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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
勇往邁進編
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勇往邁進編 12

 最終日前日。

 今日と明日は四人の友達が来て泊まる事になっている。恐らく子供達は何を言っても徹夜だろうな。四人は今か今かと待ちきれない様子。昨晩私に嘘を吐露したナオもである。少し安心。


 朝食を食べさせテレビを見ながらのんびりしていると、渡辺から電話。

 「朝にすまんな。明日だが、あの女性リポーターが来る事になった。お見送りは俺も行くよ」

 「了解、子供達に伝えておくよ。あーちょっと待て」

 子供達に、明日の見送りに特別に呼びたい人はいないか聞いてみる。

 「わたしは美鈴さんのご家族かな。あとはしこさん」

 「私は直嶋家の方々と、芦屋家のお爺さんも呼べれたらいいかな。青柳さんや孝子先生は言わなくても来るわよね」

 「リタは……今から血縁者の高木さんは無理ですよね。なので特にはいないです」

 「ぼくもいい」

 エリスは個人的な付き合いのある人物はいないが、リタは少々可哀想だな。友達以外に誰かいないものか。

 「分かったよ。芦屋家には工藤さんから迎えに行ってもらえるかな。そっちも車があるんだからこういう時には動いてくれよ」

 「ああ構わないよ。……あ、廃材屋と村田も呼ぼう。車直す時にリタと関わった二人だからな」

 「それもそうだな。廃材屋にはこちらから連絡するよ」

 後ろでリタも頷いている。やはりなるべく大勢に見送られたかったのだな。


 時刻はまだ朝の九時だが、早速訪問者。

 「おじゃましまーす」

 この元気な声は中山だ。

 「いらっしゃい。早いな、昼頃集合かと思ったのに」

 「本当は十一時集合だったんだけど、意表を突いてみましたー。でも早過ぎましたか?」

 「いいや構わないよ、今日は俺も一切予定を入れていないからね」

 そして数分、また来た。

 「お邪魔します。あい子はもう来ていますよね?」

 「いらっしゃーい」

 木村が到着。出迎えには中山が行った。

 「やっぱり。あい子の事だからそうだと思ったんだよね。後は私が手綱を引きますからご安心を」

 「ははは、これは頼もしいな」

 一人よりも二人。場の雰囲気が一気に明るくなった。


 結局それから三十分もしないうちに全員揃った。男子コンビが先に来て、相良と泉はまた一緒に来た。この二人もすっかり仲良しだ。

 「あ、リタちゃんに頼まれていたのだけど、こんな感じでいい?」

 最上がリタにデジタルカメラを渡し何やら確認中。

 「何やってるんだ?」

 「資料として、女の子の部屋は見たですけど、男の子の部屋は見ていなかったですよ。なので最上君と一条君に頼んで、自分の部屋を撮影してもらったです」

 「なるほどな。しかし家には上がらせなかったんだな」

 すると男子二名とも恥ずかしそう。

 「いやー……普段かなり荒れた部屋なんで。さすがにそれを資料にされちゃうと……それに、年頃の娘さんを男の部屋にっていうのは、ね?」

 「あっはっはっ、そうだな。俺も身につまされるよ」

 一条の話には私も共感出来る。特に学生時代など部屋を片付けた事すら稀であり、それこそ年末大掃除くらいであるし、そんな部屋に、種族の上では成人していても見た目まだ子供のリタを上げるなど、私ですら嫌だ。


 「じゃあ美鈴さん、剣道対決の最後、何が起こったのか説明して。わたしも考えたけど結局分からないんだ」

 「うーん、そうだね。すみませんけど竹刀代わりになるようなのありますか?」

 「竹刀代わりか。ちょっと待ってなさい」

 二階の納戸を捜索。確かつっかえ棒的なものが……あった。丁度二本。

 「これでいいかい?」

 「オーケーです」

 二人に渡すと早速向き合い本番のような雰囲気に。

 「一応言っておくけれど、壁や天井に穴空けたら弁償させるぞ」

 「あはは。大丈夫、本気で振るなんてしないですよ」

 竹刀なだけにか。ともかくあの時の再現が始まった。サイキはしっかり服装まで変える。

 まずはサイキが突きを入れようと動く所だな。

 「はいそこでストップ」

 「え? 早くない?」

 「所がね、この時点でサイキの負けは八割九割決まっていたんだよ」

 相良の言葉に観客と化していた我々も含め皆驚いた。だってまだ構えたばかりだぞ?


 「人ってのはね、どこに向かうかが目に出るんだよね。あんたその服になったおかげで目線が一目瞭然なんだよ。それで目線があたしのへその位置に動いたから、あーこれは突きを狙うなと分かったんだよね」

 「……勝てる気がしない。わたしなんで一本取れたの?」

 「それは後で。サイキ、その装備のまま突撃動作をしてみな」

 サイキは言われた通りに、あの時にした物理法則を無視したような急加速をした。勿論狭いので一瞬だけ。

 「はい、分かる人?」

 相良は我々にも話を振るが、これだけで何かが分かってたまるか! ……と思っていたのだが、しかしナオは気付いた様子。さすが実力のある兵士だ。

 「正解かは分からないけれど、蹴り出すのに少しだけ姿勢を下げたわよね」

 「そう正解。サイキの装備がどういうのかは、あたしはいまいち分かっていないんだけど、それでも必ず予備動作ってのはある訳。その服装になると体のラインが出て予備動作がよく分かるから、実はその格好、剣道においては弱体化しているんだよ。剣道で本当に強い人って、予備動作がほとんどないからね」

 これを聞いてサイキはおろかリタまでもがっくりと気を落とした。自分の作ったもので実は弱体化していた、なんて言われればそうなって当然か。

 「リタちゃんまで凹む必要ないよ。あくまで剣道での話なんだからね」

 しっかりリタの擁護もする相良。出来た子だ。


 「じゃあ本番。動きを再現するからゆっくり突きの動作をしてみて」

 「うん」

 サイキは言われた通りゆっくりと突きの動作。すると相良はギリギリで避けつつ、手首で竹刀代わりのつっかえ棒を後方へと回し、そしてそのままぐるっと一回転。

 「はいストップ。どう? あたしほとんど動いていないでしょ?」

 「確かに、避けるために体の向きを変えたくらいだな。しかしゆっくりだからじゃないのか?」

 すると相良に笑われてしまった。

 「あはは、気持ちは分かるけれど、さっきの予備動作から突きの軌道が読める。だから避けるの自体はそう難しくなくて、要領が分かればエリスちゃんでも出来るよ」

 エリスでも出来ると言われては何も返せない。

 「そして、分かる? このまま振り上げると、サイキの棒を弾き飛ばすコースなんだよね。しかも手首に近い部分だから衝撃が手に一点集中する。つまりよほど強く握っていない限りは弾き飛ばせる。サイキの竹刀を跳ね飛ばしたのはこういう事」

 すると相良は実際に振り上げ、サイキの持つ棒を軽く弾いた。そしてサイキは思わずつっかえ棒を落としてしまった。お見事。


 「最後に竹刀を飛ばしてからどう小手を打ったかだけど……もう一回ね」

 先ほどと同じ動きをし、サイキの手首が上を向いた。そしてその手のすぐ目の前には相良の持つ竹刀代わりのつっかえ棒。

 「ね? 簡単でしょ?」

 「……どこがあっ!!」

 思わず叫ぶサイキ。そして皆大笑い。

 「ここまでの動作を、大体一秒……も無いかな。それくらいの時間で完了させたのが、あの動きなんだよね。どう?」

 「うん……わたしの剣士としての自信の全部を、欠片もなく粉砕された気分。何わたし、こんな化け物に勝とうとしていたの?」

 「あっはっはっ! その化け物から一本取れた化け物はどこの誰よ?」

 お互い化け物と罵り……この場合は褒め合っているのか。


 「サイキがあたしに勝てた要因だけどね。サイキだからこその動きをしたからだよ。サイキの特殊な体じゃないと、あのとんでもない動きは出来ないでしょ? その差で勝ったっていう事」

 「でも真似された」

 少し頬を膨らませるサイキ。しかし相良は冷静だ。

 「中途半端にね。あれ以上はあたしの体が持たずにどこか怪我していたはずだよ。だから無意識にブレーキがかかって、あたしですらサイキの空振りに合わせられなかった」

 相良の真剣な表情に、頬を膨らませていたサイキも真剣に。

 「正直ね、羨ましい……とはちょっと違うけれど、サイキはあたしにとっては少なからず憧れの対象なんだよ。人間を超越した動き、一度でいいから自分でやってみたい。あたしだけじゃなくてね、あんた達の世界の兵士も同じ事を考えるよ」

 「……それはない。わたしの動きは卑怯な手段で手に入れたものだから、命を懸けて戦う人達には受け入れられないはず」

 「あはは、そうかもね。でもそうじゃないかもしれない。ナオちゃんはどう思う?」

 「羨ましいに決まってるじゃない」

 即答だ。

 「でもそれはサイキの厳しい過去と、人体改造による弊害と、並々ならぬ努力を知っているからこそよ。それを乗り越える勇気は私にはないわ。だからこそ僻みへと変わってもおかしくない。……いえ、やっぱり私に聞いちゃ駄目よ。私情を挟んじゃうもの」

 「でも羨ましいんでしょ?」

 「ええ。最初あの動きを見た時は、やっぱり自分の姿を重ねましたからね」

 そう言うと笑顔を見せるナオ。

 「サイキはもっと自分に自信持ちなさい。いい? サイキはあたしから一本取ったんだよ。ナオちゃんからも羨ましがられているの。それを自信にしなさい」

 小さく頷くサイキ。相良はそんなサイキの肩を叩いた。

 「サイキの強さはあたしが認めてあげる。それを原動力にね、帰ってからも日々精進しなさい。五年後、待ってるよ」

 「……うん。じゃあ五年後」

 「うん。五年後」

 私が羨ましく感じるほどに、この二人の絆は強固だ。遠い従姉妹、剣道の師弟、そして無二の親友。見事だ。



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