奔走戦闘編 13
「いいじゃない、終わった事なんだから暗い顔しないで」
相良を残した八人は工藤に命じられ買出しへ。道中落ち込んでいる泉を慰める三人。
「でも工藤さんも酷いよね! いきなり司令官をやれだなんて言われたら、誰だって戸惑っちゃうよ?」
不満の矛先は工藤へと向いた。
「泉さん、成功したんだから胸を張るです。多分後で青柳さんから報告があると思うので、気を落とすのはそれを聞いてからでも遅くないです。だから、今は顔を上げるです」
泉の手を握り、そう優しく語りかけるリタ。ようやく泉も顔を上げた。
「……心配かけてごめんね。うん、自信をなくすのは後にする」
「随分と後ろ向きな前向き発言だなー。泉ちゃんの司令のおかげで何人も助かったんだぞー。もっと笑顔!」
「そう、だね。ありがとう」
一条のフォローもあり、泉にも少しだけ笑顔が戻った。
その泉の言動に、後ろを歩いていた中山と木村が小声で邪推し始める。
「ねー、泉さんって一条君の事」「あい子もそう思う?」
「だって、嬉しそうだよー?」「だよね!」
そんな二人に気付くナオ。
「悪い子発見」
と二人の耳を引っ張る。
「いたた、痛いって。もう、ごめん」「えへへーでもそう思わない?」
「……思う」
ナオもだった。そして二人声を揃え「やっぱりー」となるのだった。
商店街へと到着。
「さて、何を買おうかなあ」
「んで何を作るんだ? 工藤さんの口調からすると多分カレーなんだろうけど」
最上の推理が正解する。
「かれえ……えーっと……あははー」
「サイキちゃんさ? まさかとは思うけど、カレー知らない?」
「え! まじ!?」「え、ナオちゃんも!? リタちゃんも!?」「うっそー!」
まさかのカレーを知らなかった三人。それもそのはず、彼女達がこちらの世界に来てから、まだ一度もカレーを食べた事がないのだから。
「食べた事のない料理を作れって言うのは無理があるよねー」
「っくしょん!」
「おっ、風邪ですか?」
「うーん、季節の変わり目だからね。気を付けないと」
その頃、やはりくしゃみをしていた工藤なのであった。
「よし、そうしたら皆で手分けして食材探そう。変なのは買ってくるなよ!」
財布からお金を分け、最上の号令で全員散開。カレーを知らない三人はそれぞれの友達について行く事に。
サイキ班は八百屋へ。
「結構安いなー。俺よくかーちゃんに頼まれて買い物するから、野菜とかの値段分かるんだよねー」
家庭的な一面を覗かせる一条。
「えーと、人参玉ねぎにジャガイモに……」
「これは?」
サイキの手にはまずカレーには入れないであろうキュウリが握られている。
「ええっと、買い物はこっちに任せて」
苦笑いの男子二名。その意味を感じ取り、ばつの悪そうなサイキ。
「ああでも明日の夕飯の分は先に買っちゃえばいいよ」
その言葉に俄然やる気の出るサイキ。
一方リタ班は肉屋へ。
「あの、カレー用のお肉下さい」
泉が声をかける。背が小さいので、ショーケースの上に目線が出ていない。リタに至っては、ケースとほぼ同じ背丈である。
「はーい、ってリタちゃんじゃないか。そっちはお友達かい? カレー用って事は豚肉でいいんだよね。どれくらい必要なんだい?」
「えっと……十人分です」
「十人分!?……また多いねー。じゃあちょっと待っててね。結構重いよー」
優しい肉屋の店主のおかげで最少人数のリタ班は何事もなく、すんなり済みそうだ。
問題はナオ班。
「ねーねーリンゴ入れるといいって言うよねー。あとコーヒーとチョコとー」
「何でだろう、私の直感が警告を発している……」
料理スキルゼロのナオでも、中山の食材選びの危険さには気が付いたようだ。
「あはは。まあ私も料理はあんまりした事は無いから自信ないけど、ここはカレールウを三種類くらい買うのが正解だと思うよ。……どれくらい買えばいいのかは分からないけど」
一人はしゃぐ中山を尻目に、大きく溜め息を吐く二人。
「そうしたら、値段の安い順に三箱ずつ買っていきましょうか。余ったらどうせ普段使うだろうし」
「賛成。やっぱりナオちゃんは作戦立案が早いね」
木村に褒められたナオは、顔には出さないが内心結構喜んでいるのだ。
「こういう事が得意なんだって気が付いたのは最近なんだけどね。向こうの世界では考える間もなく一番で敵に突っ込んで行く役割だったから」
「へえー。じゃあ強いし頭も良いんだねー」
「おかげで少し悩んだ時期もあったけどね」
「色々あるよねー」
何も分かっていない雰囲気の中山だが、これで中々に鋭い事を言うのだから侮れない、と思うナオなのであった。
「おーい買ってきたかー?」
全員集合し、購入した食材を見せ合う。判定はこの中で唯一料理の出来る最上が行う事になったさて正解か不正解か。
「うーん……ちょっと肉多めになりそうだけど大丈夫だな。中山が変なの買ってこないかと思ったけど、カレールウだけなのは正解だな」
「えーだってー、リンゴとかコーヒーとかチョコとか全部却下されたんだもんー」
「ははは、そりゃー却下されて当然だわ!」
という事で帰路に就く八人。すっかり暗い雰囲気も解け、帰りは各々笑顔だ。




