情報戦闘編 13
遠くで悲鳴音が鳴った。三人は早速飛び出して行く。いつも通り私と青柳と三人で接続。
「場所は南西。確か地図では大学の辺りかな。また人が一杯いる所に出るなんて。種類は大型の……あ、これ拠点防衛型の片割れじゃないかな。厄介な相手が続くなあ」
サイキからの分析報告。大学に拠点を構えるつもりか? ある意味正解だな。
「作戦は以前と同じで大丈夫だと思う。サイキとリタで援護、私が上から串刺しね。上の砲台を壊せそうなら壊しちゃっても構わないわ。警察はなるべく大回りに避難誘導して下さい。よろしくお願いしますね」
ナオからの作戦伝達が終わり、ほどなく大学が見えてくる。そしてまさに黒胡麻プリンにクリームを乗せたような形状の侵略者。やはり以前見た事のある拠点防衛型にそっくりだ。あの時は高威力の単発型だったが、今回のは速射型だろう。手数が多いと近付くのにも苦労をするだろうなあ。
「侵略者から逃げている人が結構いる。でも今降りたら間違いなく大勢に目撃されちゃうし……どうしよう」
「まずは無力化です。この距離から砲台を潰せるか試してみるです」
リタが遠距離から敵の砲台を狙う。リタ仕様の64式ライフル銃から放たれた弾丸は見事命中。鉄板を叩いたような、かなりいい音がしたが、無力化とまでは行かないようだ。
「さすがに固いなあ。外側が凹んだ程度か」
「うー、リタも凹むです」
それ所ではないのに何言っているんだこの子は。しかし今ので砲台の動きが遅くなった。ダメージ自体はしっかり入ったようだ。これを確認、素早い動きでサイキが肉薄。
「先に砲身だけを切り落とします!」
有言実行、砲身を根元から切り落とし、これでナオへのお膳立ては完璧……だったのだが、二つの問題が舞い込んでくる。一つ目の問題は現場からそう離れていない所に二体目の拠点防衛型が出現してしまった事。恐らくは現在相手をしている奴の相棒だろう。そしてもう一つの問題がこれだ。
「すみません、サイキいますか? 迎えに来ました!」
何度も呼び鈴を鳴らし、玄関ドアを叩き私を急かす”誰か”のその声に「勝った」と思わず呟く。なんとなく想像は出来ていたし、そうなって欲しいと願っていた。彼女達の誠実さと努力の成果が実を結び、私と彼女達は雲を掴むような賭けに勝ったのだ。
来た! サイキの友達が、彼女達を学園に連れ戻す為に来てくれた!
「待ってたぞ、と言いたい所だが今は駄目だ。何となく分かってるとは思うが、三人は出払っている。まあとにかく上がれ」
女子一人男子二人で構成され、すっかり息の切れている学園の制服姿のサイキの友達。恐らく学園からここまで走って来たのだろう。居間に案内し、私は飲み物を用意しよう。
「声は聞こえるけど三人は?」
一見してまさかパソコンで映像接続しているなどとは思わないだろうな。その女子学生の声にサイキが反応した。
「今の相良さん!? もしかして学園抜け出したの!?」
「あ、これか」
飲み物を用意して持ってきたら、既にパソコン前の特等席を取られてしまっていた。
「正解だよ。あたしと最上と一条。あんた達さ、あたし達がそう容易く友達を手放す訳無いでしょうが。皆待ってるんだから、さっさとそいつ倒して授業に戻るよ!」
格好いい事言うなあ。サイキ達も嬉しそうだ。
「ふふっ、そこまで言われちゃあ仕方が無いわね。いい所見せましょう! そうね、この距離から投擲して倒してやろうじゃないの。サイキ、リタ、衝撃波に注意して。行くわよ!」
上空数十メートルに陣取ったナオ。力の限り思いっきり振りかぶり、直下の侵略者へと槍を投げ込む。
「うおりゃあっ!」
女の子らしくない掛け声に、今までよりも更に速い速度で降ってくる槍。一瞬雨に濡れた空気の輪が見えるほどだ。それが何なのか考える間も無く侵略者を易々と貫通。その衝撃波が広がり、周囲の木々が大きく揺れた。黒胡麻プリンの侵略者は、小爆発を起こし収縮、消滅した。
「一体目撃破! 驚くほど威力が出たわね。リタの改修のおかげかな」
「おーナオさんもすげーなあ」
「ふふ、ありがとう! 皆も来てくれてありがとうね」
一条に褒められ、とても嬉しそうなナオの声。
「それ以上の言葉は学園の皆の為に取っておくといいさ」
「最上は相変わらずの格好つけだな」
「うっせーいいじゃねーか」
なるほど、この男子二人もいいコンビだ。
二体目は少し離れた大通りの十字路に居座っていた。
「怪我人が出ているみたい。分散して対応するべきだったかも」
「もう一度、砲台に穴を空けてやるです!」
「ならわたし達はリタの援護に回ろう」
再度砲台に狙いを定め弾丸を撃ち込むリタ。しかし先程と同様、いい音がするだけで貫通出来ない。悔しがるリタだったが、意外にも最上という男子が指南を買って出た。
「リタちゃん、あいつの継ぎ目部分見えるだろ。大抵ああいうのはそこが弱いんだ。難しいけど狙ってみる価値はあると思うぜ」
「了解です。継ぎ目部分……うー手がぶれるー……」
さすがにほんの少しだけの狙い目しかないので、二脚にアンカー装備のリタでも狙いが中々定まらない様子。そんなリタを見て、再度最上が指南。
「深呼吸して、息を吸って止める。狙う時は両目開けたまま」
(すうー……むっ)
無言のリタが引き金を引き、螺旋の風を描き一直線に飛んで行く光の弾丸。見事繋ぎ目に命中し、砲台から小爆発が起こった。
「すげー一発で成功した! リタちゃんすげーよ!」
「えへへ、最上さんのおかげです。何処で学んだのか後で教えて下さいです」
意外な伏兵がいたもんだ。本当に何処でそれを学んだのか、おかげでリタ自身の狙撃の腕も一段向上したようだ。
しかし新たな問題が起こる。侵略者が少しずつ膨らみ始めたのだ。
「なんかまずい雰囲気じゃね? あーいうのってゲームだと自爆するフラグだぞ?」
一条の言葉に全員騒然となる。
「自爆!? わたし達、あれがそんな事になるの見た事無いよ?」
「砲台を先に潰されたからスイッチが入ったとか? 今までそういう事って本当に無かったの?」
相良の冷静な分析。直感的にだが、私や青柳以上にこの子達はやってのける気がする。
「そもそもあいつって数が少ないのよ。だから目撃情報自体が無いのかも」
「それって目撃情報が無いんじゃなくて、全員自爆に巻き込まれたんじゃ?」
「うわっ、だったら尚更まずいじゃん! 街に大穴空いちゃうよ!」
男子二名の結論に、焦りが出る我々。
「……爆発する前に倒すです!」
「待って、それこそ倒した衝撃でドカンと行ったら……」
リタが行動しようとした所で相良がそれを止めた。子供達ではここからの判断は無理か。ならばここは私が……と思ったら、一条から作戦が出る。
「よし、あれを空に打ち上げよう。んでバリアで覆えば爆風はどうにかなるんじゃないかな?」
「そんな無茶な……でもそれしかないかな。よし、その作戦乗るわ。サイキ、南からあいつを思いっきり蹴飛ばして傾けて。北から私が跳ね上げる。リタは固そうな所に撃ち込んで少しでも浮かせて。後はその時の判断!」
「行くよ! 一か八かの大勝負!」




