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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
奔走戦闘編
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奔走戦闘編 4

 朝方起きてきた三人は何やら思う所のある表情。聞いてみると、昨日の妙に気の抜けた戦闘を思い出し、反省しているという。

 「決して遊び感覚だった訳じゃないけれど、もしあそこに人がいて被害が出ていたらと考えると、もっと真面目にやらないとなあって。それにエネルギーの消費が多くて、その前の赤鬼二体の倍以上のエネルギーを使っちゃったから」

 「まあ学園生活にも慣れて、気が緩んでいたのかもな。エネルギーに関してはあの状況なら仕方がないとは思うが、反省する事は悪い事じゃないからな。次に繋げる様にすればいいさ」

 全てはトラックが小型侵略者を轢き殺した所から雰囲気がおかしくなったのだが、その事にはあまり笑えない私。その理由は彼女達も分かっている。

 「学園では気持ちを切り替えろよ。期末テストもあるんだし、気合入れて行くんだぞ」

 彼女達の背中を押し学園に送り出す。

 私は今日は予定が入っている。青柳に召集を受けているので警察署に行くのだ。彼女達には秘密にしたのだが、何やら最近のマスメディアからの批判に対して進展があったとの事。更には渡辺も合流するという。これは楽しみ。


 十時ごろ、そろそろ向かおうかという所で青柳から電話が入る。あちらから長月荘に出向く事にしたという。聞けば渡辺の提案で、私に昼飯を作らせようという事だった。なんだかんだであれ以来一度も長月荘の中には入れていない渡辺。よし、ならば目一杯美味い昼飯を作ってやろう。人数を聞くと五人来るそうだ。多いな。

 電話から三十分ほどして続けざまに三台の車が到着。青柳と渡辺に、もう一台は見慣れない白いワンボックスカーだ。

 出迎える私。渡辺の車には同席人がいた。確か以前警察署の会議室で会った事のある、サイキに銃口を突き付けられたお偉いさんだ。ワンボックスカーからも二人降りてきた。誰だろう? とにかく長月荘のリビングへと通す。

 背広姿の五人の男性が揃うと、普段着の私は完全に浮いているな。客用のちょっと高いお茶を出したのだが、それでも彼らにとっては安物だろう。話が始まるよりも先に青柳から健康診断の資料と、もう一つ診断結果を渡される。警察関係の医者に先に診断書を書いてもらったのだという。

 「警察関係者ならば間違いなく信用出来ますからね。情報漏洩を抑える事にもなります」


 まずは渡辺が口を開く。

 「俺から紹介させてもらおう。まずは前にも警察署で会ったこちらの方だが、公安の高官なんだ。悪いが名前は伏せるぞ」

 改めて握手。公安と聞き、若干顔が引き攣る。まさかサイキの奴、公安関係者に銃を突きつけていたとは。それに私の中で公安と言えば怖いという印象しかない。目の前のこの人に限って言えば、その印象には当てはまらないとても朗らかな笑顔なのだが。

 「次にこっちの二人だがな、高周波電磁波研究所って覚えているか?」

 「聞いた事があるような無いような……」

 「サイキちゃんを誘拐した犯人だよ」

 「ああー! あの!」

 物凄く申し訳無さそうな顔になる二人。そりゃそうだ、サイキはこちらに来て二日目でいきなりあんな目に遭わされたのだから。おかげでサイキは未だに白いワンボックスカーにトラウマがある。そういえば二人が乗ってきたのも白いワンボックスカーだな。

 「そこの所長の秋元と、今回の諸々の件の主任の黒田だ。ある意味主犯とも言うな」

 「高周波電磁波研究所所長の秋元です。その節は多大なご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございませんでした」

 「申し訳ございませんでした」

 二人揃って土下座。さてどうしたものか。

 「私以外にももう一人、一番謝らなければいけない子がいますよね。その時に改めて聞きますので、今は顔を上げて下さい」

 所長の秋元は結構若そうに見える。三十代後半辺りかな。一方主任の黒田という人物はもっと年上に見える。見ようによっては私と同年代かもしれない。


 本題に入ろう。わざわざこんな面子を集めてただの座談会という訳でもないだろう。

 「まず私から、事の始まりを説明します」

 青柳からだ。やはり健康診断の時に渡辺と会っていた事が関係しているのだな。

 「私はここ菊山市にのみ侵略者が現れる原因を探っていました。その過程で地図上に侵略者の出現位置を記入していきました。……ちょっと壁をお借りしますね」

 話の途中でカーテンを閉め、壁掛けの即席スクリーンが用意される。そしてアタッシュケースから小型の映写機を取り出し、青柳自身の持ってきたパソコンと繋いだ。こんな物まで用意するとは、随分と本格的だ。そしてそこに映し出されたのは菊山市全域の地図と、多数の赤い点。この点が全て侵略者の出現場所なのだ。改めて見るとかなり広範囲に分散している。

 「最初はその出現位置に共通点を見出す事は無かったのですが、学園での戦闘後にふとそれぞれの点を順番に繋げてみました」

 点と点が線で繋がれ、戦闘順が分かるようになる。一見してこれだけでは共通性があるようには見えない。

 「次に、これらの点を全て繋げてみます」

 次に大量の線の描かれた画像へと変更され、その瞬間、私でも一目で分かる共通性が浮かび上がった。

 「一点で交わってる……有り得るのか? こんな事……」

 「最初、私自身も驚きました。しかし事実ですから。そしてこの一点で交わってる線のみを残した物がこちらです」

 最低限の線のみが残った画像が表示された。見事に一点で交わっている。

 「お気付きでしょうか? 一つだけ交わらない点がありますよね。何処だと思いますか?」

 地図上では街の中央よりもやや東側に位置する地点に、赤い点が一つだけ寂しそうに存在している。ここは……。

 「……商店街か!」

 「正解です」

 サイキがこちらの世界に来て、最初の戦闘があったいつもの商店街。その時の赤鬼の出現位置だけが中央の点と交わらないのだ。それが指し示す答えとは……。

 「そうか、商店街と中央の点とを結んだ先に、サイキが来るより以前の侵略者の出現が確認出来れば、彼女達の濡れ衣を晴らす事が出来る! そういう事か!」

 「ご明察。そしてその結論に達した私は、次の一手として渡辺さんの力をお借りする事にし、事の顛末をお話しました」

 「俺も最初は驚いたよ。そしてすぐに俺のやるべき事を悟った。研究所の連中がサイキちゃんを誘拐した理由って覚えているか? 菊山市で謎の電磁波が観測されたって話。これだと一瞬で分かったね。すぐ研究所に連絡を取り、協力を仰いだ訳だ」


 「そこからは今回の主任を務める僕から説明させていただきます」

 研究所の黒田から詳しい説明が始まる。もうこの時点で、恐らく私は震えていただろう。それはもう狂おしいほどに心が躍っているのだ。

 「実はサイキさんがこちらに来る以前から、僕は今回のものとは違う、特殊な電磁波の調査で菊山市に来ていました。その調査中に突然強い反応を示し、それがすぐ消えるという事が複数回あり、その全てのタイミングで赤い髪の女の子を見かけていまして……申し訳ございません。サイキさんを捕獲しろと指示を出したのは僕です。全ては僕の責任です」

 「……話は分かりましたが、謝る相手は俺ではないですよね?」

 小さくすみませんと謝り、黒田は話を再開。

 「以前の電磁波調査の結果と、そして渡辺さんからの情報提供により、最初の電磁波の発生位置を極狭い範囲に絞り込む事が出来ました。その場所は間違いなく僕達の予測範囲を貫いていました」

 「俺のカンだが、地図から見て、きっと菊山運動公園の辺りじゃないか?」

 「大正解です。正確には公園内にある池の真上にポイントを発見しました。既にかなり時間が経っているので電磁波はほとんど消えかけていまして、あと一週間遅ければ発見出来ていなかったと思います。本当にギリギリでした」

 よくやった! 益々気持ちの高ぶる私。早く結果が知りたい! まるでクリスマスを控えた子供のような気持ちだ。

 「次に周囲の聞き込みをしました。結果、幾つかの証言を得る事が出来ました。九月十六日から十七日にかけての深夜、公園内で大きな悲鳴が聞こえたので、周囲の住人が警察に通報をしていました」

 「通報されているって事は」

 青柳を見る。

 「はい、確かにその通報履歴が残っていました。完璧な証拠です」

 思わずガッツポーズをする私。渡辺とお偉いさんに笑われてしまう。しかし恥ずかしさなどない。本当に心の底から嬉しいのだから。


 「しかしその侵略者ですが、実態が掴めませんでした」

 何だと? 青柳の放った言葉の、その意味を見失う私。

 「どういう事だ?」

 「目撃者がおらず、周囲への被害も確認出来なかったという事です。公園のほぼ中央、しかも池の真上ですから、被害が出るようなものもありません。つまりはその悲鳴が本当に人の悲鳴である可能性もあるという事です」

 「で、でも謎の電磁波は観測出来たんだろ!? なら……」

 「工藤さん、話は最後まで聞いて下さい」

 間違いなく私は焦っていた。それを見抜いた青柳から冷静な一言が投げつけられる。そうだな、これでは本当にただの子供だ。冷静になろう。

 「侵略者の実態は掴めませんでしたが、別世界からのゲートが開いたという証拠は掴めています。公園には監視カメラが数台あり、そこにはしっかりと池の中央へと吸い込まれるような動きをする木が映っていますし、一コマのみですが、空中から出現したと思われる小さな影も確認しています。大丈夫です。彼女達の濡れ衣を晴らすには充分過ぎる証拠です」

 「よし!」

 再度大きく嬉しさを表現する私。


 「そこで次は私の出番です」

 公安の高官、以降略して公安さんが手を挙げた。

 「この話を聞いたのが昨日の夜だったのでまだ捜査は進んでいませんが、我々公安の者が公園周辺での聞き込みを開始しています。監視カメラも片っ端からチェック中ですよ」

 どんどん話が大きくなるが、その事実に快感さえ覚えてしまう。そして青柳から、この最初の侵略者が何者なのかという予想が出される。

 「商店街で出現した赤鬼のビットは、彼女達の話では通常四体いる所、三体だったという話でしたよね。ならば残りの一体は何処に行ったのか。恐らくはこの最初の侵略者こそが、居なくなっていたビットでしょう」

 監視映像に一コマだけ映った影をよく見る。確かにかなり小さい影なのでビットの可能性は充分にある。


 しかし盛り上がるのも程々に、冷静に推理の穴がないか探そう。

 「うーん、三人のレーダーならビットでも捕捉出来るはずだな。以前かなり長く念入りに索敵をしていた事があったが、そんな事は言っていなかった」

 それに対して青柳が反論を入れる。

 「昨日の襲撃時、お三方は別のレーダーを使うという会話をしていましたよね? それは従来のレーダーでは探知出来ない範囲があるという事では?」

 「ああ、そうだったな。学園襲撃時に普段使っているレーダーが効かない事があったんだ。そこで別の探知方法を持つ、索敵範囲が狭いレーダーを併用し始めた。……そうか、学園の時は確か建材の違いでレーダーが効かないって言っていたな。ならば探すべき場所は……学園と同じ鉄筋コンクリ製の建物だ!」

 私の結論を聞き、すぐさま電話をかける公安さん。電話を切ると私に微笑み「任せて下さい」と一言。何だこの格好良い安心感は。


 「しかし本当に綺麗に中央で交差していますね。ここには何があるのでしょうか?」

 公安さんの質問に、地図だけの画像を出し、青柳が答える。

 「ここには菊山神社があります。まさか神社の力でこうなっているのかと思うと、最早オカルトの範疇に入ってしまいますね。菊山神社が何故ポイントになっているのかはこれから調べていく予定です。まずはマスメディアから彼女達に掛けられた呪縛を解いてやりたかったもので」

 「待てよ、うーん……何処かで菊山神社の詳しい歴史について読んだ記憶がある。うーん何処だ……」

 頭を抱え思い出そうと静かに奮闘する私。


 「市立図書館でしょうか?」青柳だ。

 「いや違う。俺は図書館なんてまず行かないからな」

 「ローカル番組で特集でも組まれていたのでしょうか?」公安さん。

 「いや、文章で読んだ記憶があるんだ。映像じゃない」

 「昔の住人が歴史好きだったりしてな」渡辺の一言。


 「……それだ!」



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