学園戦闘編 9
「最近この何か不愉快極まりない音がする事があるけど、何なんでしょうかね」
非常にまずいタイミングでの侵略者の襲撃。三人の担任であり、元長月荘住人でもある斉藤孝子先生が家庭訪問に来ているからだ。孝子先生は彼女達の事情を知らない。
二階から三人が降りてきた。どうしようかと困った表情だ。
「とりあえず今日の所はこれで帰ってもらってもいいかな?」
出撃が遅れると被害が大きくなる。なるべく早く三人を出向かせたい。
「突然どうしたの? もしかして今の音と関係あるの? 何か怪しいんですけど」
「もう関係あるって事でいいから、悪いが早く帰ってくれ」
私の言葉に、訝しげながらも従う孝子先生。
「悪いな。今度はちゃんと晴れの日に来てくれ」
玄関ドアが閉まると同時に彼女達から、既に青柳と接続しており、位置も確認済みであると報告を受ける。今玄関から出て行けば孝子先生と鉢合わせしてしまうので、勝手口から出撃してもらう事にした。パソコンを点け、私も映像接続。青柳から改めて状況の報告を受ける。
「襲撃場所は北東、我々のいる警察署のすぐ近くです。出動出来る全職員が対応に向かいましたが、相手が大型であるので彼女達待ちの状況です」
次にサイキから報告が入る。
「上空からも見えました。えっとあれは……何であんなのがこのタイミングで出てくるの!? 相手は拠点防衛型。物凄く固い、文字通り防衛専用のタイプです。装甲を貫く為にエネルギー消費が大きい相手。でも色々とおかしい……」
時間の掛かる相手という事か。相手の見た目は円錐の上部を切り取ったような形状だ。一番上には本体と同じような形状の砲台が見える。色々とおかしいとはどういう事だろう? 無事帰ってきたら聞いてみるか。
「あーごめん工藤さん、忘れ物しちゃったー……って何やってんの?」
むこうもまずければ、こちらもまずい。まさかの孝子先生再登場。そしてパソコンからは三人の声。これには一瞬頭の中が真っ白になる私。更にサイキから非常にまずい報告が入る。
「あ、あれ松原さんだ! ど、どうしよう、見られたかな……。クラスメートに顔を見られちゃいました……」
狼狽するサイキの声。
「この声サイキちゃん? 松原さんってあの松原? どうなってんのよ?」
孝子先生が割って入ってきた。
「孝子先生!?」「何で先生がいるのよ?」「もう訳が分からないです」
こっちの台詞だ。事態は混迷を極めてしまった。
「あーもう、三人は侵略者に集中しろ!」
半ばやけくそで指示を出す私。頭の中が混乱しっぱなしだ。
「工藤さん、状況の説明を願います」
至って冷静な青柳の言葉と口調に、どうにか私も冷静さを取り戻せた。
「はあ……三人の担任教師がここにいる。偶然にも元住人だ。あとそっちに彼女達のクラスメートがいて、サイキが顔を見られたって事だから気付かれた可能性が高い。そっちの諸々は青柳に全部任せる。もう滅茶苦茶だよ本当」
一旦落ち着く為にコップ一杯の水を飲み、脳のスイッチを切り替えた。そして現在の状況を孝子先生に説明する。三人の事、青柳の事、侵略者の事。
「それ、信じろって言うほうが無理がありますよ。あの子達が別の世界から来て侵略者と戦ってるだなんて」
「でもな、事実これはサイキの目線からの映像だし、そこに映ってるのはこの世界のものじゃない。作り物や悪い冗談で済めばどれほどいいものか」
もっと驚くかと思ったが、その様子は無く、冷静に考え込んでいる孝子先生。
「……分かりました。そうそう簡単には信じられないけれど、鍵の理由や今のこの映像を見たら信じない訳にはいかないようだから。とりあえずは彼女達が帰ってきたら、改めて彼女達の口から直接話を聞きたい。だからここで待たせてもらいます」
「待つのはいいが、鍵の理由って何だ?」
「校舎の屋上の鍵、学園長から彼女達に渡してほしいって頼まれてね。でもこれで辻褄が合った気がする。彼女達が授業中に戦いに行く時は、屋上から行けって事だよね」
事前に三人からある程度の話は聞いていたが、なるほどそういう事か。
改めて冷静になり、私と、そして孝子先生はパソコンを覗き込んだ。
「やっぱり固そうだな。刃が通っていないように見える」
「うん、凄く固くてダメージが入らない。……エネルギー全部使っても、倒せるか分からない」
サイキも皆もそれほどエネルギーが溜まっている訳では無いが、それを全て使っても倒せるか分からないほど固いという事は、つまり打つ手が無いも同じである。
「……でもこの敵、胡麻プリンっぽいかも。丁度一番上に生クリームみたいなの付いてるし、あそこに旗の付いた爪楊枝を刺したいかも」
結構可愛い思考してるなあ孝子先生。
「先生、それいいかも!」
ナオが意外な反応を見せる。我らが知将は何かを閃いたようだ。
「サイキとリタは狙いが私に向かないように援護して! 私は直上から突っ込んでみる! エネルギー残量から一回きりの賭けね。二人とも頼んだわよ!」
そう言うとナオが大きく飛び上がった。まるで天を突くようだ。サイキとリタは砲台がナオに手を出さないように援護を開始。
「あいつナオをターゲットから外したみたいだよ」
「了解。じゃあいくわよっ!」
ナオが掛け声とともに物凄い速度で真逆さまに突撃してきた。そのまま胡麻プリンの侵略者へと突き刺さり、大きな衝撃音が聞こえる。
「……どうだ? ナオは無事か?」
すると脱出するナオが見えた。
「……敵勢侵略者、撃破!」
敵が消滅するより先にナオからの撃破報告が入った。そして幾つかの爆発音とともに収縮し消滅する侵略者。周囲を取り巻く警官隊から野太い歓声があがる。あれだけ強固な敵だと言って苦戦をしていたのが、まるで嘘のようにあっさりと倒してしまった。
「先生ありがとう! プリンがいいヒントになったわ。あいつにまさかあんな弱点があったなんてね。戻ったら広めなきゃ」
「喜びに浸っている所申し訳ありませんが、三人は早急に撤退を。私もすぐ長月荘へ向かいます」
いつものように冷静な青柳。頼りになる奴だ。
三人が戻ってきた。もう癖になっているのか、孝子先生の前では制服に着替えた。孝子先生は催促してきたが、細かい話は青柳が来てからという事にする。
「私、こういう事を言う柄じゃないけど、工藤さんの所に三人が集まったのが必然な気がしちゃうな。運命って奴」
「……何言ってんだお前」
「ちょっ……言った私も恥ずかしいんだから!」
などと戯れていると青柳が到着。先に青柳からの報告だ。
「今回は敵があまり攻撃性を持っていなかった事もあり、現在死者及び重体は確認されていません。しかし重傷者が四名、軽傷者が八名出ています。全員意識があり、命に別状は無い様子なので、そこはご安心を。問題はサイキさんがクラスメートに見つかった事と、あなたの存在ですが……」
そうだな、今日はここからが本番のようだ。




