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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
情報戦闘編
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情報戦闘編 14

 二体目の大型侵略者が自爆の前兆と思われる行動を取り焦る我々。一条という男子の提案した、敵を上空まで跳ね上げバリアで覆った上で倒すという、無茶ではあるが最善と思われる作戦を実行する事になる。


 それぞれが位置に着く。緊張の色の見える三人。長月荘の面々も張り詰めた空気になる。

 「行きます!」「オーケー!」「いつでもです」

 サイキは蹴りに集中するために剣をしまい、翼を後ろへ伸ばし走り出した。反対側からはナオが槍の先端を地面に擦りそうなほどの低空飛行で飛んでくる。

 「せーのっ!」

 大きく飛び上がり、およそ人間とは思えないほどの速度で、サイキの飛び蹴りが敵の真ん中に命中する。まるで釣鐘を叩いたかのような大きな音を響かせ、傾くというよりも、それだけで少し浮きつつ倒れかかる。

 「んぬおああ!」

 今まで聞いた事も無いような雄叫びを上げるナオ。まるで地面を切り裂くように下から上へと振り上げられる槍。それによって三メートルほどは浮き上がるが、まだまだ足りない。

 「ちっ、重過ぎる」


 「追撃行くです!」

 真下に滑り込んでくるリタ。その手には64式ではなくショットガンが握られている。貫通力よりも打撃力を優先したのだろう。そのまま仰向けに寝るような体勢で一発、二発、三発。五メートルほどは浮いたか。しかしまだ足りない。

 「まだまだあ!」

 側転バック転を決め敵の下に滑り込むサイキ。手の平から地面に着地し逆立ち状態で飛び上がると、まるで重力を無視した加速を見せた。体を捻りつつ強烈な蹴りを入れるサイキの足元からは、アンカーとは違う何か強い光が発せられた。今までとは違う勢いで、まさに跳ね飛ばされる大型侵略者。やはりサイキの義足にはまだ色々と仕込まれているようだ。

 一気に上空二十メートルほどまで跳ね上げられ、半回転し頭が下を向いた。

 「リタ!」

 「今こそ貫通させるです!」

 いつの間にか64式へと持ち替えているリタ。真上へと撃ち出された弾丸は今まで以上に眩い光の道を描き、大型侵略者のど真ん中に命中し見事に貫通した。その光は雲をも穿ち、そのまま遥か彼方まで突き抜けて行く。

 「防壁展開!」

 ナオの号令により三人協力し敵を囲うようにバリア防壁が張られた。直後大音響が発生。やはり最後に大爆発を起こしたのだ。あれがそのまま地面で爆発していたのならば、間違いなく街には大穴が空いていただろうな。


 大爆発の音が収まると三人はお互いの顔を見合わせる。

 「……んーーいやったあーー!!」

 大喜びで抱き合う三人。長月荘でも大盛り上がりだ。

 「いえーい!」

 まるで自分の事のように喜び、ハイタッチをする子供達。とても微笑ましく、私も嬉しい限りだ。

 「はっはっはっ、お疲れさん。最高に格好良かったぞ。さあ早く帰ってこい! 友達が待っているぞ!」

 「はい!」


 「いやあ、間近で見るよりもあの三人の凄さが分かった気がするなあ。改めてサイキさんに告白しようっと」

 「……うん?」

 ぼそっとした声だが、何故か最後ははっきりと聞こえた。ジジイの地獄耳発揮である。

 「あっ……えっと……」

 そうか。この最上という奴が、初日にサイキに告白して玉砕した男子か。

 「ほほおーう、父親代わりの俺の目の前で告白宣言をするとは、いい度胸だなあ」

 勿論ただのSっ気の漏れた冗談なのだが、予想以上に効いているらしく、最上は青い顔になっている。

 「あ、いやこれはその、えっとあの」

 いい感じのしどろもどろ加減だ。まるで三十年前に芦屋家のお義父さんに胸倉を掴まれた時の私自身を見ているようで、とてもおかしい。

 「はっはっはっ、冗談だよ。告白だけならするがいいさ。ただな、こういう事情があるのだから、悲恋になるのは間違いないぞ」

 「……それでも好きなものは好きですから」

 一途だな。

 「あーこいつただ格好つけたいだけなんで」

 と思ったら一条からのいいツッコミが入った。どちらにしろ私には邪魔をする権限など無いのである。


 携帯電話が鳴った。青柳からだ。パソコンで接続しているのだからそっちを使えばいいのに、と言うと、学生三人に気を遣ってとの事だった。

 「後ほど改めて報告しますが、現在までに死者はゼロ、重傷者が三名、軽傷者が十名。建物への被害はこれから調査が入ります。それから一体目が大学構内だったので、やはり今回の戦闘は携帯電話などで映像として撮影されていると考えるべきでしょうね」

 サイキはともかく、ナオとリタもそろそろ年貢の納め時なのかもしれないな。

 「それから、今回は思いがけない副産物も手に入りました。これも後ほどご報告します。お三方が揃う頃にそちらへ伺います」

 副産物? 何だろう。三人が揃う時間ならば青柳の分も夕飯を用意するか。


 さて三人が帰ってきた。両陣営声を揃える。

 「ただいまー!」

 「おかえりー!」

 三者三様、それぞれがそれぞれに手を取り喜び讃え合う。しかしここは大人として発破を掛けなければ。

 「喜ぶのは後にして、お前達全員急いで学園に戻る事! 皆が心配するぞ!」

 私の言葉にそれぞれが返事をして学園へと駆け出す。もう学園生活において、何も不安視する事など無いだろう。三人はとても良い友達を持った。三人は皆の為に、皆は三人の為に、尽くす限りの努力をお互いにしていくだろう。ならば私も、彼女達に今出来る努力をしてやろう。


 「私は、彼女達が学園を自主退学をするという事に、正式に反対の立場を取らせていただく事に決めました。そういう事ですのでよろしくお願いします。学園長」

 「……分かりました。仕方ありませんね。実は今朝、全校集会の場で生徒全員から叱られてしまいました。自分達の恩人を返せと。それは私を含めた教師全員も同じ気持ちです。最早、彼女達を辞めさせる理由など無くなってしまいました」

 「それはつまり……」



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