変則戦闘編 17
今日はリタが帰ってくる。そして私は一つの予感とともに覚悟を決めている。
「本日もお邪魔しますね。……あれー? 何か工藤さん緊張してないですか?」
朝一番で来た高橋だが、私の顔を見るなり笑われてしまった。やはり顔に出てしまったか。私は不安が顔に出るらしく、サイキは嘘がすぐバレる。ナオは自分が悪いと思ったら行動に出てしまい、リタは感情が耳に出るのですぐ分かる。そしてエリスは年齢に見合わない言動を取る。現在の長月荘には、まともな住人は一人もいない。
サイキは剣道場へ。十二時になり、リタ誘導用に一度目のビーコンを打つ。今回は全てナオが担当する事になっている。
「今の所反応はないわね。私の予想では夕方まで粘ると思うわよ。ゲートの場所は駅前通りでしょうけれどね」
急ぐ事はないのでのんびりと待とう。もしもの時は明日の学園を休ませてもらえばいいかならな。それよりも高橋は朝から入り浸っているのだが、肝心な刑事の仕事をしなくてもいいのだろうか?
「何というか、私がいなくても回っているんですよね。先日の事でまた気をつかわせてしまっていて、余計に距離が……」
「ははは、まあ青柳も結構回りに助けられていた節があるからな。夜中の戦闘で何度か連絡がつかなかった事もある。責任転嫁をした事はないけれどな」
「うっ……ずっと言われそう」
苦々しい表情の高橋に、溜め息交じりの笑顔でエリスが一言。
「おねえちゃんもずっと言われ続けていますよ」
あいつの場合は言い続けないと同じ事をやらかしそうなんだけどな。
「っていう事はサイキちゃんも何か失敗した事があるの?」
何か所ではないな。どこからどこまで言おうかな。
「サイキは私達の世界で、仲間殺しの戦闘狂っていう渾名で有名なのよ」
「えっ、あれで仲間殺し!? 戦闘狂!?」
ナオがあっさりと言ってのけたか。まあ驚くのも仕方がない、詳しくは本人に説明させよう。
昼一時と二時のビーコンを打ち終わった所でサイキが帰宅。高橋にくっ付いていたエリスは、あっさりとお姉ちゃんへと鞍替え。
「母親に似てるってだけじゃあ実のお姉ちゃんには負けちゃうか……」
と寂しそう。先ほどの事も含め、サイキ関連の話を一通りしてやるか。
「ドラマみたいに壮絶。苦労、しているんですね……」
予想はしていたのだが、話の途中で泣き出す高橋。ついでにナオの話も絡めてみると、最早号泣である。
「お前のどこが刑事なんだか。いいか、こいつらを哀れむ事だけはするなよ。それはこいつらを侮辱するも同じだからな」
「それ難しいですよ。私の感情どこに置けばいいんですか?」
「ははは、俺が知るか。その分仕事に回せ」
昔のほうがもっとしっかりしていた印象なのだがなあ。一方の三人だが、そんな高橋を見て笑っている……のだが、どこか笑顔が暗い。
その後も三時、四時、五時とビーコンを打つが反応なし。やはり夕飯ギリギリに帰ってくるつもりか。そしてそろそろ六時。
「ナオ、六時からは三十分ごとで打ってくれ。晩飯がいるのかどうか聞いていなかったからな」
「なんか顎で使われている気分ね。でもいいわ。リタの事だから次か、六時半で帰ってくると思うわよ」
さてナオの予想はどうなる事か。六時のビーコンを打ち、数分。
「あ、帰ってきたわよ。迎えに行ってきます」
言葉には出さないが嬉しそうである。それから十分ほどでリタ帰宅。やはりまぶたが重そうだ。
「ただいまです。えっと……ご飯食べたら早めに寝たいです。報告は明日以降でいいですか?」
「うーん、高橋がいるから今日中に出来る話はしておきたいんだが……」
「私は構いませんよ。来週は晴れが多いみたいなので、襲撃さえなければ時間は作れますから。……それと、リタちゃんにも謝らないと」
「大丈夫ですよ。もうナオから話は全て聞いたです。失敗は誰にもあるです。でもそれを他人のせいにするか、自分の責任として次に昇華出来るかで評価が決まるですよ? 次はしっかりして下さいです」
「分かりました。もうあんな失敗なんてしません。でもやっぱりちゃんと言わせて下さい。すみませんでした」
改めてリタに対し姿勢を正し頭を下げる高橋。リタは微笑んでおり、この謝罪を受け入れた様子である。
「あ、でもどうせならば一つ要望をいいですか?」
おっとリタからの要望か。無理難題を吹っかけなければいいのだが。
「青柳さんはああいう人なのでいいですけど、高橋さんがリタ達に敬語を使うのは何かこそばゆいですよ。どうせならもっと友達付き合いのほうが似合うと思うです」
「あはは、それわたしも思ってた。孝子先生くらいの近さがいいよね」
「確かにちょっと堅苦しいわね。仕事なのは分かりますけれど、私達に対しては住人として付き合ってもらえるほうが、私達も気が楽よ」
高橋はそれはそれは困っている様子。そして私に助けを求めるような目線を送ってきた。
「いっそ女子高生時代の口調でいいんじゃないか? チョベリバとか言ってただろ」
「いやーっ! あれは忘れさせてーっ!」
突如頭を抱えて絶叫する高橋に子供達は何事かと驚いている。よし、ここは高橋をもっと弄ってやろう。
「こいつな、ここにいた時は高校生だったんだよ。その当時はガングロメイクって変なのが流行っていて……」
「やーめーてー! 分かった! もう分かったから! 敬語止めるからそれ以上はもう勘弁してっ!!」
話の途中で羽交い絞めにされた上に口を押さえられ、強制終了させられた。
「……分かりました。えーっと、ちょっと頭切り替えるから待って。……うん、多分切り替わった」
深呼吸し落ち着いた高橋。しかし子供達は攻撃の手を緩めなかった。
「じゃあがんぐろめいくってなに?」
「やめて。本当にそれだけは忘れたい過去なの」
「ちょべりば?」
「……やめて」
「ちょべりばでがんぐろめいくな高橋さんですか」
「……怒るよ?」
本気で睨む高橋に、子供達はようやく止まった。
「お前達な、パソコンで調べたり、友達に聞いたりするなよ」
「はあーい」
気の抜けた返事の子供達は、私の言葉の意味を理解している。そして高橋も。
「工藤さん、いくら恩人だといても、怒りますよ?」
「ははは、ごめんごめん。やっぱり刑事なんだな、目が怖いぞ」
「そりゃそうだって。私だってね、それはそれは苦労したんだから。体術ならば子供達にも負けないよ」
そしてこの一言にナオが反応。
「じゃあちょっとお手合わせ願えますか?」
「おっ、いいよー。でも泣いても知らないからね」
結論から言うと、ナオでは全く歯が立たなかった。まさに赤子の手を捻るかの如く、軽く手首を捻られ本気で痛がっており、声が出ていない。あっさりと負けるナオの姿に他の三人も静まり返っており、逆にそれが面白い。
「はい終わり。どうだった?」
「もう、何ていうのかしら……絶対に敵に回したくないわ」
「あっははは! 確かに敵には回さないほうがいいよ。私バスの車内で痴漢撃退した事もあるからね。工藤さんも覚えてない?」
「うーん……そんな事もあったような、なかったような。でもお前さんは昔から行動派だったから、痴漢を捕まえたり刑事になったりしても不思議ではないな。不思議なのはあの頃のお前を痴漢しようとした犯人の神経だな」
「……よーし工藤さんにもアームロックかけてあげましょー」
「いやいやそれは止めろ! 五十八の爺さんに何するつもりだよ」
冗談に聞こえないので困る。さて戯れるのもこれくらいにして晩飯である。食事が終わると、宣言通りさっさと寝に行ったリタ。ここで高橋も帰った。
「……工藤さん、構えていたでしょ?」
サイキがナオとエリスを先に二階に行かせ、私との一対一になったと思ったらこれだ。
「何の事だ? 俺は何も構えてなどいないぞ」
「あはは、駄目なんだ。はぐらかそうとしても今の工藤さんは誰が見てもおかしいもん。……もう気付いているんですよね?」
「はて、何の事か見当も付かんなあ」
私は、子供達が揃っている状態でそれを聞きたいのだ。そんな私の心情を、サイキは読み取った。
「うん、分かった。そうだなあ……青柳さんが帰ってきてからにします。工藤さんもたった一人では聞きたくないと思うから」
「そうだな。一人だけだと狼狽してしまうかもな。……といっても全くさっぱり何の話なのか分からないなー」
尚もはぐらかす私。笑顔のサイキではあるが、寂しさが見え隠れしている。
「……先に言っておきたいんだけど、リタは帰ってきた。その理由は分かって下さい。それはわたし達も同じだから」
そう言い残し、私の返答を待たずに部屋へと戻っていくサイキ。サイキとナオは恐らくリタから既に状況を聞いているはずだ。その上で最初に世界を渡ったサイキだけが残り、こう言い残した。つまりそれは……。




