学園戦闘編 7
登校二日目。さすがに初日のような盛り上がりは収まり、それでも何人か固定で声をかけてくれる子が出てきた。サイキは隣の相良という女子と喋るようになり、ナオは木村奈津美と中山あい子という既にコンビの出来ている女子と仲良くなった。リタは未だに色々な人に囲まれている。昨日難癖をつけてきた松原という女子のグループは、現在は静観中。
昼休みになり、サイキが職員室に呼び出された。孝子先生に手招きされ、用件を聞く。
「えーっと、何でか分かんないけど学園長からこれを渡してほしいって」
「……鍵ですか。どこのですか?」
「屋上。うちの学園は屋上は開放してないから立ち入り禁止なんだけどね。家庭に事情があるとは聞いているけど、なんか大きな事を隠してるんじゃないの?」
「あっと、えっと、それは、その……」
鋭い所を突く孝子先生に、どう言い逃れしようかとあたふたするサイキ。
「……まあいいわ。教師に隠し事なんてしてほしくはないけど、あなたを見る限り悪い事に使う訳ではなさそうだし、いざとなったら工藤さんに聞けばいい事だからね。用件は以上。戻っていいよ」
部屋を出る前にはしっかり頭を下げ、教室へと戻るサイキ。
「何だったの?」
いの一番にナオが聞いてきた。。
「屋上の鍵。飛ぶなら屋上からって事だと思う」
耳元で小声で答えるサイキ。
「ねーねー、三人って最初から仲良さそうだったけど、知り合いなのー?」
ナオと仲良くなった中山が質問をしてきた。
「下宿先が同じなのよ」
最小限の情報で済ませるナオ。
「へえーなんか凄いねー。三人とも同じ所で下宿して、三人とも同じクラスなんて奇跡的ー」
目をキラキラさせている中山。
「下宿ってご両親と住んでるの?」
次は木村からの質問。木村は中山よりもしっかりしている。
「ちょっと家庭に事情があってね、三人とも親とは離れているの。でも下宿先のご主人がとても良くしてくれるおかげで不自由はないわよ。それに、このお弁当もそのご主人が作ってくれたのよ」
その後も木村中山コンビは興味津々で質問攻めにしてくるが、ナオが終了を宣言。
「悪いけど、言えない事や言いたくない事もあるから、質問はここら辺でおしまいね」
「あ、ご、ごめんなさい。気を悪くしないでね」「私もごめんなさーい」
木村と中山がナオに謝った。その事でナオは一つ、二人に信頼を持った。
「いいのよ。ただ触れられたくない事もあるって分かってもらえればね」
それを見ていた相良がサイキに一言。
「あたしは人の家庭になんて興味ないから安心してー」
「あ、あはは……」
苦笑いするサイキ。
「……疲れた、です……」
一方のリタはガクッと机に突っ伏した。精根尽き果てたものの、ようやく周囲から開放されたのだ。
授業も終わり下校を開始。そして今日からはカフェでのお手伝いが再開となる。長月荘からならば十五分程度だが、学園からだと片道四十分ほど歩く。飛んで行けば一瞬ではあるが、それにもエネルギーを使うので不用意には使えないし、何よりも不用意な飛行は工藤と青柳に怒られるのが分かっている。
三人は商店街に到着。カフェに到着する前に人通りの無い路地に入り、見つからないように服装と髪色を戻した。あくまで自分らしい格好で仕事をしたいという事であり、カフェのマスターはしこちゃんからは了承を得ている。
視点を工藤一郎へと変更する。
夜七時前、彼女達三人が長月荘に帰ってきた。慣れていたはずのカフェでの仕事も、学園が終わった後だと勝手が違うようで、疲れた顔をしている。それでもサイキは、私が料理を始めると横に立って手伝ってくれるのだ。なんとも律儀な子である。そして今度はリタも料理がしたいと言ってきた。
「いいお嫁さんになるために料理を覚えたいです」
と言うので、とりあえずは包丁を持たせてみる。
「包丁を扱った経験は?」
「一応あるですよ」
しかし物凄く危なっかしく、予想通り指を切ってしまった。
「本当に包丁使った事あるのか? うーん、これは包丁仕事は任せられないな。もう少し大人になってから覚えような」
「うう……無念、です」
リタはナオとは別の理由で台所への立ち入りが禁止となった。
食事を終え、私は彼女達に茶封筒を渡す。まずはサイキから。
「封筒? 中身はなんですか? ……お金?」
「昼のうちにはしこちゃんから預かっておいた君達への給料だよ。家賃その他は先に引いてあるから、その封筒の中身は全部、君達で自由に使えるお金だ」
ナオ、リタにも封筒を手渡す。リタはしっかり喜ぶが、サイキとナオの反応が薄い。
しかし何となくだが理由は分かる。ずっと兵士として戦ってきていた二人は、給料というものを知らないのではないのだろうか。自由に使えるお金というものも、もしかしたら初めて手にするのかもしれない。
「何に使おう。改めて自由に使えるって言われたら、迷っちゃうなあ」
サイキは、言葉では嬉しそうではあるが、表情は薄い反応のままであり、その声色も嬉しいというものではない。
「でも工藤さん、これでどれくらいの物が買えるの?」
次にナオからの質問が来た。
思えば彼女達がこちらに来てから、商店街以外ではほとんど値段というものを見ていないはずだ。
「うーんあんまり贅沢は出来ないな。安い服なら一通り買い揃えられるくらいかな。リタはこの前のリサイクルショップの分も引いてあるから難しいけど」
それを聞いて三人で話し合いが始まった。その内容は何を買うか、という事ではなく、お金を平均化して一括管理しようかというものだ。その真面目さに、家賃を請求する自分がまるで悪い人間のように思えてきてしまった。とはいえ彼女達から家賃を取らなければ、こちらの家計が破綻してしまうのではあるが。
その後は学園での状況を聞く。私自身やはり不安ではあったのだが、彼女達の話を聞くに、いらぬ心配だったようだ。勉強に関しても追いつけ追い越せで頑張っており、ナオはテストにも自信を覗かせていた。
「そうだナオ、このゲームで相手に勝ってみろ。オセロって言ってな、同じ色で挟んだら相手の色が変わるってだけの分かりやすいゲームだ」
以前青柳からアドバイスを貰っていたように、ナオにはパソコンを使ってゲーム、今回はオセロをやらせてみる。まずは私が簡単な説明がてらお手本を見せる事に。私はゲームには弱いので敗北だった。
「ルールは理解出来たわ。ポイントは四隅を取られないようにする事みたいね」
さすが飲み込みの早いナオ。さてお手並み拝見である。
「……勝っちゃった。六割取れたけど、やっぱり最終目標は全部取る事かしら」
「いや、全部取るのは普通無理だぞ。勝つだけでも戦術を考えないと」
「ふーん、戦術が必要か。工藤さんはそれが狙いでこのゲームをやらせた訳ね? 分かったわ。次はもっと取ってやるんだから」
その後ナオは五勝一敗。他の二人とも対戦してみたが、結果は圧倒的であった。気が付けば夜の十二時を回って日を跨いでしまった。三人にはここいらで引き上げるように促す。
「夢でもゲームをしていたらどうしようかしら」
と嬉しそうにするナオ。やはりナオは頭脳派なのだな。




