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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 18

 今日は青柳から二人とも仕事で行けないと報告があったので、私一人で市立病院へ。

 「おはよう。変わりはないか?」

 「うん、変わりないよ。ナオとエリスはもう退院出来る状態。リタは夕方には退院出来ます。わたしは……」

 サイキはリタに目をやった。自分の事ながらリタのほうがよく知っているとはな。

 「体は問題なかったです。後は脳の精密検査をやってみてですけれど、その事はもう佐々木先生に話してあるですよ」

 何とも用意がいい事。


 「ねえ、実際街の様子はどうなっているの? 病室からでは何も分からないのよ」

 「まるで何もなかったかのようにいつも通りだよ。それも含めてお前達の功績だな」

 「ふふっ、やっぱり何も変わらないのね」

 安心したように笑うナオ。

 「どうせならば後で外出許可もらって、空から一周してくればいいだろ。街の人達も安心するだろうしな」

 すると途端に渋い顔になる四人。

 「えっと……実はね、今私達四人とも、エネルギーエンプティなのよ。彼らも反応しないから、飛べないのよ」

 「その割には焦っているようには見えないが?」

 するとナオに変わってサイキが口を開いた。

 「ちょっと期待している部分もあるんだ。このままだったら帰らなくて済むかなって。狭間消滅作戦はわたし達がいなくても実行出来るし、成功すればずっと……」

 「それは俺が許さん。お前達は俺が何としても帰す」

 ぱっと四人とも私の顔を見やった。そしてやはりという感じで笑った。

 「あはは、だから言ったでしょ? 工藤さんは意地でもわたし達を帰すって」

 「サイキの読みが当たりね。ごめんなさい、四人で賭けていたのよ。もしも私達が帰れなくなったらどうするのかなって」

 「エネルギーエンプティは嘘です。しっかりと今も100%を維持しているですよ」

 「ぼくは怒られるからダメって言ったんだよ?」


 「やってくれたな悪ガキどもめ!」

 と怒る素振りを見せると一斉に謝ってきた。

 「はっはっはっ。冗談冗談、今更怒りはしないよ」

 「でも、工藤さんの真意を聞いておきたかったですよ。それ次第では、リタは本気で皆とこちらに留まれる選択肢を作る気だったです。それこそ意地でも何としてもです」

 なるほど、今の子供達の嘘はリタの差し金か。そしてリタが本気という言葉を使った以上、子供達は本当に留まる気だったのだな。

 「……正直な所、俺だってお前達と離れるのは嫌だぞ。だがその選択肢は、何よりもお前達に対しての損失になる。お前達の世界にとっての損失にもなる。お前達はもうそういう場所に立っているんだよ」

 静かに聞き入り頷く子供達。

 「俺にな、送り出させほしいんだよ。世界を救う力を持つお前達を、俺の手で送り出させてくれ。これが今、俺がお前達に望む事だ」

 「はい」

 しっかりとした返事が返ってきた。


 お昼過ぎに佐々木医師が来て、それぞれの検診。四人とももう歩けるほどに回復しており、サイキとリタは佐々木先生に付き添われ、歩いて精密検査へと向かった。そして一時間ほどで三人揃って帰ってきた。

 「相変わらずとんでもない速度で治っていますね。リタさんの骨折はもう八割九割治っていますし、サイキさんの脳関係も問題ありませんでした。今……三時ですか。うーん……退院してもよろしいでしょう。ただし今日明日はまだ運動は禁止ですからね」

 「ありがとうございます」

 私も子供達も、ほっとした笑顔。

 「よし、そしたら退院手続きをしてくるから準備しておけ。リタはまだ治りきっていないんだから無理するなよ」

 「了解です」

 ふと、無意識に無理をするなと言っている事に気付いた。私はどれだけ無理を見せられてきたのだろうな。全く、困った子供達である。


 手続きを終え、ついでに青柳にも連絡を入れておく。返事は淡白であるが、声が嬉しそうであった。 

 我々は帰路へと就く。私は車、四人はわざと目立つように、空から帰らせる事にした。

 青空の中に四つの光が並んで飛んでいる。街の人を見ると、その光景を見上げて笑顔だ。中には指を差して手を振っている人もいる。空から帰らせたのは正解だな、

 私は先に商店街へ。四人は……しっかりと私を捕捉していた様子で降りてきた。

 「上で話していたんだけど、わたし達ってもう姿を隠す必要ないんだなって」

 「そうだな。何せ商店街のど真ん中に普通に降りてきても、誰一人驚きもしないからな。しかし青柳には怒られるかもしれないぞ」

 「あはは、そうだね」

 その後は四人と一緒にお買い物。といっても行く先々でお礼だと言ってお土産をもらってしまい、一切財布を開く事なく晩御飯の食材が揃ってしまった。

 「ああそうだ、お前達はお客としてカフェに行った事ないよな」

 「わたし達はないね。エリスは常連さんだけど」

 手を繋ぎ歩く姉妹は顔を見合わせ笑顔である。ならばと四人と私でカフェへ。


 「あらいらっしゃい、小さな英雄さん達」

 英雄と言われ、恥ずかしそうに笑う四人。

 「今日は客として来たよ。エリスはともかく三人はいつもウエイトレスだったからね」

 「そうね。ならば今日はおごりよ。時間は過ぎてるけどランチもオーケーよ!」

 私はいつもの席へ。子供達は子供達で座った。子供達を見ていると、今にもウエイトレスの手伝いを開始したい様子である。最早彼女達にとっては無意識に反応してしまうほどに、カフェでのウエイトレスが生活に馴染んでいるのだな。

 私はいつものようにコーヒーを頂き、カップの底が見えたので先に帰る事にした。

 「俺は先に帰るけど、お前達はもう少しのんびりして行っていいぞ」

 「うん、分かった。帰りは歩いて帰るね」

 「分かったよ。事故には気を付けてな」

 という事で子供達とは別れ先に帰宅。


 家に着くと留守電が三件。二つは見た事のある番号だな。もう一つも局番は菊山市だ。私の記憶と予想が正しければ、子供達に教えておくべきだな。

 「……ええ、さっき私達の所に連絡が来たから分かっています。というかサイキはまだ相良さんと会話中。皆私達が飛んでいるのを見て、それで電話を掛けてきたという話よ。……あ、リタに替わるわね」

 「一つお願いしたい事があるです。リタ達は武器技術の回収が任務だったですけど、今度は自主的にこちらの情報を収集して持ち帰りたいですよ。例えば料理とか、料理とか、料理と……か……?」

 「全部料理じゃねーか!」

 と思わずツッコミを入れてしまった。

 「まあそういう事ならばSNSの連中に聞いておくよ。意外と役に立つ情報が出てくるかもしれないからな」

 善は急げとSNSにその事を書き込むと、渡辺から書き込み。

 「子供達が帰る日を知りたい」

 まあ……なんだ。この一言で私は一気に現実に引き戻されてしまった。終業式は三日後の水曜日。もしもその日に帰るのだとすると、私はこの三日間をどう過ごせばいいのだろうか。


 「ただいまーやっと帰ってきたー」

 「おかえり」

 ニコニコ笑顔で帰宅した四人。リタはまだ右腕を庇っているのが分かるな。

 「……工藤さん、私達はまだ帰る日を決めてはいないわよ」

 「うん!? ……ああ顔に出てしまったか」

 「ふふっ、もうそれはそれは丸分かりよ? きっとSNSでいつ帰るのかって聞かれたんでしょ?」

 すっかり全てお見通し。ナオの奴、はしこちゃんの読心術を手に入れたみたいだぞ。

 「武器技術の回収作戦は終わったし、超大型も倒したし、後は終業式を迎えれば私達は帰る準備が整いますけどね、さっさとはいさようなら、なんて言う気はないわ」

 思わず安堵の溜め息を漏らしそうになったが、堪えた。もしもここでそうしてしまうと、私の覚悟が揺らいでしまう。

 「……でも、一週間は居られないかな。ただでさえ延長してもらっているんだもん。それに、長く居れば居るほど帰りたくなくなっちゃう。これ以上その気持ちが大きくなると、わたし達はきっと逃げちゃう」

 「逃げたら連れ戻して、尻引っ叩いて帰らせるけどな」

 「あはは、それが言えるなら工藤さんは大丈夫だね」

 寂しいのは私も子供達も同じ。とっくに分かっていた事だな。


 「でも、決めるのが遅くなるのもいけないと思うですよ。あの日は学園からの帰り道でようやく心を決めたですけど、余計に迷惑を掛けたですから」

 「そうだね。でもまずは天気を確認してから。超大型を倒せたとしても、普通のはきっと出てくる。わたし達が気を抜けるのは、全部終わった後だよ」

 すると、そんなサイキの顔を眺めてたエリスが一言。

 「まだ隊長さんやってるの?」

 一瞬の沈黙の後、大笑いの我々。

 「あはは、わたしまだ隊長気分なんだね。ねえ、私の隊長ぶりはどうだった?」

 「エリスに斜め方向の防壁を張らせたり、リタにオーバードライブを使わせたり、その軽減方法を思いついたり、私としては合格を出してあげるわよ。ただ最後は皆で一緒に倒したかったけれどね」

 「でもあれ以上オーバードライブを重ねて使えば、サイキ以上に脳への負担が掛かって、まず間違いなく死ぬですよ。最後に単騎で倒した事も含めて、リタは評価するです」

 二人の評価に満足げなサイキ。

 「……おねえちゃんに隊長は似合わない」

 「ええっ!?」

 やはりエリスは厳しい目を持っているな。そしてまた大笑い。

 「俺は直接見ていなかったけれど、ナオとリタが評価すると言うんだから、そういう事なんだよ。……まあでもお前は振り回される側のほうが似合っているけれどな」

 「工藤さんまで? んもう……」

 頬を膨らませるサイキ。全く可愛い奴め。


 そろそろ夕食を作ろうかと思ったら青柳から連絡。これから来るから奢れだとさ。

 「そんな言い方はしていません」

 「でも奢ってもらいまーす」

 青柳と、ちゃっかり高橋も来た。

 「超大型種との戦いでの被害調査が全て終わりましたので、ご報告します」

 子供達に緊張が走る。特にエリスは真剣そのもの。

 「まず一般人への被害ですが、死者重傷者共にゼロです。軽傷者は十四名。ほとんどがガラス片に当たったり、驚いて転んだりと……いつも通りですね。物的被害ですが、やはり市内の広い範囲でガラスが割れる被害がありました。防壁で直接的な攻撃は抑えられたものの、その衝撃は少なからず貫通していたようですから」

 防壁が三枚も割られるほどの衝撃なのだから、これくらいの被害は出て当然だな。

 「次に自衛隊員への被害ですが……さすがに鍛え抜かれた方々は違いますね。誰一人として怪我をした方はおりませんでした。唯一ですね、戦艦ミズーリの船員が一名、転んで頭から出血しただけです」

 「確かあれはリタが操ったんだったか。普段慣れていない動きをしたんだろうな」

 「船の操縦なんて初めてですから。そういえば秘密にしておいてほしいですけど、勝手にミズーリをスキャンしちゃったです。怒られるですかね?」

 とぼけた表情のリタ。

 「今更誰も文句を言わない事くらい、分かってるくせに」

 「えへへ、ですよね」


 さて各々思う所はあるだろうが、一番肝心のエリスの評価を聞いておきたい。皆同じ事を思っていたようで、一様に視線がエリスへと向いた。

 「……実はね、最初の時にもう腕は赤信号でした。それでもぼくは守りたかったから、言い付けを破りました。ごめんなさい」

 「じゃあ、三時間以上もずっと腕にひびが入った状態で耐えてたの?」

 サイキの問に、小さく頷くエリス。怒られると思っているんだろうな。

 「エリス!」と一言。叱るような口調であり、エリスはびくっと体を強張らせた。

 「……よく頑張ったね。お姉ちゃんよりも頑張ったよ。今回はエリスがいないと駄目だった。だからこの奇跡のような勝利を導いた真の英雄は、エリスだよ」

 サイキお姉ちゃんは、エリスを抱きしめた。エリスは見る見る表情を崩していき、大泣き。

 「うわあぁあん。……ずっと、ずっとこわかったー……みんな、ひとりでもって……ぼくが……それで……」

 最愛の妹を抱きしめながら何度も優しく頷くお姉ちゃん。長月荘に帰ってきた事で、ようやく戦闘が終わった実感を得たのだろう。ようやく皆を守りきれた実感を得たのだろう。ようやく独りではないと実感出来たのだろう。


 声を上げ泣くという事は収まったものの、未だに袖で涙を拭くエリス。サイキが手を離すと、今度は高橋に抱きついた。

 「……すっと近くにいてくれて、ありがとうございました。すごく安心出来ました。高橋さんのおかげで、ぼくはみんなを守りきれました。みんなを守ったのがぼくならば、ぼくを守ったのは、高橋さんです」

 泣き顔のままエリスは高橋を目を見つめ、これでもかと満面の笑顔を作って見せた。

 「あ……うん……えっと……」

 突然の事で思考停止状態の高橋。しかしこのまま良い雰囲気では終わらせないのが私だ。

 「エリス、それじゃあ足りないらしいぞ?」

 「えっ!? いや、その……」

 さらにしどろもどろに狼狽する高橋。愉快愉快。するとエリスは最後にこう言い放った。

 「高橋さん、だーい好きっ!」



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