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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
一期一会編
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一期一会編 5

 皆が帰り、現在は別世界からの四人のみ。

 「さて、次に移るか」

 「次って?」

 そんなサイキの質問を無視しつつ電話。

 「あーもしもし工藤だけど。こっちは集まってた人達は帰ったから。……ああ。……いや二人だけだから部屋はいいよ。……了解。気を付けて帰ってこいよ」

 最後の一言に三人の顔色が変わった。理解したな。

 「そ、そうだよね。今の住人がいるんだもんね。……なんか変に緊張してきた」

 「私も。……あ、気を紛らわすついでに、今のうちに直した箇所を見ていいかしら?」

 「どうぞ。キッチン一式と脱衣所、俺の部屋、そして二階は203号室を直して、更に二部屋増やした。床も直したから軋まなくなっているぞ」

 三人は早速探検開始。案内役は恵理朱、と言いつつ私も付いて行く。


 まずはキッチン。

 「確かに新しくなってるね。前のは戸棚が歪んでいたし、換気口真っ黒だったもんね」

 「直したのはお前達が帰ってから一年後だな。でもこれ全部中古品なんだぞ。安く仕上げる技って奴だ」

 二人してあちらこちらを開け閉め。何となくだが、夕飯作らせてと言いそうな気が……。

 「ねえ、今晩のご飯、任せてもらってもいいかな?」

 「思った途端これか。……明日からな。今日は俺に作らせろ」

 「うん、分かった」

 嬉しそうな笑顔のサイキ。やはりこの子は料理をする事が好きなのだな。

 次は脱衣所。木造なので湿気でやられていた部分の補修だけなので見た目はあまり変わらず、三人の食い付きもないに等しい。


 そして私の部屋へ。

 「確か以前は六畳間だったわよね。今は八畳?」

 「ああ。これも最初の形なんだよ。昔はここで親子三人川の字で寝ていた訳だ。……青柳には言っていないが、あいつらのために広げたんだよ。俺はあと二年、六十五歳で引退するつもりだ。というか、許されたならばそのままお前達の世界に居付く気だったんだけれどな」

 するとリタが暗い顔。

 「……最上君もそうだったし、何か力及ばずで申し訳ないな。……一ヶ月の間にもう一度考えてみるよ」

 「俺のせいで世界に迷惑が掛かる事は避けたい。一ヶ月行くだけでも特例なんだろ? ならばそれ以上は望まないよ。勿論最上がどう言うかは別だが」

 頷くリタだが、やはりすぐに思案中になった。実はリタが一番それを望んでいるのかもしれない。


 二階へ上がる。まずは恵理朱が部屋を見せた。

 「……五年もいたんだなあ。あ、でもね、最初の半年は工藤さんの部屋で寝かせてもらったんだよ。皆が帰った日、一人で部屋で寝ようとしても寝られなかったんだ。だから無理を言って。ね?」

 「ああそうだった。いや、むしろ一人で平然と部屋に入ったのを見て、大丈夫かと心配したんだよ。でも夜中に泣きながら襖を叩かれた時は、安心した。誰も頼らずに殻に閉じこもるなんて事にならずに済んだからな」

 笑い合う私と恵理朱。そんな我々を見て、ナオが質問。

 「エリスはいつ工藤さんをお父さんと呼ぶようになったの?」

 「うーん……結構すぐだったよ。今から思えば自己防衛のため。精神的なね。それまでは世界に一人だけっていう感覚だったんだけど、呼び方一つで気持ちも変わった。それからは僕も気を張るのをやめて、お父さんに甘えられるようになったんだ」

 すると恵理朱は私にくっ付いてきた。そして私は頭をなでなで。三人も納得した様子。


 追加の部屋はどちらも現住人が入っているので許可なくは見せられず。一旦居間へと戻り、談笑のお時間。先ほどまではいい話が多かったが、サイキもナオも相変わらず疎まれる事はあるそうな。

 サイキは体の秘密を公表。やはり一部には反発もあったそうで、口だけではなく行動でも何かしらの妨害があったとの事。しかしその度に部隊の皆が守り励ましてくれ、それもあって更に精神的に成長出来たようだ。

 ナオも未だに陰口は言われているらしいが、しかし一度戦場に出れば皆が頼ってくれると笑顔を見せる。その笑顔は作ったものではなく、本当に嬉しそうであり、自身の目標である下克上が叶ったのだと分かる。

 リタは帰還後は本当に一度も戦場には立っていないとの事。しかし自身の経験を元に、耳付きの種族を集めた銃撃部隊を編成させ、そして成功させたらしい。やはりリタの命中率は耳に秘密があった訳だな。

 そしてリタの家族だが、帰ってから一週間ほどで結婚……という戸籍制度自体はないらしいが、無事に結ばれ、そしてその年の内に妊娠、出産。翌年には第二子を授かったとの事なので、やはり早熟の種族なのだな。そして三人目だが、あえて生まれるまで性別判断はしないそうだ。

 そのリタの子供達だが、男の子は深い緑色の髪で耳が立っており、一番よくいる耳の形だそうな。もう一人女の子は綺麗な青い髪で耳は大きめで完全に寝ている。いわゆる垂れ耳であり、かなり珍しそうだ。両極端の見た目だが、リタ曰く性格はそっくりであり、負けん気が強いそうな。


 そうこうしていると車が一台。住人の車だ。

 「ただ今帰りましたー」

 「おかえりー。厄介払いすまんな」

 「ははは、気にしませんよ」

 さてと思えば子供三人は立ち上がって固まっている。そこまで緊張しなくてもなあ。恵理朱はどちらに付くのかと思ったが、別世界側に付いた。つまりもう気持ちは住人ではないという事だ。

 「えーと、子供達から先にするか」

 緊張しながらも、特に一名浮いている画面越しという変な状態でありながらも、子供達の挨拶は終了。現住人達には事前に恵理朱を使って全てを説明してあるので、あまり驚きはしなかった。


 「じゃあこっちも。まずはあたし、203号室の佐々木春姫です。十七歳で来年度から高三で、女子バスケ部所属です」

 春姫ちゃんは背の高いナイスバディな女の子。体格はナオに似ており、性格は真面目ながらも豪快。料理は勉強中だが結構筋がいい。長月荘には、親離れをしたい一心で家出同然で転がり込んできた。恵理朱に説明させるまで、ここがあの件の舞台だとは一切知らなかったそうな。

 「えっと、204号室の高橋秋人です。……おねがいします。あっ、えっと、十七歳です」

 秋人は春姫ちゃんとは逆に背が小さく内気な性格。しかし気の利く子であり、大抵気が付けば必要な事をしてくれている。春姫ちゃんとは同い年だが高校は別。親の引越しがあり、高校は変えたくないとの事で住人となった。

 「次は俺。205号室の折地彼方って言います。二十八歳で普通のサラリーマン。出張で来ています」

 特徴がないのが特徴といった感じの折地君。唯一、考えが読めない人間という特徴があるのだが、秋人だけは読めている様子で、まるで歳の離れた兄弟のように仲がいい。

 「202号室は女性が使っていたんだが、別のマンションに引っ越したから現在は空室。丁度ナオのいた部屋だから居心地いいだろ」

 「そうね。別の部屋に入るよりは安心出来るかも。……でも男性が近いのは少し不安」

 すると誰よりも同じ女性の春姫ちゃんが笑った。

 「あっはっはっ、あたし二年いて、一度もそういう匂いを嗅いだ事ないですよ。この二人にそういうのは期待するだけ無駄無駄!」

 辛辣だが、それだけ二人を信用しているという事だ。勿論私も男二人はしっかり信用している。むしろその気がなさ過ぎる気もする。


 「……えっと、すみません。折地彼方さん……本名ですよね?」

 「そうですけど?」

 三人がなにやらヒソヒソ。一方恵理朱は全て分かっている様子で笑いを堪えている。

 「えっと……いえ、なんでもないです」

 結局言わないサイキ。すると恵理朱が代弁。

 「えーとね、折地さんの名前って僕達の世界では別の意味の言葉に聞こえるんですよ。それが……その……ふふっ」

 笑いを堪えるので手一杯の恵理朱。子供達三人もである。

 「んー笑われるだけなのは気悪いなー。いっそ言ってくれたほうがスッキリするんだけど」

 言葉の上では怒ってる様子だが、実際にはそうではないだろう。折地君は大抵言葉と感情とが合わない人なのだ。

 「ご、ごめんなさい。んと……ふふっ、男色趣味っていう意味なんですよ」

 「だ……ええーっ! じゃあ恵理朱ちゃんずっと……」

 「あー違う違う。もう切り替えてたから何とも思ってませんからね。ただお姉ちゃん達のせいで思い出しちゃって、つい笑っちゃったって感じ」

 溜め息を吐きながら呆れた様子の折地君。

 「言っておきますけどね、俺そういうのないですから。女の影がないからって男好きって訳じゃないですから。ちゃんと女好きですからね」

 「あーはいはい。というか折地君はどちらにしろそういうのに興味なさそうだよね」

 「……まあそうですね。昔から恋愛感情がないんですよ。だから俺が夜這いして襲うなんて事もありませんよ」

 これでナオも笑顔を見せた。やはり不安だったのだな。


 その後はこちら三人……正しくは春姫ちゃん一人が一方的に質問攻撃を繰り出し、晩飯を終えて気付けば夜の十時である。

 「最後に、両者顔合わせしてみてどうだった? 簡単な感想でいいぞ」

 相性もあるので、一応聞いてみた。

 「わたしは……安心した。工藤さんの選んだ住人だから変な人ではないとは思っていたけれど、それでもちょっと不安があったから」

 「私も同じ。やっぱり私達は特殊ですからね、受け入れてもらえないかもしれないっていう不安があったのよ。でも杞憂だったわ。一週間だけですけど、その後は工藤さんを一ヶ月お借りしますけれど、よろしくおねがいします」

 こちら二人は問題なしだな。

 「それはこちらこそだよね。あたし達も安心しました。だって別の世界から来た人だよ? 自分があたし達の立場になったらやっぱり不安でしょ?」

 春姫ちゃんの言葉にあちら三人も笑い頷く。

 「……ただその、リタさん? の、それだけは慣れないですね。嫌な訳じゃないけどね」

 「あはは、それは当然だと思うから気にしないよ。むしろ妙な出方で申し訳ないくらい。二人の目線でもそっちの状況は把握出来るから、消してほしいならば遠慮せずに言ってくれて構わないからね」

 頷くこちら三人。リタはそこいら辺はしっかりしている。


 「さて男性二人は?」

 すると子供達の顔が若干強張った。やはり男慣れしていないな。そして男二人は譲り合う。結果、秋人が先に。

 「えっと、僕も安心しました。皆さん誠実で優しくて、しっかり考えていて。……うん。はい」

 あっさり気味の秋人だが、考えは三人の中で最もしっかりしている。その秋人がこの評価を下したのだ。それは二人も分かっている。

 「じゃあ最後に俺ですね。年齢も年齢なんで五年前の事は二人よりも強く頭に残っていて、あの時点で誠実な子供達だなという印象だったけれど、実際に会ってみるとそれがより強く感じましたね。……二人はきっと本人に対しての不安だと思うんだけど、俺はあいつらに対しての不安があるんだよね。ちゃんと確認したいんだけど、この一週間で五年前のあれが繰り返されるような事はないんだよね?」

 やはりその不安はあるか。そしてこれにはサイキが返した。

 「それはありません。侵略者は完全に無力化しましたし、奴らの控え室になっていた世界の狭間も奴らごと消滅したはずです。……なんかそう言われるとわたしも不安になっちゃった。リタ、本当に大丈夫だよね?」

 「あはは、あたしを信じなさい。計測しても、もう狭間も侵略者も存在しないという結果が出ているんだからね」

 「うん。リタが言うなら信じる」

 この言葉に皆も信じる事にした様子。


 すると春姫ちゃんが秋人に聞いた。

 「あたしは市外出身だけど、秋人はこの街で育ったんだよね? あの頃はどうだったの?」

 「うーん……確かに襲撃は頻繁にあったけれど、それでも皆さんは僕達を守り抜いて救ってくれました。だから僕としては、そういう意味での不安は一切ありません」

 「じゃー俺も不安なし! よく考えれば恵理朱ちゃんも含めて三人戦えるし、一人は世界一位で、一人は槍の一位で、一人は剣道の達人だもんな。何の心配もいらねーや。はっはっはっ」

 明るく笑う折地君。皆の不安も払拭出来た様子。

 「あ、あの、一ついいですか?」

 「秋人が自分から出てくるなんて珍しいな」

 「はい。えっと、話を聞いた時から言おうと思っていたので。えっと……僕が代表でいいのかなとは思うんですけど、五年前にですね、命を懸けて街を守っていただいた事、僕達は本当に感謝しています。今でも、いつまでも忘れません。ありがとうございました」

 隣の二人も秋人に合わせて頭を下げた。そして張本人の四人は……。

 「ううん、本当に感謝するのはわたし達なんだ。こっちの世界の皆が受け入れてくれたからこそ世界が救えた。こっちの世界も、わたし達の世界も。わたし達は力を貸してくれた恩を返していただけなんだ」

 笑顔の四人。それに対してこちら三人も笑顔で返した。相性は問題ないな。これならば一週間楽しく過ごせそうだ。



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