学園戦闘編 20
学園に到着。さすがに付近ではサイレンを切った。
一直線に学園長室を目指す。我々の突然の訪問に驚く学園長。経緯を説明するとパソコンを操り、何かを確認している。
「……これですね。ニュース映像が動画サイトに既にアップロードされています。元の映像もありますね。こちらの日付は……昨日ですね」
元の映像はテレビで使われていた映像に前後があり、階段を上る所から始まっている。
「間違いありませんね。我が学園の屋上前の踊り場からの映像です。……一瞬鏡に生徒の顔が映っていますね。誰でしょうか……」
「恐らく、三人と同じクラスの松原という女子でしょう。担任の斉藤孝子先生には、彼女が三人に絡んできているという話はしたのですが」
私の話の途中でチャイムが鳴り、生徒が廊下に溢れる。
「五時間目が終わりました。あと一時間で放課後です。事情が事情なので、お三方と一緒に帰られるのが良いでしょう。こちらでこのままお待ち下さい」
そう言うと一旦学園長が出て行く。そして一分ほどで孝子先生を連れて戻ってきた。事情を説明し、映像を確認してもらう。
「鏡に映っているのは松原で間違いないです。あいつ……」
「教室ではどうなってますか?」
「今の所は騒ぎは起こっていません。でも明日以降、この映像と三人とが結びついてしまうと、爆発的に拡散する危険性がありますね……。あ、すみませんが次があるので失礼させていただきます」
チャイムが鳴り六時間目開始。頭を抱える我々大人三人。と、渡辺から電話が来る。
「今日のニュースだがな、直前にあのオバサンが強引に捻じ込んだらしい。確かに報道協定で、菊山市での事件には深く関わるなとプロデューサーくらいまでは話が通っているはずなんだが、今回のは映像を流した後にそれが菊山市で撮影されたものだと暴露した。そんなやり方じゃ防ぎようがない。すまんな」
「いや、渡辺が謝る事じゃないさ。ありがとう。今度遊びに来い、飯作ってやる」
何となく読めた。サイキが見られたあの後、すぐに母親にそれを言ったのだろう。そして次のチャンス、決定的証拠として映像を残せる瞬間を狙っていた。そして先週火曜日、昼休み中に屋上へと上がる三人を尾行、映像に記録する事に成功する。それをすぐに動画サイトにアップロードしなかったのは、握り潰されるのを警戒しての事だろう。そして母親が全国ニュース番組に出演するタイミングで映像をアップロードし、それを番組で放映させた。
この推理が合っているのならば、とんでもない計画的犯行だ。唯一、あの司会者が相手にしていなかったのがせめてもの救いか。あれならば作り物の映像だと思う人が大半だろう。
私の推理に二人も同意した。問題はこの話を本物だと思わせないようにする所にあるだろう。今まで以上にしたたかに隠し通さなければ。
「しかし明日は朝から雨。午後には止むようですが、あると考えるべきでしょうね」
まずい事にはなってくれるなよ。
また私の電話が鳴った。はしこちゃんからだ。
「ねえ、今日は三人休ませてあげて。なんか工藤ちゃんが出て行ってちょっとしてから、見慣れない人がずっと居座っているのよ。早計かもしれないけど記者だったらまずいでしょ。私の事は気にしなくても大丈夫だからね」
そこまで手が回っているとなると、我々の認識以上に情報が回っている可能性が高い。青柳が警官を向かわせた。
「巡回という名目で声をかけるようにしておきました」
との事だが、取り越し苦労である事を祈ろう。
「……ここに来て、非常に申し上げにくい事なのですが」
学園長からだ。何となく予想が出来てしまう。
「話の流れ次第では、休学や退学していただく可能性も有り得ますので、すみませんがよろしくお願いいたします」
「やっぱりそう来ますよね。いえ、彼女達を編入させた時から、その覚悟は出来ていました。学園や他の生徒に迷惑が及ぶようでしたら、それは仕方のない事ですから」
チャイムが鳴り授業が終わった。携帯で三人に接続。、
「返事はいらない。帰る前に三人まとめて学園長室に来い」
ほどなくナオとリタが来た。サイキは掃除当番だという。私と青柳が揃っており、雰囲気がおかしい事を感じ取り、不安な面持ちになる二人。十分ほどでサイキも来た。
「揃ったな。まずはこれを見ろ」
例のニュース映像を見せる。表情が凍りつき、血の気が失せるのが外からでも見て取れる三人。次に元の映像も見せる。
「あの時……ごめんなさい。レーダーに気を取られていて、気付いてなかった……わたしの失態だ」
「撮影者は松原っていう子だ。孝子先生にも確認をした。今の所は作り物だという雰囲気で流せているが、今後まずい事になる可能性が高い。その場合は学園を辞めてもらう可能性もある。せっかく慣れてきた所ですまないが、改めて覚悟をしておいてくれ」
強張った表情で頷く三人。
「それから、今日はカフェでの手伝いは無しだ。はしこちゃんからは手伝いの継続を歓迎してもらったんだがな、これが出たその日に人目につくのはまずいし、さっき記者かもしれない人が居ると連絡があったからな」
三人、特にサイキは、責任に押し潰されそうで涙を溜めている。
青柳の車に乗り、長月荘へ。到着して間もなく青柳に連絡が入る。
「先程のカフェの不信人物ですが、どうやら取り越し苦労で済んだようです。しかし、やはり今日行くのはやめておくべきでしょう」
肩を落とす三人に改めて経緯、松原親子の計画的犯行の推理を聞かせる。
「つまりお前らが気に病む事じゃない。確かに映像を撮られたのは痛いが、例えあそこで撮られていなくても、いつかボロが出ただろう。今までも襲撃地点が、運良くあまり人目につかない所だったから済んでいただけだ。こればかりは仕方ない、いつかこうなると分かっていた事が、今来ただけだ」
サイキが消沈した小さな声を出す。
「昨日の今日で色々あり過ぎて……ごめんなさい。ちょっと疲れています。部屋に戻っても良いですか」
次々に重い困難が押し寄せてくるのだから、気疲れするのも当然だ。三人にはこちらから呼ぶまで部屋で待機、休憩してもらおう。
「……リタは、そういう訳にはいかないです。襲撃には万全の体制で臨む、その為に出来る事をするのがリタの役割です。こんな時だからこそ、本気見せるです」
一人気を吐くリタ。周囲が心配になるほどだ。
「カフェに行かないならばそれだけ修理が早く終わるです」
やる気は充分だが……いや、確かにリタの言う通りだ。
「任せたぞ。だが無理はするなよ」
頷き、早速部屋へと戻るリタ。
ナオはサイキと話があると言って一緒に上がっていく。リタには言ったのだが、こちらの二人も無理をしそうで危ないな。
「私も一旦警察署に戻ります。恐らく、事態が大きく動くのならば明日でしょう。ここが踏ん張り所ですね」
そうだな。ここからは我々大人の情報戦でもある。




