勇往邁進編 2
悲鳴音が聞こえたので四人と刑事コンビと接続。
「どんな塩梅だ?」
「えーっと……いつもの癖でわたしが言っちゃってもいいのかな? 北に赤鬼セットが二つ分だけ。四人で来たけど大袈裟だったかも」
「念には念をって事でいいだろ」
正直な所、安心した。もしも小型黒や中型白でも出てこようものならば、怪我をさせたまま子供達を帰す羽目になりかねない。
「エリスはやる事分かっているな?」
「うん。動けないようにしておきます。自分から手を出すのはダメ」
「分かっているようでよろしい。お前も一つ成長したな」
「えへへ」
相変わらず可愛い。
「相手は合計十体。エリス、全部狙って封殺出来るかしら?」
「ちょっと待って……」
「無理ならばいいのよ? ビット程度ならば余裕ですからね」
そういう事を言っていると足元をすくわれるのだがな。まあナオには今更な話か。三人はエリスを置いて先に現場へ。エリスは相変わらずブースターがないので後方から。
「……うん、十体全部一斉に止めるよ!」
「自信満々ね。お手並み拝見と行きましょうか」
エリスから赤鬼の姿はギリギリで見える程度だが、それでも自信有り気である。何かいい事でもあったのかな?
「せえーのっ!」
とエリスが一言、先行していた三人の視点では、宣言通り見事に赤鬼達十体を防壁で動けないようにしてしまっている。
「敵を包むように防壁を一気に十枚……エリスはリタの予想を軽く超えてしまうですね。本当にこの姉妹はどうなっているですか?」
呆れたような声のリタ。
「あはは、わたしは我慢と努力と何かが壊れた結果だけど、エリスは才能だよね」
自ら壊れていると評するか、この戦闘狂は。すると更にエリスに指示を飛ばした。
「エリス、どうせならばそのまま握り潰しちゃってもいいよ」
「うーん……じゃあ、小さいのだけ」
遠慮したのか限界を感じたのかは分からないが、その言葉通り赤鬼ビットを挟み潰すエリス。これで一気に八体撃破。唯一の問題は、赤鬼ビットと言えどもかなり痛そうである事。生き物相手には絶対禁止だな。
「リタは待機警戒するですから、残りはサイキとナオに任せるですよ」
「了解」「分かったわ」
二人が手に取ったのは、両者共にこちらの世界に持ち込んだ武器。エリスは二人の攻撃を見てしっかりと防壁が邪魔にならないように解除。
「うりゃっ!」「いよっ!」
という事で二人同時に攻撃、戦闘終了。
「そうだ、今のうちになんだけど、放課後皆の家に遊びに行きたいんだ。半分は調査目的だけど。可能かな?」
「うーん……用事がない訳でもないから、遅くても四時までには帰ってくるように。それと明日は帰ってきたらほぼ丸一日中警察署に缶詰だ。覚悟しておけよ」
「はあーい」
戦闘以外での気の抜けた返事は相変わらずだな。
予定が少し変わってしまったが、子供達が笑顔になるのであれば誰も文句は言うまい。既に住人達から、技術ではなく紙面で彼女達に渡せそうな知識を募集している。幾つかの情報は入ってきてはいるのだが、彼女達に必要か不要かの選定をしてもらわなければいけない。
ついでなので私も頭を捻りながら料理のレシピを書いてはいるのだが、如何せん文字に起こす作業はずぶの素人。中々前に進まない。
「ただいま。子供達はまだですね」
「お、おかえり。もうそんなに時間経ったか」
先に青柳と高橋が来た。
「話は聞こえていましたから、戦闘の報告は子供達が帰ってきてからします。といっても被害全くのゼロですけど」
「ははは、エリスがかなり遠くから敵を閉じ込めて圧殺したからな。あの才能は帰ってからもきっと大いに役立つだろうな」
すると高橋が渋い顔。
「リタちゃんは帰ると兵士のサポートに回るっていう事だけど、きっとエリスちゃんも戦場からは遠のくと思うよ。というか、サイキちゃんが許さないと思う。こっちでエリスちゃんが戦場に立つ一番の理由って、人不足だからでしょ? でも戻ればそうじゃなくなるし、戦場自体もこっちとは全く違うだろうから、エリスちゃんの力が役立つとは思えない。それはサイキちゃんもエリスちゃんも分かっているよ」
そう言われてしまうと納得せざるを得ない。
確かにあちらの戦場は一週間出ずっぱりは当たり前、一ヶ月ずっとという事もあるらしいので、そんな戦場にあの幼いエリスを放り込んだ所でどうにかなるとは思えない。しかしこれに関してはリタが改善に意欲を燃やしているのも事実。どうなるのかは私には分からないが、期待は出来る。
するとサイキ達から連絡が入った。
「どうした?」
「えっと、今日の晩御飯なんですけど、わたし達のリクエストを聞いてほしいなって。晩御飯、後三回ですよね? 明日はきっと疲れてそんな余裕ないし、明後日は皆来るからリクエストは出来なさそうだし。お願いします」
「ああなるほどな。……足りなさそうなものがあったら各自買ってこいよ」
「うん、分かった」
電話を終わると青柳と高橋は、子供達への報告を私に任せ、帰ると言い出した。
「いいですか? 私達は気を使っている訳ではありません。残り三日、少しでも家族水入らずの時間を作ってあげよう等と殊勝な心掛けをしている訳でもありません。単に仕事を思い出しただけですから、勘違いしないようにして下さい」
「ははは、分かったよ」
これが最近よく耳にする……何て言ったかな? ともかく面白い奴だよ、青柳は。
一方の子供達視点。
子供達は現在木村の家にお邪魔中。友達はそれぞれ自宅待機、四人が各々回るという計画である。
「リクエスト大丈夫だって」
「あのご主人さんなら嫌だとは言わないでしょ」
「あはは、確かに」
木村の部屋は、ザ・女の子という雰囲気。しかし押入れを開けると……。
「あー、本当に飛行機関係の本ばっかりね」
本をぱらぱらとめくるナオの目に留まったのは、一つのモノクロ写真。
「ライトフライヤー?」
「それがこっちの世界……というか、この星で最初に飛んだ飛行機」
「ふふっ、変な形。よくこんなので飛ぼうだなんて思うわね」
そのナオの一言に、一番に反応したのはリタだった。
「これこそ技術の原点ですよ。リタ達の世界だって、ずっとずっと昔にはこういう形の飛行機が空を飛んでいたはずです。リタ達が何故世界を救える力を持っていると思っているですか? こういう原点に立つ技術者の血と汗と涙のおかげですよ。それを嘲るなど言語道断です」
リタの語気は淡々としたものだが、それがまたその怒りを感じさせる。
「ごめんなさい」
そしてナオはあっさりと謝った。
「あはは、さすがリタちゃんだね。じゃあこれは知ってる?」
木村が見せたのは、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたヘリコプターの想像絵と、そしてお手製竹とんぼ。
「うーん、絵の装置は、発想は合っているですけどこれでは飛ばないですね。こっちは動力さえあれば飛ぶですよね」
「さすがにすぐ分かっちゃうか。ちなみにこの絵だけど、五百年以上前のものだよ。竹とんぼはもっと昔からあったみたい」
五百年前からと聞き、リタの頬が緩んだ。
「技術というのは最初はゆっくりとした発展を続けるですけど、途中からは一気に伸びるものです。その中で突然変異が起こると、新しい技術の発生に繋がるですよ。この絵はその突然変異を捉えているですね」
微笑のリタが、真剣な表情へと変わった。
「……リタも、もう一度頑張らないとです」
「あーえっと、今のままじゃもう戻ってこられないんだっけ?」
「そうです。最初工藤さんには五年で戻ると約束して、技術的問題が発覚して一時は諦めたですけど、でももう一度決めたです。五年で戻ってくるですよ。それもあって、五百年と聞いて少し親近感を感じちゃったです」
そう言いまた小さく笑顔になるリタ。それを見て木村は、その本と竹とんぼをリタへと差し出した。
「はい、あげる。私との思い出としても、そしてリタちゃんの決意の印としてもね。……あ、訂正。”貸して”あげる。だから五年後に返してね」
「……分かったです。この約束は違えないですよ」
笑顔でそれを受け取るリタ。
その後三十分ほど談笑し、次の目的地、近所に住む中山あい子の家へと向かう四人。ついでに木村も付いてきたのであった。




