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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 13

 超大型種との最終決戦、六枚の翼を破壊し、作戦は第二段階へと移行。海上まで誘導し、街への被害を抑え、更にはこちらの世界にある現用兵器からの支援を受けられるようにする。


 「さて……どう誘導しようかしらね」

 作戦を考えていなかった訳ではないのだが、いざとなると相手の手の内が分からないので、方法を決めあぐねるナオ。

 「わたしにいい考えがある。エリス、あいつとわたしとを繋いで!」

 「おねえちゃんと? おねえちゃん、本当に大丈夫?」

 「信じなさい」

 エリスの不安に即答で返すサイキ。

 「どうせ無茶するのは目に見えていたわよ。でも、今はあんたに賭けるわ」

 ナオはサイキを支持する事にした。勿論これはナオなりに選択肢を選び抜いた末の結論である。

 「……分かった。でもおねえちゃん、絶対に一緒に帰るんだよ!」

 「わたしがエリスを一人にする事はないよ」

 優しい声を出したお姉ちゃんを信じる事にしたエリスは、防壁をベルト状に展開し、サイキと超大型種とを繋いだ。


 「二人はあいつがわたしに攻撃するのを防いで。じゃあ、全力出す!」

 「……そういう事ね。サイキの防衛は私が持つ。リタは後ろから押して」

 「了解!」

 サイキが前から、リタが後ろからショットガンで超大型種を強引に動かす、プッシュプル作戦を取った。

 「わたしの過去はこの時のためにっ!」

 全力でブースターを吹かし、サーカスまでも併用するサイキの体は悲鳴を上げる。更に背後からのリタのショットガン乱発により、少しずつ引き摺られ動き始めた超大型種。

 「ナオさん、おねえちゃんはぼくが守るから、ナオさんもリタと一緒に!」

 「分かったわ!」

 エリスの提案に乗りナオも背後に回り、リタのお下がりショットガンでサイキの後押し。


 あまり抵抗なく大人しく引き摺られる超大型種。

 「大分来たわね。相手の攻撃方法が今の所近接と主砲だけだから助かるわ」

 「そんな事言ってると……やっぱりこれだよ!」

 リタの想像通り、超大型種の背中に該当する部分から、無数の砲身が生えてきた。

 「……っ!? 動かないっ!」

 引き摺られていた超大型種が体勢を変え踏ん張り、動きが止まった。海までは後五百メートルといった所。更にはナオとリタへ向け砲撃が開始され、二人は逃げるので手一杯。サイキの援護など出来る余裕はない。

 「防壁、持ち上げて滑らせてみる!」

 エリスは三人の了承を待たずに力一杯防壁を立てようとする。徐々に海側へと角度の付いていく特大の防壁。それを床としている超大型種も少しずつ傾き始めた。

 「エリス頑張れ! わたしも頑張るから!」

 「……もち……ろんっ!

 姉妹の共同作業により、超大型種はまた少しずつ海へと動き出した。

 「エリス、堤防を作ったら一気に持ち上げちゃいなさい!」

 ナオからの指示に、エリスは遠方に弓なりに堤防代わりの巨大な防壁を展開。

 「行くよ!」

 しっかりと警告を発した後、渾身の力で一気に防壁を立てるエリス。超大型種はバランスを崩し、そのまま転がり落ちるように海へと落下。巨大な波が立ったが、エリスの用意した堤防により被害はなく収まった。


 「こちら陸自の久美です。聞こえますか?」

 「久美さん!? よかった!」

 海上に出るまで、ずっと自分達としか通信出来なかった四人は、いい加減心細くなっていたのだ。そこに来てようやく久美さんとの連絡がついたので、それだけで四人にとってはとても安心出来たのだ。

 「先ほどから呼びかけてはいたのですが、どうにも全く繋がらなくて困っていた所です。では、こちらでも敵影を確認。これより我々は超大型侵略者への攻撃を開始します」

 久美さんとの後、他にも通信が入る。

 「こちら海上自衛隊、ミサイル護衛艦こんごう。先ほどの波を打ち消したのは何方でしょうか? 先にお礼を申し上げます」

 余裕の出てきた四人は、この言葉にしっかりと反応。

 「それでは我々もこれより戦闘を開始します。空の連中もそろそろ来る頃ですよ」

 するとこれに呼応するようにもう一つ通信が入る。

 「呼んだかな? こちらは航空自衛隊特別編成隊。悪天候で出撃に若干遅れが出ているが、現在順次離陸中。必ず向かうから、楽しみに待っていな!」

 「……そうか、航空機は天候の変化に弱いものね。無理をせずにお願いします」

 「はっはっはっ、ご心配なく。俺達にとっての無理っていうのは、他国に戦争を仕掛ける事だけ。それ以外に俺達に無理はないさ」

 ナオはしっかりとあちら側へも気を使い、その返答に自衛隊員達から笑い声が上がった。


 「……聞こえますか? 青柳です」

 「青柳さん! ずっと心配していたんだから!」

 青柳からの通信も復活し、改めて胸を撫で下ろす四人。

 「申し訳ありません。原因不明の通信障害で携帯も無線も一切使用不能になっていました。しかしやるべき事はやっていますよ。私は長月荘へ、高橋さんはエリスさんの元へと向かっています。工藤さんからの連絡はまだですよね?」

 「はい。……地上の事は任せました!」

 「勿論です」

 短い返答だが、青柳とならばこれだけでも充分である。次に高橋からも連絡が入った。

 「高橋です。エリスちゃん、今どこ?」

 「海の近くにある、緑のマンションの屋上にいます」

 「了解。エリスちゃんの事は私に任せて、三人はちゃっちゃとあいつをやっつけちゃいなさい!」


 超大型種が立ち上がり、作戦は第三段階、全力をもっての殲滅へと移行。

 「地上班はあいつの足を狙って下さい! とにかく動きを止める事!」

 「こちら久美、了解です。全車足を狙え! 砲撃開始!」

 海岸道路に一列に並んだ陸自戦車隊がの各戦車から、一斉に轟音が上がる。

 「命中を確認。……文字通りの足止めで精一杯か」

 「こちら海だが、動きさえなければこちらからのいい的だ。我々も連携しないといかんぞ。全艦狙え! 一発でも外した奴は潜水艦任務に回してやるからな!」

 海上からも砲撃が開始される。


 「私達はとにかく相手の攻撃方法を減らしましょう。まずは背中の砲身を全部壊すわよ!」

 超大型種は今の所、背中から生えている毬栗のような無数の砲身からの砲撃に専念している様子であり、その他腕を動かし砲撃を払いのける程度である。

 「こういうのはあたしに任せてもらうよ!」

 リタは64式に持ち替え、これでもかと連射。

 「100%の連射が出来るとは、あたしですら思ってなかったよ。これならば300%でも行けるかもね!」

 余裕のあるリタの言葉に、皆の士気も上がる。


 しかし削り途中でエリスから声が上がった。

 「動きが変わったよ。みんな気を付けて!」

 超大型種は、体を大きく反らせ、これでもかという大音響で咆哮。

 「うあああっ!」

 思わず皆耳を塞ぎ、攻撃が止まってしまった。狙い通りとばかりに超大型種が腕を大きく振り回し、その風圧だけで大きな波が立ち、三人は防壁を展開し耐えるしかなくなる。

 「まずいね、一気に形勢逆転された」

 焦るリタへと向けて、超大型種の拳が飛んで来た。

 「間に合わないっ……」

 回避不可能と判断したリタは、自身で出来る最大限の防壁を展開。

 「守るって!」

 エリスがギリギリで追加の防壁を張る。

 耐え切ったかに思えたが、少しの力差で防壁が破られ、拳の直撃を食らったリタ。小さな体はまるで石ころのように簡単に吹き飛ばされた。

 海上へと落ちる寸前、エリスが防壁でリタの体を覆い、衝撃を吸収。


 「リタ大丈夫? 怪我は?」

 「……」

 「ねえ、リタ!」

 涙声を出すエリス。

 「……意識が飛んでただけ。怪我は……ごめん、右腕をやられた。……っ!」

 自分の状況を確認し、遅れて痛みに襲われるリタ。

 「畜生……利き腕がやられてちゃ、あたしはお荷物だね」

 「左手は使える? 今はあんたですらも貴重な戦力なのよ。死ぬ気で無茶しなさい!」

 「あはは……本当に無茶を押し付けやがって。撃てるのは拳銃までだよ」

 折れて上がらない右手をだらりと下げ、激痛に歪む表情のまま左手だけで拳銃P2000を構えるリタ。

 引き金は引くものの、その弾は弱々しく超大型種に弾かれるのみ。

 「……はあ、貴重な戦力にすらなれなくなったですよ」

 口調が戻り、自らを哀れむリタ。

 「リタ、まだ終わってない! 死んでも諦めるんじゃない!」

 サイキからの檄が飛ぶが、リタの表情は痛みと悔しさで歪んだまま。


 超大型種は凶暴性を増し、サイキとナオへも襲い掛かる。

 「おねえちゃんたちは、ぼくが守る!」

 改めて強く宣言したエリスは、その通り二人への攻撃を防いでおり、その才能が伊達ではない事を見せつける。

 「全く、血が繋がっていないくせにこの姉妹は揃って化け物なんだから」

 呆れたようなナオの声。すると別の声が混じる。

 「マンションに到着。エリスちゃん今行くよ」

 「高橋さんも逃げて」

 「だーめ。皆を守るエリスちゃんを守るのが、私の役目なんだからね」

 「……ありがとう、ございます」

 涙声を出すエリス。文字通り壁の外にいるエリスにとって、三人との間にあるその壁は、今の自分には越える事の出来ないものであり、それ故に孤独を感じていたのだ。そこに一番のお気に入りであり、自分の母親とを重ねてしまう高橋が来た事は、エリスにとってはとても心強いものなのだ。そして本来は逃げてほしいのだが、その反面、心情としては傍にいてもらいたくて仕方がない。


 「あいつ、防壁を破るつもりですよ!」

 リタの言葉通り、二人への攻撃のために海側を向いていた超大型種が、反転街を狙い防壁目掛けて拳を突き出した。

 「うあっ……ううっ……」

 拳一発毎に小さな悲鳴を上げ耐えるエリス。

 「いた! エリスちゃん!」

 そこへ高橋が到着。その目に映る光景は、片膝を突きながらも一心に耐え続ける小さな子供であった。高橋はその小さな体を後ろから優しく抱きしめた。

 「私は力にはなってあげられないけれど、せめて心の支えにはなってあげたいの。無責任な言葉かもしれないけれどね、エリスちゃんには私が付いているよ。だから……エリス、頑張りなさい!」

 エリスの耳には、母親の声でこの言葉が響いていた。エリス自身、それが母親ではないと分かっているのだが、その言葉がとても大きな力となって後押ししてくれる事は、紛れもない事実であった。


 「一番まずい攻撃が来るわよ!」

 超大型種が一旦手を止め、口を大きく開けた。人間ならば顎が外れてもおかしくないほどに大きく開いた事からも、この侵略者が人間とは骨格から異なる事を指し示す。

 「ぼくの意地、見せるよ!」

 エリスは射線上に防壁を大量追加。その数は三十枚を超えた。

 「撃たせてたまるか!」

 サイキとナオはこれを阻止に入るが、狙いすましたように背中からの砲撃が再開され、近付けなくなる。

 「あれをやるか。事故ったらごめん!」

 サイキは夜の海で見せたように、最低限の防壁のみを展開するという芸当で強引に突撃。しかし次は腕を振られ、その風圧で近付けなくなる。

 「困ったわね……リタ、耐えると思う?」

 「無理です。あれでは貫通するですよ!」

 ナオの確認に即答で返すリタ。それほどまでに力差があるのだ。

 万事休す。



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