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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
最終決戦編
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最終決戦編 3

 ついでなので刑事二人と担任一人も混ぜての夕食。私が台所へ向かおうとしたら青柳に止められ、ゲスト三人が本日の料理担当になった。

 「高橋料理出来ないんじゃなかったか?」

 「難しいのはね。チャーハンくらいならば作れます」

 なるほど、少しだけ安心。


 「おねえちゃん、今日は稽古に行くの?」

 「うん、そのつもりだよ。……あっ! 今日ね、美鈴さんのお兄さんと勝負するんだ。勝てたら美鈴さんとも再戦だよ」

 「なんだ面白そうな事をやるんだな。というか帰るつもりだったのにそんな大きな約束をしたのか? 失礼な奴め」

 「……言い出せなかったんだもん」

 まあ気持ちは分からんでもない。

 しかしそれを切り出したのがエリスである事を考えれば、次に出る言葉は想像が付く。

 「ねえ、今日はぼくも行っていい?」

 やはりな。先ほどの密かな決意も考えれば、こうなるのは必然だ。料理中の青柳に聞いてみるか

 「青柳、二人を空から行かせてもいいか?」

 「エリスさんもですか? うーん……飛行訓練も必要でしょうし、許可しましょう。ただし先方にも許可を取って下さいね」

 「はい!」

 姉よりも早く妹が返事をした。しかもしっかりと強く。気分はすっかり兵士だな。サイキは笑顔ながらも小さく溜め息。期待と不安が入り混じっているのだろう。

 数分で相良家からも許可が出ると、エリスは空回りしそうなほど気合が入っていた。これはお姉ちゃん、帰ってからも大変だろうなあ……。


 大人三人の用意してくれた夕食は、すき焼きだった。しかも私の作り方に似せたうどんすき。

 「鍋にしようと意見が一致したのですが、鍋にいい魚がなかったのですき焼きに変更しました。レシピはお二人の記憶から、うどんすきだろうと。味は私が合わせたので普段のものとは違いますよ」

 鍋を選んだのは正解だな。やはり皆で集まってつつく鍋は、それだけで数段美味しくなるものだ。

 味は確かに私のものとは違い、濃い目である。しかし卵にくぐらせると中々にいい感じになった。私もこの味に変えてみようかな……。

 「工藤さんは工藤さんの味があるんだから、変えるのは駄目だよ」

 孝子先生の言葉に、私以外の全員が頷いた。私には私で味があるという事だな。味付けなだけに。

 食事が済むと大人三人は仲良く一つの車で帰っていった。


 さて次はこちらの四人だな。今回、ナオとリタも興味本位で剣道場に行きたいと言ってきた。……そうだな、二人も何かを発見出来るかもしれないし、その可能性を潰すのは勿体ない。

 「ナオもリタもエリスも、迷惑かけるんじゃないぞ」

 「分かってますって。二人の事は私が見てますから、安心して頂戴」

 そう言うナオが一番危なっかしいのだが。

 「それとサイキ」

 「うん? 何?」

 「勝て」

 「……はい!」

 よし、帰宅後の報告が楽しみだ。赤・黄・緑の光に白の光が追加され、並んで飛んでいく。相変わらず綺麗だな……と思ったが、白い光の動きが怪しい。三人がいれば大丈夫だろうが、落ちないだろうな……。

 その後はパソコンで情報収集していたのだが、とある掲示板サイトで早速「四人になってるぞ! 白いの追加されてる!」という興奮した書き込みがあり、それはそれは大盛り上がりであった。勿論カンの鋭い人もおり、あれはエリスだという正解を導き出していた。

 SNSを覗けば、これまたそれで盛り上がっていた。ネタをバラして竹口に追記を頼んでおこう。



 一方の四人。少し時間を巻き戻し、飛び立った所からの話である。

 「エリス、ちゃんと飛べているよ。上手い上手い」

 「……ちょっと、集中してるから……うわっ」

 サイキに話しかけられた事でふらついたエリス。それをナオが支えた。

 「っと。まあ最初だから仕方ないわよ。私は合格を出すのに合計十五時間くらい掛かったからね。リタは意外とすんなりだったわよね」

 「リタは研究所で試験飛行した事があるですから。サイキはどうだったですか?」

 「わたしは一発合格。クラスで三位……だったんだ。……ううん、もう少しでどうにかなるんだ。暗くなっている暇なんてないよね」

 三人はエリスのペースに合わせてゆっくりと飛んでいく。

 「……ねえ街をよく見ていて」

 サイキの声に、皆街を見下ろした。すると方々から一瞬だけ強い光が発せられている。

 「あ、これカメラのフラッシュじゃないかしら? そういえば晴れた夜中に揃って飛んだ事ってなかったわよね。それに今はエリスもいる。ならば皆がこぞって撮影したがるのも頷けるわね」

 街の明かりに混ざるフラッシュの光。それがまた花火のように綺麗であり、子供達を笑顔にさせる。

 「……ねえみんな、帰りにね、あの時みたいにしてみなうわっ……と」

 喋るとバランスを崩すエリス。さながら初めて補助輪なしで自転車に乗っているようである。

 「ふふっ、あの時ってのは自衛隊にお邪魔した時よね? いいわ、勝手に帰ろうとしたお詫びも兼ねて、帰りに少しだけ星を描きますか」

 「うん、いいよ」「賛成です」


 四人で会話をしていれば、相良剣道場までの移動などすぐである。

 「エリス、着地の時は地面の手前で速度を落として、しっかり足を着けてから翼を仕舞うんだよ」

 「うん。頑張る」

 高所からの着地が初めてなエリスは緊張で一杯である。先にナオとリタが降り、不測の事態に備える。

 サイキはわざと少しだけ速い速度で降下し、エリスも必死に付いていく。

 (おねえちゃん速いよ!)

 心の中では緊張と焦りで一杯なエリスだが、それでも地面が近付けば慎重になり速度を落とし、まるで鳥の羽根が舞い落ちるようにふわりと着地。翼を仕舞い、無事成功。

 「エリス、初飛行どうだった?」

 「……緊張した。焦った。でも、気持ちよかった!」

 満面の笑顔を見せたエリスに、先輩三人も一安心。


 四人の着地を見届けた相良美鈴が声を掛けてきた。

 「やあやあ四人まとめて来たんだね。エリスちゃんも格好よくなっちゃって。あーでもここからは着替えてね」

 忠告通り四人とも一瞬で着替えた。いつもの光景なので美鈴はもう一切驚かない。

 「サイキ、兄貴はもうやる気満々だよ」

 「うん。わたしも今日だけは負けられないよ。何たってエリスの前だもん。……それとね、実は……今日の昼のうちに、皆に内緒で帰るつもりだったんだ。騙してごめんなさい」

 「あーやっぱりね。あんた嘘吐くの下手だから皆気付いていたよ。だからこそ、月曜日にはちゃんと皆に説明して、謝りなよ」

 三人と、ついでにエリスも一緒に頷いた。その光景に笑い声を出す美鈴。

 サイキは早速剣道場へ、三人は美鈴に案内され先に家の中へ。


 「お邪魔します」

 「おーいらっしゃい。いつも美鈴がお世話になっています」

 迎えてくれたのは前当主。相良父は剣道場にいるのだが、美鈴は先に、自分の部屋を見せた。

 「サイキの部屋は入った事あるけれど、二人の部屋は見た事がないからね。一般的な……とは言い切れないけれど、女の子の部屋とはこういうものなのだよ」

 何故か自慢げな美鈴。しかしこれは正解であった。四人が知る他人の部屋は、誕生日に行った青柳のマンションくらいなのだ。特に兵士達の生活環境改善に意欲を燃やすリタにとっては大きな参考になっており、スキャンは自粛しているが、目を皿のようにして見回している。

 「何? 珍しいものでもあった?」

 「あ、えっと……実はですね……」

 リタが理由を説明すると、溜め息を吐きつつ納得した美鈴。

 「そうなんだ。何ていうかな、二人を見ていると違和感があったんだよね。あまりにも知らなさ過ぎるって言うの? 記憶が消されているっていうのはあたしも知ってるけど、それにしても生活感に欠けていたからね。でも納得した。……っていうかさ、もっと早く言ってよ。部屋見せるくらいならばあたし達だって協力してあげたのに」

 呆れ声を出す美鈴だが、それにエリスが追加で説明を入れた。

 「あの、おねえちゃんたちが自分の生活の事に気が付いたのが、本当に最近なんです。だから、それで……」

 「あーなるほどね。それはきつく言ったあたしが悪いわ。でもそうなれば……まあ今はいいか。さて稽古場に行くよ」


 稽古場に到着。サイキは自主的に練習中。

 「いつもこんな感じなのかしら?」

 「いや、今日は一段と気合が入っているよ。兄貴との勝負もあるし、それに三人も見ているから余計だろうね。さてこっちはどうしますか? そっちが決めていいよ」

 顔を見合わせ考える三人。

 「そうね、まずはエリスにも振らせてみてほしいんだけど、いいかしら? リタの分析では将来サイキと肩を並べる強さになるらしいのよ。それで実際にどうなのか、詳しい人から見込みがあるかどうかを判断してもらえたらなと思ってね。危険と判断したら早々に止めさせてもらって構わないわ」

 「分かったよ。じゃーエリスちゃん、こっちおいで」

 エリスは美鈴に連れられ、簡単な防具と子供用のスポンジ竹刀を装備。そのまま美鈴が見てあげる事に。他二人には、相良父が横に付いた。

 「それじゃあ、私みたいな槍はありますか? あるならば私にも稽古をつけてもらえたらと思うんですけど」

 「槍はうちではやっていないんだよ。剣道の流派で薙刀を扱う道場はあるけれど、うちは刀のみ。ごめんね」

 「いえいえ、こちらこそ無理を言ってごめんなさい」

 顔には出さないが、心の内では残念がっているナオ。一方リタは、剣道場そのものに興味を持っている。

 「ナオ、兵士さん達の宿舎には、こういう訓練施設はないですか?」

 「一応あるわよ。あるけれど、正直ただの殺風景な広い部屋。私のいた所では、あまりにも使わなくて倉庫になっていたわ。訓練する余裕もないし、訓練をするくらいならば実戦か休むかの二択ですからね」

 「うーん……やっぱりまずは余裕を作る所から始めないといけないみたいですね」


 手持ち無沙汰なナオとリタも、竹刀を持って素振りだけはする事に。

 「真面目に剣を振るなんて適性試験の時以来かしら。エリスに言った事じゃないけれど、失敗しないようにしなくちゃ」

 「リタはこれでも武器のテストで経験があるです。だからナオに脅されてサイキと勝負した時も、フラックがなくても少しは振れていたはずですよ」

 「少しであれに勝てれば苦労はしないわよ」

 などと言いつつ素振りをしていると、美鈴がやってきた。

 「あはは、二人もやってるんだね。……まあ素人じゃーそんなもんだよ」

 あっさりと残念な評価をつけられ二人とも苦笑いだが、一方ではその評価に納得している。

 「エリスはどう?」

 「うーん……覚えるのは物凄く早いね。もう基本的な握り方は覚えたから、竹刀がすっぽ抜けるっていう事はないよ。でもそれ以上はまだ小さいからあたしからの評価は難しいね。お父さん、エリスちゃん見てみてくれる?」

 という事で相良父にエリスの指導を交代。


 少しして二人が素振りを止めてナオ達の元へ。皆が集まっているのを見てサイキも一旦手を止め寄ってきた。

 「お父さん的にはどうだった?」

 「才能という意味では、努力と吸収の天才だね。洞察力も高いみたいだから、一度言った事はすぐ理解し吸収出来る。そういう意味では幾つもの可能性を含んだ巨大な原石だ。剣だけに固執させるのは勿体ないほどだよ」

 この高評価に三人は顔を見合わせ驚き、当のエリスは喜んでいいものなのか戸惑っている。

 「驚きの高評価だね。確かにあたし達と喋っている時でも、ちゃんと内容を理解して話に加われていたからね。エリスちゃん、あっちに帰ってからも頑張るべきだよ」

 「……はい」

 エリスは自身への評価は理解しているが、以前リタに適性なしと判断されての評価なので、複雑な心境なのだ。一方一度は適性なしの評価を下したリタは、相良父の評価を聞き、エリスに疑念を持った様子。

 「リタが最初にスキャンした時は運動適性は正直酷いものだったですよ。それが、今日の昼にもう一度スキャンしタ時は、戦闘をイメージしていたというだけで適性値に変化が見られていたです。その上で専門家さんからのこんな評価。……エリスはサイキみたいに何か隠していないですよね?」

 少し強い口調になったリタに、無言で首を振るエリス。

 「私はそちらの細かい事は分からないけれどね、成功のイメージを作るのが上手い人は伸びるんだよ。自分がどう動けば成功するのかをイメージして、そのイメージ通りに体を動かせばいいんだからね」

 「イメージ……あっ! エリス防壁展開凄く上手かったよね。あれもちゃんとイメージが出来ているからだ!」

 サイキの結論に、リタも納得した。エリスは洞察力が鋭く、それによってイメージが強く作れるので、吸収も早いのだ。


 「それじゃあそろそろ本日のメインイベント行きますか。兄ちゃん、いい?」

 「こっちはいつでも。サイキちゃんは?」

 「充分体はあたたまっています。よろしくお願いします」



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