情報戦闘編 18
日曜日、一日中快晴。この日私には計画があった。三人をとある所に連れ出すのだ。
「今日はちょっと用事があるからな。お前ら三人にも付いて来てもらうぞ」
期待よりも懐疑の表情が見える。
「怪しい所ではないし、取って食おうっていう訳でもないよ」
「……怪しい」
余計不信感を抱かせてしまったようだ。まあそれも一つの戯れ。
「着いたぞー」
「随分と大きい家ね。ここが目的地?」
「そうだ、俺の妻の実家、芦屋家だ。昔はここいら一帯一面の畑でな、そのほとんどがこの家の土地だったんだ。所謂豪農って奴だ」
呼び鈴を鳴らし来訪を告げる。
「おう来たなー。昨日いきなりの電話で何かあったのかと驚いたぞ」
「ちょっと見せたいのがね。上がらせてもらいますねー」
私に続いて子供達が顔を出す。
「おー、あれ? この前の子じゃねーか?」
「あっ……こ、こんにちは。お邪魔します」
悟られまいとするサイキだったが、あっさりと明かす私。
「難しい話は抜きにして、まあそういう事なんですよ。それでいい機会だからと思って子供達を見せに来たという訳です」
「なるほどなるほどそういう事か。歓迎するぞ小さな下宿人達よ。ガハハ!」
相変わらず豪快に笑うお義父さん。三人はどうしたものかと当惑気味である。
「警戒する必要は無いぞ。何たって俺の妻の実家だからな」
私が仏壇に手を合わせると、三人は顔を見合わせ一考。とりあえず私の真似をしてみせるが、そのやり取りを笑いながらお義父さんが見ている。
「姉さんと兄ちゃんは?」
「もうすぐ来るはずだぞ。富子の奴、前回はお前さんの顔を見そびれたからな。電話してやったら絶対行くーって言ってたぞ」
居間のテーブルを囲み座ると、お手伝いさんがお茶を出してくれた。私とお義父さんはいつも通り世間話。話の流れで話題がサイキに振られる。どう言ったものかとあたふたしている様子に、お義父さんはまた豪快に笑う。
「俺だってテレビは見ているからな。この子が俺の命の恩人、あの空飛ぶ赤い子だって事くらい分かるぞ。んでそっちの背の高いのは黄色の子、ちっこいのが緑の子だろ。なあに取って食おうって言うんじゃないんだから、もっと気楽に、自分の家だと思ってくつろいでいいんだぞ」
ちょっと緊張が解れたかな、という所で芦屋家長男、私が呼ぶ所の兄ちゃんが到着。相変わらずの無口ではあるが、三人を見るなり何かを悟り親指を突き上げグーサインを出す。さすがだ。
その数分後に姉さんも到着。我が妻の姉、明るくひょうひょうとして掴み所の無い、そんな人物である。既に孫がおり、よく姉さんの家に遊びに来ているようだ。
「ひっさしぶりだねー、一郎ちゃーん。あっれまー可愛い子を三人もはべらせちゃって。このモテ男め」
「あはは。命日は俺も色々あって来れなかったからねー。そっちも相変わらずお綺麗で何より」
「さすがあんたの嫁の姉さんでしょ? 未だに三十代に間違われるんだから!」
大人達の会話に置いてけぼりを食らい、気まずそうにしている三人。お義父さんに姉さんに兄ちゃん、芦屋家が揃ったのでそろそろきちんと紹介するか。
「んじゃあ揃った事だし改めて紹介します。今長月荘の住人となっている三人の子達です。こっちからサイキ、ナオ、リタ。事情が事情なのであまり詳しくは話せないんだけど、皆いい子だからこっちとしては助かっているよ」
それぞれ頭を下げる。お義父さんは相変わらず笑い、兄ちゃんは頷く。姉さんはジーっと三人の顔を凝視した後、指をさして声を上げた。
「ああーっ! この子ら今ニュースに一杯出てる子にそっくりじゃないの!」
「おい人に指を差すとは何事か。俺はそんな無礼な子に育てた覚えは無いぞ」
「ごめんなさーい」
姉さんは軽い乗りで謝罪。
「で、どういう事なのさ? ねえねえどういう事どういう事? 教えて教えてー」
誰にも口外しない事を約束してもらい、幾つかの事情は話す。
「俺も命を助けてもらったからな! どうだ羨ましいだろう!」
羨ましい……のか? まあ彼女達の戦闘を間近で見られる機会などそう無いので、珍しいと言えば珍しい事か。
「そっかー。これはやっぱりさえちゃんが導いてくれたんだろうねー。一郎ちゃん去年なんかもう、死にそうな顔してたじゃない。見かねてたのよ」
「かもね。――今だから言えるけど、実は今年の命日で俺ね、死のうと思ってたんだ」
一同一斉に驚きの声を上げる。リタも一緒に驚いている。サイキとナオは既に知っているので薄い反応。
「所が丁度命日の九月二十一日に、このサイキが空から降ってきたもんだから死ねなくなっちゃってさ。この子に一番最初に命を救われたのは俺なんだよね」
「ものの見事にその日に来たのか。あいつめ、死んでも憎い事をしおってからに……」
湿っぽい空気になってしまったので話題を変えるか。
「髪の色、変えられるのか?」
珍しく兄ちゃんが食いついた。その事実に私も芦屋家二人も驚く。
「あんたが自分から興味を示すなんてねー。気に入ったんだ?」
ちょっと恥ずかしそうに小さく頷く兄ちゃん。このギャップというものがモテるのだろうか?
「ここまで来たんだから同じだろ」
私の言葉の意味を察した三人は、服装は変えずに髪の色を派手な状態に戻した。リタはウィッグを外し耳も生える。
芦屋家三人は食い入るように観察。あまりにも凝視されるので彼女達の目線が泳ぎ、恥ずかしそうにしている。するとお義父さんが唸り出した。こういう場合、いつも重要な事を言う前兆なのだ。
「よーし決めたぞ。さえ子の十五年越しの置き土産だ。もうこの家には力はほとんど残っていないけどな、俺達芦屋の者は全面的に支援してやるぞ」
「お父さんがそう言うなら従わざるを得ないわね。勿論、大歓迎」
兄ちゃんも大きく頷いた。
これを期待していたという訳ではないが、予想通り、彼女達を連れて来た事は大きなプラスになった。
「皆ありがとうございます。ただ、今の所はマスコミを除けば困っている事は無いから気持ちだけで大丈夫ですよ」
「そうか。しかし俺達に出来る事なら遠慮なく言ってくれよ。何たって家族じゃないか。ガハハ!」
その後は三人も打ち解け、ゆったりとした時間が流れた。帰りは兄ちゃんの車で商店街まで送ってもらう。前回貰ったサツマイモが武器として役に立ったと言うと、兄ちゃんのツボにはまったようで大笑いしていた。
商店街で兄ちゃんとお別れ。いつも通り三人はカフェの手伝い、私は客としてコーヒーを一杯。
するとナオが話し掛けて来た。
「驚いた。家族の力っていうのをまざまざと見せつけられた気分だわ」
「そっか、ナオは家族を知らないんだったか。あの勢いは凄いだろ」
「圧倒されたわ。でも一番は芦屋家のたった三人だけで私達のエネルギーを10%近くも回復させちゃった事よ。今まで1%ですら回復に苦労していたのにね。やっぱり回復は絆説を推したくなっちゃうわ」
「なるほどな。あの家族は特に結束力が強いからなあ」
さすが我が妻の実家である。まさに有言実行、支援はしっかりと頂きました。




