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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
変則戦闘編
207/271

変則戦闘編 7

 午後の行動開始。

 私・リタ・エリスとサイキ・ナオの二班に分かれ、あちらさんは訓練の見学に、厳つい男性に連れられて行った。

 「さてこちらはどうする?」

 「うーん……皆さんの自室を見せてもらう事は出来るですか?」

 「え!? っと、理由次第です」

 やはり驚いた久美さん。私も最初は驚いたが、すぐその理由を察する事が出来た。

 「えっと……リタは研究所の主任として、サイキやナオと違って政府の上位にも口が聞けるですよ。なので、リタならば兵士さん達の生活環境の改善も可能です。でも、今のリタはどう改善すればいいのかが分かっていないです。なので、参考として見せてもらえたらと思ったですよ」

 このリタの言葉に、久美さんは二つ返事で了承してくれた。

 「でも、二人には内緒にして下さいです。きっといい気分はしないと思うですから」

 こういう気のつかい方が出来るのがリタらしいな。


 我々は久美さんの案内で隊員の寮へ。

 「ここは特に若い連中、入隊一年から二年くらいが大半の寮なので、凄い事になっていても大目に見てあげて下さいね」

 という事で寮に潜入、もとい訪問開始。私の想像では所謂学生寮のように混沌と悪臭の巣窟なのかと思っていたのだが、そうではなくきっちり整理整頓されていた。

 「十人部屋から始まり、階級が上がるにつれて部屋の人数が減っていき、最後は個室という感じですね。基本的に私物の持ち込みは許可されておらず、寮とは言ってもただの寝床という感じです。部屋もたまに入れ替わりますから、個人の場所という感じではないですね」

 幾つかの部屋を見せてもらったのだが、その度にリタの表情が険しくなる。

 「リタの研究所と、結局はあまり変わらないですね」

 もっといい生活かと思っていたので、落胆したのだろうな。

 「お前も大部屋だったのか? あいつらはどうなんだ?」

 「リタは研究所が家だったので個室があったですよ。でも研究員は四人で一つの部屋です。サイキ達は……直接聞いてみるです」

 という事でリタは他の二人から状況を聞き出している。


 通信を終わると、一気にリタの表情が暗くなった。

 「……リタの認識が甘い事を痛感したです。サイキ達は、狭い部屋に二十人前後が押し込まれるように寝ていたらしいです。変わらない所か、もっと酷いなんて思っても見なかったです」

 世界滅亡の危機とはいえ、囚人の強制労働にも等しい環境か。久美さんも同じ事を思ったようだ。

 「言葉は悪いですが、タコ部屋と変わらないという事ですか。食事の事もですが、それでよく士気が保てていますね」

 「……きっと士気なんてとっくにないんだと思いますよ。何せ世界が滅亡するという崖っぷちを百年も続けていますから、もう士気がどうこう言っていられる次元ではないはず。あの世界では、あの子達の命は軽いんです。工場で使い捨ての命を生産するに至った、サイキ曰く狂った世界ですからね」

 改めて険しい表情になったリタと、そして久美さん。その後リタは生活環境に対しての調査を多く希望し、それが終わると残りの二人と合流した。



 ――時間を少し巻き戻し、一方の二人。

 「改めて、私は春木宗治一等陸曹です。それでは付いてきて下さい」

 という事で連れられてきたのは訓練施設の一角。既に複数の若い隊員が訓練中である。

 「集合!」

 という掛け声一つで一斉に駆け寄ってくる隊員達。

 「ここにいるのは皆一年から二年のひよっこです。私もそれほど階級が上という訳ではないので、訓練する側でもあるんですよ」

 二人はというと、先ほどからとにかく圧倒されっぱなしであり、笑顔なく固い表情である。

 「……しかし集合が遅い! 腕立て伏せ用意! 腕立て三十、始め!」

 一斉に腕立て伏せを始める若い隊員達にの迫力に、完全に圧倒され声も出ない二人。

 「体験入隊も可能ではありますが、普段は一泊二日なので時間的に足りませんよね。短時間ですが体験しますか?」

 「あ、えっと……どうする?」

 「わたし、付いていけない気がする」

 「私も。……えっと、見学だけでも大丈夫ですか?」

 「ええ、大丈夫ですよ」

 という事で二人は春木一曹の横で見学に終始。銃を担いでのほふく前進やロープを伝っての壁のぼり等、その一挙手一投足に圧倒され、口が半開きの二人。

 「そこ! 訓練に集中しろ! 腕立て十五!」

 そして彼女達に気を取られ、次々と腕立て伏せの餌食になるひよっこ隊員達であった。



 合流し全員揃った。

 「お前達は参加しないんだな」

 「うん。……自信なくって」

 「ははは、そうか。しかしお前達はこういう事していないのか?」

 「訓練学校でも多少の体力作りはするけれど、学ぶのは基本的に装備の使い方くらいなんだ。百日に一回クラスごとに試験があって、合格したら翌日からはもう実戦配備。ただしチャンスは五回まで。駄目ならばクラス内で順位をつけて、下位は落第。私達はいいけれど、生産兵が落第になると、最下級の労働者になって……そんな感じ」

 工場で生産された命は、言葉の上での使い捨てではなく、実際の物としての使い捨てという事か。改めてとんでもない世界だ。


 あまり体力を使わない射撃訓練に移ったので、ここは試しにリタを参加させてみた。ついでに二人も撃ってみたいと言うので参加決定。エリスは駄目だぞ。

 サイキとナオは銃を借りて、リタは自前の64式。リタが銃を取り出すと、周囲の隊員から一斉に「おー」という声と、そして少しの笑い声が上がった。笑い声は恐らく、自分達がいつも見ている銃にそっくりだからであろう。

 「リタ、実力だけで当てろよ」

 「分かっているですよ。命中率90%の意地を見せるです」

 狙いは念入りだな。すると久美さんの提案。

 「ついでにどうですか?」

 「いやいや、さすがにただの一般人なので遠慮しますよ」

 興味がない訳ではないが、自信はない。ここは遠慮させてもらった。

 まずは隊員の方々が射撃。大きな音に驚いたエリスが私にくっ付いてきた。一発撃たれるごとに目を閉じて驚いており、可愛い。

 「ではお子さん達も撃ってみましょうか」

 三人それぞれが的を狙う。風はないものの野外であり、一筋縄ではいかないだろうな。


 それぞれ単発で撃ち始めた。

 最初に的に当てたのはリタだ。二人とは違い慣れた銃なので当たり前ではあるが、きっちり真ん中に当ててきた。そして一発撃つごとに緑の光線が走り、その度に隊員から声が上がっている。サイキとナオはどちらも苦戦中だな

 「あの、私の持ってるショットガンでも撃っていいですか?」

 「ええ、どうぞ」

 ナオが一旦お下がりのショットガンに替えて狙い撃った。結果は命中。真ん中ではないが、光弾は直進するので当てやすいのだろうな。そして光がしっかり緑から黄色へと変わっていた。

 「ぼくと工藤さん、目の前でリタが撃っているのを見るのって、初めてじゃないですか?」

 「そういえば……いや、俺は一度見た事があるな。買い物の帰りに巻き込まれた事があってね、その時に目の前で見た事がある。でもそれ以来だから久しぶりだ」

 リタを見ると、射撃時には耳が正面を向いており、やはり耳で測量し撃っている説は間違いないようだ。ナオも耳がいいから似たような事が出来るはずだが、見た感じそこまで上手く行っているようには見えないな。サイキに至っては現在の所一発しか当たっていない。

 リタが武器を変更。あの対戦車ライフルを構えた。やはり隊員からは声が上がって……うん? さっきよりも声が多いような……と思ってみたら、やはり周りに人が増えている。空中でしっかりと固定された対戦車ライフルという光景は、隊員さん達にも面白く映った様子。

 何発か撃ち、サイキは二発のみ、ナオは半分ほど、リタは全弾命中させていた。


 その後一旦二人とリタで話し合う事に。内容はやはりあちらの基地施設の詳細を知りたいとの事であり、根掘り葉掘り聞き出しては何とも言えない怒りの表情になるリタ。

 「実情を知ったからには、もうそんな酷い環境にはいさせないです。リタにはやるべき事が山盛りですよ」

 「いっそお前が世界の陣頭指揮を執るほうがいいんじゃないか?」

 冗談半分だったのだが、リタは本気で考え始めてしまった。

 「……さすがに一番上が無理な事くらいは分かるですよ。でも強い影響力を持って、それを行使して良い方向へと導くという事は出来るです。リタ以上に難しい境遇から始まって、それを成し遂げようとしている人もそこにいるですから」

 視線がナオに行ったが、本人は昨今の失敗もあり、胸を張れず笑えもせずといった感じ。


 五時になり、我々は海上自衛隊の基地へと移動する事となった。移動はヘリコプターを使用。陸自のものではなく、海自からのヘリが二機来た。どちらも白地に日の丸。

 着陸後、中から男性が一名降りてきた。ああ上の人だな、と一発で分かる制服姿。ずっと付いていてくれた久美さんは迷彩服だったので、余計にそう思うのだろうか?

 久美さん及び石田司令官と敬礼し、我々の元へ。

 「初めまして。二等海尉の赤松静といいます。我々の海上自衛隊基地へとご案内いたします。ヘリには定員があるので二班に分かれていただきたいのですが、どうしますか?」

 「昼の時と同じでいいよな?」

 という事で、私・エリス・リタとサイキ・ナオ・赤松さんに分かれて乗り込んだ。

 夕日を浴び離陸する二機のヘリ。下を見ると、陸自の隊員さん達が手を振り敬礼してくれていた。



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