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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
学園戦闘編
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学園戦闘編 10

 「さてまずは何処から始めようか……」

 てんやわんやな状況になった今回の襲撃、その整理を始める。

 「んーと、じゃあ最初に私に、信用に足ると思える証拠を見せてもらえますか? 映像で見ただけじゃ巧妙なドッキリかもしれないじゃない?」

 そうだな、孝子先生を信用させる所から始めるか。といってもそんなの一瞬だが。三人に改めて戦闘用の姿になってもらう。それだけで充分だろう。

 「わお……うん、信用した。いや、正確にはまだ信じ切れていないけれど。しっかしあんた達、SNSの写真で見た通りそのまんまなんだね。リタちゃんも耳生えちゃってるし。これなら他の教師どもが次々に篭絡されるのも頷けるわ」

 一人納得し頷いている孝子先生。

 「念の為言っておくが口外禁止だからな。SNSの連中でも三人の秘密を知っているのは一握りだし、俺達の周囲でこれを知る人物も数人しかいない」

 「大丈夫です。教師が生徒を傷つけるような事はしません。それにこんな事言っても誰も信じないでしょ、普通」

 だろうな。いきなり別の世界から来た少女三人が侵略者と戦っているだなんて、テレビで大々的に暴露するような事でもしなければ。それでも恐らく多くの人はただの妄想だと思うだろう。


 「では次に、サイキさんが顔を見られたというクラスメートについてですが。まず警察としては手が出せません。金銭を渡しての口封じなどもってのほか。私の立場ではこの件の処理はまず不可能と思って下さい」

 確かに青柳の言う通り、警察でどうにか出来る範囲を超えている。サイキはごめんなさいと謝るが、そもそも偶発的な事故のようなものであるこの件に、彼女に非は無い。

 「ねえ見られたのって、同じクラスの松原なんでしょ? ちょっとまずいね。あそこの母親って教育委員会にいてテレビに出たりもしているの。その上所謂モンスターペアレントで、立場を利用して色々理不尽な要求をしてくるのよ。つまり見られたっていうだけで致命傷。顔は見たけどサイキちゃんだとは気付かなかったっていう可能性に賭けるしかないよ」

 「多分、気付いてる。わたしの頬の傷、松原さんに付けられたものだから。放課後呼び出されて、それで……」

 なるほど、サイキの傷はそういう事か。その松原という子の性格も推し量る事が出来る。孝子先生は話を理解し、自らの監督不行き届きをサイキに謝った。

 「モンスターペアレントが相手ですか。正論の効かない相手となると、渡辺さんでも難しいでしょうね。口封じの代償に金銭の要求、そして頃合を見て裏切り、マスコミに情報をリーク……」

 「青柳嫌な事言うなあ。否定出来ないのがまた恐ろしいんだが……」

 いまいち理解し切れていない三人だが、明らかに顔色の変わる私達を見て、非常にまずい事態である事は飲み込めているようだ。

 「こればかりは様子を見つつ、後手に回るしかなさそうですね。厳しい戦いになりそうです……」


 「じゃあ次に私から」

 ナオが手を上げた。という事は戦闘に関してだな。

 「今回の敵、大型の拠点防衛型なんだけれど、本来あいつらは常に三位一体で存在していて、左右が連射型、中央が高威力単発型っていう陣形を取るの。左右の攻撃でこちらの足止めをして中央で狙い撃ちっていう戦法なんだけど、今回はその中央、高威力単発型のみだったのよ」

 「残りの二体が現れなかったという事か」

 「ええ、そういう事。それと被害の少なかった理由だけれど、中央のそいつは、左右がいないと基本的にあまり攻撃をしてこないの」

 それは偶然とはいえ助かった。


 「そしてここからが最もおかしい所なんだけれど、あいつらって文字通り拠点を守る為に存在するはずなのよ。でもそんな拠点なんて無いでしょ? 何せ私達が全部倒しているからね。そんな中であんなのが来たっていうのには、何かもっと別の理由がある気がしてならないの」

 別の理由か。何だろうな、これも戦術である可能性が考えられるが……。。

 「可能性としては三つあるでしょう」

 と思っていたら青柳だ。さすが頭の切れるいい人。

 「第一に侵略者がこちらの力を推し量っている可能性。今までも大型二体での挟み撃ち、小型四体同時、大中小の四体同時と、こちらを試しているかのような襲撃が見受けられるので、戦術的にそうしているという事が考えられます」

 これは私も思っていた事だ。

 「第二に、ある程度こちらへ送り込める数が決まっている可能性。質量が決まっていると言い換えると分かりやすいでしょうか。まるで侵略者はゲームでもしているかのように、その決められた質量内に収まるように襲撃隊を編成しているのではないか? 今回一気に大型三体が現れるという事が無かったのはそれが理由ではないかと」

 こちらの理由も理に適っている。思えば一気に物量で押し潰そうとすれば可能であるはずなのに、その機会があったのにも関わらず、そうはなっていないのだ。

 「そして第三に、何かしらの理由でうまくこちらへ襲撃隊を送り込めていない可能性。これは今回の敵が、存在しないはずの拠点を守る目的で現れた事から考えられます。そして雨の日にしか襲撃が無い事からも、襲撃には何かしらの条件が存在すると考えてまず間違いないでしょう」

 なるほどな、第一の可能性は危険性が高いが、他の二つの可能性ならばこちらに幾許かの有利があると見てもいい。まあ相変わらず楽観視は出来ないが。


 「三人の事は分かったわ。私の授業中ならば出来るだけ支援します。松原の事はこっちでどうにか出来ないか考えてみる。といってもあまり期待はしないでね」

 そう言い、孝子先生は帰った。

 当面の問題は松原という子の事だろう。天気予報では火曜日まで晴れは無い。何も起こらなければいいのだが、恐らくは何かがあるだろう。私のただのカンだが、今までの積み重ねが、そのカンを否定出来なくさせている。

 「それじゃあわたし達はカフェの手伝いに行ってきます」

 戦闘後で疲れているだろうに、こういう所は嫌な顔一つせずにきっちりとこなそうとする三人。精神年齢ならば私以上に大人かもしれないな。反省。

 「カフェまででしたら、私が送りますよ」

 そして青柳が申し出てくれた。この際甘えさせてもらおう。

 「明日も曇りのち雨の予報ですから、少しでも彼女達の疲労は取ってあげたいなと。未婚の私にも父性が芽生えましたかね」

 三人を乗せ、運転席に乗り込み車のエンジンをかける青柳。

 青柳は見た目はともかく性格はとてもいい奴だ。願わくばいい嫁さんを手に入れて欲しいものだ。そう思っている所でまさかの衝撃発言が飛び出す。

 「斉藤孝子先生、と言いましたか。可愛い方ですね」

 「……えっ、お前……もしかして!?」

 その後は語る事も無く車を発進させ、視界から消える青柳。

 色々とあった今日の、恐らく一番の驚きを、まさか青柳に取られるとは想像だにしていなかった。仮とはいえ、長月荘の住人である青柳にも”縁”が向いたのかもしれない。


 孝子先生と青柳か、どういう恋人になるのだろう。……いや、絶対喧嘩するだろ! 性格正反対だぞ! もしかしてそこがいいのだろうか?



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