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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
情報戦闘編
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情報戦闘編 17

 学園での一件以来、日増しに彼女達に対するマスメディアからの批判が強くなっている。その原因には大学で撮られた三人の揃った映像と、その後の大型種の自爆という事実、そして一番は彼女達のクラスメートである松原の母親、菊山市教育委員でもある松原栄利子という人物にある。

 元々オーバーリアクション気味で声のでかい松原栄利子は、そのキャラクター性から頻繁にテレビに出演するようになっていたのだ。勿論我々の敵対勢力としてである。松原栄利子の主張は単純明快。彼女達が来たから菊山市が狙われている、だから侵略者は菊山市以外には出現しない。たったこれだけだ。しかしそれを覆す事の出来るような証拠が無い以上、我々としては手をこまねいているだけなのだ。

 ……いや、正確には証拠を作る事は出来る。雨の日に彼女達を全員市外の遠くに連れ出せばいいのだ。しかしそんなリスクのある賭けなど出来るはずもない。


 数日後、雨が降り侵略者が出現した。授業中であったためにサイキ一人での出撃だ。後から聞いた話では、授業中に手を挙げた時点で「気を付けて行ってこい」と言われたそうだ。学園の全面的な理解には本当に頭が上がらない。

 「場所は西の住宅街。敵は中型の緑が一体だけ。なるべく早く倒して授業に遅れないようにしないと」

 「焦りは禁物だぞ。こういう時こそ油断してボロが出るんだからな」

 「そうですね、うん。気を引き締めて行きます」

 サイキ目線の映像では、襲撃現場は芦屋家にかなり近い位置だと思われる。何もなく無事に済めばいいのだが。

 「敵影確認。中型緑が一体のみ。見た感じ周囲に人はいないかな……いや、一人いる。距離はあるから間に入って守ります!」

 住人と緑の侵略者との間に入るサイキ。


 うん? 今の顔どこかで……?

 「サイキ、一瞬でいいから今の人の顔見せてくれ」

 軽く振り返るサイキ。すぐさま敵に睨みを利かせる。その一瞬だけでも充分だった。これは戦闘中のサイキには黙っておこう。

 戦闘開始。無策にただ一直線に走ってくる侵略者。サイキの間合いに入った緑の侵略者は、ほどなくあっさりと倒される。やはりサイキは強いな。

 「大丈夫ですか?」

 「あ、ああ大丈夫だ、何処も怪我はしていない。そうかお前さんが最近噂の子か。ありがとうな、テレビでは色々言われているようだが気にする事はないぞ。なんたって俺の命の恩人だからな。ガハハ!」

 この顔、この笑い声、間違いない。芦屋家当主である私のお義父さんだ。まさかこんな事があるとは。一礼して去るサイキ。

 「サイキ、詳しくは後で話すが、俺からも礼を言うぞ」


 学園に戻る最中、接続を切ろうとした所でサイキが何かを見つけた。

 「あれ? 煙が見える。駅前交差点で何かあったみたい。ちょっと様子を見てきます」

 「おいおい不用意に近づくなよ」

 注意はしておいたのだが、果たして効くかどうか。

 サイキ目線ではどうやら自動車事故があり、一台の乗用車から火が出ており、耳を澄ませるとサイレンも聞こえる。警鐘が聞こえるので消防車か。

 「大丈夫かな……もう少し近付きます。えっと……人が閉じ込められてるみたい。どうしよう? 助けに入ったほうがいいかな」

 サイキが言い終わると同時にエンジンから大きく炎が上がる。その熱量で周囲の人は救出しようにも近付けない様子だ。

 「まずいな、爆発したら終わりだぞ」

 私の呟いた一言に、サイキが反応した。

 「……助けます!」

 「おい待て、あんな大勢の前に出て行ったら……」

 私が言い終わるのを待たず、炎上する車に閉じ込められた人を救出しに向かうサイキ。こうなれば仕方があるまい。無事救出が成功する事を願うのみだ。


 「あつっ……さすがにこれだけ近いとスーツを着てても熱が来る。早くどうにかしないと。ドアは……」

 取っ手を引き、力一杯ドアを開けようとするが、事故の影響で変形しているせいか、びくともしない。

 「剣を隙間に突っ込んで梃子の原理でこじ開けるしかないんじゃないか?」

 「うん、やってみる」

 ドアと車体の隙間に剣を刺し、思いっきり引っ張るサイキ。

 「んんんー……駄目、アンカーで足を固定しても動かない……もう一度!」

 何度も力を込めるサイキだが、ドアは開かない。やはり特殊な道具が無いと力が足りないか。いくらスーツとリンカーで身体強化されているとは言っても、まだ中学生の力ではどうにもなりそうにない。


 「……おい、俺達も手を貸すぞ」

 野次馬の男性が二人、見かねて救出に加わった。

 「き、危険です! 下がっていて下さい!」

 「子供一人に任せていられる訳ないだろ。いいからタイミング合わせて行くぞ」

 「せーのっ!」

 三人タイミングを合わせて渾身の力を込める。

 「んんーー! 畜生固いな、もう一度、せーのっ!」

 再度全身全霊で力を込める。きしむドア。


 バゴン! 

 「うわあっ!」

 勢いよくドアが開き、飛ばされる三人。特にサイキは思いっきり飛ばされ転がった。その手から離れた剣が、アスファルト路面に突き刺さった。

 「痛っ……あの人は!?」

 ドアが開いたのを見て、別の二人の男性がドライバーを引きずり出していた。

 安全圏まで移動した所で燃料タンクに引火、大爆発を起こす事故車両。爆風により周囲の建物のガラスが音を立てて揺れるほどだ。

 爆風が収まり、冷静を取り戻した周囲の野次馬がサイキに声をかけた。

 「やー間一髪だったな。君よくやったぞ!」

 周囲から疎らではあるが拍手も上がる。丁度消防車と救急車も到着した。

 「サイキ、もういいから戻れ。ここからはお前の出る幕じゃない」

 「はい。でもちょっと待って」

 すると先程助太刀に入った男性二人に駆け寄るサイキ。

 「あの、わたし一人では助けられませんでした。本当にありがとうございます」

 二人の返答を待つ事なく学園へと戻るサイキ。あーこれはまたニュースになるんだろうなあ。


 この日の襲撃での人的被害は全くのゼロ。昼間の、しかも雨の閑静な住宅街なので誰もいなかったのだ。また事故車両から救出された男性も無事意識を回復し、命に別状が無い事が確認された。後日この時救出に入った男性二人と、ドライバーを引っ張り出した男性二人には消防所長から感謝状が送られた。

 「私達は、あの子の一生懸命に人を助けようとしている姿に、突き動かされただけです。真のヒーローはあの子ですよ」

 と語る映像が、彼女達を散々叩いていた昼のニュース番組で流れる事となる。



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