情報戦闘編 5
予想だにしないサイキの秘密。義足だったとは。しかも色々と仕込んである。
「私も一つ質問」
ナオが手を上げた。何だろうか。
「あの短時間で、あんなどん底まで落ちていたサイキを、工藤さんはどうやって救い上げたのよ?」
「そうだな。これはナオとリタにも言っておかなきゃいけない。俺は今回の事で、俺の残りの人生全てを賭けてでもお前達を手放さないという覚悟を決めた。……まあ、正直言ってしまうと、少し自身は無いんだが」
「えー? わたしは本気だよ?」
「ごめんごめん。俺も奮励努力するからな」
サイキに呆れられてしまった。
「それで、その中身は何なの?」
「ああ。三人が俺の手から離れる時、それは三人が目標を達成し、揃って元の世界に帰る時だけだ。それ以外の理由で俺の前から、長月荘からいなくなる事は許さん。そういう覚悟だ」
ナオとリタは慎重に考えている様子だ。
「……つまり、どれだけ迷惑をかけようとも、絶対に出て行くなって事か」
「死ぬ事も許さんぞ」
ふっと私の顔を睨むように見つめてきたナオ。そして軽く笑った。
「あはは。きついわねそれ。でも、ありがとうございます。やっぱりどうしても追い出されるんじゃないかっていう不安はあったから、その言葉は本当に嬉しいわ」
笑顔のナオ。横にはちょっと涙目になったリタ。サイキも少し涙目だ。
「そして、わたしはそれに見合う覚悟を決めた。皆で帰るその時まで泣かないって」
「なるほど。それで立ち直ったのね。理解したわ。……でも今まさに涙目になってるけど、それは泣いているんじゃないの?」
「こ、これは泣いている訳じゃないもん! 涙が零れてないもん」
「そういう基準でいいの? ふふっ、でもサイキらしい」
三人とも嬉しそうな顔をしている。私の判断は正しかったようだな。
「分かった。サイキには負けていられない、私だって覚悟を決めますとも。でももう少し待ってもらえますか? ちょっと考えたい」
「リタも、覚悟を決めるです。今は無理でも、絶対決めるです。待ってて下さいです」
「ああ、楽しみに待っていよう」
「そろそろよろしいでしょうか?」
バツの悪そうな青柳だ。すっかりいるのを忘れていた。
「今回の騒動、世間の反応を確認をしておきたいのですが」
「そうだな、ちょっと調べてみるか。まず長月荘SNSから見るか」
さすがに皆気付いているようだ。しかしそこは長月荘の元住人達、渡辺や私の書き込みの意味を察し、静観の姿勢だ。
「そうですね、もうここの方々には話してもいいでしょう。渡辺さんが選定したのならば、恐らく拡散させるような方もいないでしょうし」
青柳からの許可が出た。ならばと書き込み。
「この話は他言無用。外部には絶対に漏らすなよ。ただでさえ大変な事になっているんだから、これ以上俺の負担を増やすんじゃない」
「情報解禁キター!」
「これでわたしたちもちゃんとサポートしてあげられるようになったね」
「悶々としてたからな。いつ手伝わせてくれるんだろうって」
「長月荘の本気を見せる時が来たか」
何だこいつらは。皆嬉しい事を書きやがって。泣いてなんかやらないぞ。最後に渡辺からの書き込みが入る。
「俺は恩人を敵に回すような馬鹿じゃないぞ」
相変わらずどちらとも取れる内容だな。私から見た恩人は渡辺であり、渡辺から見れば私が恩人。立ち位置が替われば意味が正反対になってしまう。
次に方々のニュースサイトの書き込みを探る。昨日の今日だ。あの松原撮影の映像と今回のニュースとが関連付けられている。好意的な見出しもあれば、やはり辛辣なものも見受けられる。
「もう覚悟はしてるから。わたしは全て公になっても、商店街や学園の皆が敵に回っても、街全部が敵に回っても、絶対に泣かないし、絶対にここから出て行かない」
迷いの無くなったサイキの表情。この短期間でどれほど成長したのだろうか。本当に強い子だ。
「こういう所もありますよ」
と青柳が横から手を出す。匿名掲示板サイトだ。
「うーん、何か皆ノリノリだな。さっきのニュースサイトの雰囲気とはまるで違う。どっちを信用していいんだか分からないな」
「どちらも人の意見ですよ。肯定もあれば否定もある。そういうものです。我々に出来る事は、否定意見を封殺するのではなく、それを肯定に変える努力をする事です」
いい人青柳、格好いい事も言う。
「確かに、これからは行動を以って示していかなければならないな」
書き込みを見ていくと、少しずつサイキへの渾名が決まっていくのが面白い。最初は赤い子という簡単な呼び方なのが、翼の子や涙目の子になり、遂に決定打が出る。
「涙目の天使っていいんじゃね?」
「お前天才。あの翼天使みたいだもんな」
「俺の厨二心が揺さぶられるじゃないか、どうしてくれる」
「英語で何だ? ティアーズエンジェル?」
「何それかっこよすぎ」
以降は涙目の天使で決まったようだった。さて本物の涙目の天使はというと……凄く恥ずかしそうだ。彼の地では”仲間殺しの戦闘狂”と呼ばれ、こちらでは”涙目の天使”である。その両極端な渾名を背に、彼女はまた戦場へと飛んで行くのだ。
会話が終わる頃にはすっかり遅い時間になってしまった。青柳は警察署には寄らず、そのまま直帰すると言い帰っていく。リタは槍の改修に戻り、サイキは改めて皿洗いを、ナオは勉強を始める。私は正直、昨日今日と長い日が続き、精神的に疲れた。
「サイキ、ナオ、俺は先に部屋に戻っているからな。あんまり遅くなる前にお前達も寝ろよ。ちゃんと電気消していけよ」
「はーい」
二人の返事が重なる。
……気付いたら寝ていた。時刻は朝方四時。水を飲もうと体を起こすと、携帯電話が光っているのが目に入った。何かと思い見てみると、メールが一件入っている。
「いつもありがとうございます。これからもよろしくお願いします。三人より」
一見他愛の無いメールではあるが、思えば初めての三人からのメールである。勿論保護をして大切に取っておくのだ。
嬉しい。ただただ嬉しい。




