勇往邁進編 7
朝四人を送り出した所で、孝子先生経由で学園長から電話。
「事後で申し訳ないのですが、本日終業式の風景を撮影するために、テレビカメラが三台入る事になっております。よろしいでしょうか?」
「それは構いませんが……つまりとっくにマスコミに学園が見つかっていたと」
「少し違います。超大型種との戦闘時、窓から飛び出す四人を目撃したマスコミがいたようでして、そこで初めて確信をしたという事です。そして先方も我々の事を理解していたようでして、大事にはせずに、しかしせめて最後だけは撮らせてほしいと、そういう事でした」
なるほど、普段はどんな事でもスクープだと言って槍玉に挙げる連中でも、さすがに遠慮したという事か。
「もう一つ。お三方の学生服姿も最後でしょうから、終業式をご覧になられてはと思いまして。それに恐らく、何か一波乱ある予感もします」
「一波乱……ああ、ははは。あいつならやりかねないな。分かりました。……ついでなので自分以外の保護者二人、刑事の青柳と高橋も呼んでもよろしいでしょうか?」
「うーん……刑事さんですから変な事はしませんよね。よろしいですよ」
これで青柳と高橋にもいい思い出が出来るだろう。
返し青柳へと電話。
「……面白そうですね。分かりました、我々も同行します。集合は学園でよろしいでしょうか?」
「ああ、そうしよう。それに何かあった場合、その場で解散出来るからな」
話をつけ、早速出陣だ。
学園裏の駐車場へと到着。丁度覆面パトカー二台も到着。
「まだ登校している学生もいるし、俺達のほうが早く着いちゃったかもしれないな」
「時間的にそれはないと思いますよ。まずは……職員室ですかね」
という事で裏玄関から入り、来客用スリッパに履き替え職員室へ。
「そうだ、学生っぽく入ろうか。挨拶が出来ていないとうるさいオッサン先生に怒られたっけ。もう何年前の話だろうか」
「いいから早く入りますよ」
乗ってこない青柳。つまらん奴め……と思ったらノックをして頭を下げ「失礼します」と。まさか先にやられるとは思わなかった。
「あ、ごめんなさい先に学園長室に行ってもらえます?」
「はーい」
という事で職員室をさっさと後にして学園長室へ。話は簡単なもので、あまり勝手に出歩かないように、という内容であった。その後、教室は分かっているので覗かせてもらう事に。
一年B組の前へ。以前とは別の、後ろ側のドアから中を覗いてみる。
「……ナオ泣いてる」
「どれどれ……本当ですね」
「本心では帰りたくないのを隠していたけれど、溢れ出しちゃったのかな」
気付かれないようにと大の大人三人がコソコソしている光景は、さぞ滑稽であっただろうな。そんな事をしていると孝子先生に見つかってしまった。
「あの子達にとっては卒業式も同じだから、仕方がないよ。それじゃあ大人しく体育館に行って下さいね」
「はーい」
と、学生気分の返事をして移動。
体育館に着くと、ハゲ頭の教頭先生が二階へと案内してくれた。
体育館の二階なんて滅多に来れない体験だな、等と思っているとテレビカメラが三台。カメラマンに挨拶ついでに我々の事は映さないようにと念を押しておいた。我々はそこから離れ、後方角の辺りに陣取った。
生徒達が入ってきて、まずはカメラを探している。すると一人私に指を差してきた。リタだ。二人も振り返ったので軽く手を振っておく。
「工藤さん」
「うん!? ああエリスか」
てっきり下で学生達に混じるのかと思っていたら、私のすぐ横にいた。
「エリスも向こうに並んでもいいんだぞ?」
「……ううん、ぼくはここでいい。ぼくは正式じゃないし、それに今はおねえちゃんたちを見ていたい」
「何だ妙に大人しいな。何か思う所でもあるのか?」
この子がこういう行動をした時には、何かしら理由があるのだ。
「いーわないっ」
一方エリスは悪ガキが友達に隠し事をするかのような笑顔を見せてきた。サイキが式に乱入する事は考えていたが、まさか妹までやらかすんじゃないだろうな? 不安になってきたぞ。
途中彼女達への言葉とも取れる学園長からの式辞もあったが、特に混乱もなく式は滞りなく終了。
「おねえちゃん動くよ」
というエリスの声と共に、サイキが壇上へと走り、人の領域を超えた跳躍力を見せ、マイクを奪い取った。
「はっはっはっ、やっぱりな。それでこそサイキだ」
「予想通りの展開ですね。相手の相良さんも予想済みという所でしょうか、驚きもせずに余裕ですよ」
その後は学園長公認となり、剣道対決の準備開始。
剣道着一式を身に纏った二人。サイキもすっかり様になっており、苦もなく着こなしてみせた。学生達は場所を取り、前にいる子達は座り、しっかり観戦の体勢を整えているのが面白い。
「ねえちょっと」
と、ナオに声をかけられた。何かと思ったらリタも来て翼を出し、私達と目線の高さを合わせた。
「いいの? あれ」
「学園長がいいって言うんだからいいんだろうな。むしろお前が飛んでいる事のほうがいいのか聞きたいよ」
するとエリスが一言。
「ぼくが許可取っておきました」
「いつの間に!?」
そこにいた全員の声が合った所で、準備が整った様子。二人は降りて観戦開始。ふとテレビのカメラマンを確認すると、それはそれは真剣な表情で撮影していた。我々は少し場所を移動し、より見やすい位置へ。
見合った二人。審判役の教師が二人にルール説明。
「ルールは二本先取の三本勝負。分かっているとは思うけれど、戦闘用の装備は使わないように。いいね?」
無言で頷くサイキ。これは気合が入っているなあ。
「では一本目、始め!」
こうして戦闘狂対女流剣士という遠い従姉妹同士の対決が始まった。
開始と同時に相良が速攻を仕掛けた。しかしサイキも成長しており、これをしっかりと受け流してみせた。それだけで歓声が沸くが、ほんの序の口だろうな。
「エリスとしてはどちらが勝つと思う?」
「美鈴さん」
おっと即答だ。
目線を試合に戻す。サイキは相良の出方を覗う反撃型で対抗するつもりの様子。相良もそれが分かっているからなのか、慎重な動きを見せている。しかしじっと我慢する事はあまり得意でないサイキ。相良があまり動かない事に痺れを切らしてきたのが分かる。
「そろそろ突っ込んで行って逆に討ち取られるんだろうな」
「うん。だからおねえちゃんは勝てないよ」
先ほどの即答は、姉の事ならば何でも分かると豪語したエリスならではの読みだった訳だな。
やはり先に動いたのはサイキだ。先ほどまでの反撃型から少しずつ前へと出ての攻撃型へと変わった。すると相良もそれに応じ叩き合いへと移行。両者共に気合の声を飛ばし、それ以上に大きく竹刀のかち合う音が響く
一瞬だが、面の隙間から相良の口元が見えた。笑っていた。この剣の速さで、この打ち合いの中で、それでも笑えるほどの余裕を持ってサイキと対峙しているというのか。
「相良さん、ありゃ化け物だな。サイキ以上の化け物だ。サイキは一本でも取れれば大勝利だな」
「ああいう強い女の子が警察に来てくれれば、逮捕の時に女は下がっていろだなんて言われずに済むのになあ」
「経験ありか」
「最初の頃にね。でもあれは私のミスが原因。……そろそろ決まるよ」
高橋の言葉通り、サイキが前へと出過ぎた。さすがにそれを察知する力も身に付けてはいるが、そこは相良のほうが何枚も上手。下段を狙われ回避のために動いた所を胴に一発。
「相良さんは本当に強いですね。サイキさんは一杯一杯の動きも見受けられましたけれど、相良さんは全ての動きで余裕を感じさせましたから。またそれ自体もサイキさんへのプレッシャーとなって、より自身に有利に働く」
青柳からの解説が入った。
「でもおねえちゃん、次は取るよ」
「おっ、エリスはそう読んだか」
するとエリスはサイキへ向けて声援を送った。
「おねえちゃん! ぼくが後ろにいるよ!」
サイキは振り返り軽く手を挙げた。これはこれは、妹の応援でエネルギー充填300%かな?
「最初はスポーツとして美鈴さんと戦ったけれど、ここからおねえちゃんは命懸けの戦闘として戦うはずだよ」
「……それ相良さん危なくないか?」
「いくらおねえちゃんでもそれくらい分かってるし、竹刀じゃそこまでの力は出ないはずだよ。だから大丈夫」
姉妹の信頼のなせる業かな?
「二本目、開始!」
「たああっ!」
開始の掛け声と同時にサイキが突っ込んで行った。そして乱打乱打乱打。さすが戦闘狂なだけはある、一切相手に手の出せる余裕を持たせない、自身の防御など眼中にない一心不乱の攻撃である。有効打こそ奪えないが、明らかに押せている。
サイキが更に動いた。正面からだけではなく、左右へと揺さぶりながらの乱打を開始。
「ここからだよ」
まるでエリスの言葉が合図であったかのように、サイキは剣道とは違う実戦そのままの鋭い動きを見せ、相良の剣を紙一重でかわし地を這うかのようなほどに姿勢を下げ、竹刀を片手持ちに変え、床に手を突きながら一気に跳ね飛んだ。
「胴っ!」
体を捻り回し片腕で竹刀を振り抜く。一瞬のとんでもない動きに相良も反応が出来ず、ついにサイキが一本を取って見せた。その瞬間上がる大歓声。
すると相良は大笑いをしている。すごく嬉しそうにも見える。そしてそれよりも喜んでいるのがサイキだな。両手を上げくるくると回っている。あれは完全に三本勝負というのを忘れているな。
「うん、次はおねえちゃん負ける」
そしてこの冷静過ぎるエリスの予想である。
後に本人が語った所によると、このとんでもない動きはサイキの身体だからこそ出来たかなり強引な動きであり、普通の人間ならば怪我は必至。ならば相良は対応出来なくて当然……とは行かないのが化け物同士の対決である。
さあ、そして最後の三本目である。




