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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 12

 金曜日。本日も雨である。

 「昨日の様子を見ていて思ったんだが、少しでもエリスとの時間差があると、まずい事態に発展しかねない。学園には俺から話をつけておくから、エリスも一緒に登校しなさい」

 「ぼくも? 工藤さんは?」

 「俺の事は気にするな。というかな、今は俺よりも重要な事があるだろ。もしもの時はお前達四人で切り抜けなければいけないんだから、俺と連絡がつかなくなったとしても、動揺せずに今まで通りにしろよ」

 不安げな表情を見せる四人だが、それでもしっかりと頷いた。

 「どうせ午前授業なんだから、すぐ帰ってくるだろ」

 「……うん、そうだね」

 普段通りの朝食を食べさせ、エリスを含めた四人を学園へと送り出す。さて、学園に断りの電話を入れるかな。



 視点を四人へと変更。

 「エリス、戦闘よりも緊張してるんじゃない?」

 「うん、そうかも」

 「皆いい人だから大丈夫よ。あ、でも幾つか注意事項があるから、ちゃんと守ってね」

 ナオはエリスに装備の使用禁止と、有事以外での着替え禁止を確約させた。

 「授業中は静かにするですよ。といってもエリスならば分かっているですよね」

 「うん。皆には迷惑かけません」

 しっかりと分かっているエリス。


 「おはよう」

 「おはよー……あーっ! エリスちゃんも来たの!?」

 中山の声が響き、すぐさまエリスは囲まれる事に。しかしこれも予想済みであり、エリスは冷静である。

 「えっと、初めまして」

 クラスメートとは初顔合わせではあるが、既に皆知っていた。

 「白い光の子だろ? 確かサイキちゃんの妹さんだっけ」

 「うん。念の為に一緒に登校する事になったんだ」

 気を利かせた男子が勝手に空き教室から椅子と机を持ってきた。席はリタの隣。足の着かないエリスだが、自分もクラスの一員になった気分で満足している。


 「はーい皆座れー」

 孝子先生が登場し、クラスメートは各々席に着いた。

 「えーっと……言わなくても分かっているとは思うが、今日から臨時でサイキの妹さんであるエリスちゃんが加わった。年齢は七歳くらいだが、中身はお前らよりもしっかりしてるぞ」

 手招きされたエリスは一人で教卓の前へと出向き、しっかりと挨拶を済ませ、拍手をもらい自分の席へ。

 「例の超大型とやらが出た後でも、そのまま終業式まで一緒にいてもいい事になったから、皆目をかけてやるように。以上」

 ホームルームを終えしっかりと挨拶の出来たエリスを見て、サイキはようやくほっと一息。

 「工藤さん、エリスを最後まで一緒にいさせてくれるようにしたのね。てっきり超大型までの限定かと思っていたのに。エリスのご感想は?」

 「うん、えっと……まだ余裕ないかも」

 自分よりも倍の年齢の学生に囲まれるのだから、緊張で話に付いて行くのが精一杯のエリス。勿論この話は他の教室や上の学年にまで届いており、一目見ようと次から次へと来訪者が現れるのだった。


 授業中エリスは隣のリタと机をくっ付けて一緒に勉強。勿論小学生の年齢であるエリスは問題を解けるほどの知識はないので、あくまでも見聞きしているだけの状態。それでも一応は勉強をする姿勢を見せており、その姿に教師一同からは微笑まれている。

 休み時間中、長月荘からエリス宛てに連絡が入った。

 「調子はどうだ?」

 「うん。もう慣れてきました。おねえちゃんの言う通り、みんないい人で安心してます」

 「ならば俺も安心したよ。そうだ、一つ注意点があった。戦闘時には自分の痛みとかを少なく報告するのはやめろよ。心配をかけさせまいと少なく報告すると、それ自体が迷惑になるんだからな」

 「……ぼくが無理して嘘をつくと、おねえちゃんたちが迷惑しちゃうんですね。分かりました」

 両耳を塞いで会話をするエリス。その内容は三人も聞いており、工藤からの指摘をしっかりと理解した様子のエリスを見て、安堵している。



 四時間目も終わり、帰りのホームルーム開始。しかし、その途中で四人が一斉に立ち上がった。

 「来たわよ! 皆避難しなさい!」

 「美鈴さん窓開けて!」

 心の準備が出来ていたクラスメートの動きは早かった。相良はすぐに窓を開け、ドアの近くにいた学生が走り他のクラスへも一斉に避難命令が出される。

 窓から飛び出した四人を確認した学園長は、その報告が来るより先に市役所へと通報。同時に役割分担の出来ていた教師一同も警察消防救急の各所へ通報。

 ほどなく市役所は緊急災害放送を開始。ここまで四人が襲撃を察知してから一分足らず。街全体が既にその覚悟を決めていたので、役所であろうとも対応が早かったのだ。


 屋上からではなく窓から飛び出した四人。

 「場所は……街のど真ん中だ! エリス、出来るだけの大きさと数で街を覆って!」

 「任せて!」

 早速エリスは街全体を覆う広大な防壁を五重に展開。

 「工藤さんからの忠告もあったでしょ。厳しければしっかり言いなさい」

 「うん。張るだけならば大丈夫だよ」

 「その工藤さんと繋がらないです」

 接続を繰り返すも、長月荘にいるはずの工藤一郎と連絡が取れない。

 「それ所か青柳さんとも繋がらない。どうする?」

 「……いいわ。全員私に判断を委ねて。私が誰一人欠ける事なく帰らせてみせます!」

 「了解!」「はい!」「命預けたですよ!」

 こうして侵略者のボス、超大型種との最終決戦が幕を開けた


 「敵は……雲の上だ。降ってくるよ! エリス耐えてよ!」

 「うん!」

 今までにない高高度に開いたゲートから、巨大な黒い影がゆっくりと姿を現した。

 その姿は尾のない西洋のドラゴンといった感じであり、背中に三対の翼を持っており、全体的にどす黒い。全長は百メートルに迫り、市街地のどのビルよりも高い。

 「翼があるわね。飛ばれると厄介だから、まずは翼を切り落とすわよ! それとエリスは絶対に防壁の外に来ないで。エリスがやられると防壁が消えるわ。しっかり立ち位置を考えなさい!」

 「うん、分かった!」

 エリスは防壁よりも下で待機、三人が迎撃体制を取る。

 「……さすがにわたしでも恐怖心を煽られる。こんな感情いつ以来だろう」

 「感情に潰されるんじゃないわよ? サイキもリタも、全装備制限解除! フラックもスタンバイしておきなさい!」

 「……よし、あたしの本気見せるよ!」

 リタもスイッチを入れ、全員戦闘態勢へと移行。


 「わたしが攻撃を誘う! リタ分析頼んだ!」

 「任せな!」

 不気味なほど静かに降下中の超大型種。その眼前へと飛び出したサイキは、早速相手の攻撃を誘う。

 「……こいつ寝て……あっ!」

 目を見開くと同時に、大きな咆哮を垂れる超大型種。思わず耳を塞ぐサイキを尻目に急降下。

 「エリス行ったわよ!」

 「耐えてみせるもん!」

 気合を入れ超大型種を迎えるエリス。

 「……んああああっ!」

 声にならない叫びと共に、五重の防壁のうち、三枚を突き破られたものの、四枚目でどうにか止める事に成功。この時点でエリスがいなければ、一撃で街は壊滅していた。

 「大丈夫!?」

 「……うん。今のうちに動きを止めるから……早く!」

 サイキの言葉に、泣きそうな声を上げながらも耐えているエリス。超大型の手足を拘束し、動きを封じる事に成功。

 「作戦に変更なし! さっさと翼を破壊して機動力を奪うわよ!」


 「出来た分析結果だけ報告するよ!」

 リタが担当していた、超大型種をスキャン出来た部分の分析が終わった。

 「あいつ口の中に主砲を備えていて、この星を貫通するほどの威力だと推測。絶対に撃たせるなよ!」

 分析結果に一斉に青くなる三人。しかしナオは自身の役割のために、すぐさま冷静さを取り戻した。

 「他は?」

 「桁違い。今はそれだけ。サイキは攻撃を誘うのをやめるべきだね」

 「分かった。それじゃあ翼に注力する」

 攻撃を誘う役を中止し、サイキも超大型主の六つの翼を切り落としにかかる。

 リタは距離を取りつつ対戦車ライフルを連射。しかし全く効いている様子がない。

 「……50%じゃ傷も付かないのか?」

 「リタ、付け根を狙いなさい! それにエネルギーは抑えてる場合じゃないわよ!」

 「そうだね。分かったよ!」


 「あたしの100%FA行くよ!」

 リタは早速エネルギー100%で対戦車ライフルの引き金を引く。

 鋭く尖った光の矢じりが現れ、一撃で超大型の翼を一枚破壊。

 「よし、このまま二枚目も頂くよ!」

 間髪いれず言葉通りに二枚目も破壊。

 「100%FAならばダメージは入るみたいね。私も負けていられないわ!」

 ナオも負けじと投擲槍を装備し、力一杯投げ込んだ。光を纏った大型の槍は、螺旋を描き超大型の背中へと命中。

 「……よし、二枚頂き!」

 「残りはわたしの獲物!」

 サイキは水晶の剣を100%FAさせ、長大な光の剣を出現させてそのまま水平方向に殴った。

 「嘘っ……」

 翼は無事に破壊出来たが、100%の力でも相手に傷を負わせられず、剣が止まってしまった。少しは持っていた一撃で倒すという希望が否定され、三人の胸中には失敗の二文字が浮かんできてしまった。


 「……もう……ダメっ!」

 超大型を拘束していたエリスの防壁が消滅。足元にある街の防壁はまだ生きているものの、エリスの体力は既にかなり消耗している。

 「第二作戦へ移行! あいつを海に引きずり込むわよ!」

 「了解!」

 超大型種をどうにかして海上まで移動させ、現用兵器からの支援を受けられるようにするという、第二作戦が開始された。



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