奔走戦闘編 12
お泊り会の開催中に侵略者の襲撃が発生。私は子供達に全てを託してみる事にした。勿論何かがあった場合には私が助太刀に入るつもりだ。敵は中型緑一体、大型深緑二体の合計三体。早速作戦が決まり、大型はサイキが囮になり被害を抑え、ナオとリタで中型緑を倒すという事になった。
「じゃあわたしは大型の気を引きに行くね。早急に合流よろしく!」
「えっと……そうしたらナオさんとリタちゃんは中型緑に攻撃開始!」
司令席に座る泉という子、最初は不安だったが、きっちり司令の役割を果たしている。しかも結構のめり込んでいるように見える。
「じゃあ泉さん、サイキは近距離、ナオは中遠距離、リタは遠距離が得意です。それを踏まえて中型緑をどう倒すですか?」
普段の私ならば現場判断で済ませるのだが、今回三人は徹底して駒としての役割を果たす気のようだ。
「リタちゃんが足止めで、ナオちゃんが倒すでいいと思いまーす」
何とも気の抜ける喋り方の中山。作戦立案はしっかりしているのだが。
「私逆がいいと思う。ナオちゃんがあいつを押えてる間にリタちゃんが狙い撃ち。だってさ、あの時リタちゃんの一撃凄かったじゃない。一発で仕留められるんじゃない?」
木村は真逆だ。さあ意見が割れた。ここは司令官の腕の見せ所だぞ。
「早くしないと現場判断でやっちゃうわよ? 一秒遅れれば一人死ぬと思って」
ナオの一言にすくみ上がる六人。ちょっと刺激が強いぞナオ。
「う、うん、じゃあ木村さんの作戦で行こう。ナオさんが足止め役でリタちゃんは一発で仕留めて……出来る?」
「任せるです」「上出来よ、泉さん」
早速ナオが先行し、リタは64式の二脚をアンカーで固定、狙いを付ける。
「リタ、私が奥に行ったタイミングで撃ってね」
やはり最後は現場判断だな。
中型緑の眼前に降り、攻撃を開始するナオ。槍の長さのおかげで相手を攻撃範囲に入らせない。人選は大当たりだったという訳だ。
「リタ、行くよ!」
そう一言かけ走り出し、攻撃を空振りした相手の脇をかすめるように背後に回りこむナオ。リタの狙いも正確だ。
「一発必中!」
放たれた弾丸は淡い緑色の光を放ち、同色の敵侵略者を貫く。まさに言葉の通りの一発必中である。
「一体目の撃破を確認! サイキ今行くわね。そっちはどう?」
「ちょっ……と大変んー……かな。挟まれてる」
ナオとリタに視線が集中していた六人はその一言に焦っている。サイキは二体の大型深緑の攻撃を巧みに交わしており、現在までには被弾はしていない。
「ご、ごめんなさい。サイキさんの事見えてませんでした」
「一旦上空退避します。ううん気にしないで。最初だものね。っていうか工藤さんいきなり無茶させ過ぎだよ!」
「ごめんごめん。でも充分良くやっていると思うぞ。慣れれば俺よりも緻密で有効な作戦立てられそうだからな」
すぐさま二人合流し、三人体制へ。二体の深緑は上空の三人に手が届かないのを見ると、周囲を物色し始めた。こうなると速度勝負だな。
「さて、敵は同型二体。地形を考えてどちらを先に倒すべきか。どう倒すべきか。難しい選択になるわよ」
煽るナオだが、私から見た限りではどちらが先でも構わないし、それに私は深緑の倒し方を知っているので冷静だ。一方の子供達はどちらがいいのか必死に考えている。今日のナオは少し意地悪だな。
「十字路に近いのから倒すのが良いんじゃない? ほら、野次馬も多いし。あれがあそこに行ったら危ないんじゃないの?」
「でもそれだったらあっちは近くにビルがあるぞ? ビル倒壊したらやばくね?」
「それよりも倒し方って、どうするんだあれ」
考える事が多くて混乱しているな。
「はいはーい。あの大きいのって手を振る事しかしてないじゃない? だったらそれを出来なくすればいいんじゃないかなー」
またゆるい感じの作戦案を出す中山。だがしかし、この大雑把な作戦こそ正答。
「うーん……確かにあの敵って殴る以外に武器無いよね。あい子もたまにはいい所に気付くじゃないの」
木村の言葉に、えっへんという感じで胸を張っている中山。いいぞ、正解者に拍手だ。
「えっと、それじゃあ順番に腕を切り落とす作戦、でいい?」
「そう言っちゃうと結構えぐいな」
「あ、えっと……」
ぼそっと最上の一言に泉が小さくなる。
「あたし賛成」「俺も異存なし」「やっちゃえー」
他の子達は押せ押せムード。これは決まったな。
「そ、それじゃあ、えっと……まずビルに近い敵から腕を攻撃して、何も出来なくさせるっていう事でお願いします」
泉さんから作戦が伝達される。
「じゃあ役割はどうしようか」「さっきリタに聞いたでしょ?」「泉さんガンバです」
「うん、サイキさんとナオさんで腕に攻撃。リタちゃんは……敵の頭を狙って撃って」
それを聞き行動を開始する三人。
「おー、俺達を差し置いて泉ちゃんだけで決定した。結構強い所あるじゃん」
「あっ、ごめ……」
「謝らないでね。あたし賛成だから」「正解だよねー」「泉ちゃんやるうー」
褒められ慣れていないのか、泉の顔が真っ赤だ。
「今度はちゃんと見ててね」
サイキが一言、深緑に正面から突っ込んで行き、深緑の攻撃をギリギリで交わし、すれ違い様に右腕を切り落とす。
「おー格好いい!」
「私だって負けないんだから」
対抗するナオも背後から左腕を突き破る。また子供達から歓声が上がる。しかし先日の私を助けた時のサイキの登場風景を見たからなのか、二人とも格好つけたがっているように見える。やり過ぎて墓穴を掘らなければいいのだが。
「真剣にやれよ」
横から私が一言。怒っている訳ではないが、やはり命懸けの場面での油断は危険だ。
「あ、うん。ちょっと調子乗ってたかも」
「……それで、あれを倒してしまっても構わないですか?」
狙いをつけたまま待機していたリタが痺れを切らして催促してきた。
「あ、ごめん。うん、そっちのは倒して!」
「了解です」
泉の指示のよって、あっさりと一撃でビル側の大型深緑を撃破。もしかしてリタの64式は、やり過ぎなのでは? 深緑位ならばショットガンでも充分なのでは? そんな疑問が浮かんでしまうほどだ。
「残り一体はこっちで全面的にやらせてもらうわよ。結構時間経っちゃってるからね」
「あ、あの、やっぱり私じゃ司令官は……」
「そうじゃなくて……まあいいわ。後は帰ってからね」
怒られたのかという感じで小さくなっている泉と他五名。
「リタ左、私は右。最後はサイキが決めなさい。行くわよ!」
一瞬で作戦を決め、即座に戦闘を再開する三人。その鮮やかさに子供達は感心するばかりだ。
ナオの指示通り、まずリタが左腕を落とし、ナオが投擲で右腕を落とす。その間十秒程も無かっただろうか。最後にサイキが最後尾から二人の間を飛び抜ける。
「終わりいっ!」
見事に両断され、消滅する大型深緑。
「三体目撃破。全ターゲットの消滅を確認。帰投します」
結局最後の一体は攻撃開始から一分と掛からずに倒してしまった。最初の頃と比べたら本当に安定して強いな。エネルギー問題が完全に解消されたならば、更に強くなるのだろうか。
三人が帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえりなさーい」
そして早速謝る泉。それに釣られて皆謝る。
「ごめんなさい。やっぱり私じゃ司令官なんて無理だよね……」
「さっきも言ったけど、そうじゃないの。作戦自体は順当だったし、泉さんはちゃんと全員の意見をまとめられていたわよ。ただ皆慣れていないから、作戦展開が遅かっただけ。それだけよ」
ナオのこれは、フォローというよりも本音だな。普段はものの数秒で作戦を決定し即座に行動に移るのが、今回は子供達に全て任せたので経験の差により遅くなった。そして三人も自分達を完全な駒として考え、自分から動く事をなるべく控えていたという点も、時間が掛かった要因の一つだ。
若干暗くなる雰囲気をどうにかするのが私の役割。そうだな、ここは一つ散歩にでも行ってもらおうかな。
「よし、それじゃあ早速だが追加司令だ。いいか、実は先ほど、今晩の食材が足りない事が判明した。商店街に行き、晩御飯の買出しをするように。ほら、全員行った行った」
今回戦闘が長引いたおかげで、怪我の功名か既に雨は上がっている。のんびり歩きながら親睦を深めてもらおうではないか。
「何を作るかはサイキに一任するけどな、人数が多いから一度に一杯作れて、明日の朝のおかずにもなるようなのを選ぶと良いぞ」
つまりカレーライスという事なのだが、そこは敢えて言わず、九人の知恵に委ねる。私の財布をそのままサイキに手渡し、レシートは貰っておくようにと言いつけておいた。
「あーあたし待機しとくー」
おや、相良は何故か行く気がないようだ。
子供達を見送り、改めて青柳に電話。状況の復習をする。
「そうですね、今の所死者も重体も出ていませんし、一見してそこまでの重篤な被害者はいませんね。サイキさんが大型二体の囮になってくれていたのが大きいでしょうね」
「そうか、あれも子供達の発案なんだよ。やっぱり任せて正解だったようだ。本人達は時間が掛かった事に少し凹んでいたけどな」
「確か二戦目でしたっけ? サイキさんが大型二体に挟まれた戦闘は。ナオさんが来て助かった戦闘です。それと比べれば今回の被害など小さいものですからね。まあ本来は被害ゼロが望ましいのですけれど」
「そうだな。改めて三人が揃っている事の強さを垣間見る事が出来たよ」
彼女達の世界で繰り広げられている大規模な戦闘では、一体どのような光景が展開されているのだろうか。見たいような見たくないような……。
「あ、話は変わるが、今晩の飯もサイキが作る。メニューは恐らくカレーライスだ。いっそ子供達と一緒に食べていくか?」
「そう……ですね、こちらの話が終わったら改めて報告に上がりますので、残りに余裕があればいただきます」
「そう伝えておくよ。あとついでで悪いんだが、男子二名は飯を食べたら帰る事になっている。住所がどこかはまだ聞いていないんだが、未成年保護の観点から二人を家まで送ってやってくれないか?」
「ええ分かりました。ならば余計にそちらに合流しなければいけませんね」
刑事自らの送迎。最上と一条の二人は、はてさてどのような反応を示すのだろう。




