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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
情報戦闘編
47/271

情報戦闘編 7

 サイキがテレビに映ってから三日後の金曜日。今日は曇りだが雨は降らない予報だ。

 「天気予報では雨は大丈夫そうだが、準備はしておくべきだな。エネルギーは大丈夫なのか?」

 「わたしは9%でちょっと少ないかな。あれから回復量が減っちゃってる気がする」

 「私は問題なし。30%超えてるわ」「リタは27%です」

 サイキはかなり少ないが、他の二人と協力し合えば大丈夫だろう。



 学園へ視点を移す

 相変わらずあのニュースの事は話題に上がる事は無く、普段通りの時間が過ぎる。昼休み、天候が悪くなってきた。

 「何か降りそうだねー。今日傘持ってきてないよー」

 「あい子はなっちゃんの傘に入ればいいんじゃないの。相合傘」

 中山の失敗を相良がからかっている。三人も天候次第では襲撃の可能性があるので不安げだ。

 五時間目、孝子先生の国語の授業中に、遂に雨が降り出した。それを見て周囲に悟られないように警戒態勢に入る三人。


 何もなければという祈りに反して、最悪の事態へと歯車が回り出す。

 学園のすぐ近くで大音響の悲鳴音がこだました。窓ガラスが割れそうな勢いで振動し、クラスメートの悲鳴も上がる。

 校庭の真上に出現する三体の侵略者。突然の事態に教室はパニック状態である。一番恐れていた事態が起こってしまったと、痛恨の表情を浮かべる三人。一番最初に動いたのはサイキだ。

 「皆窓から離れて!」

 そう叫ぶとすぐさま教室から飛び出すサイキ。追ってナオとリタも走り出す。

 残された教室では、唖然と混迷の表情が多数。突然の事態に、皆状況が飲み込めていないのだ。


 「終わった……」

 そう呟き歯を食いしばるサイキの目には涙は無い。既に覚悟はしていたのだから。

 「玄関から!」

 屋上へ上ろうとしたサイキを止めるナオ。一瞬でプロテクトスーツに着替え、階段を飛び降り、玄関へと走る三人。

 「敵は赤鬼一、青鬼二! 防衛戦だよ!」

 強い語気で二人を奮起させるナオ。

 玄関を出ると既に青鬼の片方が攻撃態勢に入っている。校舎に向けて衝撃波を放つつもりだ。

 「防壁展開します!」「さあ皆を守るよ!」「了解です!」

 すぐさま飛び上がり校舎を背に自ら盾となる三人。協力して広範囲にバリアを展開し、一発目の衝撃波を受け止める事に成功。

 「次が来る! まだ来るよ!」

 先ほどとは違う、もう片方の青鬼が口を大きく開き、衝撃波を放つ態勢に入った。

 「皆は退避して頂戴!」

 生徒にも指示を出すナオ。しかし突然現実離れした光景を目の当たりにし、動けなくなる教師に生徒。

 「早く窓から離れなさい!!」

 ナオの二度目の警告。最早勧告ではなく怒鳴りつけるようなその言葉に、ようやく皆一斉に逃げ始めた。


 二体の青鬼が交互に衝撃波を放つ。三人は防戦一方となり、完全に張り付けにされてしまう。

 動けない。手が出せない。視線の先には動き出した赤鬼が校舎に向かって歩いてくる。薄ら笑いを浮かべた表情だ。完全に相手の作戦に乗せられてしまったのだ。


 「……エネルギー……無くなるっ!?」

 無惨にもバリア防壁が剥がれる。サイキに残ったエネルギーでは防壁の維持が出来なくなったのだ。衝撃波をもろに食らい吹き飛ばされたサイキは、教室の窓ガラスを突き破り、幾つもの机と椅子を弾き飛ばし、教室を挟んだ廊下側の壁まで飛ばされた。

 「痛っ……まともに食らっ……あっ」

 サイキの眼前には先程まで一緒に授業を受けていたクラスメート達。偶然にも一年B組に飛び込んでしまったのだ。サイキを見つめるクラスメート達の表情には恐怖が浮かぶ。そして窓の外には耐え続けるナオとリタの後姿がある。

 「……まも……らなきゃ……」

 気力で立ち上がろうとするサイキ。

 「サイキ、あんたやっぱり……」

 教室後ろの入り口から相良が入ってきてサイキに声をかける。その様子に一旦は逃げていたクラスメートも寄ってきた。

 「来ないで! 逃げて! 早く!」

 俯きながらも叫ぶサイキ。するとサイキのいなくなり、隙間の出来た防壁から衝撃波が飛び込み、教室の窓ガラスを粉砕。一年B組の教室に、ガラスの飛び散る音と、クラスメートの悲鳴が響き渡った。

 涙が出るのを堪え、歯を食いしばり立ち上がるサイキ。

 「皆は……皆はわたしが守るっ!」

 空を睨み、そう叫ぶと雄叫びを上げ、ガラスの割れた窓から飛び出した。


 ほぼエンプティのサイキは既に飛行出来る状態ではないが、それでも果敢に二体の青鬼に立ち向かう。一直線に突っ込んでくるサイキに気を取られ、衝撃波の発射タイミングがずれた青鬼には隙が出来た。

 「リタ! 次のタイミングで一体倒しなさい!」

 「……もう、エネルギーが無いです……ごめんです」

 リタの防壁も剥がれ、吹き飛ばされる。身の軽いリタは教室と廊下との仕切り壁を突き破り廊下側のコンクリート壁をも凹ませて、ようやく止まった。

 そのあまりの光景に絶句し、身動きの取れなくなる周囲の人々。その中で一人、孝子先生がリタへと駆け寄ってきた。

 「リタ! あんた大丈夫!?」

 「……これくらいで死んでたまるかです。リタだって戦力! まだやれるです!」

 ふらつきながらも立ち上がり、机に上り64式を取り出し、窓枠に二脚を置く。慎重に狙いを定めるリタ。だがしかし、リタの銃はエネルギーを火薬代わりに弾丸を撃ち出す仕様、つまりエネルギーが無ければ撃てないのだ。リタはそれでも引き金を何度も何度も引くが、やはり反応は無い。

 「……リタは……戦力のはずです……なにの……」

 泣き崩れるリタに、外で必死に堪えるナオから激励が飛ぶ。

 「今手が使えるのはあんただけなんだよ! しっかりしなさい!」

 「でも……」

 と、その時、後ろからリタに声援が送られた。振り向くリタの瞳に映った人物は、泉だ。

 「が、がんばって! としか言えないけど……リタがんばって!」

 その泉の声に呼応するかのように、廊下に退避していたクラスメート達からも声援が上がる。勿論孝子先生もその波に加わる。

 この皆の声援に答えるために、涙を拭き深呼吸、改めて狙いを定めるリタ。

 「……大丈夫です。泉さんの、皆の力を貰ったです! 撃ちます!」

 「次来たら私もやばいわ! チャンスは一度!」

 ナオが堪えられる最後の衝撃波が放たれ、次発まで青鬼に隙が出来る。

 「彼方まで吹っ飛べ!」

 64式を模したリタの新しいライフル銃から放たれた光の矢は、一直線に尾を引き飛んでいく。青鬼の肉を抉り、その衝撃により一瞬で消滅する青鬼。

 「う、撃った……リタちゃん、撃ったよ!」

 上がる歓声は一年B組のクラスメートからだけではない。

 残るはあと二体、サイキが衝撃波の発射を妨害し続けている青鬼一体、そして校舎内に侵入した赤鬼一体。


 「私は赤鬼を探す。リタはサイキの援護!」

 ナオからの指示で早速狙いをサイキが相手をする青鬼へと向けるリタ。しかし想像以上の機敏さでサイキが動き、下手に撃つとサイキを傷つける可能性があるので撃てない。かといってサイキが動きを止めると衝撃波が飛んでくる。一計を案じるリタ。

 「皆にお願いです。サイキとナオも応援してあげて下さいです。皆の応援で、リタ達のエネルギーは回復するはずです。エネルギーさえあれば、あんな奴には絶対に負けないです!」

 一度は周囲の応援によってエネルギーが回復するという仮説を否定したリタが、今度はそれに頼ろうとしている。それを聞いた相良が、割れた窓ガラスを踏みしめ窓際へ、大声で叫んだ。

 「サイキー! あたしは応援してるぞー! そんな奴ー、軽くぶっ飛ばせー!」

 その横に二人の男子も来る。一条と最上だ。

 「サイキちゃーん! かっこいいぞー! かわいいぞー!」

 一条の応援は少しずれている。

 「サイキさーん! 俺まだ諦めてないからなー! 付き合ってくれー!」

 最上の応援はもはや応援ではなくただの告白だ。

 この三人の応援を皮切りに学園中から声が上がり、サイキのエネルギーが今までが嘘のように回復していく。


 「皆の力、凄い……また泣いちゃいそうだな。あはは」

 戦闘中とは思えない喜びの笑顔を見せるサイキ。その瞳は潤んでいる。

 「……よし、次で決める!」

 再度気合を入れ、青鬼を睨みつけるサイキ。衝撃波の発射態勢に入ると青鬼には隙が生じる。そのようなもの、サイキが見逃すはずも無い。

 「散れえええーーー!!」

 サイキの剣が眩く輝き、高速の連撃により幾重にも切り刻まれ、消滅する青鬼。校舎からまるで地鳴りのような歓声が上がる。それに答えるように手を軽く振りお辞儀。顔を上げ、残りの一体に向けて校舎に飛び込むサイキ。


 時間を少し巻戻し、校舎内ではナオが赤鬼を追っている。身長二メートル以上ある赤鬼だが、何故だか中々見当たらない。

 「何でレーダーに反応しないのよ!」

 焦るナオ。そんなナオの目に映ったのが「廊下は走るな」という張り紙。普段ならば何気なさ過ぎてどうとも思わないものだが、これを見てナオは自分が冷静でない事を認識した。

 「……そうね、ここは一旦冷静に。えっと……そうだ、中庭に出て縦に探そう」

 近場の窓を開け、そこから庭へ。

 一階には影が無い。二階三階もいない。とするならば三年生の教室のある四階しかないが、一度も行った事が無いので構造が分からない。

 「どうしよう、迷ってる間にもあいつが生徒を襲う危険が……」

 そう思っているとレーダーに反応。すぐさま向かう。

 「いた! って窓に鍵掛かってるじゃない! ちょっとここ開けて下さい!」

 外側から窓を叩くナオに、一人の三年男子が気付いてくれた。

 「お、おう。ちょっと待てー、……んあー手が震えるじゃねーか……よし開いた!」

 すぐさま飛び込むナオ。

 律儀にも階段を上がってきた赤鬼。廊下の反対側から、獲物を発見したと言わんばかりにこちらに走り寄ろうとする赤鬼に狙いを定めるナオ。廊下には何人か腰を抜かしてへたり込む生徒もいる。

 「そこの! 頭下げて!」

 ナオの叫びに何事かも理解出来ぬまま、一斉に頭を押さえしゃがみ込む三年生達。

 「いっけえー!」

 投擲された槍は、やはり急加速し赤鬼を貫通、そのまま赤鬼ごと背後のコンクリート壁に突き刺さった。一瞬の間の後、握り潰されるように消滅する赤鬼。

 校庭へ飛び出そうと入った教室からは、サイキが青鬼を倒したのが見えた。ほぼ同時だったのだ。三年生からも大歓声が上がる。

 「うおーすげーじゃねーか! 俺モンキルでガンスなんだよ!」

 「えっと、もんきる? がんす?」

 先ほど鍵を開けてくれた男子が興奮しながら発する言葉はナオには全く分からない。


 「あ、こうしている場合じゃない、ビットが残ってるんだった。サイキ! リタ!」

 「分かってる。今一階を捜索中」「こちらリタ、三階捜索中です」

 ナオは先に二階にある職員室に駆け込んだ。

 「放送機材お借り出来ますか?」

 「あ、ああ。使い方は分かるかい?」

 「……ごめんなさい。協力お願いします」

 職員室にある緊急用の放送機材を使って全校生徒に呼びかけるナオ。

 「皆さんにお願い! 小さい鬼が四体まだ残っています。見つけたら私達に知らせて下さい。でも皆さんは絶対に手を出さないようにお願いします。もう一度言います。絶対に手を出さないように!」

 これを聞き、生徒全員による一斉捜索が始まった。


 普段使っていない空き教室のロッカーや用具入れまで、全てをとにかく徹底的に探す生徒一同。

 「いたぞー! 理科室だ!」「わたしが行く!」

 「見つけた! 四階空き教室!」「リタに任せるです」

 「向かいの屋上にいるぞ!」「あれは私が行くわ!」

 続けざまに三体発見。しかし最後の一体が中々見つからない。時間が掛かってしまっている事に焦り、そして疲労の見える三人。

 「いた! 体育館だ!」

 発見報告を聞き、三人が集合し体育館へと急ぐ。体育館前では生徒が詰め掛けてしまっており、これでは入れない。

 「あ! 逃げたぞ! 校庭に逃げた!」

 最後の子鬼ビットが校庭へと脱走。しかし広い場所に出てしまえば三人の敵ではない。すぐさま目標を発見し、ナオが槍を投擲し、一撃で貫いた。

 これで戦闘は終了だ。息の上がる三人に、学園中から拍手喝采が送られる。


 「信じられない。てっきり全員敵に回ると思っていたのに……嬉しい」

 「私達のやってきた事は、無駄じゃなかったって事ね」

 「エネルギー50%超えるです。まだ回復するです。まだ、まだ……」

 息を整え校庭に整列し、皆に見えるようにと二階ほどの高さまで浮かび上がる三人。集まった皆に頭を下げ、代表としてサイキが感謝の言葉を述べる。

 「あの! 皆さんの応援と協力のおかげで、無事に侵略者を倒せました! ありがとうございます!」


 再び上がる地鳴りのような大歓声。侵略者に勝利し、学園生徒の心をも掴み取った瞬間だ。



※赤鬼の連れているビットには、ほぼ攻撃力は無く、あくまで情報収集用であり、戦闘ではせいぜい邪魔や牽制程度にしか使えないのです。

 しかし自分から協力を頼んだ手前、生徒に万が一怪我でもさせようものならば学園生活が本当に終わると、そう考え、生徒には手を出さないようにと念を押したのでした。

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