表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
学園戦闘編
37/271

学園戦闘編 17

 意気消沈する三人。それもそのはず、今までどうにか死者を出さずにやってきた所で、今回一気に九人もの死者を出してしまったのだから。そして死者が出たと言う事はそれだけ大きく報道される可能性をはらんでいる。勿論その事は彼女達も理解している。


 青柳が、この重苦しい空気を変えようとする。

 「私から一つ、リタさんの新しい武器を見せていただけますか? ナオさんの槍も今までとは違う動きを見せていましたし、性能を知ってるほうが我々としても動きやすい」

 私も子供達も、心と頭を切り替えるのに梃子摺ってしまう。

 沈黙の後、まずナオから説明を始める。

 「詳しくは分からないんだけれど、私の槍は投げるほうが性能が高くなるみたいなの。今までは手に持って使っていたけど、実は投擲用なんじゃないかっていう話。でも今回ので持ち手がちょっと溶けちゃった。こんな硬質素材すら溶かすんだから、もう出会いたくない危険な相手よね」

 青柳はいつも以上に眉間にしわの寄った表情をしている。

 「この槍の強度がどれほどかは私には想像出来ませんが、そんな攻撃を食らえば人の体など溶けて当然でしょうね。最後の爆発前にリタさんが溶解液を吹き飛ばしていなければ、恐らく私も含めて、あの場にいた全員、命の保障は無かったでしょう」

 「あれは偶然です。二人には当たらないよう撃ちましたが、とっさの事でそこまでは計算出来ていなかったです。今考えればとても危険な事をしてしまったです。ごめんなさいです」

 素直に謝るリタ。前回私に怒られた事が効いているのだろう。

 「それと溶けた槍は後で直しておくです。これなら明日の朝には……明後日には修理が終わるです」

 リタが言い直した理由は何となく分かる。無理をして体を壊すような事があれば、私にまた心配をかけてしまうという事だろう。確かにもう無理をしてほしくはないが、今は余計なほどに気をつかわせてしまっているな。


 「次にリタのライフルの説明に入るです」

 そう言って取り出された銃は、確かに警察署で見せてもらった64式というライフル銃にかなり似ており、二脚やスコープまでしっかり装備されている。多少の形の違いはあるが、何よりもの違いはこちらは全体が白一色である。

 「……着色していないだけです」

 それだけ急造だったという事か。責任を感じてか、サイキは顔を伏せてしまう。

 「知っての通り、原型は64式というスナイパーライフルです。今まで使っていたもう一丁の銃は、弾丸まで全てエネルギーを使用しているですが、今回は鉄の弾丸をエネルギーコーティングした上で超高速で撃ち出す事で、省エネルギー、高威力、高貫通性、長射程を実現したです。二脚には空間アンカーを付けて、空中からでも完璧に固定された姿勢で、反動無く狙い撃つ事が出来るです」

 先程の暗い表情とは一転、自慢げに語るリタ。やはり根っからの技術者なのだな。持たせてもらうと、いつもの玩具のような軽さではなく、ある程度の重量がある。

 「弾丸の分の重量もあるです。でも本物を触って、軽いだけでは駄目だとよく理解出来たですし、本番での射撃でもそれをしっかりと実感出来たです。こういう情報と経験こそが、リタ達の世界に必要な物です」

 ナオも頷く。なるほど、やはりレプリカよりも本物のほうが良さそうだな。

 「そして今回の目玉がスーツの収納機能を応用した弾丸の自動回収機能です。火薬を使わずエネルギーで射出する、純粋に鉄だけで出来た弾丸なので、五百メートルまでならば武器側で自動的に回収可能です。回収した弾丸が綺麗な状態ならばすぐさま再装填も可能です」

 弾丸を見せてもらったが、64式の弾とほぼ同じであるように見える。

 「性能的には有効射程千五百メートル以上、元よりも三倍以上と格段に性能が向上したですよ。ただそこまで遠いと弾丸の回収が出来ないです。本当ならば射程距離と回収距離は同じに揃えたかったので、この両立が出来ていないのが悔しい所です。弾丸自体はかなり簡単に作れるのですが、数を揃えるとなると……」

 「資材も時間も足りない、という事ですか」

 青柳の言葉に頷くリタ。しかし弾丸の心配を引いたとしても大幅な戦力向上には違いない。なるべく残り二人の装備も一新してやりたいものだが。


 「サイキさんの剣だけは、性能向上は一筋縄では行きそうにありませんね」

 青柳よ、今どん底まで落ち込んでいるサイキに話を振らなくても……と思ったが、先にナオが口を開いた。そしてその反応は私にとっては意外なものだった。

 「うーん、正直ね、サイキはまだ強化の必要は無いと思うわよ? 例え新装備の私とリタが一緒になってサイキとやり合っても……多分勝てない、かな」

 ナオの表情からは、実力の差をまざまざと見せつけられた事に対する、自分への不甲斐無さというやり場の無い思いが見て取れる。つまり、同じ兵士であるナオから見ても、この赤い髪の泣き虫は突出しているという事だ。

 「小隊長から剣士隊の隊長補佐に、か」

 誰に質問する訳でもないのだが、私の呟いた一言に俯いたままのサイキが答えた。

 「……小隊長は、友人グループのリーダーみたいなもので、実力とはあまり関係ない。隊長補佐は、一人で多数を一斉に相手に出来る程度には強くないとなれない。それでもわたしはまた間違えた……」

 最後にはやはり涙声になるサイキ。隣に座るナオが肩を抱き慰めた。

 例え実力があったとしても、その精神構造は歳相応に脆いままなのだ。

 途中、青柳の携帯電話が鳴る。

 「……ご報告です。重体だった警官が、息を引き取りました」

 結局はまた重苦しい雰囲気に戻ってしまった。青柳は死者が出た事で一層忙しくなると言い、それでも三人の責任ではないと気遣う。


 どうしても諦めにも似た考えが浮かんでしまう。

 「……もう、俺が口をつぐむだけでは駄目な段階に来ているんじゃないかと思うんだ」

 「子供達を手放すおつもりで?」

 間髪いれない青柳の鋭い返しに、三人は私から目を逸らした。この子達は、そうなる覚悟をしているのだろう。しかし私は、ある意味で諦めはしているが、その意味では諦める気は毛頭無い。

 「いや、子供達を手放しはしない。この程度で手放してたまるか。……住人を見捨てるほど俺は老いてはいないよ」

 ここで私は、少し自分を恥じた。家族ではなく、住人と言った事にだ。私は偉そうな事を言いながらも、自分の保身に走ってしまったのだ。しかしそんな私の胸中を知ってか知らずか、子供達はちらりとではあるが、私に目をやった。

 「俺が言ってるのはだな、この子達の働いているカフェについてだ。死者が出た以上、もう三人に対する噂が広まるのは確実だ。そうなれば……」

 「先方にも迷惑が掛かってしまうと。……そうですね。辞め時かもしれませんね」

 我々の話に異を唱えたのは、赤い瞳を更に赤く腫らしたサイキだった。

 「あの、カフェのお手伝いは続けさせて下さい。お願いします」

 「家賃の事なら心配は要らないから……」

 私の言葉の途中で、サイキが割って入る。

 「そうじゃなくて、あそこで働きたいんです。お願いします」

 「私からもお願いします」「リタからもです」

 必死な表情の三人に頭を下げられ、顔を見合わせる私と青柳。

 「しかしだなあ……」「分かりました」

 今度は青柳が私の言葉を遮った。

 「明日、カフェには事情を説明しましょう。しかしそれ以上を判断するのはお店側です。先方が辞めてほしいと言った場合、お三方には拒否権はありませんよ」

 随分と角が取れたな青柳。

 青柳とは明日の二時にカフェ集合という事で別れる。

 しかし三人がそこまであのカフェで働きたがるとは、正直予想外だった。元はと言えば家賃を入れてもらうために、強引に私が決めて働かせる事にしたのだ。素直に従い働いてくれていた三人だが、それも私を心配させないためであろうと思っていた。しかし実際には、彼女達にはそれが楽しみの一つになっていたのだ。それならば、彼女達の笑顔のために一肌脱ごうではないか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ