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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
奔走戦闘編
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奔走戦闘編 2

 朝起きてきた三人の顔を見るに、あの後もサイキはナオとリタに色々と文句を言われていた様子。今日から三日間は雨の予報。一気に戦闘回数が増えそうである。問題は無いとは思うが、三人のエネルギー残量を確認。皆65%以上との事。

 「実は、帰るために必要なエネルギーには届いていないです。省エネ化しているとは言え、最低でも75%、安全マージンを加えて80%以上は無いと帰れないです。なのでまだ当分はこちらにお世話になるです」

 そうか、当たり前だが帰る時の事も考えないといけないのか。

 「でもそうすると、また学園防衛戦みたいなのがあると足止めを食う事になるのか。難儀なものだな」



 視点を学園に変更する。

 三人が教室に入ると、早速皆が興味津々に昨日の休みの理由を聞いてくる。

 「ちょっと遠くの病院まで健康診断に行っただけよ。そんな大袈裟な事じゃないわよ」

 「へー。で結果はー?」

 中山が間髪入れず聞き返す。

 「個人的な事だからそんな……まあ、三人とも概ね健康だって。私は百点満点だって言われたけどね」

 自慢げなナオ。それを見て複雑な表情のサイキ。

 「じゃあじゃあ、リタちゃんの耳は?」

 「……えっ!?」

 驚くリタ。隠していられたと思っていたのは間違いで、皆知った上で敢えて聞いていなかったのだ。そこに中山が話の流れでそのまま聞いてしまった。

 「こらあい子!」「あ、ごめん」

 木村に怒られ謝る中山。クラスメートはいつの間にか三人にいらぬ心配をかけさせないようにと団結していたのだ。

 「いつから……気付いていたですか?」

 リタの呆然とした表情から発せられた質問に、相良がぶっきらぼうな口調で返す。

 「皆あの時、頭の天辺に耳のあるリタちゃんの事を見てたからねー。その前から何となく気付いてた人もいるんじゃないの?」

 涙目になっていくリタ。それを見て周囲が慌て出す。

 「悪い事じゃないからね」「可愛いから大丈夫大丈夫」「俺今まで気付いていなかったから、だから大丈夫だって」

 皆のフォロー虚しく走って教室を出て行ってしまうリタ。サイキが追おうとするのをナオが止める。

 「トイレにいるだろうから泉さん行ってもらえる?」

 知将の本領発揮、気を利かせたのだ。頷く泉は小走りでリタの後を追う。


 ナオの予想通りトイレの鏡の前にリタはいた。

 「リタちゃん……皆悪気があった訳じゃないよ」

 「……分かってるです。皆、リタ達を心配させないようにしてくれてたです」

 泣き顔のリタの手にそっと自分の手を重ねる泉。

 「この耳は、種族の象徴であり誇りです。でも今は……憎い。これが無かったら、皆と同じだったら……。皆が遠いです……」

 「駄目だよ、憎いだなんて言っちゃ駄目」

 「でも……」「だーめ。皆ね、リタちゃんが思うほど深刻には考えていないよ。気を使う事を迷惑だなんて誰も思っていないよ。それにね、ほら」

 そう言ってリタのウィッグを外す泉。リタの耳が立つ。そして自分の顔をリタの横に並べた。

 「私達ってそんなに遠い存在に見える? 目も同じ、鼻も同じ、口も同じだよ? そこまで同じなら、耳の違いくらい何とも無いよ?」

 鏡に映る泣き顔の隣には、笑顔がある。

 「……泉さん、さすがにその論法には無理があるです」

 冷静にツッコミを入れ、小さく微笑むリタ。

 「でも、ありがとです。……遠いんじゃなくて、リタが距離を置いていただけだったです。うん、教室に戻るです」

 「良かった……ってリタちゃん、ウィッグ忘れてる!」

 「いいです。このまま戻るです」


 皆心配げな表情をした教室に戻ってくる二人。

 「あ、帰って……ってリタちゃん!?」

 そのままの犬耳で帰ってきたリタに驚く一同。

 「隠さなくていいの?」

 「今だけサービスです」

 その一言に安堵し少しの笑いが漏れるクラスメート達。

 「皆、他の人には秘密だからね」

 ナオが注意すると、一斉に「はーい」と返事が上がる。

 見事な連帯を見せた所で孝子先生が入ってきた。リタの耳を見た所で雰囲気を察したようで、そのまま何も言わずにホームルームを開始する。皆の目が前に向いている間にリタはウィッグを付け直した。サービス期間終了である


 三時限目が始まってすぐ、サイキが手を挙げる。

 「あの……」

 「あー、気を付けて行ってきなさい。急かしはしないけど早めに戻ってきなさい」

 最早三人が言う事も無く学園中の全員が理解をしている。

 三人、目を合わせて全員で行く事に決める。

 「えっと、行ってきます」

 方々から小さな声援が聞こえる。早速屋上へと駆ける三人。

 「ほんの少し前までは、笑って出撃する事になるなんて考えた事も無かったね」

 「だからこそ一人も欠ける事無く、全員揃って私達の世界に帰らなきゃいけないのよ」

 「当たり前、です」



 視点を長月荘に戻す。

 「今回は三人一緒か。どうなんだ、楽しくやってるか?」

 「ええ。でもそれって戦闘前に聞く事じゃないわよ」

 笑いの漏れる三人。なるほど、学園生活は順調のようだ。青柳から現状報告が入る。

 「襲撃現場は東北東の畑のようですね。この様子ならば人的被害は抑えられそうです。そちらのレーダーからはどうでしょうか?」

 「えっと、敵は赤鬼が二体、ビットが八体……全部で十体ですね」

 いつも通り敵の数に関してはサイキが報告をしてきた。

 「赤鬼はこちらに任せて、警官隊の皆さんはビットが周囲に散らないように包囲してくれると助かります。私達は見つけ次第順次殲滅で。速度重視で行くわよ」

 ナオから作戦指示が出る。ほどなく三人は現場に到着。私のパソコンからもサイキ目線での現場映像が見えている。

 既に農作物の収穫を終えて更地になっている畑はとても見晴らしがよく、すぐさま二体の赤鬼の姿が目に入った。周囲にはミニパトが二台。警官が車を盾に距離を置いて様子を覗っている。

 「警官隊の本隊はまだみたいね。いいわ、先に数を減らしちゃいましょう。サイキは左、私は右。リタは援護とビット破壊をお願い。なるべく最小のエネルギー消費で終わらせるわよ」


 早速地上に降りてそれぞれの位置に着き、戦闘を開始。すぐさまサイキは赤鬼の盾役となった二体のビットを切り落とす。ナオも負けじと一体を突き、一体を薙ぎ払い両断。

 槍の改修は確実に効果を上げているようだ。残るリタは銃を構えてはいるものの、何故か動く気配は無い。

 パトカーのサイレンが近付いてきた。青柳からも現場に到着したと報告が入る。ちらっと映るパトカーの台数は十台近いだろうか。それを見たビットが本体である筈の赤鬼を置いて逃げ始めてしまった。罠かと勘繰る二人は一端距離を取る。

 「これを待っていたです。隙だらけです」

 最後方からリタの64式の銃弾が飛んでくる。一発でサイキ側の赤鬼を撃破。エネルギーは抑えているようだが、それでも一撃で簡単に吹き飛ぶのだからどれほどの威力か察して余りある。すぐさまナオ側の赤鬼にも狙いを付け、引き金を引いた。飛び出した銃弾は淡い光の尾をなびかせながら一撃で赤鬼を葬る。本体の両方をリタが食ってしまった。

 「リタ、どっちも倒すなんてずるいよ!」

 せっかくの獲物を取られて不満げなサイキ。

 「いいから残り倒すよ!」

 ナオは戦闘の早期終了を重視。やはりナオのほうがしっかりしている。

 先程の不動のリタから察するに、最初から赤鬼二体が手薄になる瞬間を待っていたのだろうな。命令違反と言うべきか、二人を信頼しきっていると言うべきか。


 本体がいなくなったせいか、狂ったように逃げ回る四体のビット。それでも肉薄し、サイキが一体を切り落とす。追加装備のおかげで機動力のあるサイキはビットの動きに付いて行けている。一方のナオとリタは中々狙いを定められない。

 「こうなったら撃つより殴るです!」

 悪い癖が出たか、リタがビットを追い掛け回し始める。

 「あんた、ただでさえエネルギー使うんだから少しは考えなさい!」

 ナオに怒られつつ銃を持ち替え、ショットガンを鈍器代わりに一体を殴り倒し地面へ落とす。そのまま狙いを定め撃破。残りビット二体。

 と、青柳から報告。

 「ビット一体を確保。ガムテープで完全に身動きを封じました。残りは……」

 「貰った!」


 青柳が言い終わる前にナオが無事最後のビットを仕留めた。それを見てサイキから戦闘終了報告が入る。

 「レーダーに敵影なし。クリアです。確保したそのビットはどうしよう?」

 「解剖……するですか?」

 「危険性が無い訳じゃないから、本当なら倒すべきなんだけど……ちょっと見せてもらえますか?」

 確保したビットを見に行くナオ。ビットには手錠が掛けられており、更に手足と口はガムテープでぐるぐる巻きにされ、本当に動けない様子だ。このサイズならば飼い慣らせたら何かと便利になるのではないだろうか。一家に一台子鬼ビット……不謹慎だ。


 「うーん……資料としては貴重だけど、やっぱり倒しちゃうべきだと思うわ。予想外の事態を招く前にね」

 「予想外の事態、ですか?」

 「こいつが仲間を呼んで大部隊での侵攻が開始されたり、こいつ自体が進化して大型化したり。とにかく最悪の事態を想定するべきよ」

 少し悩んだが、ナオの心配も、もっともだ。

 「分かりました。後の処理は我々でするので、お三方は授業に戻って下さい」

 青柳に言われ、大人しく学園に戻っていく三人だった。


 夕方帰ってきた三人に、先に青柳から聞いていた被害報告をする。

 「今回は被害ゼロだ。怪我人もいないし物が壊れた事も無い。完璧だよ」

 小さく喜ぶ三人。

 「それで、最後のビットは本当にちゃんと倒してくれたのよね? 隠してどこかの研究所に運び込んだりしてないわよね?」

 やはり気になっていたようだ。

 「そう言うと思ってな、青柳が動画を撮っておいてくれた。俺はまだ見ていないけどな。というか、やっぱり見たくないからな。お前達も見たくなければ見なくていいぞ」

 恐らくは刺激の強い映像である事は想像に容易い。撮影した青柳も、あまりいい気分ではないと言っていた。顔を見合わせ考える三人。

 「じゃあ責任を持って私が見ます。二人は見なくてもいいわよ。工藤さんもね」

 ナオに席を譲り、パソコンに保存された映像ファイルを示す。映像は見ていないが、音で分かる当時の状況。銃声が三発鳴り、青柳の声で「処理を確認。解散して下さい」と入っている。

 ナオは溜め息を一つ。

 「……確認しました」

 「悪いな。そんなの見せてしまって」

 「気にしないで。私達だってあれを何十何百と倒してきているんだから」

 よほど私よりも出来た性格をしているな。


 「そうだ、来週から期末テストだって」

 もうそんな時期か。



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