はサイキが竹刀を力一杯振り上げた瞬間に出来る隙を、最初から辛抱強く狙っていたのだ。そしてわざと尊大な言葉で煽り、その瞬間を引き出す事に見事成功。、本気のサイキを撃破したのだ。
「はい、負けました。認めます。わたしの力不足でした」
うなだれ、自分の負けを素直に認めたサイキ。周囲からは拍手が上がる。
「いいもん見せてもらったぞー」「人間の限界ってすげーな」「次は弓道対決だな」
などなど、好勝負を繰り広げた二人に対する喝采の声や、他の二人に対する期待の声もある。
「サイキ、いつでも再戦受けて経つよ。まあ私が勝つけどねー。あっはっはっはっ」
すっかり気を良くしてノリノリの相良である。
「はいはい、では生徒の皆さんは速やかに解散! 三分後にも残っていた生徒には反省文を書かせますよ!」
学園長の一言で皆一斉に蜘蛛の子を散らすかのように帰っていく。
「サイキさー、あそこまでコテンパンに負けたのなんて初めてなんじゃないのー?」
ナオがニヤつきながらサイキの頬を突付きに来た。
「相良さん、格好良かったです。サイキよりもです」
リタは相良を賞賛。相良は当然だといった表情。
「んで、サイキはこれで自分の弱点が分かったでしょ? 精進しなさい」
「うん、ありがとう相良さん。……もしかしてそれを考えて喧嘩を売ってきたの?」
「ふふーん。どうでしょー」
はぐらかす相良。その顔はとても自慢げである。
「まあね、正直半々かな。同じく剣を振るう者として、単純な興味で勝負してみたかったのもあるし、前の戦闘を見ていてもっと動きをコンパクトにしたら良いんじゃないかなーって思ったのも本音」
「そう……本当にありがとう」
「感謝するにはまだ早いよ。まだね」
「何それ?」
「ふふっ、なーいしょー」
こうして期末テストは日程を全て終えた。




