学園戦闘編 14
火曜日、今日は朝から雨だ。不安と緊張と憂鬱感が混ざり合う。
三人も朝から中々落ち着かない。それもそのはず、学園に編入してから初めての平日の雨なのだ。否が応にも不安感を煽られるのは仕方のない道理だ。授業中に襲撃があり、抜け出そうとしたならば、あの松原という子には怪しまれるだろう。さてどうなるものか……。待つしかないというのは中々に辛いものがある。再度注意事項を確認し、三人を送り出す。
視点を学園に変える。
登校し、何事も無いかのように装い教室に入る三人。いつものように友達と挨拶を交わし、席に座る。するとナオの友達の中山が話しかけてきた。
「ねーそういえば土曜日また爆発があったけどさー、ここ一ヶ月くらい変な事多いよねー」
まさかの一日置いてこの話題。一瞬反応に困るナオ。
「えーっと……どうせ誰かのいたずらでしょ? 怪我人だけで済んでよかったじゃない」
「えーでも怪我人出たんだよー、いい訳ないじゃないー」
「そ、それもそうね。うーん……」
自分とは感覚のずれた正論に、思わず押し黙ってしまうナオ。
一時間目は数学。小テストがあったが、ナオとリタは満点。サイキは八十点。今の所ナオは全テスト満点、リタは数学のみ満点を継続中。サイキは七十点から百点の間を行ったり来たり。
二時間目は体育。今日は雨なので体育館に集合だ。サイキとナオは早々に着替えてリタより先に体育館へ。リタは服の大きさのせいか着替えに手間取ってしまっている。
と、斜め前に座る女子がリタに声をかけてきた。
「あ、あの、お手伝いしましょうか?」
「んー、お願いするです。引っかかってうまく着替えられないです……」
手を借り、どうにかリタも着替え完了。
「あの、私、泉由佳って言います。リタさんが来るまでは教室で一番小さかったんですけど……。あの、お……お友達になりませんか!? あ、ご、ごめんなさい。私、あまり人と話すのが得意じゃなくて、リタさんが皆に囲まれているのを見て、なんていうか……」
なんとなく察したリタは、無言で泉の手を取り歩き出した。
「あの、えっ、えっと……ええっと」
半ば混乱状態の泉。
「手を繋いだのでもう友達です。授業に遅れるので急ぐですよ」
そう言い笑ってみせるリタ。その表情を見て、満面の笑顔になる泉。小さい者同士、心が通じ合ったようだ。
体育館に到着。するとそれを発見したサイキが手を振った。
「リタ遅いよー」
「友達が出来たです。泉さんです」
早速泉さんを皆に紹介するリタ。
「あ、あの、初めまして」
「半年もクラスメートなのに初めましては無いでしょー」
何故か緊張している泉に、相良のツッコミが入った。
「私とサイキとは初めましてだからいいんじゃない? ねっ」
ここにナオのフォローが入る。
「んーなになに? 泉とリタちゃんくっ付いちゃった?」
「リタちゃんと比べるとー、泉さんって大きいねー」
木村と中山のコンビも加わった。
確かにリタと比べると、泉由佳は大きい。身長もだが、胸の発育もだ。身長との比較を考えなくても、この中で一番である。次点でナオと木村が並ぶ。
授業は男女別のドッジボール。サイキ・リタ・木村・泉とナオ・相良・中山でチームが分かれた。最初は逃げるのに専念していた三人だが、要領を理解してからは一転、攻撃に回る。最終的にはサイキ・リタ、ナオ・相良が残った。サイキは女子とは思えない速度の球を投げ、リタは持ち前の素早さを遺憾なく発揮。一方ナオも狙って投げられた球は全て受け止め、相良へと回す。
最初に脱落したのはリタだ。体力的にきつかったのか、速度が落ちた所を狙われた。次はナオが脱落。回転の掛かった球を弾いてしまったのだ。残りはサイキと相良。だが勝負は意外にも呆気なく着く。サイキの負け。攻撃力はあるが、キャッチテクニックが追いついていない。戦闘要員の三人を抑え、一般人である相良が勝ち残った。
三、四時間目も終わり、昼休み。昼食を終え談笑していた所で、遂に恐れていた事態が発生する。遠くで聞こえる悲鳴のような音。侵略者の襲撃だ。
「ちょっとごめん、おトイレ行ってくるね」
と言い残し三人は揃って席を離れ、屋上へと向かう。その後ろから一つの影が追って来ている事には気が付かないままだ。屋上の鍵を開け、雨の中へ。外から鍵を閉めるとすぐさまスーツに着替え、真上に飛び上がる。
一旦視点を長月荘に戻す。
私と青柳が先に接続。少ししてから三人の接続も確認。青柳から敵のおおよその位置の連絡が入る
「敵は学園より南東の小堀川近辺と思われます。お昼休み中で申し訳ありませんが、至急向かって下さい」
するともう一度悲鳴音がした。同じ場所に二体現れたようだ。
「河川敷に到着。……いました。小型一体と……中型の青か。衝撃波を使った範囲攻撃が出来る相手です。警官の皆さんは小型を相手に、青い奴には近寄らないで下さい」
サイキから警官隊へ注意事項が告げられる。小型ならば警官隊だけでもどうにかなる可能性がある。彼女達の目線映像で見る敵は、見事に青い肌をしている。
「見た目は青鬼だな。赤鬼もいたし、桃太郎の世界にでも迷い込んだ気分だ」
「ももたろー? どんな世界なの? もし技術が……」
「あー違うんだ。童話の中の話だから気にするな。それよりもあいつに集中」
いらぬ誤解をさせてしまう所だった。何も知らないまま目的だけを見て行動すると、簡単な勘違いにも気付かないものなのだな。
「うーん……前回と同じ作戦で行きましょうか。リタが援護で私とサイキが突っ込む。クロスね」
ナオから作戦が提示される。リタは上空から二人の接近を援護する。散弾銃のように光弾が拡散して青鬼を足止め。タイミングを見計らい、二人が突撃する。
「きゃあっ!」「うわっ!」
「おい! 二人とも大丈夫か!?」
青鬼の衝撃波による範囲攻撃をまともに食らい吹き飛ばされる二人。ナオは川に、サイキは対岸まで飛ばされてしまった。生身の人間ならばただでは済まされない飛距離だ。
そう、三人は大事な事を忘れていたのだ。平坦な河川敷に範囲攻撃の出来る相手に、前回と同じ作戦が通じるはずもない。
「うっ、まずった……前回がうまく行き過ぎたせいで油断してた……」
悔しさで臍を噛むナオ。
「……あの口に銃弾ぶち込んでやるです!」
そう言い放つと垂直降下、低空飛行で一人突っ込んでいくリタ。これは私でも分かるほどに無謀な行為だ。
「駄目! リタ止まって!」
サイキが叫ぶ。
「馬鹿リター!」
ナオも思わず届かない手を伸ばした。
急いでリタを追うサイキとナオ。青鬼は第二波を撃とうとしている。リタを射程に入れ、衝撃波を放つ。
「間に合えええーっ!!」
ナオがとっさに槍を投げた。するとどうだろう、槍は急加速、先行するリタを追い抜き、衝撃波を貫き、そして青鬼をも貫通、背後の土手に突き刺さった。
収縮し消滅する青鬼。サイキとリタと私、そしてナオまでもが呆気に取られている。
「嘘、こんな事が出来るなんて……知らなかった……何なの、今の……」
投げた本人も予想外だったのだな。
「こちら青柳。小型侵略者は我々が倒しました。私の目で消滅も確認。お三方は早々に学園へ。被害等は工藤さんに伝えておきます」
学園に戻ると、既に授業が始まっていた。急いで教室へと戻る三人。
「おう遅いぞ」
教師に注意をされる三人。
「すみません。体調が悪くなって、保健室に行っていました」
「分かったから早く黒板写せよ。消すぞ」
その日はそれ以上何もなく、下校時間には雨も上がり、空には虹が架かっていた。
「あれは何だったのかしら。私の知らない武器の特性……?」




