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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 5

 あれから二日後の日曜日。本日は雨である。ついでに明日も雨の予報。さて襲撃はあるだろうが、出てくるのは普段の奴らか、超大型か。

 「それで、どう公表するのかは決めたのか?」

 「それが……わたしはあまり大きくしなければいいかなって。でもナオはなるべく目立ちたくないって言うし、リタはそういう発表の場には慣れているから大々的にやるべきだって言うしで、全然まとまらないんだ」

 「ははは、各々の生き様が見えるようだな。こちらとしてはどういう方法でも手を貸せるから、安心して悩め」


 昼前に三人と、ついでにエリスも反応。悲鳴音は複数回鳴ったのを確認。

 「えっと……普通の。まずは一安心。じゃあ行ってきます!」

 急ぎ三人とも飛び出していく。すると一緒にエリスも行く気になっている。

 「エリス、お前は駄目だ!」

 「……はい」

 少しは抵抗するかと思ったのだが、あっさりと諦めた。しかしどう見ても行きたそうであるし、私も相良剣道場での一件は聞いている。

 パソコンを用意していつもの即席司令室の完成。さて隣には……もういじらしいほどに”行きたいのを堪えてます”という雰囲気をかもし出しているエリス。

 「エリスも行きたいのか?」

 「……うん」

 やっぱりな。そしてこれでもかと私の目を見てくる。……もうね、爺さんにはその表情は拷問だよ。

 「はあ……サイキに怒られるなあ」

 「おねえちゃんにはぼくから言うよ」

 「……あーもう分かったよ! 全くこの姉妹は人を困らせる事ばかり次から次へと……。いいか、行ってもいいが、これから言う三つの事は守れ。さもなければ全員から怒られるぞ」

 「う、うん……」

 怒られると聞いた途端小さくなった。ブレーキになるならば、これでもいいか。


 「一つ目に、戦闘への参加と武器の使用は禁止だ。基本的に上空待機で見ているだけにしろ」

 「はい。戦闘には参加しません」

 「二つ目に、地上に降りるのは人命救助や避難誘導の時だけだ。既にエリスの事は街の皆も知っているから無用な混乱が起こる事はないはずだが、無闇に地上には降りるな」

 「はい。人助けの時にしか降りません」

 「三つ目に、もしもお前自身が狙われた場合、人命救助を中止してさっさと逃げろ。自分の命を最優先しろ」

 「……」

 他の二つは自分なりの言葉で復唱し、理解している事を表しているが、最後の逃げろという指示には不服の様子。

 「返事は?」

 苦々しい表情のエリス。

 「逃げなきゃダメですか?」

 「素人のお前が対抗出来るとでも思っているのか?」

 「……分かりました。狙われたら逃げます」

 やはり理解力の高いエリスらしく、これだけの言葉で納得してくれた。

 「よし、それじゃあ行ってこい! 安全第一だぞ!」

 「はいっ!」

 うん、これ以上なく良い返事だ。気合の空回りだけが心配だな。


 「という事でエリスも見学と人命救助の役割で参加だ」

 「やっぱりだね。エリスはわたしの所においで。……それで敵の種類だけど、結構多いし繁華街に近いから、早速エリスの出番が来るよ」

 「が、頑張る!」

 ああこれは緊張しているな。まずはしっかりと状況を整理しよう。

 「えーっと、駅前に赤鬼と緑で、こっちはナオ担当。商店街近くに青鬼と灰色でこれがわたし。リタは警察署方面の大型深緑一体。だからエリスは商店街を目指して来て」

 「うん、向かってる」

 「しかし青と灰だったらエリスには危ないんじゃないか?」

 「わたしを甘く見ちゃ駄目だよ。言ったよね? 美鈴さんのお兄さんと勝負して分かったんだ。わたしはもっと攻撃的に行くべきなんだって」

 このサイキの自信、エリスが行く前に全て終わらせてしまいそうだな。


 さて三人とも戦闘開始。

 見た感じで動きが一番変わっているのはサイキだな。以前夜の海で見せた乱舞に近い動きをして、範囲攻撃の出来る青鬼をさくっと撃破。

 「こちらリタ、終わったですよ」

 おっと一番にリタが抜けたか。エリスと話していた時間もあるし、三人も相良剣道場で刺激を受けた様子なので余計に早いのだな。リタには念の為エリスの警護に就いてもらおうかな。

 「こっちもそろそろ終わりよ。サイキは?」

 「……終わっちゃった。エリス何もやる事なかったね」

 「おもし……ううん、なんでもない」

 面白くないと言いそうになったな。まあ気合充分で行ったらもう終わっていたとなればそう感じても仕方がないか。しかしその一言は怒られるぞ。


 サイキはいつも通り周囲の見物人に頭を下げてエリスの元へ。リタも丁度合流して残りはナオだけか。

 「終わり!」

 と思った矢先にナオも戦闘終了だな。どうせだ、最終報告はエリスにやってみてもらおうか。

 「え? えっと……侵略者はいません。終わり……で、いいんだよね?」

 「うん。わたしも敵影なしを確認。さあ帰ろう」

 まあいきなりでは戸惑うか。こちらも様子は見ていたので把握しているからな。

 さて刑事二人はどうしているかな?

 「私は駅前、高橋さんは商店街、警察署近くは最寄の警官が処理していますよ。夕方頃には報告出来ると思います」

 「という事は晩飯を要求する訳だな」

 「私も晩御飯よろしくお願いしまーす」

 青柳も高橋も我が家で食事にありつく気満々だ。という事は買出しに行かなければな。


 帰ってきた四人だが、ほっとした表情の三人に対してエリスは顔に不満だと書いてある。問題なく終わったからこそ、少し指導が必要かもな。……ここはお姉ちゃんに言ってもらうか。サイキに目配せし、とりあえず指示を発信すると、頷いてくれた。ついでに他二名も私が何を言いたいのかを察した様子。

 「ねえエリス、どうだった?」

 「どうって、ぼく何もしなかった」

 「うん。それをどう思う?」

 さすが察しのいいエリス、このサイキの一言だけで顔色が変わった。しかしお姉ちゃんは手を緩めなかった。

 「エリス、わたしの所が片付いて、面白くないって言いそうになったよね? 止めはしたけど、それってエリスの本音だよね?」

 「……」

 怒られているのが分かっているエリスは、もう何も言わずただうつむいている。

 「エリス自身が高橋さんに言ったんだよ? わたし達は命を削りながら戦っているって。それに対して今さっきエリスは面白くないって、そういう命の削り合いが出来なくてつまらないって思ったんだよ」

 すっかり意気消沈しているエリスに、サイキの最後の一言が振り下ろされた。

 「そういう事を思っている限り、エリスは戦場にはいらない。もう来ないで」

 大方の予想通り、エリスは泣きながら走り階段を駆け上がり、部屋に閉じこった。


 「お疲れ様。お姉ちゃんは大変ね」

 「……わたしはいいよ。エリスのためだもん」

 ナオに撫でられているサイキ。大きく溜め息を吐き、それでも落ち込んでいる様子。

 「まあね、私はサイキを支持するわよ。あのままでは大事故を起こすのは目に見えているし、それに命の二択を迫られた時、どちらも選択するという最悪の回答を選びかねませんからね」

 二兎を追うものは一兎を得ず。それを命に当てはめてしまうと、二兎を追う今のエリスは危険極まりない存在なのだ。それこそ自身すらも失いかねない。

 次にリタもサイキを擁護した。

 「エリスはこれくらいでサイキを嫌いになったりはしないですよ。これでそうなるなら、とっくの昔にサイキは捨てられているです。リタの予想ではあと十分もすれば降りてくるですよ」

 リタの予想が当たるか外れるか。しかし私もそうではないかと思っている。エリスは理解力もあるし、しっかり反省出来る子だ。何よりも、パソコンを通して一部始終エリスには聞こえている。三人は気付いていない様子だけれども。……あ、いや、ナオは気付いている。


 十分ではなく十五分掛かったが、エリスが降りてきた。

 「……ごめんなさい」

 顔を上げずに更に頭を下げ謝った。声は小さいが涙で震えているのが分かる。

 「どうごめんなさいなのかな?」

 お姉ちゃんは最後まで手は抜かないつもりだな。まあ命が懸かっているので当然か。

 「使わないほうがいい力を使いたがった。それって、街が壊れればいいと思ったのと同じ。みんなが傷付けばいいと思ったのと同じ。……だから、ごめんなさい」

 しっかりとした答えに、改めてこの子が本当に六歳七歳辺りの子供なのかと疑ってしまう。しかし先輩格の三人は眉一つ動かさない。

 「じゃあどうするの?」

 「もう行かない……のは嫌。ぼくが言う事じゃないのは分かってるけど、超大型っていうのが来たら、おねえちゃんたち三人だけじゃ足りないかもしれないでしょ。だからぼくもしっかりと出来る事はしたい。もう見てるだけなのは嫌。……ごめんなさい、わがままで」

 「それでは戦場に連れて行けない。エリスは出来る事以上をやろうとして、出来る事すらも失敗する。エリスはわたし達の足を引っ張る事になる」

 用意していたようにすぐ答えが出たエリスだが、それもまたサイキに容易く撃ち落された。恐らくはサイキも想定していたのだろう。そして命の懸かった問答なのだから、一歩も引く気はないのだな。一方のエリスは、これが否定されるとは思っていなかった様子で、何も言えずにただ涙を流している。

 「自分で答えが出せないなら、……高橋さんに相談しなさい」

 そこで高橋を選ぶか。あいつ知らぬ間にとんでもない重責を担う事になっているな。エリスは頷き、また部屋へと戻った。

 「お疲れ様です。お姉ちゃんは大変ですね」

 「……さっきも聞いた」

 深い溜め息の出るサイキだが、リタのおかげで少しだけ笑顔を見せた。


 私は三人に留守番と刑事二人の来訪を任せ、商店街へ。

 魚屋には旬だと言われヤリイカを買わされた。煮付けにするか。その後はいつも通りの買い物を済ませてカフェに寄った。

 「あらーいらっしゃい。今日は一人なのね」

 「そういえばエリス抜きで来るのは久しぶりだなあ。さっきそこで戦闘があっただろ? あれの関係で落ち込んでいるから置いてきたんだよ」

 やんわりと内容を話すと、はしこちゃんも納得した様子。

 「それは怒られるわね。サイキちゃんからしたら大切な妹の命も懸かっているんだもの、絶対に引かないわよ。それに、二人に比べてサイキちゃんは特に命に厳しいでしょ」

 「ああそうだな。あいつの過去は知ってるんだっけ? 小さいうちからどん底を見て、死にたくて戦っていたけれど死ねないほど強くなってしまった。今は勿論心を入れ替えて正しく生きていこうとしているが、だからこそ命に対しては誰よりも真摯に向き合っている。そんなあいつの妹が命を粗末にする発言をしたんだからな」

 「それでもね、サイキちゃんは本当に妹思いの子だから、きっと一緒に飛ぶ事を許可するわよ。そしてエリスちゃんもしっかりと理解する。帰ったらもう仲直りしているかもしれないわね」

 はしこちゃんが言うと、本当にそうなっていそうだな。さて、コーヒー一杯を飲み終えたので帰るとするか。



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