学園戦闘編 13
帰宅して軽く昼食を取る。その後リタは武器の開発に取り掛かる。
「新しい武器の開発は、リタ達にとっては未知の領域なので、どうしても時間が掛かるです。五日か……一週間くらいは掛かるかもです」
その為に来たんだから仕方がないな。リタは開発に専念させ、私と残り二人は商店街へ。
「悪いね、書き入れ時にいなくって」
いつものカフェに到着、はしこちゃんに遅刻とリタの不在を謝罪。二人は既に手伝いを開始している。
「渡辺さんから連絡貰ってたから大丈夫よ。それにここは土日より平日のほうが売り上げがいいし。リタちゃんは今日はお休みね」
「今日も、かな。来週の土日もリタを休ませてもらいたいんだ」
「構わないわよ。でもリタちゃんのお小遣い減っちゃうんじゃない?」
「それがどうやら、小遣いは三人で平均的に分けるみたいなんだよ。家賃を貰ってる俺が悪い気がしてきちゃうくらいにしっかりしてるよ」
いつものようにコーヒーを一杯注文し、すっかり手馴れた動きの二人を眺める。最近は外出時はほぼ常に髪の色を変えているのだが、やはりあの派手な色のほうが似合っているな。
カップの底が見えたので店を後にする。夕飯の買出しを済ませて帰宅。静まり返った長月荘だが、一体リタはどうやって武器の開発を行っているのだろう? 興味はあるものの、鶴の恩返しの如く彼女達が去ってしまっては困るので我慢我慢。
夕方、天気が悪くなってきた。そろそろ雨が来そうだな、と思っているとリタが降りてきた。空の状態を見て開発を一旦停止、様子を見に来たとの事。
「開発は進んでいるか?」
「まだまだです。学園とカフェのお手伝いの時間を考えると、やっぱり一週間はかかるかも、です」
髪の色変え装置で丸一日掛かった事を考えると、やはり技術の無い武器では勝手が違うのだろう。
「襲撃があったら呼ぶから、お前さんは開発に専念していなさい」
あの64式という銃がどのように変貌するのかは分からないが、戦力の増強になるのならば急ぐに越した事は無い。
夕飯の準備を始めようとした所で二人が帰ってきた。まだ雨は降っていない。夕飯は簡単な物で済ませるので、手伝いに来たサイキには休んでいてもらう。今日は朝から忙しかったからな。
雨が降り始め、警戒態勢に入る二人。状況によってはリタを置いて二人で出撃してもらう事も考えなければ。
夜の十時を過ぎようかという所でレーダーに反応あり。場所は北西の新興住宅街。最近造成が始まった地域で、まだ空き地も多い。悲鳴や吸い込まれる風が感じられないほどに遠く、飛んでも時間が掛かると予想出来る。
「敵は一体のみ、中型の……これは灰色かな。三点同時の時のナオが担当した奴。二人なら充分やれる相手だから、リタはこのままで、わたしとナオの二人で向かいます」
光の線を描き現場へと向かう二人。一方の二階は静かなままだ。いつものようにパソコンで接続。中々青柳が来ないと思ったら帰宅し、遅い夕食中だったらしい。いつもすまないな。敵の種類と状況を報告、付近の警察車両に緊急要請を出す青柳。
二人が現場に到着。現場は山なりの地形であり、更に侵略者のいる位置は造成中により盆地になっており、どうやら周囲への被害は最小限に収まっているようだ。既に三台のパトカーが見え、ヘッドライトの明かりが現場を照らしている。
「あいつの気が警官に逸れているうちに一気に叩きます。ナオ、クロスで行くよ!」
「了解。一撃で決めたいわね!」
息を合わせ、急降下し突っ込んでいく二人。サイキは左から、ナオは右から挟み撃ちの体勢だ。敵がこちらに気付いたが、既に遅い。中央で交差した二人によってあっさりと一撃で倒される灰色の侵略者。そして上がる警官からの歓声。
「あの、皆さんお怪我はありませんか?」
まず周囲を気に掛ける。サイキらしいな。
「大丈夫だよ。事務処理に比べたらこれくらいどうって事無いさ」
そう笑てみせる警官一同。二人は一礼し帰投。
帰投中の会話がこちらにも聞こえている。
「皆を助けなきゃって思っているけど、いざ戦闘になるとわたし達のほうが助けられちゃってるね」
「これじゃあいくら恩返しをしても返しきれないわね。困っちゃうなー、なんて」
すっかり私や青柳にも聞こえているのを忘れている様子の二人。ちょっとからかってやるか。
「そうかー、ならば家賃を値上げしよう」
聞かれていた事と、家賃の事で大焦りの二人。勿論冗談だと言い、風呂が沸いてるから早く帰って来いと促す。
数分後、二人が帰ってきた。
「ただいまー」
二人声を合わせてのご帰還。リタはどうかと聞かれたが、全くの状況不明とだけ伝える。
青柳からの報告が入った。長月荘からは遠い場所であり到着まで時間が掛かったが、地形が幸いしてか負傷者ゼロ。物損被害もほぼ無く、一週間の締めとしては最高の勝利となった。
翌日月曜日、相変わらずの曇り模様だが、予報では雨は降らない。
サイキとナオは、クラスメートの松原という子がどう出るのかが気が気でない様子。リタは夜通し武器開発に没頭していたようで眠そうだ。朝食を済ませ、弁当を持たせて学園へ送り出す。
不安なのは私も同じだが、青柳も言っていたように、ここは待つしかないのだ。今回に限り、動向次第では私への連絡のためにスーツの機能を使う事を許しておいた。事によっては一刻一秒を争う事態へと発展しかねない。
……所がこの日は全く動きが無かった。多少こちらを気にしている様子ではあったとの事だが、それ以上は何もなし。ただ気付いていなかったのか、確信が持てるのを待っているのか。三人はいつも通りカフェに手伝いに行き、いつも通り帰宅。サイキは夕飯準備の私を手伝い、ナオは予習復習に余念が無く、リタは武器開発の続きをしている。一見穏やかな日常ではあるが、一皮剥けば薄氷を踏むような状態にあり、いつ奈落へと叩き落されてもおかしくは無い。その引き金を引くのが侵略者なのか、松原という子なのか、はたまた別の存在なのか。
サイキとナオも自室へ戻り、夜もふけた所でリタが部屋から出てきた。
「こんな時間にどうした?」
「……お腹が空いたです」
仕方がないな、残り物で夜食を作ってやろう。
「没頭し過ぎて体壊すなよ。リタも大切な戦力なんだからな」
「了解です」
夜食を食べ終わると、満足そうな表情。よく食べてよく眠れば背も伸びるだろう。
「……初めてです。いつもは皆の為にと寝る間を惜しんで開発していたです。それが自分に出来る唯一の事だと思っていたですよ。でも、リタも戦力になっている……ちょっと嬉しいです」
はにかんだ笑顔でそう語るリタ。生まれてから常に研究所内にいて、戦場を目にした事の無かったリタにとっては、自分の成果、自分の価値というものを肌で感じる機会など皆無だったのだろう。耳が跳ねるように動くのは、恐らくは嬉しい証拠か。
開発へと戻るリタに、あまり遅くなる前に寝ろと言いつけておく。
戦闘では戦力にならないジジイの出来る事といえば、美味しい飯を作る事と、彼女達の不安や悩みを少しずつ解消してやる事だけだ。




