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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
学園戦闘編
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学園戦闘編 8

 登校三、四、五日目は何事もなく過ぎた。そして六日目。学園は土曜日でも授業があり、三時限までの短縮授業となっている。あいにくの曇り模様だが、雨が降る前には帰ってこられるだろう。

 彼女達を見送ると、SNSに孝子先生からの書き込み。午後にこちらに顔を出したいとの事だ。どうしようか迷う。本当ならば侵略者の心配のない天気のいい日に来てもらいたいものだが、今後数日は天気が崩れて警戒態勢を解除出来ない。もし訪問中に戦闘開始となると、彼女達の秘密を隠す事も出来なくなる。

 「雨の日は諸事情により不可。晴れならば大丈夫」

 とりあえずはこれで大丈夫だろう。


 家事をこなし、彼女達の部屋にも掃除機をかける。三部屋とも備え付けの机と布団だけの狭い四畳半。彼女達は物を量子化して持ち運べるとはいえ、あまりにも殺風景だ。今時の言い方をすれば、女子力のない部屋だ。彼女達にもお洒落の楽しみというものを感じてもらいたいものだが。どうしたものかと考えていると、丁度帰ってくるのが窓から見えた。

 「おかえりー」

 「ただいまー……」

 「どうした元気ないな……ってサイキ、その頬の傷どうした?」

 サイキの左頬に切り傷がある。浅い物なので傷が残る事はないと思うが。

 「何でもない。転んだだけ」

 素っ気なく答えるが、雰囲気的には私に心配を掛けないようにと誤魔化しているのだろう。念の為消毒し絆創膏を貼る。言いたくないのならば無理に聞く事もないだろうと、その話は終わらせる事にした。


 私は昼食の準備に入り、彼女達は服を戻し警戒態勢に入った。しかしここで玄関の呼び鈴が鳴った。誰だ?

 「私です。孝子先生来ちゃいました。久しぶりの長月荘だー」

 「おいちょっと待て、晴れた日に来いって書いたよな?」

 「えー雨降ってなければオーケーって事でしょ? まあいいじゃないですか。お邪魔し……ただいまー」

 国語教師のくせに、そっちの意味で取っちゃったのか。困ったな。

 (あ、サイキ達服装戻してたんだった! 見つかるっ!)

 「よー三人ともー、制服まだ脱いでないんだな。あーお昼の準備してたのね。タイミング悪かったかな?」

 間一髪、彼女達は服装を制服に着替えていてくれた。一瞬で着替えられる彼女達だからこその芸当。私の冷や汗が無駄になってよかった。

 「うーん……まあいいか、昼飯食べるかい?」

 半ば社交辞令的にではあるが、昼食に誘う。

 「喜んでー」

 とても嬉しそうに明るく言う孝子先生。少し多めに作って青柳にと考えていたのだが、どうやら孝子先生のお腹に納まりそうだ。


 「……それで、用件は何だ? ただ懐かしむ為に来た訳じゃないんだろう?」

 昼食を終え、本題に入る。ここまで来れば仕方がないので、侵略者の襲撃が来る前にさっさと用件を済ませてお帰り願おう。私自身も、本当ならば昔話に花を咲かせたい所ではあるのだが。

 「三人の学園生活のお話をしに参りました。家庭訪問って奴ね。顔見知りだから早めに報告しようかと思ったんだけど、何か用事ありました?」

 「いや、用事はないが、雨の日は急用が入る事があってな。ってか居間まで上がり込んでから言うか、それ」

 「まあ急用が出来たら私もそこで引き上げますから」

 私は迷っていた。孝子先生に彼女達の事を話してしまおうか否か。恐らく話してしまえば学園生活はより円滑に進むだろうが、それだけ情報が漏れる危険度も増す。他の教科の担任にも話を通さなければいけなくなると考えると、余計に危険だ。


 三人には呼ぶまで自室で待機してもらう。

 「えーっと、まずはサイキちゃん。工藤さんと同じ名字だけど親戚の子?」

 「いや、ただ同じってだけだ。まあ孫同然に可愛がっているけどな」

 「ふーん、でも工藤さんが嬉しそうで良かった。私のいた頃は工藤さん、優しいけれどあまり笑顔の印象がなかったから。今だから言えるけど、ちょっと怖かったし」

 孝子先生がいたのは八年前。私が必死に家族の死を乗り越え、自分を変えようともがき苦しんでいた、丁度その頃だ。結局はその努力が逆方向に向いてしまい、自分を変える事に疲れてしまうのだが。

 「サイキちゃんは、勉強よりも運動に秀でている感じね。といっても勉強が出来ないわけじゃなくて、全教科の小テストで平均点以上を安定して取ってる。生活態度も申し分なし。本当に家庭に事情があるの? こんなに擦れていない子がそういう家庭の子だとは思えないんだけど」

 「まあ色々とあるんだよ」

 現状ではこう言うしかないのだ。

 「そして友人関係では他の二人と、あと隣の子と仲がいいわね。そして男子にモテる。私が直接見た訳じゃないけど、既に二人には告白されたっていう噂。まあ可愛い系だもんね、私が羨ましいくらいだわ。あはは」

 「もう告白されたってか……。それと仲のいい隣の子ってどういう子なんだ?」

 「相良って言って、家が剣道場でそこの娘さん。あの子も剣道をやっていて、確か小学生の時は全国大会まで行ったはず。男勝りな性格だけど友人思いのいい子だよ」

 ふむ、サイキに関しては特に心配する事はなさそうだ。男関係を除いては。


 「次にナオちゃん。彼女凄いね、編入してからのテスト全部満点。運動も得意みたいだから非の打ち所がないって感じ。ただその雰囲気のせいか、男子は近づきにくいみたい。一部の女子からはお姉様的な扱いをされていて、逆に男子は姉御的な雰囲気で接している様子。どちらにせよ、まさに委員長にぴったりの逸材。本人が手を挙げればきっと生徒会長にもなれるんじゃないかな」

 いかにもナオらしい評価だ。

 「友人関係では特に女子コンビと仲良くなってるわね。木村奈津美と中山あい子って言って、小学生時代からの腐れ縁だったかな、ボケとツッコミの良く出来ているコンビ。男子とは、さっきも言ったけど向こうが寄ってこない状態ね」

 「その二人も何か部活やっていたりするのか?」

 「いえ、二人とも帰宅部。中山あい子はボケ担当のわりに運動神経いいから、体育系の部活に向いていると思うんだけどね。でもその気はないみたい」

 ナオも問題は無いようだな。男関係も。


 「最後にリタちゃん。まあー特殊な子だわ。数学や理科は満点。でも国語と英語はちょっと残念。赤点ではないけど要勉強。運動は苦手なのかな、動き出せば小さい体を生かして素早い動きをするんだけど、必要な時以外は動かないわね。他の二人と比べるとやっぱり見劣りしちゃうかな」

 「まあリタらしいな。実は機械弄りが大好きな子でな、そこいらの家電とか、俺のあの車にも興味津々だったよ」

 「へえ、なんか分かる。ちょっと人とは違った見方をしてるんだよね」

 さすがあの特殊スーツの開発者である。

 「友人関係では今の所固定の子はいないみたい。やっぱり目立つ子だから皆声をかけるんだけど、本人はちょっと煩わしそう。そして一番の特徴が、教師受けが物凄くいいのよ。学園長以外ほぼ全ての教師が彼女にメロメロ。ハゲ教頭なんて頭触らせてたし」

 「あっはっはっ。何なんだろうな、あの保護欲をかき立てられる感じ。しかし友人無しか、ちょっと心配だな」

 「大丈夫、独りぼっちになるような子じゃないし、コミュニケーション能力がないって訳でもないし。むしろあれだけの人数を捌き切るんだもの、相当コミュ力高いと思いますよ」

 物怖じしないのはいいが、無理をしていないだろうかと少々不安にもなる。

 しかし話も半ばの所で、予想通りの事態が起きてしまうのだ。



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