学園戦闘編 11
日曜日、今日は曇りのち雨の予報。襲撃は夜になるだろうか。
この日、朝一番に渡辺から電話があった。リタに見せたい物があるので、警察署に来てほしいとの事だ。指名はリタだけだったが二人も同行したいとの事。送迎には青柳ではなく三宅が来た。青柳はこの天気なので動けないそうだ。
「三人目は初めましてですね。ショットガンを使うって聞きましたけど、思った以上に子供で驚いたっすよ」
警官の中には、彼女達の事を知る人物は少なくない。毎度戦闘ごとにお世話になっているのだから当然ではあるが、特に現場に出てくる三宅や青柳のような警官には、彼女達の存在を敢えて教えているそうだ。これも事態を円滑に進めるためであろうし、警官という立場上、情報が漏れる事も考えにくい。
警察署に到着。以前も来た会議室へと通される。渡辺と青柳、そして自衛隊関係者と思わしき迷彩服の男性が一人、我々の到着を待っていた。
「来たな。早速だけど、いい物を持ってきたぞ」
そう言うと、机の上の布を取る。そこには長身の銃が一丁。リタのために用意してくれたのだ。わざわざ警察署でという事になったのは、長月荘の中でこんな大層なものを広げる訳には行かないからだそうな。
「もう法は犯したくないからな」
と笑う渡辺だが、それがどこまでの法律の事を言っているのか、甚だ疑問である。
「自衛隊で使っている本物のライフル銃だ。今回のはスコープ付きでスナイパーライフルとしても使える奴だな。二人の武器も調達したかったんだが、今回は間に合わなかったからパスな」
「でもよくこんなでかい銃を持ってきたな。映画位でしか見た事ないぞ」
「はっはっはっ、詳細は秘密だ」
三人は興味津々でライフル銃を見つめるが、こちらの許可を待っているようで手は出さない。つくづくしっかりした子達である。その後は地下の射撃場に移動。初めて見る施設に心が高揚しているのは、恐らく私だけだな。
「さーてリタちゃん、彼が教官につくからそのスナイパーライフル撃ってみな」
先程いた迷彩服の男性が敬礼をする。
「挨拶が遅れました。私は久美正治。階級は一等陸曹。よろしくお願いいたします」
それを見て思わず真似して敬礼をする三人、と私。厳しそうな表情から一転、朗らかな笑顔を見せる久美さん。間違いなくこの人はいい人だと、一瞬でそう思わせるほどである。
早速銃を持つリタだが、さすがに小学生並の小さい体にライフル銃は大きい。抱えるので手一杯という感じである。
「お、重いー……」
まあそうだろうな。狙う以前に足元がふらついている。弾はまだ装填されていないとの事だが、それでも落としたら危ないので久美さんが一旦回収。
「スナイパーライフル、どんな用途で使うですか?」
「狙撃銃とも言い、長距離射程から相手を一撃で仕留める事に特化した小銃です。通常は二脚で銃身を固定し、腹這いの体勢で狙いをつけます。塹壕など凹凸の上に配置して撃つ事もあります。ちなみにこの銃は64式と言い、最近では古くなってきたので別の銃への置き換えが進んでいます。本来ならば持ち出し厳禁なのですが、今回は特別です」
リタの耳が完全に前を向いている。話を聞き漏らさないようにと必死なのだ。
一旦射撃ブースの中に入り、久美さんの指導の下、腹這いの姿勢を取るリタ。
「さすがにこの狭さでは実感出来ないと思いますが、有効射程は四百メートルありますので、近接攻撃しか有していない相手ならば、近づかせる事なく撃破が可能でしょう」
次に備え付けられている机に二脚を置いた状態で狙ってみる。丁度リタの目線位置に銃が来ている。耳栓をして一発撃ってみるかとなるが、リタの耳は頭の上についているのでヘルメットをかぶらせる。簡単な教習を受け、最大まで遠くに下げた的を狙うリタ。
「撃ちます」
一言警告を発し、引き金が引かれた。
大きな音ともに弾き飛ばされるリタ。すぐさま久美さんが後ろから庇う。
「ははは、予想はしていましたが、見事に吹っ飛ばされましたね。でもこれでこの銃がどれほど威力があるのかを、身をもって体感出来たでしょう」
なるほど、わざと不用意に撃たせたか。その衝撃に驚き、涙目になっているリタ。横を見るとサイキも涙目。ナオは固まっている。
「撃った的はどうでしょうか」
一方冷静にクレーンを動かす青柳。結果は少しずれたが命中している。
「すごいですね。あれだけ飛ばされると狙いが大きくずれるはずなんですが、それでも当てているとは。元々の狙いがしっかりしていた事の証拠ですね」
ほめられて嬉しそうなリタ。その後は久美さんも同じように撃って見せ、連射機能も披露。一発ごとに驚く二人とは対照的に、リタは既に動じず細部まで観察を欠かさない。
渡辺から既に話が通っているようで、この銃をスキャン、つまり自身の知識として取り込みたいと申し出たリタに、二つ返事で返す久美さん。
「……終わりましたです」
ほんの数秒だった。リタは一切手で触る事もせず、ただ眺めていただけであった。その光景に、改めてこの子達がSFな世界の住人なのだと把握した。
「使えそうか?」
念の為にリタに確認を取る私。
「資材があればアレンジを加えてリタ仕様に出来るです。本物をそのまま持ち帰れたら一番……でもそこまでご迷惑は掛けられないです」
久美に頭を下げるリタ。
「そうですね、我々としても支援はしたい所なのですが、何せ色々としがらみが多くて。今回退役間近の64式を持ってきたのも、新しい銃だともしも喪失した時に問題が大きくなるからでして。すみませんがご理解下さい」
やはり国家機関も色々と大変なのだな。
「あ、どうせならリタの銃も見せるです」
そしていつものように何も無い空間から銃を取り出した。久美さんは……動じていない。むしろリタの銃に興味が行っているようだ。
「これはまた……。ウインチェスターライフルに似ていますが、ストックが無く、バレルも短い。中身は恐らく全く別物になっていると思いますが。リタさんの身長から考えれば、持ち運びにはこの変更は理屈が通っていると言えますね」
「サイキが日本刀っぽいから、この銃も日本の物かとちょっと期待したけど、さすがに違うか」
ちょっとがっかりな私。
「いえ、日本にも輸入されていたので、例えば猟師などにも出回っていたはずですよ。鍛冶屋が修理のついでにコピー品の製造を始めた、なんて話もあるくらいですから」
銃を作れる鍛冶屋か。まんまリタだな。本当にこちらの世界に源流があったりして。
今回はこれにて解散。時刻はまだ昼の十二時前。リタは早速資材集めにリサイクルショップに行きたいと言い出した。すると渡辺がリタに質問してきた。
「資材って具体的にどういうものが必要なんだ?」
「えーと……そこの車くらいあれば、です……」
パトカーを指差し、物凄く申し訳なさそうに答えるリタ。車一台分が武器に凝縮されるという事か? それじゃあリサイクルショップだけでは足りないだろうな。
「車一台分も必要なのか。うーん……ちょっと待ってろ」
渡辺はどこかに電話を掛け始める。これを見て青柳は仕事に戻った。
「やっぱり普通のアサルトライフルのほうが良かったんでしょうかね?」
少し残念そうな表情で久美さんが私に聞いてきた。
「武器の情報ならば何でも欲しいので、何を持ってきてくれても嬉しいんですよ。この子達からしたら、こちらの世界にある武器全てが必要な情報ですから」
「リタ達の世界には、いまこの三人が持っている武器しか種類が無いです。なので、何が必要かではなく、全て必要という事です」
リタの言葉に、ほっとした表情の久美さん。銃を背負い一礼。三人も改めて頭を下げ、それを見届け颯爽と去っていった。
電話を終えた渡辺がこちらへ来た。
「資材についていい所を知ってるから、これから行ってみるかい?」
「もちろんです」
リタがやる気に満ちている。




