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別世界からの下宿人  作者: 塩谷歩
変則戦闘編
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変則戦闘編 5

 二月最後の週末。本日はお隣金辺市にある、陸上自衛隊駐屯地にお邪魔する予定。そして場合によっては明日も合わせて別の海上、航空それぞれにもお邪魔出来るかもしれない。

 随分と長く時間が掛かってしまったが、ようやく彼女達の本懐を遂げる事が出来るのだ。しかし私の中には未だに、割り切れない思いというものがある事は否定出来ない。だからこそ私は、一日一日をしっかりと噛み締めなければいけない。


 朝食を終え出発。彼女達には、金辺市内では髪の色を変えさせる事にしてある。サイキとナオは若干緊張気味か。リタは朝から上機嫌。エリスは大好きなお姉ちゃんと出かけられて嬉しいという感じ。道中一旦警察署に寄って青柳と顔合わせ。

 「やはり三月一週目は丸ごと外れる事になりました。それ以降はなるべく早く戻るつもりです。代わりは三宅さんにと思ったのですが、偶然そちらも手が離せなくなったとの事で、未だに選定中です。三月一日の朝には間違いなく連絡しますので、すみませんがよろしくお願いします」

 「了解した。確か前にいた部署の手伝いだよな? 今とどっちがいい?」

 「聞くまでもありませんよ。機密なので内容は話せませんが、あの仕事は肉体的にも精神的にもかなり大変なんですよ。それに比べれば、子供達の笑顔を見られるうえに世界を救うお手伝いですからね。周りからも羨ましがられますよ」

 なるほど。しかし青柳が周りから羨ましがられているのは、子供達の事だけではない気がする。


 道中更にもう一箇所寄り道。ナオの血縁者である直嶋家だ。芦屋家経由で訪問は伝えてある。他の三人は一旦車に残し、私とナオの二人だけで訪問する事にした。

 「……私、緊張しているように見える?」

 「ああ、バッチリ」

 「ふふっ……うん、緊張してるわ」

 芦屋家で一度は血縁者の優華さんに会ったが、あの時は姉さんの仕掛けた予告なしの出会いであった。今回は事前に知った上で自ら足を運ぶので、また違うのだろうな。

 呼び鈴を鳴らし、出たのは優華さんだった。私とナオは頭を下げ、笑顔で迎えられた。

 居間に通されると優華さんの母親であるご夫人と、ご老人が我々を迎えてくれた。ナオは先ほどまで外出用の髪の色だったのを、本来の黄色の髪へと戻した。本当の自分で会いたいという事だな。

 「おお、よく来て下さいましたね」

 もうこの時点でナオは泣きそうになっている。

 「初めまして。ナオです。……ずっとお会いしたいと思っていました」

 「私達もですよ。さあ、どうぞこちらへ」

 ナオの顔にはまだ緊張が見えるが、しかしこれでもかと嬉しそうだ。あまり長くはいられないという旨を先に伝えてはあるが、ナオの表情を見るともっといさせてやりたくなってくる。いっそ場所だけ教えてナオは後から追いかけてきてもらうのもいいか。

 「いえ。……すみません、私にはやるべき事があるので、あまりご一緒にはいられないんです」

 「はっはっはっ、勿論分かっていますとも。世界を救うというとてつもなく大きな重責を担っているんですから、そちらを優先すべきですよ。是非平和になってからまたいらして下さい。私は待っていますよ」

 「……分かりました。必ず、戻ってきます」

 いられたのは三十分もなかったが、ナオの中では明らかに何かが変わったようだ。時間的に無理にねじ込む形になってしまったが、これは間違いなく正解だった。その証拠に、車に戻ると待機していた三人から、これでもかと弄られているのだ。そしてうるさそうにしながらも、嬉しそうなのだ。


 そして遂に到着。陸上自衛隊金辺駐屯地。規模自体はそれほど広くはないはずだが、連絡はしっかりとしてあるので色々と見られそうである。

 「すみません、工藤一郎という者なんですが……」

 「えーと一般の方ですか? 入行証がないと中には入れませんよ」

 あれ? 渡辺経由で話は行っているはずなのだが。うーん、と困っていると、運転席の後ろに座っているナオが顔を出し、目の前で髪の色を変えた。

 「これは入行証にはならないのかしら?」

 「あっ、これは失礼しました。少々お待ち下さい」

 すぐさま連絡を取り始めた守衛さん。

 「話が行っているのは私達だけで、工藤さんの事は分からないんじゃないかと思って。当たりだったみたいね」

 渡辺が悪いのか、それともあちらさんが悪いのか。ともかくナオの機転のおかげでどうにかなりそうだ。

 「……すみませんお待たせしました。案内役が来ますので、少々お待ち下さい」

 すると早速走ってくる人影。さすが隊員だけあってフォームが綺麗である。そして凄く速い。

 「すみません。誘導しますのでついてきて下さい」

 やはりというか、我々の見知った人物であった。


 「凄く古い車に乗っているんですね。驚きました」

 「ははは、ずっと乗っていなかったのをリタが直したんですよ」

 リタをなでなで。我々の案内役に就いたのは久美正治一等陸曹。これで三度目かな。最初の追加武器、リタの64式の原型を見せに来てくれたのがこの久美さんだった。すっかり縁が出来たな。

 まずは注意事項などを聞くために会議室に通された。

 「まず、国家機密や爆発物危険物の類もありますので絶対に勝手に離れないで下さい。触ったり調査したりも、まずは私に確認をして下さい。武器兵器に関して駄目だと言う事はまずないので、そこは安心して下さいね」

 ここはよくある基本的な事項だな。そして子供達はやはり真剣である。その後の注意事項も大体は一般的なものであり、この子供達だからという特別なものはなかった。


 次にここの駐屯地の長にご拝謁。移動中ナオからこんな質問。

 「ちなみに久美さんの役職から見ると、どれくらい上の方なのかしら?」

 「私は一等陸曹、所謂小隊リーダーですからね。司令は一等陸佐なので……八つ上ですかね」

 八つ上と聞いた途端、サイキとナオの顔が明らかに緊張した。さすが二人とも兵士である。そしてリタも一応は理解している様子。リタからすれば平社員が社長に会うようなものかな? エリスはまだ分かっていない様子だが、サイキの顔色を見て緊張が移っている。

 扉をくぐる瞬間はさすがに私も緊張していたのだが、ここの司令官殿の優しそうな表情を見て、少しだけ緊張が和らいだ。

 「初めまして。金辺駐屯地の司令を仰せつかっております、石田秀雄一等陸佐です」

 我々も挨拶し、軽く自己紹介。子供達、特にサイキはものの見事に緊張しており、自己紹介でも噛んでいた。

 「一つお伝えしなければいけない事があります。菊山市にも臨時でキャンプを置く計画があったのは既にご存知だと思いますが、この計画が白紙になってしまいました」

 「白紙?」

 「ええ。上空からの侵略者の襲撃が多いので、キャンプ地の真上から襲撃された場合を想定しますと、隊員自身を守る手段がないという事でして。自衛隊というのは、中身は事実上の軍隊ではありますが、法律上はそうではありませんので、我々も悔しいながら、直接という訳には行かなかったのです」

 これは子供達には理解しがたい話だろうな。


 その後は改めて久美さんから予定を提示された。昼食までは各所を久美さんが案内、その後各々に行きたい場所を指定。日が落ちる前に何とヘリに乗り別の海自基地まで行き、そこで一泊。明日は昼に空自基地へ行き、夜にまた戻ってくるという強行軍である。

 「土日で回るには盛り沢山過ぎですよね」

 久美さんも苦笑いであるが、しかし子供達はむしろ歓迎している。

 「わたし達にとってはこの世界に来た一番の目的ですから、疲れただなんて言っていられないし、何より面白そう」

 三人にとっては一番の頑張り所だものな。ナオも楽しそうであり、リタに至っては早く行かせろと言わんばかり。

 「……でもエリスには大変かもね。エリス、疲れたら遠慮なく言ってね」

 「うん、分かってるよ」

 まあエリスの事だ、必要以上の無理は迷惑だと分かっているので大丈夫であろう。


 最初に案内されたのは、いきなり戦車の前だった。その迫力に我々五人は皆圧倒されてしまう。

 「こちらが74式戦車ですね。四十年以上前の戦車ですが、現役ですよ。あちらにあるのが10式戦車で、現在の主力ですね」

 あっさりとした説明の久美さんだが、その表情はいかにもどうだと言わんばかり。一方の子供達はこのような乗り物がある事自体が予想外であったようで、どうすればいいのか本気で困っている。これも概念の欠落による弊害……ではないな。本当に単純に困っているだけのようだ。

 「え、えっと……」

 「構いませんよ、どうぞ」

 リタが何を言う間もなく久美さんからの許可が出た。必ず確認を取る事とは言っていたが、まさか本当に一言の確認だけでいいとは……。そこに丁度これの戦車長という方が来て、子供達は中を見せてもらったり、エンジンを掛けてもらったり。さすがに場所も許可もないので砲撃は出来ないとの事であり、それだけが残念であった。

 「えっと、再確認ですけど、スキャンはしてもいいですか?」

 「ええ、それも含めて構いません、という事ですよ」

 「ありがとうございますです!」

 それはそれは嬉しそうなリタ。そしてこれでリタに火が付いたようで、以降あれもこれもと片っ端から確認を取ってはホクホクの笑顔でスキャンに励んでいる。


 「いやーなんというか、あの探究心は凄いですね。しかしどれほどの情報量を持てるんでしょうね。この後も色々ありますから、パンクしなければいいんですけど」

 「ならば本人に直接聞いてみますか。リタちょっとおいで」

 と手招き。やはりこちらの言う事はしっかりと聞くので、我を忘れて云々という心配は不要だな。

 「お前さん、どれくらいの情報量を持てるんだ? この後行く所は学園の校舎よりも大きいものだってあるんだぞ?」

 「全く余裕ですよ。そのための準備もしてあるですから。例えば……この施設丸ごと全部スキャンしても、その五倍は余裕があるです」

 「それ、街の半分以上は取り込めるんじゃないか?」

 「うーん……確かにそれくらいは行けるです」

 これはこれは御見逸れ致しました。



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