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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
情報戦闘編
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情報戦闘編 15

 「あ、来た! 帰ってきたよ!」

 色めき立つ教室。一年B組の生徒の目には、校門を抜け一直線に走ってくる六人の姿が映る。

 「よしっ……!」

 教壇に立つ孝子先生も、生徒に気付かれないように小さく拳を握る。


 先に相良、一条、最上が教室に入ってきた。誰とも無く三人に質問が飛ぶ。

 「三人は?」

 「今学園長の所に行ってる」

 相良の答えに教室がざわめく。やはり朝の全校集会の余韻が残っているのだ。

 「……俺らの手で取り戻すぞ!」

 授業中にもかかわらず、孝子先生の静止も聞かず、全員が一斉に学園長室を目指す。

 「やれやれ、青春してるなあ」

 空っぽになった教室で一人羨ましそうに呟く孝子先生。


 「何ですかあなた方は。授業に戻りなさい!」

 ノックなどせず扉を開け放ち、学園長室に雪崩れ込む一年B組一同。勿論全員入れる訳も無く、殆どが廊下に待機する状態だ。その光景に一番驚いているのは他ならぬサイキ達三人だ。

 「え!? 皆どうして?」

 「……学園長、俺達から三人を取り上げないで下さい。お願いします」

 格好つけの最上の本領発揮だ。他のクラスメートも次々に頭を下げる。その光景を半ば唖然として見ていた三人。再度学園長のほうを向く。

 「お願いします」

 三人も頭を下げる。

 「もう……あなた方に頭を下げられた所で、何も変わりませんよ」

 「おねがいしますっ!」

 一層強く頭を下げる生徒達。その必死さは誰の目にも明らかだ。

 「もう一度言いますが、何も変わりません。分かったら授業に戻りなさい」

 「……そこを何とか!」

 重苦しい空気が周囲を包む。

 「何度頭を下げられても何も変わりません。退学の話は既に無くなっていますから」

 「……え?」

 「三人が退学するという話は既に消滅しています。従って三人は今までと何も変わらず我が学園の生徒です。はあ全く、分かったら授業にもど……」「やったー!」

 学園長が話し終わる前に歓声が上がる。頭を抱えながらも嬉しそうに微笑む学園長。


 「三人にはまだ話があります。皆さんは全員速やかに授業に戻って下さい」

 安堵し、素直に授業へと戻って行くクラスメート達。最後の最上が「ありがとうございました」と一礼し、静かに扉を閉める。

 「まずは謝罪をさせて下さいね。今回の件であなた方を不安にさせてしまった事、申し訳ありませんでした」

 「あ、いえ、こちらこそ凄く大事になってしまって、すみません」

 両者ともの謝罪が済んだ所で本題に入る。

 「さて」

 と一言椅子に座る学園長。その表情は真剣であるが、心は嬉しさで溢れ返っている。

 「もう学園内であなた方を知らない生徒、教師はいません。それは即ち情報が拡散するという事を示しています。既に保護者の方から問い合わせの電話も頂いております。そう時間も掛からずに、私の所にもメディアからの取材依頼が来るでしょうね。我々教師には学園と生徒を守る義務があります。勿論その中にはあなた方も含まれていますが、その為にはあなた方自身の協力も不可欠です。この意味、分かりますね?」

 「はい」

 姿勢正しく、はっきりとした声で答える三人。

 「それから、例え学園内では周知の事実となったとしても、規律は守っていただきます。出撃する際は教師に許可を取る事。と言っても一刻を争う事態ですから、昼休み等の近くに教師のいない時間帯ならば友達に伝言を頼んでも良いでしょう。そして有事の際には必ず屋上又は玄関から向かう事。窓から飛び出すなど言語道断ですからね。それから学園内での武器の取り出しや特殊な機能の使用は禁止。他の生徒にねだられたとしても絶対にいけません。その他、とにかく普通の学生として振舞う事。分かりましたね?」

 「はい」

 「よろしい。さあ、早く教室に戻りなさい」

 「ありがとうございました。失礼しました」

 学園長室を出て行く彼女達の表情は、とてもいい笑顔だ。そしてそれを見送る学園長も、とてもいい笑顔だ。


 教室では既に授業が再開している。音を立てないようにゆっくりと扉を開け、そろりそろりと席に着く三人。それを見ていた孝子先生、いきなりナオに教科書を読むように当てる。勿論大慌ての三人だが、教室からはかすかな笑いが起こるだけで皆冷静だ。すぐさま今回の事は特筆するような大きな出来事ではなかった、気にする必要などない、という雰囲気作りの演出だと気付いた三人は、とても嬉しそうな笑顔をする。

 休み時間になれば、やはり彼女達の周りには人が集まる。先程走って帰ってきた場面を見ていた他の組や学年の生徒も、彼女達の顔を確認する為に覗きに来ている。そんな生徒達の表情は一様に明るいもので、どれほど彼女達がなくてはならない存在となっているのかを推し量るには充分だ。

 昼休み、重大な問題が発生する。三人は急いで出てきたのでお弁当を持参していないのだ。学園には学食も無く、一番近くのスーパーは改装工事中で営業をしていない。コンビニまでは少し距離があり、そもそも昼休みに学園外への買い物は許可されていない。皆から少しずつ分けて貰うしかないか? すると孝子先生が入ってきて、三人にいつものお弁当箱を手渡す。

 「さっき青柳さんが来て、工藤さんからお弁当預かったからって。あんた達が羨ましいわー。工藤さん料理上手いものね」

 三人は作りたての温かいお弁当を手に入れた。


 放課後になり、それぞれに別れの挨拶をして三人はいつも通りカフェの手伝いへと向かう。方向が同じ泉ともカフェまで一緒に行動。

 「言い忘れていたです。泉さん、あの時リタに声をかけてくれて、応援してくれてありがとうです。おかげで窮地を脱する事が出来たです」

 「ううん、皆と絆を結んだのはリタちゃん達三人の力だもん。それにあの時、私本当に必死で、何も考えていなかったから」

 そんな小さな二人を微笑ましく見つめるもう二人。

 「頭より体が先に動いちゃったのかしら? 泉さんって本当にリタの事が好きなのね」

 「確かに。それに見ようによっては姉妹にも見えるよね」

 茶化すナオとサイキ。顔を赤らめる泉だったが、満更でもない様子。

 「私、あまり自分に自身が無いんです。お姉ちゃんがいるんだけど、凄く出来る人だから余計に。それに私小さいから、ずっと友達がいなくて。……そんな時に皆さんが来て、自分よりも小さなリタちゃんが自信を持って皆と接するのを見ていると、塞ぎ込んでいる自分が嫌になって。だからあの時、リタちゃんと一緒にいれば私も変われるかなって。それで……変われた、かも。だからリタちゃんや皆さんと会えて、本当に良かった。私の応援は、少ないけれどそのお返しです」

 下を向き恥ずかしそうに語る泉。そんな泉の手を握るリタ。

 「リタも、リタ達も泉さんや皆と出会えて本当に良かったです」

 リタの笑顔に、泉も笑顔で返す。


 「……そういえばわたし達のエネルギー問題だけど、わたし、応援の力だけじゃないと思っているんだ。証明は出来ないけれど、ただ応援されただけでは回復しなかった事があるのを考えると、応援に近い何かなんじゃないかって。それで今、泉さんの言った絆を結んだ力って言うのがぴったり当てはまる気がするんだ」

 「うーん、それはそれで難しいわね。帰ったら工藤さんに相談してみましょう」



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