最終決戦編 15
ナオが超大型種の右腕を落としたが、代わりに300%FAの影響で戦線離脱。自衛隊の各隊も弾数残り僅か。現在の隊長役であるサイキは難しい舵取りを余儀なくされた。
「おねえちゃん……ぼくもそろそろ、限界かも」
「エリスも? つまり動けるのはわたしだけだ。……300%の一撃に賭けるか? いや、左腕に邪魔されるだろうし、そもそも腕よりも固い体に通用するか分からない。どうするわたし……」
悩むサイキに、工藤からヒントが出された。
「いいかサイキ。答えは既に用意されているものだ。後はそれに気付き、選択出来るか否かだ。思い出せ! 選択しろ! 選んだ自分を信じろ!」
答えを探すサイキを尻目に、超大型種は街へと向け、また大口を開けた。
「おねえちゃん……これは無理……」
最早泣き声のエリス。サイキは考え、思い出そうと必死である。
(防壁では防ぎきれない大口径の攻撃……以前も確か……)
「早く決めないと病院送りじゃ済まないですよ!」
考えるサイキに、リタからの檄が飛ぶ。
「あっ! 病院! リタが来た時、病院前で砲撃を跳ね上げたよね? あれってどうやったの? 教えて!」
「えっ!? っとあれは確か……砲撃に対しての角度を間違えて、斜めに張ってしまった失敗例のはずですよ?」
「……そうか、それは失敗じゃないんだ! わたし達がそれを知らないだけ! エリス聞こえていたよね?」
「うん。砲撃が斜め上に逃げるように防壁を張ってみる!」
リタは懐疑的だが、それしか手がない現状、一か八か賭けるしかないのだ。
エリスは口頭でリタに角度を調整してもらい、準備を整えた。超大型種の口が光り、その時を迎える。
放たれた超大型種の主砲は、エリスの張った斜め方向への防壁に誘導されるように方向を変え、本当に砲撃を逸らす事に成功した。
「エリス、大丈夫?」
「……う、うん。かなり重かったけれど、どうにか耐えられたよ。……でも、次は自信ない」
「分かった。……もう少しだけ頑張って!」
妨害なく主砲を撃った超大型種は、その反動か現在は片腕を振り回すだけになっている。
「サイキ……腕、落としなさい……」
「ナオ、大丈夫?」
「無理……するのも無理みたい。……ともかく、腕さえ封じれば、あんたの敵じゃない」
喋るのも辛いナオだが、それでもサイキをしっかりと鼓舞する。サイキはそれに答えるために、次の一手を打つ。
「リタ、悪いんだけど300%FA使って」
「……そう来ると思ったですよ。でもリタは片手。さすがのオーバードライブでも拳銃では威力が出せるか分からないですよ?」
大型の銃は両手持ちになり、右腕を骨折したリタには扱えない。かと言って片手で扱える拳銃では威力が足りない。
「リタはエネルギー注入役、わたしかエリスが引き金を引けばいいでしょ?」
「そうですけど……でもエリスは壁の向こうですし、サイキが撃ったとして、そっちにも影響が出る可能性だってあるですよ?」
最大限に危険性を考えるリタ。
「こちら久美です。話は聞いていました。つまり狙いを付けて引き金を引けばいいんですね? ならば我々はその専門家ですよ」
「いや、そうですけど、リタ達以上に影響が出ると危険ですよ……?」
久美さんの申し出にも悩むリタ。
「リタ、フラックは精神防壁だよね? 応用して久美さんに影響が出ないように出来ないかな?」
サイキの考えを理解したリタは、大きく溜め息。
「はあ……一人だけでフラックを使えば、恐らくは出来るです。でも、そんな使い方初めてですよ? もしリタが駄目になったら……」
「全責任取るよ。だって隊長だもん。わたしは昔とは違う。一人で逃げ出すだなんてしない!」
強く言い放ったサイキ。そんな二人の会話にエリスが割り込んだ。
「おねえちゃん、力入り過ぎだよ。今のおねえちゃんは昔の自分しか見えてない。それじゃあぼく以上に危ないよ」
「……そうだね。ごめんなさい。でもわたしにはそれしか浮かばないんだ」
悩むサイキ。するとナオからリタへと話が来た。
「……ねえリタ、フラックを使ってオーバードライブの反応軽減だけど、出来たわよ」
「出来たって……ナオやっちゃったですか?」
「やっちゃった。最初からではないからまだ様子を見させてもらうけれど、私が試した限りでは大丈夫よ。解除した時にどうなるのかは……躊躇している所」
敵陣に突っ込むのは得意なナオでも、見えている苦痛の中に戻るのは、さすがに嫌なのだ。
「それでも、軽減出来ると言うのであれば、充分な判断材料です。リタはこれより久美さんと合流、超大型の左腕をもぎ取りにいくですよ」
リタはミズーリに別れを告げ、超大型種の右横を素通りして海岸線の久美さんの元へ。
「本当にいいですよね?」
「ええ。それが私達の役割ですから」
リタが取り出したのは対戦車ライフル。久美さんに渡すと、見た目との重量の違いに一瞬焦る久美さん。
「おっと。このサイズでこの軽さは、少し手元が狂いそうですね」
「ある程度アンカーで固定するので、微調整に苦労はしないと思うですよ」
久美さんは近くにいた車両のボンネットにライフルを乗せ、狙いを定める。リタは銃のストック部分に手を置き、微妙な匙加減でアンカーを打ち、久美さんの使いやすいように調整している。また今回もエリスは防壁を使って進行方向を指し示し、戦闘機が一斉に射線上から離れた。
「フラックスタート。……こっちはいつでも大丈夫です。久美さんのタイミングで撃ってくれて構わないですよ」
「了解です。……では、行きますよ」
久美さんは至極冷静に引き金を引いた。
銃口から放たれた弾丸は光を纏い、実体化したエネルギーにより巨大化、より高速で飛び抜けた。文字通り一瞬の出来事であったがしっかりと命中し、超大型種の左腕は根元が吹き飛ばされ、これで両腕共に無力化出来た。
「……凄い事になりましたね」
と久美さんが口を開いた瞬間、リタお手製の対戦車ライフルは、跡形もなく粉々に砕け散った。
「おっと、これは……」
「久美さんのせいではないですよ。こうなる事は予想済みです。本当の問題はこの後、リタ達の体調に異変が起こるかどうかです」
「了解です。ならば我々は一旦下がっておくべきですね」
久美さんとリタは、後をサイキに託し、離脱する事にした。
「あとはわたしだけ。……皆、見ていて」
小さく呟くサイキ。皆というのは、過去見殺しにしてしまった二十四人も含めた皆という事だ。
サイキは水晶の剣を手に持ち、最後の一撃へと進む。しかしここでエリスから待ったが掛かった。
「待っておねえちゃん、その剣で大丈夫?」
「えっ? どうして?」
「その剣ってエネルギーに強く反応するんでしょ? だったら300%も出したら振る前に壊れるんじゃないかなって」
エリスの洞察力はサイキも理解しているが、確認のためリタへと話を回した。
「確かに可能性は他の剣よりも高いです。でもリタの技術力は、エリスの予想を上回ってみせるですよ。リタの技術者としての自信です」
「……あはは、これはリタの勝ちだ。エリスの心配も分かるけど、わたしはこの剣を使うよ。リタは本当に凄いんだからね」
「希少な鉱石を使い捨てにするのは惜しい気もするですけど、でも多分、その剣でないと切れないですよ。正直言ってナオの時もリタの時も、予想よりもダメージを与えられていないですから」
両腕は落とせたが、本体がそれ以上に固い事は火を見るよりも明らかであり、最も攻撃力の高い水晶の剣を惜しみなく使う必要があるとリタは判断した。
腕を落とされた事で、超大型種は再度の主砲発射体勢へ。
「サイキ! あいつあんた狙ってるわよ!」
超大型種の主砲は動くサイキを追従。
「……そうだ、撃たれる寸前に攻撃を加えれば、エネルギーが暴発してくれるかも」
「ふふっ、相変わらずとんでもない作戦を思いつくものね」
「骨は拾ってやるですよ」
「おねえちゃんに全部任せます」
三人はあっさりとサイキに一任。
「俺もお前に任せるぞ。しっかり倒して皆で帰ってこい」
青柳経由で話を聞いていた工藤も乗ってきた。
「……よし! わたしの心は決まった。皆で笑顔で帰るよ!」
サイキは海上から、街の方角へと剣を構え、超大型種が主砲を撃つ、そのタイミングを狙っている。
「ね、ねえおねえちゃん。そこからだと街を斬っちゃうよ?」
「大丈夫。わたしには確信があるんだ。あの光の刃は、例え実体化しても街には影響を及ぼさない。エリスは念の為に、引っかからないようにわたしが斬る部分だけ防壁を解除して」
「……おねえちゃんが言うならぼくも信じる。防壁は任せて」
姉妹の息の合った動きが要求される。
「行くよっ!」
超大型種が体を反らせ、口の中が光る。そのまま大きく咆哮し威嚇するが、もうサイキは怯む事はない。
「うおらあああああっ!!」
男らしい気合の掛け声。普段は力が入り大振りになるサイキだが、剣道で学んだ事を実践し、最小の動きで最大の力を見せつけた。
エネルギーが実体化した巨大な赤い光の剣は、超大型種の頭から足まで見事に振り抜かれ、最大の侵略者は真っ二つに切り裂かれた。タイミングはこれでもかというほどにバッチリであり、サイキの睨んだ通りエネルギーが逆流を始めその体内で暴発。
「おねえちゃん離れて!」
エリスの言葉に急ぎその場を離れるサイキ。エリスは筒状に超大型種を囲い、更には幾つか穴の空いた蓋をして爆発に備えた。
超大型種は幾つもの大きな爆発を繰り返し、最後に防壁を貫通し空気を揺らすほどの特大の爆発をし、そして周囲の海水を一緒に吸い上げながら小さく圧縮され消滅。その爆発と爆縮により周囲の雲は払われ、菊山市上空は一転して抜けるような青空へと変わった。
「……周囲に敵影なし。超大型種、撃破しました!」
サイキによる撃破報告が入るや否や、割れんばかりの歓声が海上からも上空からも地上からも、そして街の中からも上がった。菊山市民は皆この戦闘を固唾を呑んで見守っており、最後の一瞬までもしっかりと目撃し尽くしていたのだ。
「ふふっ、私達、本当にあれを倒したのね。目の前で見ていても信じられないわ。まるで夢みたい」
「リタは純然とした事実として見ているですよ。なにより右腕の痛みが、これが夢ではない事を物語っているですからね」
「……ごめんおねえちゃん。疲れたから……あとは……」
街を覆っていた防壁が解除され、エリスの最後の言葉に焦る三人。
「あー高橋です。エリスちゃん寝ちゃっただけだから大丈夫だよ。私が責任を持って見ていますから」
「よかったあ……本当に……よか……」
「ちょっ、サイキっ!?」
ナオが見守る目の前で失神し墜落して行くサイキ。ナオが焦りそれをキャッチしようとするが、オーバードライブのツケがまだ残っており、サイキをキャッチした所でナオも意識を失い墜落。
「こちら海自レスキューヘリ。今から救出を開始します」
自衛隊はこうなる事も想定しており、すぐさま墜落した二人の救出が開始された。二人は意識を失いながらも海上に浮いており、十分ほどで救出成功、そのまま病院へと搬送される事になった。
「……皮肉なものです。四人の中で唯一意識があるのが、一番大きな怪我をしたリタだなんて」
「そう言いつつ顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
立ち上がるもふらつくリタ。それを久美さんが支えた。
「……申し訳ないですけど、リタも……限界、みたいです……」
そのまま久美さんに抱かれ意識を失うリタ。
「こちら久美です。リタちゃんも病院へ搬送します。至急、救急車の手配を……と、もう居ました」
救急隊員も慣れており、自発的に現場に駆けつけていたのだ。
こうして超大型種の侵略者を撃破した四人は、それぞれ病院へと搬送された。




