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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
学園戦闘編
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学園戦闘編 2

 今日はあいにくの雨だ。念の為に三人には心の準備を促す。ここ数日でエネルギーはそれなりに貯まっており、サイキとナオは14%、リタは8%ほどであるという。更にはリタの持ってきた更新プログラムにより、エネルギー効率が格段に向上しており、これだけでも三連戦までならば回復無しで行けるという。頼もしい限りだ。


 朝食を終えると電話が鳴った。はしこちゃんからだ。今日から営業を再開するが、どうするかという連絡だ。

 「ああ大丈夫だよ。ただ今日は途中でいなくなるかも。明日も予定入っちゃっててね。悪いんだけど明日は三人まるまる休みにしてもらえるかな。ごめんね」

 商店街での初戦以来、はしこちゃんは彼女達が何かに関わっているという事を感じ取ってくれており、とても協力的で助かる。学校に通わせたいという話を出すと、ならばお店の切り替え時間をずらすとまで言い出した。さすがにそれはやり過ぎなので、放課後からバーの開店時間までの勤務にしてもらったのだ。もちろん、彼女達が無事に学校に通えるのならば、の話であるが。


 はしこちゃんからの電話を切り、例の長月荘SNSを覗く。

 さて、と見ると拳銃とパトカーの絵がが並んでいる。警視庁の高橋と高機の三宅だな。

 「お前ら仕事しろ」

 すると本の絵を持つ人物が参加してきた。誰だ? 名前は「たかこせんせー」となっている。

 ……うーん、元住人に先生なんていたかな。聞いてみると、長月荘を出てから先生になったとの事。正体は秘密だという。

 「あれ? でも少し前にここで学校関係者探したけどだ、いなかったよな?」

 「あー私、昨日からの参加なんです。渡辺って人から電話が来て招待されました。ここの渡辺さんと同じ人なのかな? よろしくお願いしますね」

 なるほど、あれを見て渡辺が手を回した訳か。すると渡辺も参加してきた。

 「これからも増えますよ」

 期待しておこう。


 そうこうしていると、突然三人の表情が変わった。遅れてあの悲鳴のような音が。五度目の襲撃だ! 手を繋ぎ索敵をする三人。

 「五分で戻ります!」

 と言い放ち、急ぎ出て行った。五分? そんなに早く終わるというのか?

 病院での戦闘以来の映像付きで、私と青柳と三人を接続する。襲撃場所は駅を挟んだ反対側の住宅街だ。

 「やっぱり。敵は一体、中型索敵マルチ。最初のと同じ赤鬼です。このまま一撃で決める! 二人はビットを!」

 本体へはサイキ一人で突っ込むようだ。なるべく見られないようにという配慮だろうか。

 「ビット一体目いただきです!」

 最初はリタが決めた。遠距離攻撃の強みか。残り赤鬼とビット三体。

 「貫くよ!」

 ナオの声が響いた。高度を低く取り、わらわらと集まってきた残りのビットに一貫。

 「三体一気に串刺し完成!」

 凄いな。さすが自分から強いと豪語するだけはある。あとは本体だけだ。

 「はあーっ!」

 サイキの気合の声。一旦地面に足をつき、そこから一気に加速し跳ね上げるように切り付けた。赤鬼の断末魔とともに聞こえる収縮の音。本当に一撃で決めたのだ。

 「いえーい!」

 今まで聴いた事の無い歓喜の声。やはり三人揃ったという事が、彼女達を大きく後押ししているのだな。

 パトカーのサイレンが聞こえ、青柳から三人に撤収命令が出た。ほどなく帰ってくる三人。

 「ただいまー」

 「おかえり。凄いな、本当に五分しか経っていないぞ。本当に強いんだなお前達。商店街の時とは大違いだ」

 というと、若干ふくれるサイキ。勿論あの時とは状況が全く異なっている事くらい分かっている。

 それから数分で青柳から被害報告が入った。

 「人的被害は突風による転倒での軽傷一名、のみです。物損被害もありません。彼女達の目撃証言も今の所ありません。今後もこの調子でお願いします」

 初の完全勝利と言っていいだろう。


 お昼前の十時になり、彼女達をカフェへと送り出す。普段着に着替えた彼女達に傘を持って行かせたのだが、まさかの傘を知らなかった。あのスーツは汚れないと言っていたし、そもそも雨を気にするような状況でもなかったのだから仕方ないか。しかし着替えも一瞬で済んでしまうのだから、便利というか味気ないというか……。

 昼二時になり、私も今晩の買出しに商店街へと向かう。道中文房具屋の店主に声をかけられた。彼女達の勉強が何処まで行っているのか気になるそうだ。明日の学園長との顔合わせで分かるだろうが、私の知る限りサイキとナオは小学生の分は全て終わっている。リタはまだ来て日が浅いので小学四年くらいだったか。帰ったら改めて確認してみよう。

 カフェに到着すると三人はいつもの派手な髪色で接客していた。

 「お前達、髪の色どうしたよ? 変えないのか?」

 ナオを捕まえ小声で聞くと、ナオも小声で返してきた。

 「客寄せにはいいでしょ? はしこさんには許可を取ってあるわよ」

 うーん、それはそうなのだが……。


 コーヒーブレイク中、まさかの本日二戦目の発生だ。どうするかと困惑している三人。

 「ちょっと借りるよ」

 はしこちゃんに言って三人を店の裏に連れ込む。緊急作戦会議である。

 「えっと、さっきと同じのが一体のみです。エネルギーさえあれば一人でも大丈夫だけど……どうしますか?」

 するとナオが小さく手を上げた。

 「はい。私に行かせて。今の所私が一番エネルギーがあるからね。二人は何かあれば応援に来てもらえばいいわ」

 という事で、ここはナオに任せる事にしよう。

 「はしこちゃんごめん、一旦ナオ抜けるね。後で戻ってくるから」

 私が言うと、はしこちゃんは気を付けてねと手を振る。どこまで気が付いているのだろうか? 二人には通常通り仕事をしてもらい、私、青柳、ナオの三人でボイスチャットを開始。私は携帯電話なので映像は無し。


 「見つけた! 畑の中ね。お野菜を踏みつけて……許さない!」

 何かがナオの怒りのスイッチを押してしまったようだ。

 「一気に決める!」

 そう言うと風切り音が聞こえた。

 「撃破確認! 帰投するわ」

 すぐさまにナオの報告。

 以前赤鬼の事を、エネルギーさえあれば瞬殺出来る相手と言っていたが、本当に瞬殺してしまうのか。三人では五分だったが、一人であっても数分もしないうちに帰ってきた。

 はしこちゃんにごめんなさいと謝りウェイトレスの仕事に戻るナオ。まるで今あった非現実的な戦闘行為が、白昼夢であったかのような錯覚さえ覚えてしまう。

 その後の青柳からの報告では、人的被害ゼロ、物的被害として畑が荒らされたのみ。そして戦闘の目撃証言すらない。点数をつけるならば百点満点だと褒められ喜ぶナオ。やはりナオと青柳はいいコンビになりそうだ。


 「今朝の話だけど」

 はしこちゃんが私の所に来た。

 「あのね、カフェの営業時間、一時間半延ばそうと思ってるのよ。彼女達の為って訳じゃなくて、バーの開店時間が夜の八時だからね。前々から考えてはいたんだけど、この際どうかと思って」

 部外者が口を挟む話ではないが、こちらとしては助かる。

 「はしこちゃんがいいなら異存は無いよ」


 コーヒーカップの底が見えたので、私は先に帰宅するとしよう。今晩は何を作ろう。



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