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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
変則戦闘編
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変則戦闘編 18

 「ただ今帰還致しました」

 「ついでに私もいますよ」

 「おっ、青柳お疲れ。高橋も一緒か」

 あれから数日、夕方に青柳と高橋が揃ってやってきた。子供達はまだなので、長月荘には私とエリスだけ。エリスは早速青柳にくっ付き撫でられており、青柳も安心した表情をしている。

 「応援に行っていた事案が終わりましたので、正確には明日からですが、復帰です」

 「そうか。……という事は高橋は失敗したまま終わる訳か」

 「それなんだけど、私も当分はこのままサポートに回る事になったの。あくまで青柳さんの補佐ですけどね。だから今度からは青柳さんと私との二人体制になります」

 なるほど、丁度明日は雨の予報だ。青柳の復帰と高橋の汚名返上も兼ねた戦闘になる訳だな。ついでなので二人とも晩飯に誘ってみる。

 「勿論、それが狙いですから」

 うん、青柳は素直だ。


 「所で青柳は、高橋の失態は知っているのか?」

 「ええ、一から十まで。特にエリスさんに泣かされたとの事ですね」

 そのエリスは青柳と高橋に挟まれてご満悦の様子。一見して親子だな。……邪推して終わるのも何なので、いっそ直接聞いているか。

 「なあ高橋よ、お前の恋愛対象に青柳は入るのか?」

 「え? あーないない。絶対にない。青柳さんと私の好きなタイプは全然違うし、あの事は私も知っていますから。プロポーズしたんですものね? そんな所に入る気なんて一ミクロンもないですから」

 「はっはっはっ、もう把握済みな訳か」

 珍しく青柳が恥ずかしそうにしている。というか、見ない間に感情を表に出す方法を知ったようで、今までの仏頂面よりも少しだが表情が豊かになっている。


 六時半になり子供達が帰ってきた。青柳の車を見てすぐに分かった様子。

 「ただいまー! 青柳さんお帰りー!」

 「お待たせしました。私がいない間の事は既に報告を受けています。三人とも大きな怪我に繋がらなくて安心しました。これからですが、私と高橋との二人体勢になりますので、改めてよろしくお願いしますね」

 「はい!」

 相変わらず戦闘に関する話には良い返事だな。

 ……待てよ、青柳が復帰したという事は、今の長月荘には役者が全員揃っているという事だ。つまりリタから……報告がされるという事か。この事を悟った私は、やはり思いっきり表情に出てしまったようだ。

 「おや、突然神妙な顔になって、どうしましたか?」

 「うん!? あ、ああ。うーん……」

 正直、私はこの先の話を聞きたくない。覚悟は既に決めてある。しかしやはり辛いのだ。


 私はそれでも子供達からの最後の報告を待っていたのだが、しかし空振りに終わってしまった。子供達は、まるで私から逃げるように各々部屋へと戻っていったのだ。つまりここで覚悟を決めなければいけないのは、私だけではないという事だ。

 「……逃げられたな」

 「仕方がないでしょう。私も心情は察します」

 一方の高橋はよく分かっていない様子。私の心の整理も含めて教えておこう。

 「子供達がこちらの世界に来た理由は知っているよな? 武器や兵器の技術の収集だ。元々はそれだけが目的であり、侵略者が現れた事とは無関係だった。ここまではいいな?」

 「うん、大丈夫。しっかり頭に入ってる」

 「……いざこちらの世界に来たら、侵略者の襲撃があった。三人は本当ならばこの世界を見捨てる事も出来たが、それでも俺達の世界のために戦ってくれていた。そして俺達はそれに答えるために、少しずつではあるが彼女達に武器技術の提供を行ってきた。ここでの最大の協力者が渡辺だ。お前も渡辺は知っているだろう?」

 「知ってる。元犯罪者で元住人。SNSを作らせたのも渡辺さんだったよね」

 この一言で、高橋自身には結構な量の情報が渡っている事が分かった。しかし話はきっちりと。

 「途中学園に編入させたり、マスコミに晒されたり、俺の心が折れたり……まあ色々あったが、彼女達がこちらの世界の血を引いている事が分かり、そして国が正式に彼女達を支援してくれる事になった。そんな中に青天の霹靂で現れたのがエリスだ。あの子は三人とは違い、侵略者側の世界に拉致され、そこから半ば廃棄されるような形でこちらの世界に送り込まれたんだ」

 「えっ!? エリスちゃんってそういうルートだったの? 私てっきりサイキちゃんに勝手に付いて来ちゃったんだと思ってた。……拉致しておいて廃棄って、酷過ぎ!」

 やはり思う事は同じだな。短い付き合いではあるが、既にエリスのお気に入りとなっている高橋だからこそか、青柳以上に怒りを覚えているように見える。

 「エリスが来た事で様々な事が分かった。侵略者側の正体とその目的。俺達には一切解明不可能であり、彼女達ですら知らなかったエネルギーの正体。そして……世界を救う方法」

 「世界を……どうやって?」

 「俺自身はその方法を聞いていない。言っても分からないだろうと、はぐらかされ続けている。そして先日自衛隊基地にお邪魔して、武器や兵器の技術をたんまりと溜め込んだ訳だ」

 ここで高橋は表情を変えた。どうやら全てを理解したようだ。

 「世界を救って、武器技術の収集が終わったら、子供達はどうなるの?」

 「……俺に聞くな」

 「そういう……ごめんなさい」

 それこそが私の一番苦悩している部分だ。


 「よし、少し遅くなったから二人手伝え」

 晩飯作りに刑事二人を借り出す。青柳の腕は私も認めるが、さて高橋は? ……それなりといった所かな。基本は出来ている感じ。

 子供達を呼び夕食。四人ともチラチラと私の表情を確認しており、恐らくは食事の味など頭に入っていないだろうな。仕方がない、ここは一つ子供達の荷物を降ろしてやろう。

 「お前達ちゃんと味わって食え。飯が冷めるのだけは待てないぞ」

 私の意味深な一言に、さてどんな答えが帰ってくるかと期待したのだが、皆「うん」の一言だけであった。うーん、分かっているのか分かっていないのか。言葉が薄味過ぎただろうか?

 夕食を終えると刑事二人は帰路に就き、サイキは剣道場まで送ってもらう事に。一方の子供達三人は、やはり私から逃げるようにあっさりと部屋へと戻っていった。剣道場から帰ってきたサイキも同じく、まるで私を避けるかのようにさっさと部屋へと戻っていった。

 子供達の気持ちは痛いほどよく分かる。だからこそ私は、子供達からそれを言い出すのを待つ。


 翌日早速青柳と高橋のコンビが出動。子供達は今日は学園が午前授業で終わり早めに帰ってきていた。

 「それで、何処に出た?」

 「えっと、南北に離れています。北には深緑が二体、南は赤と緑が二体ずつ」

 「じゃあ北にサイキ、南にナオとリタだな。ナオはどうだ?」

 「異存なしよ。数からして北に高橋さん、南に青柳さんね」

 そちらも決めるか。このナオの作戦に刑事二人も同意した。

 「やっぱりサポートが二人いると気持ちが楽だ。……見つけたよ。高橋さんは避難誘導優先でお願いします」

 「分かってますとも。あんな失態はしない。任せなさい!」

 高橋は行動派というよりも熱血派と表現したほうが合っているかもしれないな。とすれば青柳は冷血派か。

 現場に到着したサイキだが、今回は珍しく最初の剣を取り出した。

 「それで戦うのは久しぶりだな」

 「うん、ちょっとね」

 帰ってからの事を考えているのだろうか? 動きは相変わらず人としてどうなんだと思ってしまうほど機敏であり、上位の剣や刀とも遜色ないほどに華麗に切り付け料理していく。

 「サイキは相変わらずの化け物だな。高橋はどこだ?」

 「現着した所。……間近で見ると、本当に凄い動き」

 すると青柳から一言。

 「見惚れている暇はありませんよ」

 「あ、はい!」

 当分は青柳が手綱を引く訳だな。


 「こっちも到着よ。リタ、分かっていると思うけれど、あれは使用禁止よ」

 「言われなくとも分かっているですよ。正直かなり辛かったですからね」

 さてこちらは何を出すのかな? と思ったら捻りなく芦屋の槍と64式。動きはこちらも相変わらずであり、ナオが槍を振り回し次々と赤鬼とそのビットを始末していき、動きの遅い中型緑はリタの的である。

 「……中型緑くらいならば追尾機能がなくても充分ですね。ちょっと無駄になった気分です」

 「今までの中で無駄な開発はあったか? そういう事だ」

 「そうですね。それにリタの本番はこの先にあるです」

 リタは帰れば開発で研究所に缶詰になる事は間違いない。この先どのようなとんでもない開発をしてくれるのか、それが見られないのは惜しいな。


 「こちら北部、クリアしました」

 「丁度南部もクリアよ。あとはよろしくね、お二人さん」

 数秒前まで槍を振り回していた人物とは思えないほどに優しいナオの声。恐らくは青柳の復帰戦である事と、高橋の雪辱戦である事を考慮し、二人を焦らせない意図があるのだろう。

 「了解しました。お三方は帰投して下さい」

 うん、青柳には無用の心配のようだ。そのあまりにも変わらない青柳に、子供達から笑いが漏れている。こんな会話を見せつけられては、高橋の心境は複雑だろうな。


 三人が帰宅。悠々としたものである。その後晩飯前には刑事二人も到着。

 「まずは南部から。軽傷者六名のみでした」

 一言のみで済ませた青柳は、高橋に目をやる。さて高橋は仕事を出来ているのだろうか?

 「えっと、北部では平日の昼間、かつ相手が大型の深緑二体だったにもかかわらず、死者及び重体はなし、重傷者もなくて、軽傷者が四名にとどまりました。四名ともガラスで負傷しただけです。……こんな感じ?」

 「最後の一言がなければ完璧だったな」

 「ええー? でもそれを良い方向に考えますよ」

 つまり私からの評価は問題なし、合格だ。あとはその仕事振りを近くで見ていたサイキの評価次第だな。

 「うーん……最初の頃の青柳さんと同じくらいかな? だからあとは経験だけだと思うなあ。ああでも街の人が慣れているのを加味すると、まだ少し及んでいないかも」

 「厳しいなあ……でも、率直な評価をしてくれてありがとうね。青柳さんに追いつけ追い越せ引っこ抜けですよ!」

 元ガングロチョベリバ女子高生とは思えないほどに随分と古いな。しかしこれで高橋を戦力として数える事の不安はなくなったな。


 さて明日は学園の卒業式である。

 私としては未だに彼女達からの”卒業の挨拶”がないのが気になるが、今までの事から考えても、何も言わずに帰ってしまう事は考えられないので、私としてはどうにか待っていられるのだ。

 ……そう思っておかないと、静かに待ってなどいられないのだ。



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