学園戦闘編 3
全員帰宅し、私は夕飯の準備を開始。あれ以来、横には必ずサイキが来て手伝ってくれている。リタの分が増えたので、これが結構助かっているのだ。さすがは隊長補佐。とすると私が隊長か?
食事も終わり、明日の編入テストのためにと三人の学習具合を見ておく。サイキとナオは小学六年生の問題は全て終わり、リタも小学五年生の問題に取り掛かっている所だった。年齢はバラバラだが、これなら中学一年に編入してもやっていけるかな。
念のためテストをしてみた所、全員正解……したのだが、一つの疑念が過ぎる。
「なあ、まさかリンカーで答え教えあってないだろうな?」
何故そう疑ったのか? 簡単だ。リタが小学六年生の問題に正解してるからだ。到達していないはずの問題を正解している。これだけで疑念を抱くには充分だ。
「や、やだなあ、そんな事あるはずないじゃないですかーあははー」
バレバレだ。物凄くバレバレだ。
「おい、怒るぞ? カンニングは立派な不正行為だ!」
三人顔を見合わせ、分かりやすく意気消沈。
「ごめんなさい。三人一緒で入学したくて、つい……」
「つい出来心で済むなら警察は要らないんだからな。今後、学校でのリンカー及びスーツの機能全般を使用禁止。レーダーと髪の色は仕方ないとして、他の機能は使うなよ!」
私にきつく叱られしょんぼりしながら各々部屋へと戻る、と思ったら本日三度目の襲撃だ。しかも悲鳴の鳴り方が少しおかしい。複数の方向から、少しずつ遅れて三回聞こえたのだ。つまり一箇所から出現したのではない。
「えっと、北に大型一体、西に中型一体、南に小型二体を確認。三点同時攻撃……」
サイキの報告に緊張感が我々を包む。
「とりあえずだな、北にサイキ、西にナオ、南の小型はリタにしよう。お前まだ経験浅いんだろ? 無理をするなよ。各々そこでの戦闘が終わり次第、大型に集まる事にしよう」
「はい!」
いい返事である。さすがに兵士二人は戦闘となれば目の色が変わる。リタも少し不安そうではあるが、気合が入っている。
颯爽と三方それぞれへ飛んでいく三人を見送る。私はパソコンを用意し、いつものように青柳と映像チャットを繋いだ。
「……作戦は了解しました。こちらも異存ありません。我々は北部の敵を中心に援護に入ります。ではよろしくお願いします」
「昼の戦闘でエネルギーを使ったと思うが、残りは大丈夫か?」
私の問にナオが答えた。
「減る所か、若干増えているわ。リタ、感謝するわね」
「当然です。リタが来たからには安心するですよ」
「本当に三人揃ってよかった。わたし一人だったらこんなの対処出来なかったもん。ナオもリタもありがとう」
彼女達三人の絆はとても強いな。
まず最初にリタが現場に到着。南とは言ったが、南東の住宅街のようだ。
「リタ、目視確認、一体目……撃破です。二体目探すです」
あっさりと一体目を倒した。経験が浅いとは言っても小型相手ならば問題なさそうだな。
「ナオ、現場に到着しました。相手は……灰色だわ。相性悪いかも」
「そっちは中型だったか。灰色ってのはどういう奴だ?」
「攻撃力は無いけど遠距離攻撃を連射可能な奴。リタならよかったかもね」
采配失敗か。やはり一介の下宿屋主人の限界点は低いようだ。
「工藤さんは相手を知らないんだから当然。気にする必要ないわ」
ナオに慰められてしまった。そして間髪いれずにサイキからも報告が入る。
「サイキ、北部工業地帯に到着しました。相手は深緑。ナオが来た時のと同じ奴だけどエネルギーがある今なら問題は無い! 一気に叩き潰します!」
三箇所で三人それぞれ戦闘が始まった。まず最初に切り抜けたのはリタだ。
「二体目の撃破を確認です。これよりサイキの援護に入るです」
早速向かおうとしたリタだったが、これに青柳が待ったをかけた。
「リタさんは先にナオさんの援護に向かってください」
「了解です。ただちょっと……見られちゃったかもです」
「後の事は気にせず、今は戦闘に集中して下さい。その為の我々です」
相変わらず格好いい青柳だ。
ナオは中々近づけずに苦戦中。サイキは片腕を切り落として最後の仕上げといった所だ。
「接近出来ればあんな奴……」
苛立ちを見せるナオ。そこへリタが合流。青柳の判断は正解だったようだ。
「リタ、ナオと合流です。足止めするからナオは飛び込むです」
「援護感謝するわ。カウントスリーで行くわよ!」
「ワン、ツー、スリー!」
風切り音が聞こえ、収縮音がする。
「撃破確認! 西側クリア! 私とリタはサイキの援護に向かいます」
「大丈夫だよ。今丁度大型を撃破しました。北側クリア!」
サイキは一人で大型を倒したようだ。やはり一番強いのは隊長補佐のサイキなのだろう。一番泣き虫なのに一番強いとは。
「了解しました。お三方ともお疲れ様でした。長月荘へ帰投して下さい。損害状況は明日の朝にお伝えする事になると思います」
三人とも無事に帰ってきた。雲は掛かっているが、雨は止んだ。その暗い空に流れ星のように光の帯を引く彼女達。到着が偶然にも全員一緒だったので、私は外で出迎える事にした。
「ただいまー!」「ただいまです」
「おかえり。よくやったぞ」
二人は足早に家の中へ。
「ただいま……」
ナオだけ少し元気が無い。
「うん? どうした?」
「……私、情けないな……」
初めて弱音を吐くナオ。どうしたのだろう?
「サイキは最初に来て、色々あったけど挫けなくて、戦闘も強くて。リタも一般人なのにこっちに来て、勇気を出して私達を守ってくれて、援護してくれて。なんか、私だけ何も、ない、かなって……思っちゃって……」
堪えきれず泣き出すナオ。
そうか、今までの強気な態度は、虚勢を張っていたのだな。元来真面目な彼女は、それ故に劣等感を抱きやすいのだろう。今回、サイキとリタが活躍し、自身はリタの援護を待つしかないという状況になった事が引き金となって、感情があふれ出したのだ。
私はそっと彼女を抱き、頭を撫でてやる。歯を食いしばり、声を押し殺し泣くナオ。
……私は戸惑ってしまう。このような時に、どう声をかけて慰めてやればいいのかを知らないからだ。次がある、などという上辺の言葉では駄目なのだ。そこに私自身の、父親としての経験の浅さが身に染みる。
もしもナオが我が娘、明美だったのならば、どう声をかけたのだろうか。それが分からないのだ……。
幾程時が過ぎただろうか、ナオはもう大丈夫だと言い、涙を拭い長月荘に戻る。二人のいる居間には行かず、そのまま自分の部屋に入っていった。泣き顔を見られたくはないのだろう。いくら戦いが強かろうと、彼女達はまだ年端も行かない娘なのだ。それを改めて思い知らされる私だった。




