情報戦闘編 12
月曜日、彼女達には自宅待機命令が出たままだ。天気予報では雨だが、まだギリギリで空は泣くのを堪えている。
視点を学園に移す。
ガラスの無い窓を大きな白いシートが覆い、隙間風に冷える教室には、疎らに生徒が集まってくる。クラスメートとの挨拶もそこそこに、やはり話題は三人に集中する。
「夢みたいだったなー」
「教室来てようやく実感が沸いてくるよ」
「私たち助けてもらったんだよね」
「俺達も、三人の力になれたんだよな」
現実と非現実との狭間にいる生徒達だが、その心の内は安堵が大きい。
泉が教室に入ってくると、最も体格差のある大柄の男子、前野が声を掛ける。
「泉さー、お前やるなあ。最初にリタちゃん応援してさ、勇気あるなーと思ったよ」
その言葉に教室の端々から同意の言葉が掛けられる。大人しい性格の泉は、自分が注目される事には慣れておらず、オロオロとしてしまう。
「え、え、あ、いや、えっと、あの……」
その光景に笑い声の漏れる教室。そこへ相良も到着。
「おはよー、ってなーに前野、泉ちゃん泣かせちゃってるの」
「ばっ、ちげーよ。最初に応援するって勇気いるよなーって話、してただけだよ!」
泉が何度も頷く。その光景にまた笑いが漏れる一年B組一同。
孝子先生が教室へ。予鈴が鳴り、朝のホームルームが開始される。
「先生! まだ主役の三人が来てませーん!」
「あーうんとね、その事も含めてこれから体育館で全校集会だから。ほら、だらだらしてないでさっさと移動するぞー」
わらわらと席を立ち体育館へと向かう一同。
「何だろう、やっぱり特別に表彰されるのかな?」
「目立つ事はやらないんじゃないの?」
「一時間目が潰れればそれでいいや」
能天気な発言も見受けられる。他の組、他の学年からも三人に対する話が聞こえてくる。その殆どが彼女達に好意的な言葉だ。
全生徒が体育館に整列し、学園長が壇上に上がる。
「皆さんおはようございます。始めに、私から生徒の皆さんへ謝罪をしなければいけません。今回の怪物、彼女達は侵略者と称していましたが、それによって多くの生徒に怪我人を出してしまいました。そして心に傷を負った生徒も少なくないでしょう。不可抗力であるとは言え、このような事になってしまった事を、仁柳寺学園中等部の学園長として、深く謝罪申し上げます。皆さん、申し訳ございませんでした」
静かに聞き入る生徒達。
「今回、校舎の修繕の為に順次空き教室へと移動して頂く事になります。当日朝に担任教師から指示があります。修繕工事が終了するのには、数週間かかる見込みですので、その間皆さんのご協力をお願いします。何か質問はありますでしょうか?」
ざわめく中、誰とも知らず質問が飛ぶ。
「三人は怪我とか大丈夫なんですか?」
「体調に問題は無いと聞いております」
学園長の返答に、安堵の声が聞こえる。
「……しかし、学園としては、これ以上彼女達を在籍させておく訳にはいきません。不確定な要素が多く、生徒の皆さんを危険に晒す事になってしまいます。また、そのような事は彼女達も望んではいませんでした。従って、現在彼女達は停学中であり、手続きが整い次第、自主退学となる予定です」
一層大きくざわめく生徒達。教頭が静めようとするが、効果は無いに等しい。
「それって追い出したって事だろ」
「何の根拠もなく危険認定なんてひどい」
「俺らの恩人返せよ!」
ざわめきが徐々に怒号へと変わっていく。
「これ以上は親御さんを心配にさせるだけです! 我々だって苦渋の決断なんです!」
思わず冷静さを失い感情をあらわにし、強く叱りつけるような言葉になる学園長。
「逆切れかよ!」「信じらんない!」「厳重に抗議します!」
まずますヒートアップする生徒達。教師もなだめようとはするが、全く効果なし。
「俺直接確かめてくる!」
そう言うと一人の男子生徒が走り出す。同じ組、サイキに告白をしていた最上だ。
「馬鹿! 一人で行くなよ!」
最上と仲のいい一条もその後を追う。
「あいつら何処住んでるのか知らないだろ」
一方サイキの友達相良は、熱くなっている周囲とは対象的に冷静である。
「私知ってる、東町十二丁目の長月荘っていう下宿。昨日あいちゃんと行ってみたの。三人ちゃんと住んでたよ!」
木村のそれを聞き、間髪いれず相良も全力で走り出す。その顔は真剣そのものだ。
実は相良も平静を装ってはいたが、自身も走り出したくて仕方がなかったのだ。しかし男子二人とは違い、三人の居場所を知らないという事に気付けたので、押し止まっていたのだ。そして今、その枷が外れた。
「こら! 待ちなさい!」
教師の静止など暖簾に腕押し糠に釘、既に彼女達の元へ走り出した生徒三人は、その程度では止まるはずも無い。
「生徒は一度教室に戻りなさい! 教師の指示に従いなさい!」
混乱と怒号の渦巻く中、全校集会は幕を閉じる。
「畜生、飛び出してはきたけど、どっち行けばいいんだ……?」
案の定校門前で迷ってしまう最上。すぐ一条も来た。
「お前もっと考えろよ! だからモテないんだぞ」
等と言っていると後ろから相良が来て、男子二人を追い越す。
「そこの馬鹿二人、あたしに付いてきて! 行くよ!」
走り出す三人。後ろからは教師も追ってきたが、追いつける距離ではなく諦める。
「あいつら……帰ってきたら反省文書かせてやる! ……頼むぞ」
息を切らし走る相良、最上、一条の三人。
「はあ、はあ、はあ。そろそろ十二丁目だぞ。長月荘ってのは何処だ?」
一旦足を止め、周囲を見渡す。しかしその時、あの悲鳴音が遠くで鳴り響いた。
「この音、あれだろ? だとしたら……」
「サイキ、何処なの?」
「……おいあれ見ろ! あの三つ光ってるの! あそこだ!」




