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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 11

 雨の中、学園へと登校する三人。その表情は少し固い。

 「誰もいないといいね」

 「そう言いつつ、しちゃいけない期待をしている自分がいるのよね」

 「分かるです。最後まで皆と一緒にいたいですよね」

 期待と不安の入り混じる中登校した三人。

 「おはよう!」

 「おはようございます。……って、何で皆普通に登校しているの?」

 校門で教師に声を掛けられるという、玄関前から既にいつも通り何一つ変わらない光景。あまりにも変わらないので不安になる三人は、そこにいた二年生の男子学生を捕まえて質問をしてみた。

 「何で皆逃げていないんですか? あれだけ避難してくれって言ったのに」

 「避難した所で三人が負けたら同じでしょ。まーウチの場合は親戚が皆この街にいるっていうのが理由だけど。それに、負ける気がしないからね」

 軽く手を振り去る男子学生。


 唖然としながらも三人は教室へ。

 「一番身近なクラスメートならば何人かは避難してくれているでしょ」

 というナオの淡い期待は、見事に打ち砕かれた。

 「あ、おはよー。ねーねー雨だねー」

 そこには、いつもと全く変わらない調子の中山が。

 「雨だねー、じゃないわよ! 何で皆揃いも揃って避難してないのよ!」

 「だってさ、三人の近くが一番安全だからね。それにさっき相良さんから聞いたけど、エリスちゃんは防壁の天才なんだって?」

 最上の質問に、呆れた表情のサイキが答えた。

 「うん、まあ……わたし達とは比べものにならないくらいの防壁展開能力だった。わたし達は防壁を二・三枚作るだけで精一杯なんだけど、あの子は十枚を余裕で作ってみせたんだ。……本人には言えないけれど、超大型戦では一番頼りにしてる」

 最後に恥ずかしがりながらも喜び笑顔になるサイキ。


 「ねえサイキさ、それエリスちゃんにしっかり言いなさい。あの子は褒められて伸びるタイプだから、あんたに褒められたら凄く喜ぶし、凄く伸びるよ」

 「でも、やり過ぎないかなって不安なんだ。頑固な子だから、こうと決めたら安全性軽視で突っ込みかねない。……唯一の家族を失いたくないんだ」

 相良の提案に、エリスへの不安と、自身の心の内を吐露するサイキ。すると妹である泉が、自身の気持ちを参考に、エリスの気持ちを代弁した。

 「妹っていうのは、姉を見て自分を見るものなんです。だから姉が凄い人だと、自分はどうなんだろうと不安になるんです。その不安が反抗心になる前に、エリスちゃんの持つ不安を解消しないと駄目ですよ。でないと大切な場面で言う事を聞かなくなる。だからちゃんと話し合って、褒めてあげて下さい。それが一番エリスちゃんのためになるから」

 真剣な表情の泉に、サイキも心を動かされた。

 「泉さんに言われると、納得しちゃうなあ。……うん、分かった。帰ったらエリスと話し合って、褒めてあげる事にする」

 サイキの笑顔に、ナオもリタも、周囲の皆も一安心。



 視点をその後の長月荘へと移す。

 昼になり三人が帰ってきた。エリスはやはりサイキにくっ付きに行った。何があろうとも仲の良い姉妹だ事。

 「ねえエリス。エリスはお姉ちゃんの事、どう思ってるの?」

 「うーん……大好き。えへへ」

 「わたしもエリスの事が大好きだよ」

 唐突に始まった姉妹の愛情確認。何だこれ、と思ったら話の本筋は違った。

 「でも今はそういう意味じゃなくてね、お姉ちゃんをどう見ているのかっていう事を聞きたいんだ」

 「あ、えーっと……戦いになったらちょっと怖いかな。でもそれはぼくのためだって分かってるよ。普段は……もっとしっかりしてほしい」

 最後の答えに思わず笑ってしまう我々。サイキは恥ずかしそうである。

 「はっはっはっ。でも何で突然そんな話になったんだ?」

 「サイキはエリスを褒めるべきだって、皆から言われたのよ」

 「なるほどな。それで先にエリスの心情を確認しておきたかったと。まあエリスにとっては姉であり上官であり目標だろうから、そんな存在のサイキから褒められれば、それは嬉しいだろうな」

 私の推測に、エリスは恥ずかしそうに頷いた。


 「分かった」

 サイキはどうやら一つ決心したようだ。

 「エリスよく聞いて。この先ある超大型との戦闘ではね、わたし達は、エリスを一番頼りにしているんだ。エリスの防壁展開能力はわたし達の想像を超えていた。だからエリスは必ずわたし達の力になる。エリスの力が皆やわたし達を守ると確信しているんだ」

 エリスは真剣ながらも、サイキからこうも褒められるとは思っていなかったのか、嬉しくて涙目になっている。

 「でもね、わたしはお姉ちゃんとして不安なんだ。家族としてエリスを失いたくないんだ。エリスを失ったら、わたしは本当に独りになっちゃう。それが怖いんだ。だから戦闘では強く言っちゃうんだ。……ねえエリス。お願いだから、お姉ちゃんを独りにしないで」

 サイキも真剣だ。真剣過ぎて若干涙目になっている。

 「約束。ぼくはおねえちゃんを独りにはさせないよ。ぼくの大好きで、大切なおねえちゃんだもん。工藤さんや、ナオさんや、リタもだよ」

 これでもかと真ん丸い笑顔を見せるエリス。本当にサイキに褒められた事が嬉しいのだなと、手を取るように分かる。


 しかしその表情が変わり、不安げなものになった。

 「でも、ぼくは本当におねえちゃんたちの力になれるの? 前みたいに失敗しちゃったら……」

 やはり自身の実力に不安を抱えているようだ。するとナオが笑った。

 「ふふっ、泉さんの言っていた事は正しかったわね。きっとエリスは、自分と私達とを比べて、私達のように出来ない事に不安を抱いているんじゃない?」

 小さく頷くエリス。それにサイキは笑った。

 「あはは、それは心配無用だよ。お姉ちゃん達だって最初から上手くやれていた訳じゃないし、だからこそわたしはこういう体なんだ。エリスは特に、訓練も準備も何もなくいきなり戦場に立つ事になったんだから、出来なくて当たり前。だからこそね、エリスはちゃんとわたし達の指示を聞いて、信じて動いて。これはエリスの命を守るために、そしてエリスがいるおかげで守れる皆の命のために必要な事だからね」

 「……うん、分かった。ぼくはおねえちゃんたちを信じて、その指示をよく聞いて、その通りに動きます」

 やはり理解力もあるエリス。返事が早かった。

 「でも一つだけお願い。おねえちゃんたちも、ぼくを信じて。叱ってくれてもいいから、ぼくがぼくの考えでやる事を信じて。ぼくはちゃんと考えてるから」

 この判断を、ナオもリタも、サイキに一任するようだ。

 「……じゃあ、きっとこの後襲撃があるから、それが超大型じゃなければ、エリスがどう考えて動くのか見るよ。でも超大型が出てきた場合は、自分を捨てて全てわたし達の指示通り動いて。それが出来なければナオの作戦にも影響するからね」

 戦場に出るなと言わない辺り、サイキももう覚悟を決めたのだな。エリスはしっかりと返事をして頷き、その時を待つ。


 日が傾きだした午後五時。襲撃発生。

 「中型緑が四体……だけ。エリス、実力見せなさい」

 「はいっ!」

 即座に戦闘仕様に切り替わったサイキはとエリス。四人は雨空へと飛び出していった。

 「どうだ?」

 私もいつものように即席司令室をこしらえ四人と刑事二人接続。

 「場所は南の住宅街だけど、それぞれが結構離れています」

 「四人に四体だから各個各人担当にするわ……って、エリスこの距離から出来るの!?」

 何かと思えば、かなり距離があるはずなのに、既に四体の中型緑は円柱状の防壁に囲まれ、身動きを封じられてしまっていた。

 「……でも、早くお願い。暴れられるとぼくにも少し衝撃が来るから」

 「分かった。エリス、わたしが切りつける寸前に解除して。出来る?」

 「任せて!」

 無茶な要求かと思ったが、まるで朝飯前だとでも言いたげに力強い返事のエリス。


 ブースターを載せている三人が先に到着。エリスはまだだな。

 「こっちからは見えてるから、タイミングはおねえちゃんたちに任せます」

 「ふふっ、心強いわね。一体は残るから、それはエリスが自分で倒しなさいね」

 「うん、分かった」

 ナオはしっかりエリスへのお膳立てもするつもりだな。サイキ視点ではきっちりと中型緑を囲むように防壁が張られており、囲われた緑は防壁相手に殴る蹴る頭突きをするといった様子が見て取れる。

 「あれを四体でやられているんだから、わたし達だったら結構大変だよ。エリス、本当に”少し”で済んでるの?」

 「うん。軽く押されている感じだけ。……でもちょっと怖い」

 「分かった。後はお姉ちゃんに任せなさい」

 エリスが怖いと呟いた瞬間、サイキの声色が変わった。どうやらお姉ちゃんスイッチが入った様子。

 「一撃で潰す!」

 やはりな。サイキは宣言通り中型緑を一撃で倒した。エリスは剣が振り下ろされる、その必要な部分だけ防壁を解除するという芸当もやってのけた。本当に防御に対しては三人とは比べものにならないほどに才能を持っているな。

 「次こっち!」

 「はい!」

 ナオは槍を投擲し、エリスはその進行範囲だけ防壁に穴を開けた。こちらも一撃。

 「リタは真上から撃つですよ。エリスは最後の一体に集中しておくです」

 「うん、分かった!」

 リタは冷静に中型緑の直上へ移動。64式を手に持ち引き金を引き、こちらも掃除完了。残りは一体でこれはエリスが担当する予定だ。先輩格三人が合流し、エリスも来た。


 「どう倒すかはエリスに任せるぞ。しかし危険な真似はするなよ。例えば三種の装備があるからそれぞれで攻撃してみるとか、そういう慣れていない事を本番でいきなりするのは駄目だぞ」

 「それって、やってみろっていう事ですよね?」

 「いやいやコントじゃないんだから。こっちは本気で言っているんだ」

 「……ごめんなさい。分かりました、安全に倒します」

 ナオとリタは笑っているが、サイキは渋い表情。また怒られるぞ。

 「じゃあ……こういうのは、どうかなっ!」

 円柱状の防壁に囲まれた中型緑。その上から蓋が閉まるように大きさを合わせた防壁を、これでもかという速度で叩き付けたエリス。

 ドンッ! というまるで爆発したような音が響き、中型緑はぺしゃんこに潰され消滅。

 「やったっ! ……けど、すごい音がした。ぼく失敗しちゃったの?」

 一瞬喜びはしたものの、不安そうなエリス。

 「あれは空気が圧縮され、隙間から一気に逃げたので大きい音がしただけです。でも防壁のおかげで横ではなく上空に抜けたので問題はないですよ。その証拠に、雲に穴が空いているですよね?」

 皆が上空を見上げると、本当に雲に穴が空いて、そこだけ青空が見えている。

 「……あっ、この前テレビの実験でやってた空気砲だ」

 「正解です。なのでエリスは失敗していないですよ。唯一改良点としては、もう少し空気の逃げる場所を作ってやれば、音が抑えられるですよ」

 「うん、分かった。蓋に穴が空いていれば空気が抜けるから、音がしなくなるんだよね?」

 「理解が早いですね。そういう事です。では周囲の確認も済んだので、帰るですよ」

 何事もなく無事に終わった戦闘にほっとする私。


 「あ、ねえ陸自がキャンプ張ってるはずよね? ちょっと見ていかない?」

 というナオの提案で、四人は帰宅前に陸自の臨時キャンプ場所へ。

 「あった。えーっと……手を振ってる人がいるけど、あれ久美さんじゃないかな」

 四人が高度を下げて確認すると、確かに久美さんだ。挨拶を済ませると、これからの説明が入った。

 「後で長月荘にお邪魔する予定だったんですけど、今説明してしまいますね。まず最初に、今も襲撃がありましたけれど、普通の敵には動かない事になっています。我々の狙いはあくまで超大型、という事ですね。それから超大型が出現した際には、皆さんにはまず海上に誘導してもらいたいんです。我々陸自は海岸線に部隊を展開するつもりなので、それが一番広くて戦いやすいという事です」

 四人とも頷いたな。

 「そして既に海上には海上で戦力が待機しています。遠くなのでここからは見え……ないですね。後で挨拶がてら行ってみてはどうでしょうか?」

 「空からの支援はどうなっていますか?」

 「航空自衛隊は近隣の民間空港を間借りしています。その他滑走路として使えそうな広い場所にもいるらしいですよ」

 まさに野戦飛行場という訳か。


 四人は久美さんとの会話を終わり、海上へ。

 「あ、いたいた。えーっと……かなりいるわね」

 一見して二十隻はいるだろうか。と、船から光が。

 「発光信号って奴ですね。内容は……忘れたです。でもきっと挨拶ですよ」

 さすがリタ、忘れっぽいだけはある。

 「そうだエリス、超大型を海上に誘う時に、恐らくは大きな波が立つはずだ。その波をそのままにするのは危険だから、抑えるために防壁で堤防を作る事を覚えておいてくれ」

 「うん、分かった。やる事が一杯だ。頑張らないと」

 自分の責務の重さを実感してか、三人から見るエリスは、きりっとした良い表情になった。


 その後帰宅、エリスは改めてサイキに注意を受けていた。

 この戦闘での人的被害はゼロ。敵が動き出す前にエリスが防壁で囲ったおかげで、安全に倒せたのだ。その報告を高橋から受けたエリスは、まさに飛び上がって喜んでいた。



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