情報戦闘編 1
お昼のワイドショー番組でサイキの存在が暴露された事について、私からも何か出来ないかと考える。
とりあえずはインターネットで反応を見てみる事にしよう。予想通り、良く出来た作り物の映像だという意見が大半、というか本物だと思っている者はほとんどいないようだ。よく目に付くのは「あの子可愛い」という意見の多さ。何だか気が抜ける。
そうだ、SNSはどういう反応だろう。あそこには三人の写真もある。覗いてみると渡辺からの書き込みがある。
「他言無用」
たった一言だけだ。その後に続く何人かの書き込みは、その一言だけで意思疎通が取れている事を物語る。何だこの連帯感は。ならば私も一言で済ませてみよう。
「よろしく」
すぐさま幾つかの書き込みが入る。顔文字で敬礼している奴もいる。何故だかは分からないが、やはり住人は彼女達三人の事をある程度理解しているように感じる。過去の書き込みを見ても、事情を漏らした形跡はないし、実際に会ってそういう話をする事もないだろうに。
電話が鳴り、丁度渡辺から続報が入る。
「こっちはあまり芳しくない。一部週刊誌が話題に乗っかって取材を始める気でいるんだ。以前病院前での戦闘の時に書き換えさせた週刊誌、覚えているだろ。あれも裏切るかもしれん。奴ら本を売る為なら何でも書くからな」
「もう覚悟は決めてあるさ。問題はどう書かれるか……」
悪く書かれる公算が大きい、マスコミとはそういうものだ。
「所で渡辺、SNSの連中が三人の事情を結構理解しているような気がするんだが、俺の気のせいか?」
「……いや、半数くらいは知っている。言っていなかったのは謝る。念の為に俺から手を回してあるんだ。ただそれをあそこで言ってしまうとまずいだろ。工藤さんにも余計な心配をかけさせたくなかったからな」
「そういう事か。いや、こっちこそ要らぬ心配をかけてしまったようですまん。また何かあったら連絡くれ」
結局この日はそれ以上の動きはなかった。
翌日は天気予報が当たり雨模様。何かが起こる、そういう予感がしてならない。眠そうに起きてきた三人の表情も固い。”安心しろ、俺に任せろ”なんて言えない事が歯がゆくてならない。
朝食前にリタが槍の修理状況を報告をする。
「まだ槍の修理に時間が掛かりそうです。思う所があって一緒に少し改良も施しているです。ちょっとだけ期待して待ってるですよ」
サイキのエネルギーは前回の暴走で一旦空にしてしまったのだが、現状では中型三体位までならば対処出来るとの事。リタに全ての負担が掛かるのだけは避けておきたいので良かった。
学園に視点を変える。
登校する三人の表情は晴れない。教室に入るといつもの面子ではなく、ナオの前に座る、大柄男子の前野が先に話しかけてきた。携帯電話で動画サイトに行き、サイキに見せたのはあの映像。
「ねーねーねー、これサイキさんに似てね?」
「え、えっと、他人の空似じゃない? わたし髪赤くないし」
「えーでも横顔そっくりじゃん」
中々食い下がらない前野。と、別の男子が割って入ってきた。
「嫌そうじゃねーか、前野女の子泣かせるつもりか?」
「んだよちげーよ。あー、悪かったよ」
ふてくされるように前を向く前野。
「あの、ありがとう。えっと……」
「最上重。三つ前の席だ。よろしく」
するとサイキが感謝を述べるより先に、サイキから見て窓側斜め前に座る男子が、この最上という男子に絡んできた。
「なーにがよろしくだ格好付けて。こいつ初日に一番最初にサイキさんに告ったんだぜ。すっかり忘れられてやんのー」
「う、うっせーな」
状況を理解し苦笑いのサイキ。
「ごめんなさい、あの時は全然顔なんて覚えてる余裕がなくて」
もう一人の男子につつかれる最上。二人は仲が良さそうだな、と思うサイキ。
「あ、ちなみに俺は一条昭ね。よろしくー」
「こちらこそ」
軽く頭を下げるサイキ。
最上のおかげでテレビの件ははぐらかす事が出来た。後は松原が実力行使に出るか否か。雨の中授業は続き、昼休みも終わる。
五時限目も半分を過ぎた頃、三人が一斉に顔を見合わせた。事前の打ち合わせでは何かしら理由をつけて教室を抜け出す算段だったが、いざ本番となると三人の顔には緊張の色が見える。
サイキがノートの切れ端に”わたしが行く”と書いてナオ、リタに回す。冷や汗の出る三人。
「せ、先生! ちょっと体調がよくないので、保健室に行ってきてもいいですか?」
サイキに注目が集まる。こればかりは仕方のない事だ。
「うん? ああ、何か顔色悪いもんな。行っていいぞ。一人で行けるか?」
「はい。大丈夫です。ごめんなさい」
顔色が悪いのは極度の緊張のせいなのだが、それが功を奏し疑われる事なく脱出に成功するサイキ。後ろからナオが来た。
「途中までの付き添いよ。サイキは索敵を、私は周りを警戒するから。次の授業までには戻ってくる事。頼んだわね」
小声で話すナオ。サイキも無言で頷く。今回は何事もなく屋上に到着。サイキを見送り、再度警戒しながら戻るナオ。
「戻りました」と教室に入る。
ナオが着席すると、サイキの席を挟んだ窓側に座る相良が静かに席を離れ、屈みながら接近してきて小声で聞いてくる。
「大丈夫なの? 凄い顔色悪いように見えたけど」
「うん、次の授業までには戻ってくると思う」
「そう、よかった」
一見がさつなように見える相良だが、友達を想う心はとても強い。




