奔走戦闘編 11
土曜日、子供達のお泊り会当日である。残念ながら天気はあまり良くなく、午後からは雨の予報。それでも三人はとても楽しそうだ。サイキはまたもや鼻歌を歌いながら朝食作り。ナオは難しい顔で何やら呟いている。単語の暗記だろうか。リタも国語の教科書を開き、にらめっこに興じている。
私の現在の興味はナオの点数とサイキ、リタの順位競争に集約される。私自身は平均点そのものの学生時代を送っており、本当に目立たない普通の学生だった。
三人を送り出した後はSNSを確認。たった一日で話はかなり進んでおり、池田千鶴には手が届いた。後は私が動けるようになれば直接交渉、血液採取、DNA鑑定となる。佐伯トミに関しても、昨日の時点で剣道場の場所が判明しており、既に電話を入れているようだ。一番ヒントの少なかった直嶋篤太郎に関しては、電話帳に同じ名字の家が四件あり、今日近隣の住人が手分けして当たってくれる予定だ。早ければ今日明日中にも全員の所在が判明するかもしれないな。
……しかし、私一人では絶対にここまで来られなかっただろうな。本当に皆には感謝しっぱなしだ。
「いつか全員集めて同窓会でもしてみたいものだな」
と書き込むと、やはりノリノリの住人達は話を勝手に進めようとしてくる。
「あたしホテルに知り合いいるから会場押さえられるよー」
「フレンチのシェフ呼ぼうぜ! 誰か料理人とコンタクト!」
「会場の設営なら俺の得意先にいい会社があるぞ」
放っておけば今日中に全て決まってしまいそうな勢いだ。
「おい、気持ちは分からんでもないが、本気にするんじゃないぞ。大体日程も合わんだろうし、それに金は誰が出すんだ」
「一番の問題は私ですかね」
ハセガワが出てきた。こんな時間に書き込める余裕あるのかよ。
「忙しい人なの?」
「はい。今も上空一万メートルからです」
なるほど。さすが一国の長は違う。
正午前に三人が友達を連れて帰ってきた。
「ただいまー」「お邪魔しまーす」
「おおよく来たな。えーと六人か。こりゃあ賑やかだな。はっはっはっ」
私も入れると十人だ。長月荘の過去最大人数も十人。記録に並んだぞ。各々に小奇麗な服装をしており、着替えもしっかり持ってきている。しかし男子二名は大きな鞄は持っていない。
「あ、あの、私は初めましてで、えっと……」
一番後ろから小さい子が出てきた。緊張しいなのかな、オロオロしている。
「泉由佳さんです。リタの友達です」
「そうか、君がリタの話に出てくる自慢の友達か。いらっしゃい。いつもリタがお世話になっているね」
「あ、えっと、よ、よろしくお願いします」
ふむ。背が小さい割りに結構グラマラスな体型だな。赤いフレームの眼鏡が似合っている。小さい同士のリタとはいいコンビのようだ。
内訳はサイキの友達が三人、ナオ二人、リタ一人か。布団足りるかな……。
「あー男二人は途中で帰りますよー」
ならば足りるっ!
「お昼ご飯わたしが作るねー」
早速サイキが動いた。時間的にも丁度お昼時だ。さすがに十人分は多いだろうから、少しでも負担を減らす為に、私はカップラーメンで済ませると言っておく。
「俺も手伝うよ。結構料理出来るんだ」
確か、サイキに告白をした最上だったか。
「ふむ。若夫婦の共同作業だな」
「わ、若夫婦って、やめてください恥ずかしいなあ」
そう言いつつ満更でもないようにも見える。ここは押し時だぞ青年。
「所でその怪我、大丈夫ですか?」
サイキの友達の相良が心配してくれる。
「ん? ああ大丈夫だよ。一週間もすれば治るから」
「ニュースで思いっきり転んでたもんねー」
「こらあい子ったら! もうすみません」
ナオの友達二人は相変わらずのいいコンビのようだ。
「あはは。まあ自分でも驚くくらいの転び方だったからね。でも軽い怪我で済んで良かったよ」
「私達の時もそうだったけど、戦ってる時の三人って雰囲気全然違うよね。特にサイキちゃんなんて普段可愛い感じなのに、まるで歴戦の剣豪! みたいな」
木村のサイキへの感想に皆同意している。
「まあね、私達はそれこそ命懸けだから。それにサイキは一番強いし」
「へえーそうなんだー。相良さんとどっちが強いんだろうねー」
「あたし? 剣道と戦闘とじゃ全然違うでしょ。……でも剣道だったら負けないね」
大きく出るなあ。それだけ自信があるという事か。
「さて、俺は部屋に居るから、何かあったら遠慮なく声をかけてくれよ」
若い雰囲気にそろそろ居た堪れなくなったジジイ。そそくさと自室へ逃げ帰る。
「あの! すみません!」
大きな声に襖を開けると、心配そうな顔の子供達。
「どうした?」
「三人が、襲撃だからって。後は工藤さんに聞けば分かるからって。どうしたらいいですか?」
木村の話に振り返り窓の外を見ると、確かに雨が降っている。調べ物に没頭し過ぎたか、全然気が付かなかった。
「そうだな、ちょっと待て」
私の中で、今回は全面的に子供達に任せてみようという気が起きた。勿論どうしようもない時には私が助言を与えるつもりだが、自爆した大型の時の事を思い出せば、この子達もきっとやってくれるという確信がある。それに子供達にとってもいい経験になるだろう。
居間にパソコンを持って行き、彼女達三人と接続。
「今日の作戦立案と司令官は六人の友達に任せる事にするぞ。さあ頑張れ」
席を立ち、三人への作戦指示を子供達へと託す。
「あの、えーっと……いきなりじゃ分からないよ?」
司令席たる私の席には、流れで小柄な女の子の泉が座った。さすがにいきなりは無理があったか困惑している様子。
「まずは敵の種類を認識しておいて。相手は中型緑が一体に大型深緑が二体。大きい相手ほど動きが遅くなる。そして色で大体の性格が読み取れる。今回の場合は近接攻撃型が三体揃ってる。それじゃあどうする?」
サイキから敵の説明が入る。三人は私の意図した所をきっちり読み取ってくれたようだ。数は多いが、今の三人にはそれほど脅威ではない相手。私としては動きの遅いのは後回しだな。中型を早期撃破、その後三人で各個撃破か。さて子供達はどういう指示を出すだろうか。
「まずは動き回るのから行くべきじゃないか? 中型緑だろ」
最初に作戦を出したのは最上だ。
「あたしも賛成。でも大きい奴の気を引いておきたい気もする。そうすれば被害も抑えられそうだし」
そこに相良が一つ加える。やはり私一人で考えるよりも作戦の繋がりが上手く出来ている。子供の能力というのは凄いな。
「あの、そうしたらサイキちゃんが動きが早いから、大型深緑の気を引く役目がいいと思う。ナオさんとリタちゃんで中型緑って言うのに同時攻撃! って駄目かな?」
「泉の作戦に賛成」「私もー」「俺も。じゃあ決まりだな」
作戦決定のようだ。
「見えた! それじゃあ二人とも、格好良い所見せつけてやるわよ!」
すると私の電話が鳴る。
「これはこれは、小さな司令官殿がたくさん居られるようですね」
「ああ、お泊り会を開催中なんだよ。警官隊は避難誘導優先で頼む。見ていろ、あの子達結構やるぞ?」
「楽しみに……ではありませんが、期待しておきましょう」




