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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 17

 超大型種撃破成功の翌日。

 予想はしていたが、朝から家の前にマスコミが数人。ちょっと言ってくるか。

 「おはようございます。昨日も言ったけれど、ここで張ってても意味ないですよ。それとも尾行して病院まで付いてくるんですか?」

 「あ、あー……あはは。他に何か情報がないかなと」

 「ありません。さっさと解散しないと警察呼びますよ?」

 といった所で赤灯を回しつつ見慣れた覆面パトカーが一台登場。

 「通報早っ!」

 「まだしてませんよ。分かったらさっさと解散する事!」

 「……帰ろう」

 すごすごと解散するマスコミ数名を見送り、居間へと引き上げ一息。

 「朝からお疲れ様です」

 「お前もな。高橋は?」

 「東病院です。……高橋さん、心はすっかり母親ですよ」

 「ははは。ならばエリスとリタはあいつに任せておけるな。俺達は朝食が済んだら市立病院に行こう」

 高橋の年齢を考えればエリスほどの子供がいてもおかしくはない。それを思えば、エリスが高橋に、高橋がエリスに懐くのも自然な流れだ。……これも長月荘の縁だな。


 青柳も一緒に朝食を取り、昨日見そびれた政府の公式発表を確認する事に。

 やはり超大型種の撃破確認が一番。そして四人が帰り次の雨が止むまで、つまりリタの作戦が成功し、侵略者の襲撃がもう起こらないと確認されるまでは、陸自はこのままキャンプを展開し、海自・空自ともに警戒態勢は維持するとの事。そして自衛官からは一人も死者が出なかった事が確認された。

 「街での被害ですが、市街全域なのでまだまとまり切っていません。しかしエリスさんの特大防壁のおかげで現在までに死者は確認されず、せいぜい転んでの骨折くらいです。あんな化け物と戦闘してこの程度の被害ですから、奇跡としか言いようがありません」

 「それ、エリスに言ってやれ」

 笑顔で頷いた青柳。本当にこいつも表情を見せるようになった。


 さて我々だが、やはり一旦東病院に寄ってから市立病院に行く事にした。今日は一日丸ごと青柳が付き合ってくれるというので、私の愛車はお留守番。

 東病院に到着しICU前へ。しかし二人が見えない、と思ったら看護士さんが来た。

 「先ほど一般病棟に移ったのでご案内しますね」

 何だ驚いたな。

 病室だが、三人部屋であり既に一人普通の方が入室していた。入ると窓際で暗くなっている高橋を発見。お隣の方に軽く挨拶をして二人の元へ。

 「どうだ?」

 「……ううん、まだ」

 ふむ。二人ともまだ目を覚まさずか。

 「お医者さんの話では、もう目を覚ましてもいいらしいんだけど……」

 「それでこんなに暗い雰囲気を醸し出していたのか。まあ初めての300%だったから、何が起こってもおかしくはない。つまり医者の意見は参考にならん」

 エリスが窓側、リタが真ん中。私はリタのベッドに座り、その耳を軽く突付いてみた。

 「ちょっ、工藤さん……」「うーん……やーん……」

 高橋が止めようとした所、リタが反応した。

 「ああリタは寝てるだけだな。エリスは……表情から苦しくはなさそうだし、大丈夫だろ。鼻つまんでみるか」

 悪戯心に火か付いた私。エリスの鼻を軽くつまんでみる。

 「……んー……あーん……

 「反応あり。つまりお前の心配し過ぎなだけだ」

 「……そう?」

 「そう」

 長い沈黙の後、大きく溜め息を吐き表情が緩む高橋。こちらはこれで大丈夫だな。


 後を高橋に任せ市立病院へ。こちらも既に一般病棟に移っており、四人部屋を二人で使う状態。更にナオが目を覚ましていた。

 「おうおはよう。分かるか?」

 「……」

 怪訝な表情でこちらを睨むナオ。あれ? もしや……。

 「……なーんてね。驚いたかしら?」

 笑顔に戻るナオ。やってくれたな。

 「はっはっはっ、そんな事が出来るならばもう大丈夫だな」

 「ええ、足にひびが入ったけれど、これくらいならば今日中に治ります。ただし、まだめまいがするから、脳への影響は否定出来ないけれどね。看護士さんから気を失った後の事は聞いているわ。それで、二人は?」

 「リタとエリスは東病院だよ。二人ともまだ目は覚ましていないが、反応は示したから生きてるよ」

 すると大きく溜め息を吐き、ほっとした表情になるナオ。

 「しかし重体に変わりはない。リタは結局三箇所骨折、エリスは広範囲の骨にひびが入っている」

 「それ先に言ってよ。……でもひびならば私と同じく週明けまでには完治出来るはずよ。リタの骨折は……見てからじゃないと何とも。問題は私の横のこいつね」

 こいつ、という言い方からして、呆れる状況なのか。

 「どうせ病院では精密検査は出来ないからな。お前の分かる範囲で教えてくれ」

 「……だから呆れているのよ。サイキの体は改造してあるから、私でも分からない部分が多いのよ。それこそリタがいないと骨や内臓が無事かどうかも分からない。唯一死んでいないというのは分かる状態」

 何も分からないも同然か。最後の最後まで迷惑を掛けやがって。

 「向こうには高橋がいるから、俺はお前達に付いているよ。安心して寝ていろ」

 「……うん」

 素直に目を閉じたナオ。やはりまだ疲れが溜まっているのだな。こういう時のナオは本当に素直で、驚くほど扱いやすく、そして意外なほど弱い。

 その理由は単純明快で、自分が出来る範囲をしっかりと見定めており、その範囲が極端に狭まっている現在、自分が出来る事は体を休める事だけだとしっかりと理解しているからだ。


 我々の到着を待っていたかのように佐々木医師が来た。

 「ナオさんは……寝ましたね。私も先ほどナオさんからサイキさんの状況は聞きました。リタさんが必要という事でしたから、どちらかへの転院を考えなければいけませんね」

 こんな所でも四人が一つのチームなんだと見せつけられる。

 「向こうにも一人置いてあるので、連絡が来次第ですね」

 「分かりました。こちらとしてはどう取り計らう事も出来ますので、何かあれば呼んで下さい」

 その後はサイキの脈拍を測り、病室を後にした佐々木医師。

 ……四人いっぺんにか。寂しさを紛らわすために、一般の募集も再開しようかなと考えてみる。我ながら後ろ向きな前向きさで笑えてくる。ならばいっそ……。

 「良からぬ事を考えていませんか?」

 「うん? ……いや、うーん……四人がいなくなった後の事をな。昨日映像を確認してから、俺の中で改めてその事が現実味を帯びていて、どうすればいいのかという考えが、頭の中で回り続けている」

 相変わらず青柳は私の心の中を的確に見てくる。さすが刑事。

 「せっかく救われた命ですから、粗末にするのだけは許しませんよ」

 「ははは、さすがにそれは考えていないよ。ただ下宿屋を再開するか……」「再開して下さい」

 おっと、言い終わる前にこれだ。

 「下宿屋ならば工藤さんの年齢で引退は早過ぎます。それこそあと十年二十年出来ますよ」

 青柳なりに励ましてくれているのだろうが、目が怖い。

 「それに……」

 と一言、固まる青柳。


 中々言葉が出てこない。沈黙が続く中、青柳の携帯電話が鳴った。

 「高橋さんからです。……もしもし青柳です。……はい。……二人ともですか? ……分かりました。こちらはですね……」

 どうやらリタとエリスが目を覚ました様子。途中リタが私に話があるとの事で電話を替わった。

 「サイキの事ですけど、内臓に異常はないはずです。腕を真っ直ぐに伸ばして、触ってみて異常がないのであれば、義骨が曲がっている可能性も低いです。ただし使った武器が水晶の剣で、エネルギーの脳への影響を考えると、どうなるかはリタにも予想出来ないです」

 「分かったよ。お前とエリスはどうだ?」

 「リタの骨折は……月曜日には間に合うです。エリスは明日には動けるはずですよ」

 といった所でリタがエリスと替わった。

 「えっと……ごめんなさい」

 「ははは、やっぱり謝ったか。約束を破って痛みを報告していなかったんだろう? しかしおかげで三人も心置きなく戦えたし、何よりも実際に防壁を張ってこの街を守ったのはエリスだ。自分を誇りなさい」

 「……うん。リタにも、高橋さんにも言われました。……でも工藤さんにも言ってもらえてよかった。一番嬉しいかも」

 すっかり安心した声になったエリス。お姉ちゃんよりも私の励ましが嬉しいのか、それとも今までの中ではという意味なのかは……聞かなくても分かってしまうな。


 「あの、おねえちゃんに替わってもらえますか?」

 「あー……分かった」

 どうしようか一瞬迷ったが、エリスがサイキの現状に気付いていないはずがない。まして横でリタの話を聞いていたはずだ。ならばエリスにも考えがあっての事のはず。

 私は携帯電話をサイキの耳元へ。

 「おねえちゃん、いつまで寝ているつもり? 早く起きないと……晩御飯作れなくなっちゃうよ?」

 漏れ聞こえる内容に、思わず笑ってしまった。

 「だからね、おねえちゃん。――」

 最後の一言は声が小さくて聞き取れなかった。しかしやはり姉妹の絆とは凄いもので、このエリスの言葉に、サイキは無意識ながらも「うん」としっかり返事をした。

 携帯電話を青柳へと返却。その後の話で、夕方もう一度あちらの具合を確認後、動けるようであれば二人とも市立病院へと転院させる事になった。


 そしてその夕方。ナオはすっかり目覚めており、歩く事はしないが体を起して談笑は出来るほどに回復。サイキは未だに眠ったまま。さすがに少し不安になってきているのだが、エリスが来ればどうにかなる気がする。

 青柳に電話が入り、あちらは準備出来たとの事。こちらもいつでも大丈夫。一時間ほどで二人が運ばれてきて、二人とナオはほぼ一日ぶりのご対面。

 「あら、新入りさんかしら?」

 なんて冗談を言う余裕まで見せるナオ。四人が揃ったからこそだろうな。

 エリスは高橋に頼んで手を貸してもらいながらサイキの元へ。

 「おねえちゃん、ぼくは約束守ったよ。おねえちゃんも守ってくれなきゃ嫌だからね」

 「うん」

 目は覚まさないが。反応はするんだな。そんな姉をじーっと見つめる妹。

 「……うん。おねえちゃんそろそろ起きるよ」

 「妹のカンか? 血は繋がっていないのに、本当にそこいらの姉妹よりも深く繋がっているな」

 「えへへ。ぼくはおねえちゃんの事なら何でも分かるよ」

 自信満々。そんな姉妹を羨ましく思っているのは私だけではないな。……というか今病室にいる皆が羨ましく思っている様子。ナオとリタは言わずもがな、青柳も高橋も、そして私も兄弟とは縁遠いからな。


 エリスがベッドに戻って数分。

 「んー……」

 と、本当にエリスの言った通りにサイキが目を覚ました。ナースコールを押し、佐々木医師を呼ぶ。先に私が声をかけてみようかな。

 「おーい、分かるかー?」

 「んー……うん……」

 分かるらしい。佐々木医師が来て様子を確認。

 「完全に覚醒するまではまだ時間が掛かると思いますが、もう安心してもいいですよ」

 その言葉に大きく溜め息を吐く私。

 「ふふっ、やっぱり工藤さんが一番心配していたのね」

 「え?」

 「自分では気付いていない様子だけど、工藤さんずっと顔が引きつっていたのよ。笑顔もぎこちないし、目も泳いでいた。でもようやく今まで通りの表情に戻ったわ」

 なるほど、否定出来ないな。大丈夫だとは言い聞かせていても、心では不安があった。今後の事もあるし、それが顔に出ていてもおかしくはない。


 それから三十分ほど、ようやくサイキもしっかりと目を覚まし、笑顔を見せてくれた。

 「でも、ごめんなさい。心配を掛けた事と、もう一つリタにも謝らないと。あの剣の素材って希少なんだよね? なくなっちゃった」

 「構わないですよ。それに計算上、やっぱりあの剣でないと完全な撃破は出来ていなかったですから。サイキの隊長としての判断は正しかった。そしてそのおかげでリタ達も、この街も、この世界も救えたですよ」

 笑顔のリタ。その言葉は、サイキの背負う贖罪を示している。

 「ありがとう。でも……罪は消えない。消しちゃいけないんだ。わたしは二十四人に対する罪を、一生背負っていくと決めた。例えそれ以上の命を救ったとしても、交換になんてならない。今回いざそういう場面になって、改めてそう決めた」

 強い言葉とは裏腹に笑顔のサイキ。まるでその想いが消えなくてよかったとでも言いたげだ。いや、実際そうなのだろう。その想いは、サイキにとっての原動力でもある。


 「所でエリス、サイキに電話越しに何て言ったんだ?」

 「うーん……秘密」

 ならばお姉ちゃん聞いてみるまで。

 「わたしまだ目覚めていなかったんだよ?」

 「でもしっかりと返事したぞ」

 すると心当たりがある様子で、思い出したように笑った。

 「夢でね、エリスがわたしの手を引っ張りながら独りにしないでって泣いていたんだ。わたしも独りになりたくないし、独りにしたくないっていう気持ちは同じ。だからエリスが手を引く方向に一緒に歩いた。途中でエリスが振り向いて、約束守ってねって。そこで目が覚めたんだ」

 「なるほど、臨死体験っていう奴だな。つまりエリスがサイキを救った訳だ。お前逆に歩いて行ったら死んでたぞ」

 「えっ!? そういうのってあるの?」

 子供達は首を傾げるが、それを見て高橋が答えた。

 「科学的根拠はないけれど、そういう話はたまにあるよ。私達がよく聞くのは三途の川。その川が生死の境目で、渡ると戻れなくなる。渡ってる最中に死んだ祖父母に追い払われたり、飼ってたペットが渡るのを阻止したなんて話もある。深層心理の話だから、川のイメージがないサイキちゃんには違うように見えたのかもね」

 「……諦めなくて良かった」

 これはサイキの心の底からの言葉だ。そう誰しもが分かるほどに安心した表情のサイキ。二十四人の命を背負う事から逃げ、死にたがり、凶悪犯罪すらも犯したこの大馬鹿娘が、今は生きている事に心底安心している。これこそが私の功績だと、自ら言ってしまえる。

 「エリスありがとう。エリスはお姉ちゃんの命の恩人だよ」

 「ううん、ぼくはみんなの命の恩人だよ!」

 すっかり自信満々のエリスに、大きな笑いが起こった。

 「それじゃあ俺達は帰るよ。今日は子供達だけでのんびり過ごせ。といっても……」

 「無理はするな」

 子供達全員で声を合わせてきた。

 「あっはっはっ! 分かっているようで何より。明日は昼前には来るからな」


 という事で青柳に送ってもらい帰宅。高橋も一緒であり、晩飯を奢る。

 「そうだ青柳、昼間言いよどんでいた事って何だ?」

 「……孝子さんがいる時に話します」

 それはそれは楽しみだ。食事が終わると二人も帰り、その日は終わった。



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