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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 20

 子供達をカフェに送り出して数時間、私もエリスを連れて向かう事にした。最後のウエイトレス姿を目に焼き付けるためだ。ついでなので、そのまま皆で帰ってくるか。


 カフェへの道中、地元局のテレビクルーを発見。時間的にローカルの情報番組か。これはこれは……悪戯心が燃え上がる。念の為にはしこちゃんに連絡。

 「今そっちに向かう途中なんだけどな、テレビクルーを発見したんだよ。子供達が帰る日をどう伝えようか悩んでいたから、はしこちゃんさえ大丈夫ならば、あれを捕まえてそっちまで行こうと思うんだが」

 「うーん、つまり巻き込まれる訳ね。子供達が今日で最後だっていうのは聞いたけど……いいわよ、待っているわね」

 決まりだな。早速テレビクルーに逆取材交渉。またしてもあの女性リポーターだったので話はとんとん拍子に進み、あっさりと決定。子供達はどういう顔をするかな? 楽しみだ。


 子供達を驚かせる準備を整えると、私にもイヤホンを渡してくれた。これでスタジオの声が聞こえる。

 「……はい、という事でした。それじゃあ次は中継行ってみま……んえ? あ、えーっと先ほどとは場所を移したようですね。リポーターのまーちゃん?」

 「はあーい。えっとですねー、特大の情報が飛び込んできまして、我々は急遽移動、現在商店街まで来ていまーす。次のお店ですけど……先にこの方をご紹介しましょう。”あの”長月荘のご主人さんです」

 私まで巻き込まれるとは思っても見なかった。手招きされるので仕方がなく参加。仕方がなくとは言っても乗り気である。

 「はい、どうも初めましてー」

 「ねー私達も突然声を掛けられて驚いたんですけども。次に行くお店なんですが、実は、ですよね?」

 「実は、です。でも口コミでは結構知られているみたいですけど」

 という事でわざとらしく店内へ。入った途端の子供達の驚いた表情は素晴らしかった。

 「えっ!? ええっ!?」

 「私達を救ってくれた三人の子供達がお手伝いをしています、カフェ「ニューカマー」にやってまいりましたー」

 後ろから画面内にエリスも入ってきて、そのままサイキにくっ付いた。まるで姉妹の仲を自慢しているようである。

 「ちょ、ちょっと、どういうつもりよ?」

 「あの時は乱入されたから、今度は乱入し返しに来ましたー」

 「ははは、さっき偶然テレビクルーを見つけてな。お前達、皆に伝えなければいけない事があるだろう?」

 「でもお手伝いの最中よ?」

 するとはしこちゃんが出てきた。

 「はい、こちらが当店ご自慢のブレンドコーヒーでーす」

 やる事はしっかりやる。実にはしこちゃんらしい。その様子に子供達も了承済みである事を理解し、頷き整列。


 「えっと、皆さんのご協力のおかげで、なんとか超大型侵略者を倒せました。なので、後はわたし達は帰るだけなんですけど、……今週の金曜日に帰還します。そして帰還次第すぐに世界を密封する作戦を開始し、五十時間後にこの密封は完了する見込みです。なので月曜日からは、もう皆さんが侵略者に怯える事はありません」

 「じゃあ土日の天気が晴れならば何の心配もいらないという事ですね?」

 「はい、そういう事です」

 カフェにいたお客さんやはしこちゃん、それにテレビクルーも一緒に笑顔になった。

 「……ただ忘れないでいてもらいたいのが、わたし達が帰り、作戦が成功した場合、もうわたし達はこちらの世界には来られなくなります。そうなればもしもの事態が起こった場合、こちらの世界の力だけでどうにかしないといけません。そしてその猶予は一年と短いです」

 一層真剣な表情になる四人。

 「超大型戦でこちらの兵器も有効である事が確認出来たので、普通の大型種にも攻撃は通じるはずです。でもずっと継続して戦うというのは難しいと思います」

 サイキはリタの顔を見やった。リタはそれを確認し軽く頷いた。

 「えっと……わたし達のこの作戦を、無責任だと感じる方もいると思います。わたし達だってもっとずっとこっちにいたいけれど、そうは行かないんです。ごめんなさい」

 密封作戦は遂行出来ても、その結果を確認出来ないという技術的な問題点を、無責任と感じるか否か。それを問うために技術者たるリタに、話をしてもいいのか了承を取った訳か。

 「僕はね、そもそも皆さんには責任はないと思いますよ。だって、侵略者が来たのと皆さんが来たのとは無関係なんですよね? だったらそこに責任は生まれないですよ。むしろ僕らの問題を肩代わりしてくれて、しかも解決までしてくれたんだから、感謝しかありませんよ」

 スタジオの司会者からの言葉に、意外そうな表情からすぐに笑顔になる四人。


 この話は終わり、リポーターはお店の話に切り替えた。

 「金曜日に帰るっていう事は、お店にはいつまでいるんですか?」

 「お店の手伝いは今日で終わりなんです。明日以降は帰還準備できっと忙しくなりますし、何もせずに過ごす日も一日くらいはほしいので。……それでも、わたし達がいた証拠はお店のあちこちにあります。わたし達がいなくなっても、カフェ「ニューカマー」をよろしくお願いします」

 「あはは、はい。しっかりと宣伝もいただきました」

 後は特別出演の私とエリスが食リポなるものに参加、私は素人なのでボロボロだったが、エリスはしっかり感想を言ってのけ、全員を驚かせ取材終了。


 「飛び入りで予定変更させてすみませんでした」

 「いえいえー。実は取材予定のお店が直前でNGになっちゃって、引き上げるかどうか迷っていたんですよ。なので万々歳、です」

 それを聞き一安心。

 「でも本当に帰っちゃうんですものね」

 「帰っちゃうし、もう戻ってこられないんですよ」

 「……心中お察しします」

 「ははは……」

 その後はついでだからとテレビクルーの皆と記念撮影。はしこちゃんとも、そして私とも。その場で確認させてもらえたのだが、皆とてもいい笑顔だった。帰るまでには現像を終わらせて人数分送ってもらえるとの事。

 ゲート通過中に写真が消えたり等大丈夫かと思ったが、リタ曰く不安定な部分はほぼなくなったので、問題ないとの事。何よりものお土産になりそうだな。


 そろそろ店仕舞いの時間。あの後常連さんが三人の最後のウエイトレス姿を見に来たりもしたが、現在では客は私とエリスのみである。

 「いよーし、それじゃあ今日は営業終了しましょう」

 「はあーい」

 返事はいつも通りの気の抜けた感じ。閉店準備を済ませ、三人は丁寧に畳んだエプロンをはしこちゃんへと返す。私とエリスはその光景を静かに見守る。

 「半年間という短い期間でしたけど、……色々あって一週間全部出られた時のほうが少なかったけれど、本当に楽しくて、忘れられない経験が出来ました。本当に感謝しています。ありがとうございました」

 「いいえ、こちらこそ普通の人では味わえない貴重な体験を色々させてもらえて楽しかったわ。おかげでこの半年間、皆が来る前と比べて、三倍の売り上げだったのよ。感謝するのは私のほうよ」

 するとはしこちゃんはちらっと私を見た。

 「ふふっ、今だから言いますけれど、最初工藤さんから電話があって「変な子供を拾ったんだが、そっちで働かせてはもらえないか?」って言われた時は、本当に困っちゃったわ。でもいざサイキちゃんを見た時、ああこの子はうちで働くべきだって、女の直感が働いたのよ。ナオちゃんが来た時もリタちゃんが来た時も同じ。何せ長月荘の縁ですもの」

 当時の私は変な子供なんて言い方をしたのか。……間違いない、変な子供だ。


 「一番最初の襲撃の時ね、青い顔をして突然に店を放り出し走っていったサイキちゃんを見た瞬間、あの時に私は気付いたの。この子は世界を救うために来たんだってね。どう? 私のカンは大正解だったでしょ」

 笑いながら頷くサイキ。

 「……だからね、私はあなた達の味方になると決めた。あなた達が自分から帰ると言う時まで、手放さないと決めたの。まあ、最初にお店の中で剣を出された時は、さすがにどうしようかと思っちゃったわ。でも、それも面白いかなって。それに、レディースになって木刀を振り回す娘に比べれば安全そうだったし」

 すっかり笑い合う三人とはしこちゃん。しかし子供達の瞳には、涙が光る。

 「あなた達は、本当に楽しそうに働いてくれた。結構辛い出来事もあったんじゃないかって思うのよ。それでも笑顔でいてくれて、しっかり働いてくれた。それがとても嬉しかった。あなた達にとっての大切な場所になれている事が、これ以上なく嬉しかったのよ」

 するとはしこちゃんは、三人から返されたエプロンをまた三人へと渡した。

 「これはあなた達がカフェ「ニューカマー」のウエイトレスである証です。辞めるなんて勿体ないから、長い休暇を取るっていう事にしてあげるわ。……だからね、いつか帰ってきなさい。帰ってきて、そのエプロンを私に渡して、こう言いなさい」


 「クリーニングに出して下さいって」


 涙を堪えられず聞いていた子供達だったが、締めの一言で大笑い。

 「あっははは! 何でそこでクリーニングなのよ全く! せっかくの涙が引っ込んじゃったじゃない!」

 「あはは! でもすごくはしこさんらしいなあ。このお店には涙は似合わないもん」

 「あっはっはっ! これはすごく重大な注文になっちゃったですよ!」

 リタがここまで大きく笑っているのは珍しい。そしてそれが一段落すると目付きが変わった。


 「工藤さんには最初、五年でどうにかすると言っていたですよ。でも今回の作戦で世界を密封してしまうと、リタ達の持つ技術力ではその密封を破れなくて、それを五年でどうにか出来る可能性なんて1%にも満たないです。計算結果がそれを示した時、リタは諦めてしまったです。……でも決めたです。0%でない限り、ううん、例え0%だとしても、それを打ち破ってみせるです。リタのこの決意は、何があっても0%にはならないです」

 するとリタはどこから持ってきたのか白衣を纏い、そのポケットに手を突っ込んだ。

 「改めて約束するよ。あたし、セルリット・エールヘイムは、五年でこの密封を突破してみせる。そして工藤さんをあたし達の世界へと招待可能にしてみせる。期待して待っていな!」

 このリタの決意は本物だと、そう思わせるだけの気迫がある。わざわざ口調を変え白衣を纏ったのも、研究者としての本気の決意である事を示すためだろう。

 「ならば一つ注文をするか。五年後、皆揃ってまた俺の前に立ってくれ」

 「かしこまりました!」

 三人とも元気に私の注文を受けた。これで私の楽しみが復活だ。


 はしこちゃんに別れを告げ車へ戻る。

 「工藤さん、ちょっと……ごめんなさい」

 「うん? どうした?」

 「……うん……なんか、本当に……本当にっ……」

 後部座席のサイキは手で顔を隠してはいるが、その隙間から涙が零れ落ちている。カフェを後にした事で別れを直視せざるを得なくなり、その感情が涙となってあふれ出てしまったのだろう。

 ……よく見ればナオもリタも顔を伏せ私に気付かれないようにと声を押し殺し泣いている。ならば私はただ無言で運転するのみ。


 帰りSNSを確認。やはりローカル番組だったので見た人もいれば見ていない人もいる。

 「明日には全国ニュースでやるだろ」

 と書いておく。

 「そうだサイキ、剣道場はどうするんだ?」

 「今日行って考える」

 声が沈んでいる。仕方ないか。そんなお姉ちゃんにくっ付くエリスだが、こちらはあまり別れを寂しがってはいない様子。一番現実を受け入れられていないのはエリスなのかもしれないな。

 その剣道場だが、帰ってきたサイキから、明日で終わる事にしたと話があった。一言報告を終わりそのまま部屋へと戻っていった所を考えれば、子供達にとっては今が一番辛い時期なのだろう。

 そんな事を思いつつ、この日は終わった。



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