変則戦闘編 3
翌日金曜日、本日のテスト内容は国語と理科。決してリタではない。
「リタのテストって何をするですか? それじゃあ行ってくるです」
といった感じで三人を送り出す。
今日の問題は国語だな。リタは二学期の期末テストで国語の点数が四十二点と、三人の中でもぶっちぎりで低かった。さて今回はどれほどの点数を取ってくれるのだろうか。
三人へと視点を移動。登校中もリタは国語の復習に余念のない様子。
「リタ、せめて前を見て歩きなさい。危なっかしいんだから」
「分かってるですよ……ぬあっ!」
言ってる傍から段差に足を取られ転ぶリタ。
「……復習内容を記憶から落としてしまったです」
「だから言ったじゃないのよ」
「あはは、リタ余裕ないんだ……ぬあっ!」
「あんたはただの不注意」
サイキも段差に足を取られ、転びかけるのだった。
教室に入るなり、やはり一番に中山が飛んでくる。
「ねー今日はどんな感じー?」
「どんなって言われてもね。それよりもあい子こそ帰ってからちゃんと勉強したんでしょうね?」
「まっかせなさーい!」
これに対しては皆考える事は同じである。そして泉がリタの異変に気が付いた。
「あれ? リタちゃんおでこ赤いよ?」
「復習しながら歩いていたら転んだですよ」
「あはは、でもちゃんと前向いて歩かないと駄目だよ? 怪我したら私達も驚いちゃうから」
「……そうですね。以後気を付けるです」
そんな二人の会話にナオも加わった。
「本当に気を付けなさい。私達が一人でも欠けると致命傷になりかねないんだからね。サイキもよ。あんたも朝リタを笑った挙句に同じように転びかけたんだからね」
「えへへ、気を付けます」
そして最上が一言。
「ナオさんが躓いたら今日は三人とも転ぶ事になるのか」
「えー私は大丈夫よ。まあ……悔しいかな勉強に集中出来る環境ですからね」
サイキは稽古とエリス、リタは開発があるので、ナオは他の二人よりも自由時間が多く取れるのだ。
テスト開始。まずは国語。
(五月雨を 集めてはやし 最上君……なんちゃって)
サイキは余裕の様子。
(あれっ!? これ点いるんだっけ? 二人を弄ってる場合じゃなかったわね……)
ナオは意外や苦戦中。
(ワタる……さんずいに度で……ド? ド!?)
一番危ないと思われているリタはやはり危なげである。
最後は理科である。
(物質の状態変化……リタ強いんだろうなあ……)
サイキはそれなりといった感じ。
(力の伝わり方ね。社長の一声を部長が丸ごと部下に押し付けるのよね)
それは違う。そんな思考の余裕もあるといった所のナオ。
(……あれ、もう終わった。見直しておこうか)
リタは開始して半分も経たずに全問解き終え、見直しに入った。
「……先生」
手を挙げたのはサイキ。
「うん? あーあれか。後五分か……」
「私は解き終わっているから大丈夫です」
「わたしも」「リタもです」
全員全問を解き終えていた。ならばと現場判断で先に答案を回収し、三人は戦場へ。
「問八は引っ掛けだったですよね?」
「えっ? あれ答えはイじゃないの?」
「わたしハにしたよ?」
屋上へ向かう最中も、テストの事が頭から離れない三人。
一方長月荘。
今日はテストなので三人は早く帰ってくる。たまには昼でも手の込んだものを用意しようかな、と思っていた矢先、携帯電話に三人から呼び出しだ。
「おうどうした?」
「どうしたじゃなくて、襲撃だよ。気付かなかったの?」
「すまん、気付かなかった。……エリスもらしい」
急ぎパソコンに切り替え、青柳とも繋ぎ、状況を整理。
「南東の河口に深紅二体、それと北西の端に深紅と赤鬼。これちょっと大変かも。……もう一度確認だけど、わたしサーカス使ってもいいんだよね?」
すると私より先にエリスがその質問に答えた。
「おねえちゃんがちゃんと帰ってこられるなら、使ってもいいよ。ナオさんとリタも気を付けてね」
「という事だ。全力で行けよ」
「はい!」
街を挟んだ正反対の位置に、しかも大型深紅が合計三体。人口密集地からは離れているが、大変なのは変わらないな。サイキは北西、ナオとリタが南東を担当だ。サイキは早速かなりの速度を出しており、学園からは相当離れているはずなのに、南東の二人よりも先に到着した。
「よし到着。一気に行くよ」
「え、こっちよりも早く着くって……あんた、一人だからって無理するんじゃないわよ!」
「重々承知しております!」
サイキはまず深紅の周りをぐるり一周。手に持っているのは月下美人。どうやらわざと目立つ事で、中型深紅を全て自分に向けさせるのが目的のようである。その目論見は成功したようで、早速十体の中型が一斉にサイキに向かい始めた。
「おいで、わたしは強いよ!」
という宣言通り、十対一であるにもかかわらず、まるで赤子の手を捻るように次々と中型を切り落としていく。
「こちらナオとリタ。到着したけれど……深紅二体は迫力が違うわね。リタ、あんたが鍵よ」
「了解です!」
南東でも戦闘が開始されたが、散々彼女達の戦闘を見てきた私だから分かる。二人とも集中出来ていないのだ。これは危険。
「南東の二人に命令だ。一旦離脱しろ」
「え? ……命令ならば仕方ないわね」
「了解、です」
深紅から距離を置くと、相手も体勢を立て直そうとしているのか攻撃をしてこなくなった。好都合だな。
「お前達集中出来ていないぞ。どうした? そんな事では事故るぞ」
「……ごめんなさいね。テストの事が、ちょっと」
「同じくです。引っ掛け問題がどうだったか、中々頭から離れないですよ」
「国語の漢字もね。点が必要だったかどうか思い出せないのよ」
なるほど、頭が完全にそちらに持っていかれていたか。……ならばそれを使って発破をかけてみるか。
「よし、深紅一体五点、中型一体一点だ。どちらがより点数を稼げるかな?」
「……あはは! こっちは命を懸けているっていうのに、そういう事しちゃう? 工藤さんも随分と遠慮がないのね。いいわ。ついでに被弾は一点減点ね」
「乗ったです!」
という事で二人はもう一度二体の深紅へと向かう。よし、動きが変わった。これならば大丈夫だろう。
北西のサイキだが、いつの間にか深紅本体を倒し終わって赤鬼の料理中であった。
「サイキ早いな。まだ南の二人は中型を減らしている最中だぞ」
「うん、試しにいきなり本体を攻撃してみたら倒せちゃったんだ。新しい剣、やっぱり切れ味が凄くて怖いよ。乱戦では使わないほうがいいと思う」
「そこはお前の匙加減に任せるよ」
戦闘に対しての恐怖心がほぼ欠落していると言ってもいいほどのサイキ。それでもはっきり怖いと言うほどの切れ味とは、リタやり過ぎたんじゃなかろうか。
「よし、五点頂き!」
と思っていたらナオが深紅本体を撃破。
「これで私は十一点よ。リタは?」
「七点ですけどもっ……」
そう言いつつ本体へ向けて対戦車ライフルの引き金を引き、一気に五発連射し撃破。
「これでナオを抜いたですよ」
「あいつ……負けてなるものか!」
どうやら私の作戦は私が思う以上に二人の闘争心を刺激している様子。
「北西クリア。見た感じ血を流している人はいないかな」
というと、サイキはすぐさま二人の元へと、相変わらずのとんでもない速度で向かい始めた。人として出してはいけない速度の気がする。これは二人にも警告を発しておくべきだな。
「二人とも、さっさと終わらせないと残りをサイキに取られるぞ!」
「さすがにそんなに早く到着しないでしょ。どうせこっちはあと四体よ」
と、ナオが余裕を見せた瞬間、赤い影が目の前を横切った。
「……はあ!? いやいや嘘でしょ? あんたどんだけ速度出してるのよ!」
「えへへ。早くしないと残り四体もらっちゃうよ?」
「一体撃破! これでリタのほうが点数が上です!」
「なっ、リタには負けたくない! あんたは動くんじゃない!」
そりゃー文句を言われて当然だな。サイキは不満顔ながらも、言い付けを守って傍観中。
「待てこいつ! ああもうっ!」
ナオは焦りからか、中々上手く撃破出来ない様子。
「リタもう一体撃破です。これで負けはなくなったですよ」
「このままじゃあテストで勝てても戦果で負けちゃうね」
二人から煽られ始めるナオ。これは嫌な予感。
「……あんた達、覚えておきなさい!」
と、ナオは槍を構えつつリタのお下がりショットガンも一緒に構えた。
「即席ガンランス、なんてね!」
槍で刺しつつショットガンで吹き飛ばすという多重攻撃を開始したナオ。FAを抑えていたので中型を一度刺しただけでは倒せていなかったのが、この攻撃であっさりと一体撃破。残り一体はリタとの取り合いだ。
リタは64式を構え、狙撃開始。一方ナオは投擲特化の槍を構え、リタの反対側から投擲。
「リタ危ない!」「うわっ!?」
ナオの投擲した槍は、最後の一体を易々と撃破した後、そのままリタまでも巻き込みかけた。リタはとっさに急降下し防壁を張り事なきを得たが、これはいかん。
「ナオっ! 何考えてるですか!」
「……ご、ごめんなさい。頭に血が上ってて、リタに気付いてなかった。本当にごめんなさい!」
「嫌な予感がしたんだよなあ。とにかく今は学園に戻れ。帰ってから怒ってやる」
「……ごめんなさい」
このチームには周りが見えなくなる奴が多過ぎる。私も含めて。




