情報戦闘編 8
「学園長から全生徒へ連絡です。本日はこれで放課とします。学生は速やかに下校して下さい。部活動に所属している生徒も下校する事。明日は臨時休校とします。来週以降は予定が決まり次第連絡します。怪我人は動かさず、廊下で安静にしていて下さい。割れたガラスには触らない事。今回の、特に三人の事は他言無用です。あとは教師の指示に従うようにして下さい。それから三人は今すぐに学園長室に来る事」
学園長からの緊急放送が入った。学園内での戦闘という最悪の被害が想定される戦闘。どうにか乗り切る事は出来たが、三人の目には損害を受けた校舎が映り、そしてこれだけ大勢に見られた事を考えると、決して心からの笑顔になどなれない。
三人は制服に着替え、無理とは分かっていながらもなるべく目立たないように学園長室を目指す。
「いやー凄かったな。三人とも格好よかった」
「三人は私の命の恩人だね。ありがとう」
「強くて格好よくて可愛いってもう最高だよ」
やはり口々に感謝と賞賛の言葉を掛けられる。その度に三人とも、どうしても顔がほころぶ。しかし学園長の前ではそうは行かない。緊張した面持ちになる三人は、礼儀正しくノックをして入室。
「……やってくれましたね」
彼女達に背を向け言い放つその一言だけで、三人の緊張と絶望と諦めの気持ちは頂点に達する。
「我が学園の生徒や教師、私も含めた全員の命を救って頂いた事は、とても感謝してもしきれません。しかし、それと学園生活の維持とは別の問題です。明日、工藤一郎さんと一緒にまた来なさい。その時に全てを決めましょう。……あなた方も疲れたでしょう、今日は大人しく帰りなさい」
一言も発する事が出来ないまま、三人は学園長室を後にする。
「……本当に、心から感謝します。ごめんね、こういう言い方しか出来なくて」
三十数年前、この学園長も新人教師であった頃は、他の教師と同じく夢を持っていた。勉強と子供が大好きだった新人教師は、いつしか重責を担う立場となり、自分の心を隠し、大好きな子供達へも辛く当たらなければいけなくなってしまったのだ。
散乱したガラス片と、点々と血の後の残る廊下は、改めて三人の気持ちを冷ますには充分だ。それでも感謝の言葉をかけられれば笑顔で返す。
一年B組の教室に着く。砕けたガラスが散乱し、足の曲がった椅子が転がっており、壁には穴が空いている。
「あ、来たよ!」
クラスメートは全員帰らずに待っていた。あの松原でさえだ。
「あの、皆さんありがとうございました。本当に、わたし達のほうが助けられました。皆さんの応援が力になりました」
クラスメートは一様に笑顔だ。しかしそれとは対照的に三人の表情は固い。
「……でもごめんなさい。皆さんを巻き込んでしまって。危険な目に遭わせてしまって。ごめんなさい」
頭を下げるサイキ、ナオ、リタ。クラスメート達もそれにどう答えたものか戸惑う。しかしここで意外な生徒が口を開く。
「あーしたちー、まじでしぬとこだったんだけどー。でもしんでないしー、そんだけでいーんじゃねー」
圧倒的に頭のカラッポな、何も考えていないような口調。教室からは笑いが起き、暗い雰囲気が吹っ飛んだ。これが松原だ。
「やべー、初めて松原がまともな事言った」
「怪物を倒すとこういうことになるのねー」
「やっぱり三人最高だわ!」
周囲の笑い声に少し安心し、サイキ達もほんの少しだけ微笑んだ。
後ろで静観していた孝子先生が、手を叩きながら子供の山をかき分け前に出てきた。
「はいはいはい。続きは次回にやりなさいね。皆小さなガラスを浴びてるはずだから、お互い入念に傷のチェック。それが済んだらさっさと解散」
「あの、わたし達も片付けるのを手伝います。やっぱりわたし達のせいでこうなったんだし……」
申し訳なさそうに片付けを買って出るサイキ。ナオとリタも頷く。
「あのねー、生徒が教師に口答えするんじゃないの。サイキはガラス突き破って転がり込んでくるし、リタは壁に穴空けちゃって。ナオも最後まで壁役やってたんだから怪我の一つや二つあるでしょ。そんな生徒を手伝わせるなんて、私を鬼教師にでもしたいの? 分かったらあんた達も傷のチェックして帰った帰った!」
孝子先生なりの最大限の優しさだ。
「っていうかさ、あんた達こそ大丈夫なの? リタなんて壁突き破ったんだよ?」
改めて心配な表情で三人に問う孝子先生。まずは技術者たるリタが答えた。
「スーツの保護機能であれくらいなら大丈夫です。ダメージだけならサイキのほうが大きいかもです」
「わたしも大丈夫。骨は折れていないし、内臓ダメージも無いから」
その一言に彼女達の置かれる過酷さを感じ取るクラスメート達。
「私達は戦うのは無理だけど、いつでも応援してるからね」
「うん、がんばれーって応援してるよ」
木村と中山はジェスチャー付きで表現している。それを見て皆笑う。
「あはは。皆本当にありがとう。皆と出会えて本当に良かった」
落ち着いた所で解散、下校となる。校庭には合わせて二十台以上のパトカーと救急車が来ている。その中には、やはり青柳もいる。それを見つけた三人は青柳に駆け寄り声をかけた。
「青柳さん、ごめんなさい。今回は接続する暇も無くて、学園もこんな事になって……ずっと支援していただいたのに、全てが水の泡になっちゃって……」
いつものように鋭い眼光で見つめる青柳。
「私よりも先に謝るべき人がいるのではないですか? まあいいでしょう。長月荘まで送ります。乗って下さい」
車に乗り込もうとする三人を見て青柳に喧嘩腰で迫る生徒が一人。
「ちょっと、サイキ達を何処に連れて行こうっての?」
相良だ。三人を連行するものだと勘違いをしているようだ。
「相良さん、青柳さんは警察の人で、今までずっと支援してくれてる人で、怪しい人じゃないよ。大丈夫だから」
「あ、そうなの?」
「はい。私はお三方の監視役ですので」
「監視役……ごめんなさい。サイキ達の事よろしくお願いします」
何となくではあるが、青柳の立ち位置を理解し、深々と一礼をする相良。青柳も一礼して車を出す。
「いいお友達を持ちましたね。大切にしないといけませんよ」
「……はい」
微笑む彼女達ではあるが、そこには物悲しさが漂う。もう会えなくなるかもしれない。その気持ちが表情に出ている。
長月荘が見えてきた。




