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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 14

 口を大きく開き、主砲の発射体勢へと移行する超大型種に、打つ手のない四人。それでもエリスは大量の防壁を一点に集中展開し耐えるつもりだ。しかし貫通されてしまうとリタは読み、まさに万事休す。

 「どうするの!?」

 「待って! 今考えてるの!」

 「間に合わないですよ!」

 大焦りの三人を尻目に大口の主砲が光り始め、後はその時を待つしかない。


 超大型種が勢いを付けるために体を反らす。その光景に手が出せない三人、そしてそれでも意地で耐えてみせようとするエリス。

 「来るわよ!」

 「エリス……駄目ええええっ!」

 サイキの叫びが響いた瞬間、超大型種の顔面が爆発した。狙いが大きく反れ、山をかすめ空へと放たれる主砲。

 「な……」

 唖然呆然声を失う四人。

 「待たせたな! こちら航空自衛隊特別編成隊。これより敵性侵略者への攻撃を開始する! ついでに在日米軍機も大量に連れてきてやったぞ」

 四人の見上げる空の向こうに、大小様々な戦闘機が姿を現した。これには地上と海上の各自衛隊からも歓声が上がった。

 「ようやく来たかヤンキーかぶれ! 状況は理解しているな?」

 「了解しているさ。俺達はあいつの動きを封じる。最後の一撃は嬢ちゃん達にしか出来ないだろうからな。各機散開、自由戦闘へと移行する。いいか、一機でも落とされてみろ! 俺がお前らの落下傘撃ち抜いてやるからな!」

 渋い声の隊長機から発せられたきつい冗談に、笑いが漏れつつも散開する各機。


 「これが、これこそが皆さんで掴み取った力ですよ」

 久美さんの一言に、改めて気合を入れ直す四人。すると海自の艦長からこんな話が。

 「我々にとっては夢が叶った瞬間です。感謝しますよ」

 「え? この戦闘が夢?」

 すると方々の自衛官から笑い声が上がる。

 「自衛官の中には、絶対に叶わない夢を持つ者もいます。それが怪獣との決戦。特撮映画を見て憧れる人も多いんですけど、そんな事は起こり得ませんからね。その夢が叶っている今、我々は強いですよ」

 「……何か、面白い人達。羨ましいなあ」

 戦う事を夢と言ってしまえる平和さに、羨ましさを感じるサイキ。一方自衛官達は四人自身へと同じ感情を向ける。

 「羨ましいのはお互い様。さあ世界を守ってみせましょう!」

 誰とも分からない自衛官からの強い言葉に、四人も体勢を立て直す。


 砲撃を邪魔された超大型種は、今度は反対を向き、艦隊を目標とした。

 「全艦退避を急げ! お見合いは禁ずる!」

 一斉に動き出す海自の艦隊。艦船の多さに超大型種は狙いを定められずにいる。

 「サイキ、ここからはあんたが指揮を取りなさい。今求められるのは単騎突撃の一番槍や戦闘素人の研究者じゃない、必勝生還の戦闘狂による強力な牽引よ!」

 「わ、わたしが隊長っていう事!?」

 「リタも賛成です。サイキ、今こそ過去の贖罪を晴らす時ですよ!」

 唐突なナオの決定に動揺するサイキだが、リタの言葉に心を決めた。

 「……分かった。私が殺してしまった二十四人のために、私に力を与えてくれた皆のために、私を救ってくれた全てのために!」

 気迫に満ちたサイキの言葉は、それだけで士気を高めるには充分であった。

 「わたしは腕を狙う。ナオは背中の砲身を。リタは……」

 「お荷物は退避しているですよ」

 「ううん、リタだからこそ出来る事が何か……」

 再度狙いを定めた超大型種が口をあけた。主砲発射まであと少し。


 超大型種が攻撃態勢に入り、サイキとナオも攻撃を開始。航空自衛隊の各機は主砲発射阻止に動き、陸上自衛隊は尚も足元への攻撃を継続。

 口の中が光ったその時、遠くから砲撃音がこだました。砲撃が超大型種に直撃し、体勢が崩れ、主砲発射の阻止に成功。

 「次は何!?」

 「HAHAHA! やあ初めまして素敵なレディ達。こちらは栄えある米国海軍所属”世界最後の戦艦”ミズーリである。本来ならば既に退役済みなのだがね、突貫で準備を整え馳せ参じたよ。我々は全面的に君達に協力しよう。目標、我らが世界を脅かす悪しき侵略者! 我らが星条旗の元に、正義の鉄槌を受けたまえ! 全砲門、ファイア!」

 爆煙と轟音により海に波紋が出来る。放たれた戦艦からの主砲は超大型種に命中。しかし一部が逸れ街の防壁に直撃。

 「うあっ……結構痛い……」

 「ちょっ、エリス大丈夫?」

 「HAHAHA! 撃って撃って撃ちまくるのだ!」

 一方そんな事はお構いなしにと、大味な砲撃を続ける戦艦ミズーリ。


 この他を省みない態度に、サイキのお姉ちゃんスイッチと、ついでに荒くれ者スイッチも入った。

 「おいそこの小蛇! これ以上外したらわたしがお前を沈めてやるからな!」

 中身は英語であるが、この一言にミズーリからの砲撃がぴたりと止んだ。

 「小蛇……ははは。しかしこちらは一度は退役した艦なので……」

 「言い訳はいらない!」

 ともすれば自分の娘や孫の年齢であるサイキに本気で怒られ、戸惑い消沈するミズーリの面々。するとサイキが閃いた。ほぼ同時にリタも。

 「……そうだ、リタ!」

 「ああ言わずとも! 戦艦ミズーリへ。貴艦の全システムを掌握させてもらうよ。今からその艦はあたしの鉄砲だ!」

 リタは再度戦闘スイッチを入れ、ブリッジの屋根へと着地。すぐさま戦艦ミズーリの全システムを乗っ取った。戦闘には役に立たないと思われていたリタ専用の開発者用装備が、ここに来て役に立ったのだ。

 「Oh……勝手に艦が動いています。あの小さな子供一人に、本当に一瞬で掌握されました……」

 青くなるブリッジの船員。一方艦長はおおらかだった。

 「いいねえー。これで我々は子供達と一心同体だ。各員に告げる。我々は彼女の手の届かない部分を補完するのが役割だ。最後の戦艦は沈まず、常にその姿を悪しきものどもに見せ付けるのだ!」

 「黙っていないと舌噛むぞ!」

 屋根に仁王立ちのリタ。右腕を骨折し戦線離脱したリタだが、戦艦をそのまま掌握するという手段を用いた事により、再度戦線への復帰を果たす。


 全方向からの包囲攻撃により徐々にだが形勢が彼女達へと傾く。

 「よし、背中の砲身全部潰せたわよ! 一歩前進!」

 「次、ナオも腕を狙って。でも100%ですら落ちない固さだよ」

 「あんたが言うならば相当ね」

 本体への攻撃を二の次にしていたナオ。実際に腕への攻撃を開始すると、そのあまりの固さに焦ってしまう。

 「冗談じゃないわよ! 腕でこれって、体は一体どうなるのよ」

 すると戦艦の上で仁王立ちを決め込むリタから檄が飛ぶ。

 「口を動かす暇があれば手を動かしな!」

 「……リタの奴め、終わったらあの腕突っついてやるんだから」

 「いやあそれは勘弁。立ってるだけでも結構痛んだよ……」

 会話の最中で、遂に超大型種の足元が崩れ始めた。

 「こちら陸自戦車部隊。奴の装甲は一撃には強いが、波状攻撃でのダメージは確実に蓄積されている模様。つまり自動修復はしない様子です。手を止めなければ勝機はあります」

 勝機がある、その一言で更に士気は高まる。


 「こちら青柳、聞こえますか?」

 「うん、聞こえています」

 手の離せない三人に代わってエリスが通信役を買って出た。

 「長月荘が留守で工藤さんを探していたのですが、発見しましたよ。……どうぞ」

 すると青柳経由で、四人にとっては最も力になる声が響いた。

 「すまんな、急用で芦屋家に来ていたんだよ。連絡を取ろうにも携帯電話が使えなくなってなあ」

 「もうっ! ぼくたちがどれだけ心配したと思ってるの!」

 激怒のエリス。その声は全体にも聞こえているので、方々から笑い声が上がった。

 「ははは、まあしかしこれで大丈夫だ。青柳が直接こちらに来てくれたからな」

 青柳は長月荘の後、商店街やスーパーを回り、芦屋家へも出向いていた。そして青柳が探し回る事を想定していた工藤は、すれ違いにならないようにと芦屋家で待機していたのだ。

 「……三人も聞こえているな? いいか、お前達には力がある。100%では収まらない力だ。俺はお前達を信じる。お前達が世界を救い、そして無事我が家へと帰ってくる事を信じる。そしてお前達も信じろ。自分が今まで歩んできた道を、学んだ経験を、自身の覚悟を!」

 「はいっ!」


 工藤との連絡がついた事により、強敵との戦闘中であるにもかかわらず、四人には安堵と、そして笑みが零れた。その感情は戦闘にも現れ、四人の反応速度すらも上昇させた。

 「ねえサイキ、300%っていうのを試させてもらうわ。こういうのは一番槍である私こそが担う役割。文句は言わせないわよ!」

 「あはは、やっぱりそう言うと思った。うん、わたしはナオを信じるよ!」

 一旦距離を取り、深呼吸をして心の準備を整えるナオ。

 「私一人で倒しちゃっても恨みっこなしよ?」

 「やれるものならやってみてよ!」

 「それじゃあまるであいつに肩入れしているように聞こえるですよ」

 すっかり心に余裕が出来た三人は、いつもの戦闘と何ら変わらない会話劇を繰り広げる。その緊張感の無さは周囲へも広がり、笑い声も聞こえるほどだ。

 「皆、何が起こるか分からないから、私の周囲と進行方向には来ないで下さい。……ふふっ、エリスありがとう」

 エリスが防壁を使い、上空にナオの進行方向を指し示した。これを目印に一斉にその場から退避する戦闘機達。


 ナオが取り出したのはまたも投擲槍。芦屋の槍ではないのは、もしも武器が破壊されたとしても、替えが利くようにとの判断である。

 「準備はいい? 私の指し示す道、しっかりと見ておきなさい! 全力全開300%、うおりゃあっ!!」

 周囲が固唾を呑んで見守る中、ナオは北西から南東へ向けて槍を投擲。

 現れたのは、光ではなく完全に具現化したエネルギー製の巨大な槍であった。超大型種は抑えようと右手を突き出したのだが、その右手を丸ごと突き破り彼方へと飛んで行った。

 一瞬の静寂が辺りを包み数秒、それを超大型種の悲鳴とも取れる咆哮が掻き消した。

 「すごい……それしか言葉が浮かばない」

 呆気に取られるナオ。しかし隊長役であるサイキはすぐさまナオの体を気にかけた。

 「ナオ、体調に変化は? 少しの違いでもしっかりと報告して!」

 「え、ええ。……今の所は何とも」

 平然としたナオの声に安堵するサイキとリタ。

 「よし、これでわたしも遠慮なく……」「ごめん、前言撤回」

 サイキも続こうとした所で、ナオから待ったが掛かった。

 「まず槍だけど、粉々になって消滅したわ。武器は使い切りね。それと体調だけど……めまいが、ね。……ごめん、離脱」

 「ナオ!? ちょっと……」

 「あいつはリタが見てるです。サイキはナオの所に行くですよ」

 「うん、任せた」


 サイキは急ぎナオと合流。ナオは海岸そばの岩場に座り込み、苦しそうな表情で頭を押えていた。サイキが到着するのを見て、エリスは二人のために周囲に防壁を展開。

 「大丈夫?」

 「……」

 無言で少しだけ首を横に振るナオ。

 「リタも一回めまいで倒れたけれど、そんな感じ?」

 答えを言う間もなく咳き込むナオ。

 「……分かった。ナオは休んでいて」

 サイキはナオが戦闘不能であると判断、そのまま休ませる事にした。

 「サイキ、まずい事になったです。ミズーリ残弾数ゼロです」

 「こちらミサイル護衛艦こんごう。こちらも残弾数が残り僅かです」

 「空自の隊長機だ。こっちも随分空腹で、帰り支度をしているのも出ている。このままではジリ貧になるぞ」

 「こちら陸自の久美です。戦車隊の残弾数も心許なくなってきました。そろそろ決めないと押し負ける可能性が出てきましたね」

 サイキは難しい舵取りを余儀なくされた。



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