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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 19

 最終週月曜日。

 「あの後の高橋さん、凄かったねー」

 「ははは。言ってやるな」

 エリスに大好きと言われた高橋は、あの後涙と鼻水の大洪水を引き起こしていた。帰り際も青柳に引っ張られながらの惜別。全く面白い奴だ事。

 「天気予報だと火曜水曜が雨らしいぞ。終業式が水曜日だから、それが終われば本当に何もなくなる。そうだリタ、お前達が帰ってから作戦が終わるまでに襲撃があったら困るんだが、巣ごと消滅作戦の完遂までにどれくらい時間が掛かるんだ?」

 「予定では五十時間で終わるです。それも含めて……今日か明日には全てを決めて公表すべきだと思うです」

 「分かった。だがこっちにも準備ってものがあるから、なるべく早めに決めてくれ」

 こうやって彼女達を学園へと送り出すのもあと数回か。

 「あ、ぼくも行ってもいいんだよね?」

 「そういう約束だからな。車には気を付けろよ」

 「はあーい」



 視点を四人へ。

 「という事で、どうする? わたしは金曜日かなって思うんだけど」

 「そうね……水曜日にすぐ帰るのも何だし、せめて一日くらいは何もなく過ごしたいわね。私も金曜日に賛成。……でも未だに帰るのが怖い」

 「二人のわだかまりは全てリタが解決してやるですよ。だからナオもサイキも胸を張って帰るです。じゃないと工藤さんに失礼ですよ」

 自信満々のリタの笑顔に、これでもかと頼もしさを感じる二人。

 「エリスは?」

 「ぼく……あの! ……ううん。ぼくはおねえちゃんに任せる」

 「何? 意見があれば言っていいよ?」

 サイキの催促にも首を横に振るだけのエリス。

 「私達ももう少し居たいけれど、そうもいかないのよね。ごめんなさいね」

 「ううん、謝らないで」


 学園へと到着。四人は皆に囲まれるのではないかと考えていたのだが、そんな事はなくいつも通り、すんなりと教室へ。

 「あ、おはよー。見ーてーたーよー!」

 「ふふっ、何よそれ」

 両人差し指でつつくような意味不明の動作をする中山に、思わず笑うナオ。

 「先生が来る前に皆に聞いておきたいんだけど、怪我はない?」

 「なーい!」

 サイキの質問に呼応して教室中から一斉に上がる返事に、改めて安堵する四人。

 「でもそっちは入院したんでしょ? もう大丈夫なの?」

 「うん、四人とも完治したよ。わたし達の技術力を甘く見てもらっちゃ困るなあ」

 おどけるサイキを見て、クラスメートや友達も一安心。


 「よーし座れー」

 孝子先生登場で皆席に着く。

 「先に、四人から特別に何か言う事はあるか?」

 「えーっと……どうする?」

 ひそひそと打ち合わせする四人。

 「うん、えっと、今の所は何もありません。あ、でも一つ。わたし達は攻撃役だったけれど、街に防壁を張って頑張っていたのはエリスです。なので皆を守りきったのはエリスの功績なんです」

 一斉に感謝の言葉と拍手が上がり、エリスは顔が真っ赤。

 「はいはい騒ぐのは後にしなさい。授業は今日と明日のみだけど、あとで漢字テストを行うから覚悟しておくように。以上」

 孝子先生が去った後の教室では「うわっマジかよ」「最後まで鬼だな」等など孝子先生への賞賛の声が絶えなかった。

 一方エリスはサイキへと詰め寄る。

 「おねえちゃん、わざわざみんなの前で言う事ないのに!」

 「えへへ、自慢したくなっちゃった」

 「……んもう」

 と言いつつも腕に抱きつくエリスであった。


 国語の授業、漢字テストはエリスも一緒。内容も一緒。

 「先生さすがに無理があるんじゃないの?」

 「そう言って追い抜かれても知らないぞ。よし、エリスちゃんよりも下になった奴は、終業式後の校舎内清掃に付き合わせてやるぞー」

 エリスの年齢から油断しているクラスメート達。一方の三人、特にナオはエリスの勉強に付き合っていた事もあり、気を抜いていない。

 粛々と漢字テストは進み、答案を回収。エリスの前には泉がいるのだが、エリスの答案を受け取ると、顔色が変わった。

 休み時間になり、そんな泉がエリスに話しかけた。

 「ねえエリスちゃん、漢字の勉強、どれくらいしてるの?」

 「うーん……実は工藤さんに買ってもらった漢字ドリルは全部終わってて、おねえちゃんの教科書見てやってます」

 「あーだからなんだ。難しい漢字も全部書けていて驚いたよ。……私抜かれるかも」

 それを聞きエリスは照れ笑い。リタも興味を持ち質問。

 「ちなみに、どれだけ書けたですか?」

 「全部」

 即答のエリスに、リタはおろか会話を聞いていた周囲全員が焦り始めるのだった。



 視点を長月荘へと移動。

 一人だけの長月荘はとても静かである。三人が来るまでは、そしてエリスが来て四人になるまでの三ヶ月間、彼女達が登校中の長月荘ではこれが普通だったはずなのだが、その時が迫っている今は全く違う感覚である。そんな事を思っているとお昼になり、四人が仲良く帰ってきた。

 「ただいまー」

 「おかえり。昼飯出来てるぞ」

 「あーえっと……いいよね?」

 サイキが三人に確認を取った。という事は決めたのだな。

 「昼食前に報告があります。帰る日なんだけど、金曜日に決めました。だからあと五日。それからカフェの手伝いだけど、今日で最後にします。きっと火曜日水曜日は忙しくなるだろうし、木曜日は完全に何もなく過ごしたいなって」

 「分かったよ、皆にはそう伝えておこう。……そうだ、友達を誘って木曜金曜でまた泊まりなさい。最後だから思い出作りにな」

 「うん、それいいね。でも工藤さんから言ってくるとは思わなかった」

 「ははは、俺も意外だよ」

 恐らくは一人で最後の夜を過ごしたくないからだろう。そんな思いが募っている私は、何かにすがりたくなっているのだ。


 SNSで今後の予定を報告。するとやはり渡辺から電話。

 「研究所の奴らが、最後にもう一度会いたいって言っているんだよ。何でもいいから情報がほしいっていう話は上にも通してあるから、最後にまた集まりたい。子供達が明日明後日を空けたのはそういう意味だろうから、こちらが準備出来次第、もう一度連絡を寄越すよ」

 「分かった。お前も来るんだろ? 散々溜まった俺の感謝を食らわせてやる」

 「はっはっはっ、そりゃ楽しみだ。しかし俺にやり過ぎて子供達にあげる分を忘れるなよ」

 「既に確保済み。当たり前だろ。それじゃあまた……あ、ちょっと待った」

 ナオが手を伸ばしてきたので電話を替わる。

 「もしもしナオです。皆に帰る事をどうやって伝えようかなと。……はい。……うーん、それでもいいんですけど……え、また!? でもそちらに迷惑が……そうなんですか。……はい……はい、分かりました。それじゃあまた後で……はい、お願いします」

 そして私に返ってきた。

 「こちらは会見場も用意出来るし、また生放送に乱入しても構わないと言っておいた。あの乱入劇、結構評判良かったからな。決めたら折り返し連絡をくれ」

 「分かったよ。最後まで頼ってしまってすまんな」

 「気にせず任せておけって。俺はそれを苦だと思った事は一度たりともないぞ。それじゃあな」

 青柳もだったが渡辺も子供達に関わる事が楽しい様子だな。私の苦労を知ったら果たしてどういう顔をするかな?

 私は……歓迎するだろうな。こんな充実した日々を他人に渡してなるものか。



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