学園戦闘編 4
今日は彼女達の編入テストの日である。天気は快晴。連中に邪魔される事はなさそうだ。
朝食中に青柳から電話が入る。昨日の三点同時攻撃の報告だ。
「三地点において、死者及び重体はゼロ人。重傷が二人、軽傷が九人です。物損被害は外壁やガラス窓の損壊が十六件。許容範囲でしょう。彼女達の目撃証言ですが、サイキさんは夜間の工業地帯だったのでゼロ。ナオさんは三人、リタさんは七人。リタさんの目撃数が多いのが少し厄介ですね。報告は以上です」
ほっとする三人。しかしリタの目撃者が七人か。夜間だったとはいえ、目立つ容姿なのだから少しでも人目は避けたい。
また渡辺に隠蔽を頼まなくては……そう思っている所に都合よく渡辺から電話が来た。
「そろそろサイキちゃんが来てから一ヶ月だろう? 武器の技術収集って進んでいるのか気になってな。そもそもどういう武器がいいんだ? 画像だけでいいならネットの動画でも色々あるだろう?」
残念ながら武器の技術収集は進んでいない。一般人である私にそんな武器の知識など無いからだ。せいぜい自衛隊が銃を持っているくらいの認識である。どういう武器がいいのかについてはサイキから渡辺に説明してもらうか。
「武器ならとにかく何でもです。剣・槍・銃以外でも勿論構いません。でも画像だけでというのは無理かな。内部構造を把握する為に、全体を一度スキャンする必要があります。ただ、剣や槍のような内部構造に凝っていない物は、レプリカであっても外観がちゃんと作られていれば大丈夫です」
それを聞いて一つ閃いた。
「そうだリタ、今からこっちにある武器を使って、お前さん達の武器を強化する事は出来るのか? 例えば剣の形状を変えたりとか」
「勿論可能です。リタの装備にはそういう支援機材も入れてきてあるです。ただそれなりの資材と時間が必要です。それに持ってきた機材では大量生産は無理、です」
渡辺はこの武器の技術収集についても、ある程度は支援をしてくれるそうだ。昨日の目撃証言の隠蔽も改めて頼む。次に会ったらまた硬貨贈与だな。
学園長との面会時間まではまだ時間があるので、三人には追い込みで勉強をしてもらう。いつの間にかリタの勉強ドリルが小学六年生用になってる。昨日の一日で小学五年生用を終えたというのだ。なんという吸収力の良さ。お前もしかして天才なんじゃないか? と半ば冗談で言う私に「リタは開発副主任です」と誇らしげに言う。その役職が伊達ではないと言わんばかりだ。
サイキとナオは復習中。ナオは昨日の涙のせいか、若干ぎこちない。不和に繋がるような感じではなく、泣いていた自分が少し恥ずかしいという感じか。まあ心配は要らないな。
先に来ていたこの二人だが、勉強はナオのほうが出来る。小学四年生辺りでナオはサイキを追い越した。何もないと泣いたナオだが、知将の才能があるかもしれない。それを試すいいものは無いだろうか。
お昼の十一時を過ぎた頃、青柳が到着した。予定よりも早いこの時間に来るという事は、我が家で昼食をご馳走になろうという魂胆なのだろう。
「青柳よ、何か頭の良さをはかれるいい方法は無いだろうか?」
「頭の良さ? 所謂IQですか。うーん……囲碁や将棋、オセロなどのボードゲームでは駄目なのでしょうか?」
「ああ! そういう手があったな」
目から鱗、灯台下暗しである。私はそういうゲームの類はやらないので、すっかり抜け落ちていた。
「パソコンでも無料で遊べるゲームは色々ありますよ」
うーん、私のほうがのめり込んでしまったらどうしよう。
予想通り昼食狙いだった青柳とともに食事。その後時間を見計らい出発。学園に到着する前に再度注意事項を確認。学校内でのリンカーでの不正及びスーツの機能の使用禁止。レーダーと髪色の変更は仕方ないとして、他は全部駄目だ。それからリタの耳だが、まずは学園長に面会してから決める事にした。いざとなったら犬耳カチューシャを着けた変な子で突き通す事も考えよう。……さすがに無理があるかな?
学園に到着。校内は授業中の独特の雰囲気に包まれている。三人はというと、物凄く緊張した顔をしてガチガチに固まっている。そしてそれは期待の裏返しでもあるのだろう。今回は学園長室ではなく、四階の使っていない教室に案内された。私にとっては三十数年ぶりの教室だ。
ドアを開け教室の中に入ると、既に机と椅子が六セット用意されていた。ずっと使われていない教室のようで、少しカビ臭い。この学園は一度廃校になっているので、昔はこの教室にも子供達の声が溢れていたのだろうな。
少し待つと学園長のご登場。まずは三人の自己紹介。
「以前の写真では派手な髪をしていましたが、色を戻したのですね」
「色を戻したというか、あれがこの子達の本来の髪の色なんです。今のほうが色を変えているんですよ」
「そうですか。……しかし、校内であの色は許可出来ません」
それは仕方が無いだろうな。次に青柳が彼女達の特殊な事情を説明。そして……。
「か、かわいい……」
リタの耳を披露した所、一瞬で篭絡されたご様子。すっかり目がハートだぞ学園長さん。
「こほん、失礼致しました。本当に動物の耳なのですね。これで学園内を歩かれるのはさすがに……」
そうだろうなあ。我々もこの反応は予想済みだ。
さてここからどうするかなのだが、意外にもその答えを出したのは学園長自身だった。
「以前学園祭で使ったカツラと、学生から没収したウィッグです。試しに着けてみましょう。本来ならば禁止ではありますが、彼女に限り許可をしましょう」
準備万端という訳か。まずはカツラを着けてみるが、さすがに無理がある。耳を折られるのでリタもかなり嫌がる。無しだな。次にウィッグとやらを着けてみる。所謂着け毛だな。髪にボリュームが出て、かつ耳の部分が癖毛のように見えるので違和感はそれほど無い。これは行けそうだ。
「んー、これくらいなら我慢出来るです。でも取りたい……」
本人からも一応許可が出た。まあ嫌そうではあるが。
その後三人は編入テストを。我々は改めて学園長と細かい打ち合わせをする。
「編入する場合、恐らくは一年B組に入る事となるでしょう。丁度B組だけ二名少ないので、三人一緒でも問題はありません。しかしその、侵略者が現れる度に授業を抜けるというのは、勉強面でも周知の面でも、リスクが大きいでしょうね」
うーん……いっそ一人病弱という事にして誤魔化すしかないか……。
「それからサイキさんとナオさん、お二人の名前ですが、やはり名字だけというのは違和感があります。彼女達の名字をそのまま名前として使い、別の名字を付けるのはいかがでしょうか」
言われればそうだ。すっかり慣れ切っていた為に気が付かなかった。本人と話し合いの上、編入が決まり次第報告という事にする。
打ち合わせも終わり、我々は三人を置いて先に帰る事にする。長月荘から学園まで、車では十分ほどだが、歩きならば住宅街を突っ切れるので三十分程度で済む。道を覚えるのにも丁度いいだろう。テスト中の三人に一声掛けておき、我々は学園を後にした。
先に帰宅した私と青柳。そういえば長月荘で青柳と二人になるというのは初めてだ。
「工藤さん、実は前々からお伝えしたい事がありました」
突然かしこまる青柳。何だろう。
「……ご飯、本当に美味しいです。来る度に楽しみにしていました」
一瞬の間の後、大笑いしてしまう私。そりゃーそうだ。このいかにも厳しくカタブツそうな男から、私の作ったご飯が美味しいという言葉が出たのだから。
「あっははは! じゃあもう遠慮はいらないな。そうだ、いっそ下宿人として仮契約しちゃうか? 家賃払ってくれればいつでも飯食いに来ていいぞ?」
冗談半分に言う私。
「仮契約……それもいいですね。お願いします」
本気にする青柳。
こうして長月荘にまた新たな下宿人が加わる事となった。仮契約で。




