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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
227/271

最終決戦編 7

 侵略者の襲撃が発生。そしてエリスの使用試験開始である。

 「エリス、同じ事は二度も言わせるなよ」

 「うん。ぼくは自分の安全を一番にします。それが、ぼくの出来る人を守る事の一つだから」

 しっかり理解しているようだな。


 「敵は普通のばかりで、場所は西側に固まってる。二人はもう既に戦闘開始しているのかな?」

 「ええ。でも手が足りないわ。あんたも早く来なさい」

 しかしエリスを引っ張っているのでサイキはあまり速度が出せない様子だな。

 「エリス翼を仕舞ってわたしに強く掴まって」

 その手があるか。エリスはサイキの指示通りに強くしがみ付いた。サイキは一気に加速。エリスからは耐える声が漏れているが、普段から抱き慣れているせいか、振り落とされそうな気配はない。そしてほどなく到着。

 「エリスは上空で周辺警戒。もしも狙われている人を見つけた場合は、勝手に動かずにまずはわたしに報告入れなさい」

 「は、はい」

 普段のお姉ちゃんの顔とは一変し、本当にエリスを部下として扱っているな。エリスはサイキの動きを目で追いながらも言われた通り周囲を警戒している。


 「エリス、敵の数と種類を教えてくれ。青柳と高橋にも情報が必要だ」

 「えっ!? ぼ、ぼくがやるの?」

 「お前が一番下っ端だろ」

 実際には敵を知っておく事で、戦況を自分で分析させる狙いがある。戦況も分からずに突っ込めば、それこそ待つ結果は一つだけだ。エリスは焦りながらも指差し数えている。やはり最初だから一気に数えるのはまだ無理か。

 「……えっと、広い範囲で、小型が四体。中型が……七体? 大型は一体だけ」

 「種類は?」

 「しゅ……えっと……」

 「焦るな。お前が焦ると情報が混乱する。お前の焦りで人が死ぬぞ」

 三人は既に戦況をしっかりと見定めているはずなので、死者が出るほどの被害はないと思うが、ここはエリスに冷静でいる事の大切さを叩き込まなければ。

 「うん。待って、小型が……おねえちゃんたちが倒すから数が変わるよ!」

 一番混乱しているのはエリス自身か。と、サイキが代わった。

 「最初から。小型六・赤鬼一セット・緑四体・灰色二体・大型の緑と灰色が各一体ずつ。もう半減しています」

 「……ごめんなさい」

 「謝る暇があったらしっかり周りを見なさい!」

 サイキからの檄が飛ぶ。しかしこれはサイキも力が入り過ぎているな。帰ってきたら少し言ってやるべきだろう。一方刑事二人からも一言了解だと入った。どうやら状況を察して静かに事を進めるつもりのようだ。


 「こっちは大体片付いたですよ」

 リタからの報告が入った。ナオも見る限りそろそろ終わり、サイキはどうやら灰色二体に邪魔されている様子だが、あいつには問題ではないだろう。

 「今回もエリスの出番はないな」

 「うん。もう面白くないだなんて思わない。それが一番いいんだもん」

 しっかりと反省しているようで何より。しかし言ったそばから役割が降ってきた。

 「追加! えっと……ぼくでいいのかな? 赤鬼が二つ、青鬼が三つ、緑が三つ、灰色一つです!」

 また多いな。エリス視点では見回す限りかなり広範囲に散らばった。三人では手が足りないぞ。

 「リタは危険性と数の多さから青鬼をさっさと始末しろ。残り二人はどうだ?」

 「私終わり。追加は赤鬼担当するわ。緑は空き地に出たから今は放置ね」

 「わたしは灰色二体が邪魔で……」

 ナオは抜けたが、サイキは張り付けにされているなあ。

 「エリス、一体現れた灰色を監視しろ」

 「うん……はい!」

 言い換えたな。その気合が空回りしない事を祈るか。


 エリスは追加の灰色上空に到着し周囲を確認。だが、逃げ遅れたおばあちゃんが腰を抜かしている。周りの人が手を貸しているが、どうやらおばあちゃんが重くて上手く行かない様子。

 「……あの、おねえちゃん、人を助けたい!」

 やっぱり、という感じでサイキが溜め息を漏らした。

 「わたしもう終わるから待機して……」

 「あっ、灰色が動いたよ。……ごめんなさい! やっぱりぼく助けたい!」

 「こらエリス!」

 やはりこうなったか。エリスは腰の抜けたおばあちゃんの前に降り、防壁を展開。間髪いれず灰色からの攻撃弾が飛んで来たので、エリスが入らなければ危なかった。しかし今はエリスが危ない。

 「だ、大丈夫ですか? 早く逃げてくださいっ!」

 「あ、ああ……」

 おばあちゃん茫然自失。見た目かなりお年を召した方なので仕方がないのかな。しかし早く逃げろと恫喝したい気分だ。

 「エリス、分かっているだろうが、お前が危ないと判断したら逃げろ」

 「うん。でも、攻撃いっ……防いでも、全然当たった感じないよ?」

 そう言いつつ光弾が飛んでくるたびに目を閉じてしまっている。恐怖の克服という点では不合格だ。ナオに鍛え直させるか。一方リタが、衝撃を感じない理由を説明。

 「エリス用に衝撃も大幅吸収出来るようになっているですよ。中型白の攻撃でもまともに受け切り、かつ衝撃はかなり軽減出来るはずです。でも無理は駄目ですからね!」

 「は、はい!」


 「わたし終わったからエリスの援護に入るよ!」

 よし、これで一つ安心だな。と思ったら灰色がかなり近くまで近付いてきている。おばあちゃんは大人二人に引き摺られながらもまだ逃げ切れず。

 「……もうっ!」

 展開の遅さに業を煮やしたか、エリスは現在の防壁とは別に。灰色の上空にもう一枚防壁を作り、それを灰色へと叩き付けた。

 「そんな事も出来るのかよ!?」

 呆気に取られる私。しかしおかげで灰色の動きを完全に封じる事が出来ている。というか、最早攻撃手段として成立している。

 「防壁どけて!」

 とサイキが突っ込んできて、指示通り灰色に叩き付けた防壁を解除したエリス。すぐさまサイキが灰色を斬って捨てた。

 エリスは安心感からか、腰が抜けたようにぺたんと座り込んでしまった。そんなエリス目掛けて、鬼の形相で一歩一歩近付いてくる人物が一名。エリスもそれに気付き、目を合わせず下を向いてしまった。

 「覚えてなさい」

 「はいっ……」

 今にも泣きそうな声を出したエリス。サイキはその横を通り過ぎ、おばあちゃんに声を掛けている。

 「エリス、上空で待機していろ」

 私の指示に従い、無言で空へと上がるエリス。サイキもおばあちゃんに怪我がない事を確認してエリスの元へ。

 「サイキ、怒るのは帰ってきてからにしろよ。大体まだ戦闘継続中だ」

 「分かってます!!」

 おやおや、物凄い怒鳴り声……。


 サイキはエリスを一睨みし、中型緑を狩りに。ナオは赤鬼を倒し終わりエリスの元へ。続いてリタも来た。

 そのサイキの動きだが、一言で言えば荒い。明らかに鬱憤を晴らしている。そしてあっさりと終了。

 「クリア確認。帰りま……せん。また出てきた」

 再度の追加だな。そして長月荘からも見える大きさ。特大の深紅だ。しかしこれがサイキのイライラを爆発させた様子。

 「失せろ!」

 と一声、100%FAで水平方向に薙ぎ払い、特大の深紅本体は一切の見せ場なく終了。ついでに子深紅も何体か巻き込まれており、残りは……六体。キレる若者は怖いと言うが、この子の場合は斬ってくるので怖い。

 「エリスは動くな!」

 もうイライラを隠す事もせず怒鳴るように言い放ち、子深紅へと向かうサイキ。リタもそれを追うが、ナオはエリスに付くようだ。


 「ねえエリス、さっき防壁を叩き付けて灰色の動きを止めたわよね?」

 「……ごめんなさい」

 「私は怒っている訳じゃないわよ。それよりもエリス、あいつ……いるでしょ?」

 ナオはエリスの肩に手をやりつつ、子深紅の一体を指差した。ああ何かやらせる気だな。

 「あれをね、防壁で思いっきり挟んでみて。力の限りやっちゃっていいわよ」

 「でも……」

 「私が責任を持つわ。この事はサイキには何も言わせないわよ」

 渋々といった感じで頷くエリス。サイキやリタも聞こえているだろうに何も言わない所を見ると、二人も承諾していると見なしていいだろう。

 「……じゃあ、思いっきり行きます!」

 一体の子深紅の左右に防壁を展開し、文字通りそれで思いっきり挟み込んだ。子深紅に同情してしまいたくなるほど痛そうだが、更にエリスが手を動かし力を加えた所、子深紅が消滅した。つまりエリスが防壁を武器として使い、子深紅一体を撃破したのだ。

 「……あれ? えっと……ぼく?」

 「そうよ。今のはエリスが倒したの。……サイキ! あんたの妹才能あるわよ」

 「うるさいっ!」

 最早誰彼構わずといった感じのサイキ。ナオは笑って済ませている。


 数分で掃除が終わり、全員無傷で帰ってきた。

 「ただいま」

 「おかえり。エリス、どうだったよ?」

 「……ごめんなさい」

 やはり一発目から謝ったか。サイキは苦々しくも睨むような表情で、ナオは優しくエリスの頭を撫で、リタはいつも通りの無表情。

 「とりあえず、俺からの評価を言い渡す。命令違反で盾になろうとした事は、大いに減点だ。しかしまあ、おかげで人の命を救えたし、面白いものも見られた。しっかりと反省すればギリギリ及第点」

 と言った瞬間にサイキに睨まれた。

 「客観的な感想を言ったまでだ。それをお前にどうこう言われる筋合いはないぞ」

 余計に睨んできた。これは冷や水をぶっ掛けてやる必要がありそうだな。次はリタだ。

 「リタはスーツの性能を確認出来た事くらいしか考えてないですよ。ただ戦力と言っても戦う力だけが全てじゃないのは、リタがこの世界で一番思い知った事です。そう考えれば、エリスも戦力としては使えるんじゃないですかね。勿論、命令違反は駄目ですけど」

 まあ順当な回答だな。

 次にナオを指名。するとナオはサイキとリタの顔を交互に見つめた。

 「命令違反の常習犯って、一部隊に一人は必ずいるのよね。感情に任せて暴走したり、戦略も考えずに突っ込んで行ったり、実力を誇示するために他の人を置き去りにしたり。……あーらー? そういえばこのチームにもいたわよね?」

 人の事は言えないぞとばかりのナオの発言に、二人とも目を逸らした。分かりやすい奴らめ。

 「まあね、エリスの今回の行動は、確かに褒められたものではないわ。でもそれは私達も散々やってきている。違いが何かと言えば、年齢と経験。でもそれは今後少しずつ埋めていくものよ。それに、命を救ったのは紛れもない事実だし、防壁の新しい使い方も編み出しちゃったわ。命令違反をしっかり反省する事。これを条件に、私は合格をあげます」

 エリスは感謝しているとでも言いたげに、頷いた。


 「さて問題のお姉ちゃん行こうか」

 尚も恐ろしい表情で睨みを利かせるサイキ。エリスはちらっとその表情を見ただけで、小さく縮こまり今にも泣き出しそうである。

 「皆の言いたい事は分かるけれど、命令違反は命令違反。わたしは許しませんから。……でも、無事に帰ってきた事だけは認めます」

 「……はい。すみませんでした」

 しっかり謝る辺りがこの子らしいな。さて、それでは私は、その上官たるサイキを少し叱らなければ。

 「サイキ、コップに水入れてこい」

 「……分かった」

 私の無表情を察し、何も言わずに従った。サイキから水の入ったコップを受け取り、そのまま躊躇せずサイキの頭にかけてやった。

 「ええっ!?」と驚く周囲。サイキも唖然とした表情だが、私の行動の意味を理解し、拭く事もなく静かに頭を下げ謝った。

 「ごめんなさい。わたし頭に血が上ってた。これじゃあわたしがエリスを……エリスだけじゃなく、皆を危険に晒しちゃう。上官失格だ。……頭を冷やして反省します」

 「分かったならばよろしい。とりあえずは二対一でエリスは合格という事にする。しかしサイキ姉妹は二人で話し合い、重々反省する事。いいな?」

 「はい。すみませんでした」「ごめんなさい」


 叱るのにも体力を使うものだ。三人は一休みさせてからカフェに送り出した。その後青柳から連絡があり、こちらの状況を伝えると笑っていた。

 「ははは、もう何度目ですかね。しかし姉妹二人とも強い子ですから、同じミスは起さないでしょう」

 「そうだな。まあ今回の一番の収穫は、エリスがやってみせた防壁での圧殺だな。リタはあれに刺激を受けて何やら考えている様子だったよ。まだ終わらんな」

 「終わりませんし、終わりたくないんじゃないですか? それではですね、こちらは被害範囲が広いので、明日に報告に上がりますね」

 「了解したよ」

 終わらせなければいけないというのが分かっているからこそ、終わりたくない。……五年でどうにかすると一度は豪語したリタも諦めていたし、本当に今生の別れになってしまうのだろうか……。



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