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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
下宿戦闘編
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下宿戦闘編 5

 本日はあいにくの雨である。そういえば彼女と出会ってから初めての雨か。

 誘拐事件から一夜明けたこの日、私は一つの覚悟を決めた。彼女の事を出来る限り聞き出すのだ。私の理解を超える文言が飛び出す事は容易く想像出来るが、それらの話にしっかりとした道筋が立っていたのならば、それは妄言でもなんでもない、彼女の体験してきた本当の事なのだろう。

 「商店街の皆さんに謝らないとですね」

 私が話を切り出すより前に、彼女はこう言った。私には、こういう事を言ってのける子が嘘を吐いているとは思えないのだ。

 「……サイキ、今回の事で俺も君に謝らなければいけない。俺は君の事を何も知らなかった。いや、敢えて知ろうとしなかった。俺は君から逃げていたんだ。ごめん」

 頭を下げる私。そして彼女は……私は思わず笑ってしまった。そうだ、彼女は私の頭を撫でたのだ。確信した。これから話される彼女の話、その全ては真実だ。そして私はそれを全面的に信用しよう。

 「あれ?エネルギー回復した……まだ1%もないけど、やった! やったやった!」

 突然に満面の笑顔になり大喜びする彼女。いつも通り彼女の言葉はよく分からないが、どうやら私のこの行動は正しいようだ。


 「本題だ、サイキ。君がどうしてここにいるのか、全部話してもらえるかい?」

 我ながら難解な聞き方をしてしまった。だが彼女はすぐさまこの意味を理解し、一呼吸を置いた後、話し始めてくれた。

 「わたしはこことは違う別の世界から来ました。わたし達の世界は多分、この世界よりもずっと高い技術を持っています。星系間の航行なども手軽に行えるくらいには発達した技術です。そのせいなのか、武器、兵器という物が存在しませんでした。小競り合い位はありましたが、戦いと呼べるほどの事は無かったので、武器も必要なかったんです。そういう世界です」

 今までの彼女とは違う真剣な眼差し、まるで満杯まで貯まったダムを放水するかのように流れ出てくる言葉の数々。ジジイにはちょっと厳しいものがあるかなと思っていると、サイキはここで一旦話を止め、私の理解を待ってくれている。何と空気の読める子であろうか。

 「つまりサイキの世界では、高い技術力のおかげで戦争がない。なのでおおよそ武器と呼べる物が無かったと」

 私のまとめた一言に彼女は頷く。彼女の世界の技術とはどれほどの物なのだろう。まだこの星から飛び出したばかりの我々とは全く次元が違う、そしてそこまでの技術を持ちながらも武器の無い世界……想像が出来ない。


 「今から……えっと、多分百年くらい前、突然わたし達の世界に侵略者が現れます。技術はあっても武器の無いわたし達は、たった数年で領域の90%以上を失いました。残った領域はほとんどが手付かずの惑星や生活に適さない極限の環境であり、侵略者の侵攻を抑える手立てはありませんでした」

 突然と現れる侵略者に一瞬で蹂躙されるとは、まさにSFな展開ではないか。

 「そこまで高い技術を持つ世界が、ものの数年でそこまで侵略される物なのか? 技術さえあれば数年もすれば対抗しうる武器は作れたんじゃないのか?」

 至極真っ当な疑問をぶつけてみたが、彼女から返ってきた答えは私の予想をはるかに超えるものだった。

 「武器が無い世界、と言いましたけど、正しくは武器という概念が、侵略者の現れるその時まで存在しなかった世界なんです。例え未開惑星で武器が見つかったとしても、それが何なのかすら理解出来ない。ゼロでなく、無なんです」

 「つまり、武器という項目そのものが無いのか」

 彼女は赤い頭を縦に揺らした。


 「でも、侵略者の出現とほぼ同じタイミングで、とある惑星で武器という概念が発生します。この概念の発生のおかげで、その惑星でだけは、わたし達の持ちうる技術を使った武器の製造が出来ました。作られた武器は三種類。剣・槍・銃です」

 「ちょっと待て。概念って発生するものなのか? それに武器の種類ってそれだけなのか? もっと色々無かったのか?」

 「概念の発生に関してはわたし達でも分かっていません。教授されなくてもそれを武器だと理解出来るようになった、としか……」

 彼女達、超技術の別世界の住人でも理解し得ない事があるのか。

 「武器の種類に関してですが、これがわたしがこの世界に来た最大の理由になります。わたし達の知る武器というのが、この三種類だけなんです。そこからの派生もほぼありません。そしてわたし達はこの武器に限界を感じています。わたし達には、新しい武器が必要なんです」

 彼女の目に涙が浮かぶのが見てとれる。

 「侵略開始から約百年。実はもう人類が残っているのはわたし達の惑星ただ一つになってしまっているんです。侵略者に対抗するため工場で製品として作られ、強制的に成長させられる子供達、そして日々使い捨てられていく多くの兵士。そういう世界になってしまったんです」

 真剣に語る彼女の瞳からは涙が零れ落ちる。なるほど、それだけの極限の状況にいれば、今までの彼女の言動は全て理解出来る。

 出会って数分の彼女からの質問が「武器はありますか?」だったのも、居間のソファで居眠りし、目が覚めた後の恐怖を感じている表情も、渡辺から聞いた研究所での諦めの涙も。


 「このどうしようもない状況を打開するために考えられたのが、別の世界へのゲートを開き、武器とそれに関する技術を回収し帰還するという、この作戦なんです。まずは先陣としてわたしが送り込まれました。その後は渡航確認ビーコンを打ち、残りのチームメンバー二名が順次送り込まれる予定です」

 つまりあと二人こちらへ来るという事か。

 「ただし別世界へのゲートを開くには大掛かりな装置が必要であり、適性も必要。そしてゲート出口の構築はゲート突入者にしか出来ず、スーツ内の99%以上という膨大なエネルギーを消費します。渡航確認ビーコンにも特殊なリンカーを使うため、最低でも5%程度のエネルギーを消費するので、結果一度エネルギーをチャージする必要があります。でもわたしのスーツのチャージシステムにエラーあるみたいで……」

 そうか、ここに繋がるのか! 合点が入った!

 彼女が空から落ちてきた理由、長月荘を休憩所と思い、回復するだろうかと呟いた訳、月の下でうなだれ泣くあの姿、そして……。

 「だからさっき、ほんの僅かでも回復したエネルギーを見て、希望を見出したのか」

 私のこの一言に彼女は少し意外な顔をしながらも、涙目のまま元気一杯にこう言った。


 「はいっ!」



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